どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第八十九章

 

 何もする気力が湧かず、砂の上で伏せたままジリジリと(あぶ)られる。

 

 ぁっぃ……

 

 でも起きたくなぃ……

 

 誰かが近づいてくる気配がする。……砂地だから分かりにくいけど、シームか?

 

 小さい手が、私を転がして仰向けにする。やっぱりシームか。

 私の背中へ手を回し、上半身を起こしてくれる。

 

 シームは心配半分、呆れ半分の様子で私を見ながら、

 

「アイシャ、こんなトコで寝そべっちゃダメだよ」

 

 ぱんぱんぱんと私の身体についた砂を払うシーム。私の顔についた砂も、指先で細かく払い、髪の毛の砂も払ってくれる。……胸の砂を払わなかったのも気遣いだろう。

 

「すいません……」

 

 こんな子供に諭されるとか何やってんだ……狼狽しすぎにもほどがあるだろう。

 

 見回すと、3人の視線が私に集まっている。

 

「はぁー……」

 

 流石に見られるのにも慣れてきた。……うん、こんなの一度見られたらそれで終わりだ。別になんてことはない。正直いますぐにでも脱ぎたいけども。……けども!

 

 胸の砂は自分で払い、シームに「ありがとうございます」と礼を言って、立ち上がる。

 

 メレオロンは何やら考え込んでいるけど、ウラヌスはやけに動揺してる。うーん……

 

「なにをそんなにオドオドしてるんですか?」

「べ、別に何でもない……」

「いや、これは慄いても仕方ないわよ。少し動くたびに視覚へダイレクトに伝わる揺れっぷり。アンタからすれば相当な胸囲よね」

「……何を比べとるんだオマエは」

 

 変態が、私とウラヌスの胸を交互に見比べる。比較対象を完全に間違えてるだろ、この野郎。

 

 腕を組んで、込み上げてくる怒りを声に乗せる。

 

「ウラヌスの水着も、ずいぶん可愛らしいですねッ!

 とっても似合ってますよッッ!!」

「……う、うん……ありがと」

 

 たじろぎながらも、礼を言うウラヌス。くそ、くそ! なに照れてるんだ、この可愛い生き物は! 私の1人負けじゃないか! なんだ、この罰ゲーム!

 

「ウラヌスも、ほんと可愛いよね♥」

「……そりゃどうも」

 

 疑問系じゃないシームの褒め言葉が、愛らしくも腹立たしい。どうして差がついたのか。変態? 胸囲の違い?

 

「まー、しかし……

 ウラヌスも可愛らしいけど、アイシャのプロポーションの良さはバツグンよね」

 

 む? ……良し悪しはさておき、なんでメレオロンが今そんなことを言うんだ?

 

「なんですか、今さら取ってつけたように……

 あなたお風呂で普段から見てる、じゃ」

 

 そこまで言って、ウラヌスとシームが引く気配。しまった、余計なこと言った……

 いや、分かり切ってることのはずだけど、いま言うようなことじゃない。。

 

燦々(さんさん)と降り注ぐ暑い日差しの下、ピッチピチのスクール水着を着た、妙齢の美少女よ?

 常夏リゾートの砂浜、開放的なシチュエーション。

 お風呂で見る裸とはまた違ったイヤらしさ──」

 

「メレオロンンッッ!!」

 

 こいつの言葉責めはヒドすぎる。なんだ、私そこまで恨み買ってるのか? 修行量倍化させるぞこの変態野郎ッ!!

 当の変態はへらへらと平然そうな顔で、なおも言い募る。

 

「アンタ、鍛えてるからだと思うけど、ボディラインがメチャクチャいいのよね。

 ほら、あんた達もよく見てごらんなさい。この腰のくびれ。胸からオシリまでの流れを綺麗に結びすぎだと思わない?

 ここまでオッパイ大きいと垂れちゃうことも多いんだけど、ツーンとしてるしさ。

 鍛えこんでるワリに白い手足もほっそりしてるし、オシリもキュウッと──」

 

 最後まで聞いていられず、へなへなと膝をつく私。

 

 こ、こいつ……

 

 本気で……。本気で言ってやがる……

 

 ビスケやリィーナや母さんですら、そこまで遠慮なく私を褒めちぎったりはしなかった。

 そこまで言われたら、褒め殺しでしかない。きっつぃ……力ぬける。。

 

 ポン、と肩にメレオロンの手が置かれる。

 

「でもね。

 アンタの最大の魅力は、濡れたその長い黒髪が肉体にエロく絡みついた姿なわけよ。

 さぁ、あの2人にも魅せてあげなさい。あなたの全力を」

 

「全力であなたをブン殴りましょうか?」

 

 がしっとメレオロンの手を掴む。わなわな……

 

「アンタ達、ぼさっと見てないで途中でアタシを止めなさい。

 気づいたら、死・5秒前なんだけど」

 

「口挟む余地なかっただろ、バカたれ」

 

 もっともなことを言うウラヌス。こちらに歩いてきて、ぼこんとメレオロンを叩く。

 

「ぁ痛」

「おちょくるのも大概にしとけよ。暴走しすぎだ。

 これから泳ぐ人間に、くだらん茶々いれんな」

「はーい……」

 

 するりと私の手を逃れて離れるメレオロン。まあ……身体に力入らなくて、殴る気力もなかったけどさ。

 立ち上がり、脚の砂を払う。

 

「アイシャ、どうする? 泳ぐ?」

 

 首を傾げて尋ねてくるウラヌス。泳ぐ前からくたくたなんですけど……でも暑いしな。

 

「んー……

 イベント自体はお任せした方がいいんですよね?」

「まあね。

 それとは別に、言ってた水中用の能力あるじゃん?

