どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第八十八章

 

 みーん、みんみんみんみんみんみーん。

 

 みーん、みんみんみんみんみんみぃーん……

 

 林の近くを通りかかると、もはや意識に刷り込まれたかのごとく、聞くだけで汗が吹き出しそうな蝉の鳴き声が響いている。

 これ聞くと、ホント夏って気分になるんだよな。世界中どこでもいるわけじゃないから、こうやって聞く機会はあんまりないんだけど。……ジャポンは別にして。

 

「アイシャー。この合唱聴くと、マージで夏って感じだよねー……」

「ホンットそうですよねぇ……」

 

 やっぱりウラヌスもか。ジャポン出身者にとっては、ほぼ呪縛みたいなもんだからな。まぁ風物詩でもあるから、なければないで寂しいんだけどさ。

 

「これだけ近くで一斉に鳴かれると、流石に耳障(みみざわ)りねぇ……」

「なんかすっごい鳴いてるよねー」

 

 そう答えながらキョロキョロしてる、いかにも虫捕り網が似合いそうな格好のシームを見やり、

 

「シームはいま鳴いてる蝉って、捕ったことあります?」

「セミ?

 あー、虫捕りってこと? あるけど」

「アレね。

 夏休みの自由研究で虫捕りをテーマにしたことがあったのよ。アタシも手伝ったし」

 

 そうかそうか。男の子なら普通一度はやるもんだろうしな、昆虫採集って。

 

「ウラヌスはあります?」

「あるよ。俺の里ってモロに山の中だもん。

 定番の蝉だけじゃなくて、遊び感覚で色んな虫捕ってた。すぐ逃がしたけどね。

 アイシャは?」

「ありますよ。

 そこまで積極的にではないですけど」

 

 そう言えばウラヌスが真珠蝗を捕る時、異様に手慣れてたもんな。

 

「グリードアイランドで虫捕りっつったら、やっぱり大木叩きなんだろうけど、それ以外でも探せばアチコチいるよ。

 指定ポケットカードになってるのは3種だけど、他にも探すとワリと楽しいし」

「オータニアに、真珠蝗以外にも捕れる虫っているんですかね?」

「いるよ。ってか普通のイナゴがいるしさ。

 前にカマキリが捕れるって言わなかったっけ?」

「あー、確かに言ってましたね」

「他にも、オータニアを夜散歩してると、鈴虫とかコオロギの鳴き声が聞こえるでしょ?

 あの中にレアなやつも混じってる」

 

 へぇー。……時間に余裕があったら探すんだけどな。

 

「ウラヌスがそれを捕らないのって、攻略に関係ないからですよね?」

「うん。

 鈴虫は確かランクFで大したお金にならないし、コオロギはランクBだからいい値段で売れるけど、難しくてね。片手間には探せない」

 

 攻略に関係ないのにランクBか。それは片手間だと確かに厳しそうだ。

 

「結局ここって、捕った方がいい虫はいるの?

 いるなら教えてほしいんだけど」

 

 尋ねるメレオロン。確かにそれは気になるな。それが指定ポケットカードなら尚更だ。

 

「ソルロンドにも虫自体は結構いるし、1匹捕るつもりのやつはいるよ。

 たとえば今鳴いてる蝉も、何度も捕まえてるとそのうちランクEのレア蝉が取れる」

 

 シームは不思議そうに首を傾げ、

 

「ウラヌスは、この鳴いてる蝉って捕るの?」

「いや、捕らないよ。レアなやつでもお値段ひかえめだし、指定ポケットでもないし。

 シームがセミ捕りに挑戦したいなら、話は別だけど」

「……別にいいかな」

 

 ちょっと嫌がる気配のシーム。私と繋いだ手の握りが少し強まる。……アレか。イナゴ退治でややトラウマなのか。すまんかった……。けどまた挑戦してもらうからね。慈悲はない。

 

 まぁでも……次は予めアドバイスしようか。シームはいくらか緩めてあげないと、効率悪そうだしな。

 

 みーん、みんみんみんみんみんみん、みーん、みんみんみんみんみんみんみぃーん……

 

 暑ぃ。てかウルサイ。捕るぞ。

 

 みぃー……み、み……

 

 む。なぜ鳴き止んだし。

 

 

 

 他の建物に比べるとワリと大きなビルの前。すぐそこには砂浜が見えており、穏やかな潮風と波の音、そして人のざわめきが聞こえる。いかにも常夏リゾートな雰囲気だ。

 見上げると、スターサイドホテルという看板。まんまリゾートホテルだな。

 

「ブック」

 

 ウラヌスがバインダーを出し、カードを1枚外す。

 

「──『名簿/リスト』オン。45」

 

 

 

 現在 45「大社長の卵」を

 所有しているプレイヤーは

 1人

 所有枚数は

 1枚

 

 

 

 あ、大社長の卵なんだ。……ん? 泳ぐイベントにどう結びつくんだ?

 まぁ必ずしも、入手カードとイベントが関連性あるとは限らないはずだけど……

 

「見事にほとんど誰も取ってないな。

 この1枚も『宝籤』で当てたやつかもしれないし」

「これって、そんなに難しいんですか?」

「うーん……

 本音を言えば、アイシャには任せたくない。探すのが結構面倒でね。

 先に答えを言うと、海底にある壺を探すイベントなんだけど、場所がランダムなんだよ。

 だから探さないといけないんだけど……

 いま、アイシャはオーラ見えないじゃん? 探しようがないかなって」

「あー……」

 

 動いてるものを探すだけなら、気配で察知すればいいんだけど……

 暗い海底に壺なんて置かれたら、その壺がオーラを発していたとしても、見つけられる自信はない。見つけるだけなら、私よりシームの方がマシじゃないかな……。あっ、でもシームは『凝』ができないか。そろそろ修行させないといけないな。

 

「……でしたら、私は泳ぐ必要ありませんね」

「もちろん泳ぐ必要はないけど、水着は披露してね?

 なんで俺の方がズルイのか知りたいし」

 

 念押ししてくるウラヌス。お、おのれ……

 

「どーでもいーけど、中に入るんだったらさっさと入んない?

 アタシ、すっげぇー暑いんだけど?」

「あー、ワリ」

 

 ぐびりとペットボトルを傾け、ツナギをバタバタさせるメレオロン。まぁ暑いだろうな……涼しい格好してても結構キツイのに。

 

 ホテルの玄関口から中へ──すーずしぃー。ここも冷房きかせまくってるな。

 

「あー。すずしいなー♪」

 

 きゃっきゃと喜ぶシーム。ウラヌスは何も言わないけど、顔がゆるんでる。

 ホテルのロビーを進んでいき、置かれたソファーにドフッと座り込むメレオロン。

 

「あぁー……たまんねぇー。アタシ、今度こそココに住むわぁー」

 

 ホテルだから、あながちズレた発言でもない。

 

「実際、ここを拠点にするプレイヤーはいるかもな。

 リゾート地だし、指定ポケットのイベントもあるから」

 

 う。そんなこと言われると、ちょっと泊まりたくなる。……同じ海沿いの都市なのに、ソウフラビとはエライ違いだ。なんなんだあの街。キャナリアとか他の街と比べても雲泥じゃないか。

 まぁ海賊に支配された漁師町と、観光都市を比較するのもおかしいんだろうけど……

 

「メレオロン、涼むのはいいけど動くぞ。

 さっさとイベント発生させなきゃ」

「えー。アタシもうここから動きたくなーい」

「……

 だったらここに残るか? 俺とアイシャの水着姿、拝めなくなるぞ?」

 

 ……えっと。

 ウラヌス、自分もろとも私を売るのやめてくんないかな……

 

「んー。アタシはもう2人の水着姿は見てるんだけど……

 泳いで濡れた水着もまた格別よね。行きましょう」

 

 ぐ、ぐぅぅ。余計なこと言いやがって! ますます恥ずかしくなってきたぞ!

 

「……。

 アイシャ、ごめん……」

 

 ウラヌスが謝ってくるけど、正直どう返せばいいか分からなかった。あああ、さっさと済ませたい……あの水着の画像が頭にチラチラする……

 

「おねーちゃん。

 あんまり2人のこと、からかっちゃダメだよ?」

「またまたー。

 そんなこと言ってアンタ、2人の水着姿けっこう楽しみなんでしょ?」

「……そうだけどさ」

 

 シーム、正直なのは結構なことだけどヤメテください!

 

 

 

 ウラヌスの案内でロイヤルスイートの一室へ行く。本来ならここは貸し切りで入れないフロアなんだけど、イベントを開始すると入れるようになるそうだ。

 窓から綺麗な海景色が望める、ゆったりとした良い部屋だった。……外ならともかく、ゲーム内で泊まるのは勇気がいるな。

 ともかくその部屋に泊まっていた、落ち込んだ様子のシニアな元社長の男性と話をする。

 

 その元社長いわく、子供の頃いたずらで家宝の壺を海の底に隠し、家宝がなくなったと大騒ぎになって、自分の仕業だと言えず仕舞いだったらしい。

 大人になってから何度も探したが、どこに隠したか分からなくなって、いつまでも壺は発見できず、社長の座を引退した後、こうしてまた1人でこっそり探しているが、いまだ見つけられないそうだ。

 で、代わりに探してきてくれないか、と。かいつまんで言えばこんなところだ。おじーちゃん、話なげーよ……。聞いてる間、お部屋で快適に過ごせたからいいけどさ。

 

 

 

 快適だったホテルを出て、ウラヌスに付いて海岸の方へ歩いていく。壺の出現地点は、エリアがそれなりに絞られていて、その中で一番近いところに行くらしい。

 

「……よく覚えてますね。

 さっきの社長さんの部屋もですけど」

 

 詳しい場所も聞かずに、真っ直ぐあの部屋へ向かったからな。

 

「なんとなく覚えてただけだよ。

 22階のロイヤルスイートに泊まってたの、あの元社長だけだし」

「ああ、なるほど。前と全く同じなんですね」

「壺の在り処も、変わってないといいんだけどなー。

 調べる範囲が変わってたら、何から何まで面倒だし」

「そういう場所のヒントって、どこかにあるんですかね?」

「ランクBだし、ノーヒントは有り得ないかな。

 ただ、簡単なイベントをクリアしないと聞けなかったけど。少なくとも前回は」

 

 シームが納得してなさそうな顔で首を傾げ、

 

「どこにあるとか、トレードショップで聞けないの?」

「教えてくれるのは、どこの誰に聞けば場所を教えてくれるか、までだな。……あの店は事細かに教えてくれないし、不正確なこともあるから信用できないんだよ」

「へー」

 

 ふむ。……これって結局、ショートカットしてるだけなんだよな。ウラヌスがきちんと攻略を終えてくれてるから、あっさり進めてるだけで。

 他人と競う以上、まともに手順を踏んで攻略していくわけにもいかないしな。いやはや、何だかんだで私、美味しいトコ取りしてるんだろうか。前回のクリア報酬も、実質2つは私の為だったからな……

 

 

 

 ゲームキャラもいない、遠くから賑やかな声が響いてくる砂浜。

 はぁ……。まぁ人目がないだけマシか。私があの水着画像イヤなのって、誰が見てるか分かんないからだし。ネテロ、ちゃんと消してくれたかな……

 

「さて」

 

 そう言って、腰に手を当て、海を眺めたままの姿勢で動きを止めるウラヌス。なんだろ、この公開処刑直前みたいな空気……

 

 メレオロンが「ふふーん」とイヤらしく笑い、

 

「ウラヌスも、その上1枚は脱ぎなさいよ。

 じゃないとフェアじゃないからね」

「……分かったよ」

 

 ウラヌスが肩からズラして脱ぎ始める。あ、やべ。見てる場合じゃない。私もいま脱ご。

 私は胸でつかえるせいで上から脱ぎづらいので、髪を服の内側に押し込み、下から捲り上げて脱いでいく。ぐ……、視線浴びてるのがめっちゃ分かる。

 

「ぅわあっ!?」

 

 ウラヌスの声。ちょうど脱いでる最中だから、こっちからは向こうが見えない。うぎぎ……

 

「はぁっ。……っ!」

 

 視界が開け、ウラヌスの姿が目に飛び込む。

 

 そうか……そう来たか。

 

 ウラヌスの水着は、上は私が着けているようなスポーツブラ形状のもの。下はひらひらした短パンのような水着だった。

 さっきまで着ていたワンピースに似た白地の花柄模様で、確かに女性用の水着だということは分かる。そういうのなら恥ずかしくないだろう。

 それに引き換え、私の水着ときたら……

 

「アイシャ、それって……」

「ええ……」

 

 

 

 スク、水。

 

 

 

 マジで、ほんとうに、どうしてこうなった?

 

 紺色の、学生が水泳の授業用に着る、あのスクール水着だ。

 

 まさか……まさか、自分がこんなものを着る日が来るとは……

 

 シームが、私とウラヌスが脱いだワンピースを受け取りながら、

 

「……ねぇアイシャ。

 なんで胸の白いトコに、『3-3 あいしゃ』って書いてあるの?」

 

 ────しらねぇよッッッ!! あんたのねーちゃんに聞けぇぇぇぇッッッ!!

 

 胸、ぱっつんぱっつんでシャレになってないしっ!! ホントにこれ、泳いで大丈夫なんだろうなっ!?

 

「はぁー……

 メレオロン、お前さ。悪ふさげが過ぎやしないか?

 こんなのアイシャ、イヤに決まってるだろ?」

 

 ────ぐわぁぁぁぁぁッッ!? こんなの、こんなのって言うなぁぁぁぁッッ!! これなら全裸の方が遥かにマシだぁぁぁぁッッ!!

 

「アンタ達の反応で、見事にトドメ刺されてるみたいだけど」

 

 淡々とメレオロン。私はしゃがみこんで顔を押さえてるから、声以外何も分からない。知りたくもない。

 

「……アイシャ、可愛いよ?」

 

 シームの毒気のない声が突き刺さる。疑問系なところに、気遣いを感じてツライ。

 

「ほら、アンタも」

「は? なにがだよ」

「アンタこそ何やってんの。女の子が水着姿披露して、褒めないとか男失格でしょうが。シームだって自然に出来てるのに」

「俺、男失格でいいんだけど……」

「おねーちゃん、また余計なこと言ってる……」

 

「いいから!

 スク水アイシャを見た感想を一言!」

 

 え。なにこの流れ。私いま、死刑宣告されそうだったりする?

 

「…………えっと。

 アイシャ……その。

 

 に……

 

 ……似合ってるよ?」

 

 

 

「────ぎゃあああああああああああああああッッッ!!」

 

 

 

 今度こそ断末魔の叫びをあげ、私は砂浜を転げまわった。

 

 

 

 

 

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