 そっちを試すかどうか。ここでイベントしないって言っても、今後はまた別だし」

「……

 泳がなきゃいけないイベントって、他にもあるんですか?」

「ワリとね。

 もちろん、この都市以外の話」

「……」

 

 そりゃ……

 今のうちに試すべきだろう。いざって時に出来ないんじゃ困るし。第一、練習に適した環境が他にあるとは限らない。

 

「あなたの能力って、練習が必要なんですよね?」

「まず間違いなく。

 潜ってからダメでした。じゃ、シャレにならないよ」

 

 まぁ当然だな。そんな無意味なリスク冒す意味がない。

 

「選択の余地がありませんね。

 早く済ませて着替えたいですし、さっさと始めましょう」

「俺も全く同意見」

「……あなたはいいじゃないですか。

 そんな可愛い水着、選んでもらって。ふん」

「よ、よくないってば。

 アイシャも可愛いし、似合ってるって」

「……私はこの格好、嫌で嫌で仕方ありませんから。

 似合うなんて言わないでください」

「あ、可愛いっていうのは否定しないんだね」

 

 余計なことを言ってくるシームを、冷たく一瞥する。まるでこたえず、ニコニコしてるシーム。ぬぅ……

 

「スク水アイシャ、2人とも可愛いってさー。

 よかったじゃない。うれしい? ねぇねぇ今どんな気持ち?」

「後で……ぜったいに、仕返ししますからね? 覚えておきなさい」

 

 変態に復讐予告し、ウラヌスへ向き直る。

 ……彼が、できるだけ胸に目をやらないよう努力してるのが分かる。それがまたツライ。

 

「早速、能力の説明お願いできますか?」

「あー。

 それでもいいんだけど、ちょっと先に泳がない?

 説明する時にもう能力使っちゃうし、試す為にすぐ水へ入るだろうから。

 なら、あらかじめ準備を済ませて泳いでおいた方が都合いいと思うよ」

 

 ……メレオロンが私を煽らなかったら、素直に同意できたんだけど。泳ぐなら髪の毛は充分注意しないとな。

 

「お、水中デート?

 ウラヌスもなかなかやるわねー」

「俺、一刻も早くあの変態のいないところへ行きたいんだよ」

「私も全く同意見です。

 けど、準備運動はしっかりしてくださいね?」

「もちろん」

 

 言って、私達は準備運動を始める。

 

 ……うん。メレオロン、ガン見してやがる。

 シームは、私とウラヌスを交互に見てる。……まぁ、何も言うまい。

 

 

 

 強めの準備運動をテキパキと終え、

 

「さ、そろそろ行こっか」

「ええ」

 

 そう答えながら靴を脱ぐ。

 

 熱い砂を素足で踏みしめながら、打ち寄せる波の一歩手前へ。

 見た感じ、なかなか綺麗な海だ。太陽の照り返しで多少見えづらいものの、少し先まで透き通っている。

 ざばざばと海へと入っていく。

 うーん、悪くないな。なんだかんだで暑かったし、海水の感触はなかなか心地いい。あ、そうだ。ヘアゴムどうしよう?

 

 一緒に海へ入って、気持ちよさそうにしているウラヌスを見やり、

 

「このヘアゴムって外した方がいいですか?」

「んー……

 今のところ『周』の予定はないし、気になるなら外していいよ」

 

 うん、外しとくか。髪はまとめておいた方がいい気もするけど、濡れたゴムを乾かして、元通り使えるか分からないしな。

 

 引き返して、一度海から上がり、

 

「シーム。このゴムを預かってもらえますか?」

 

 髪から外し、ヘアゴムをシームへと渡す。

 ん? やけにじっと見てくるな。

 

「どうかしましたか?」

「……アイシャ、めっちゃ可愛いね」

 

 ゴムで束ねていた髪の毛は、今は広がっている。大体お風呂に入ってる時が、今と近い感じだ。

 

「そう繰り返し言われると、感覚が麻痺してくるんですけど……

 そんなに変わりました?」

「うん。なんかキレイ」

 

 そこまで言うか。メレオロンの褒め殺しと違って、なんか別の震えがクルな。

 

「……まあ、お願いしますね」

 

 背を向けて、ウラヌスの方へ歩いていく。

 ウラヌスはウラヌスで、また見てくるな……なんなんだ。

 

「あなたは別に珍しくないですよね?

 同じくらいの髪の長さですし」

「んー……

 アイシャの黒髪も、俺はうらやましいけどね。キレイだし」

「……。

 あなたの髪もキレイですよ」

「そう?

 そう言ってくれると嬉しいなぁ」

 

 素直に喜ぶウラヌス。……言うほど、あなたと私って差があるか? 充分、魅力的じゃないか。胸が残念なのはどうしようもないけど……

 

「今さら聞いてちゃ遅いけど、アイシャって泳げる?」

「得意ではないですが、いちおうは。

 あなたは?」

「俺も並み程度かな。

 足のつかない場所で溺れないぐらいなら、心配ないけど」

「それは大丈夫です。

 じゃあ少し泳ぎますか」

「うん」

 

 言って、私達は水底を蹴り、泳ぎ始めた。

 

 

 

 以前、練習して覚えた一通りの泳ぎを復習しておく。学校行ってないから、泳ぐ機会がほとんどないんだよね。そういう習慣もないし。

 

 うーん……ゴン達と一緒に泳ぎに行こうかな? たまには水中組手というのも悪くないだろう。まぁこの水着を着てくのだけは絶対にないけど。ウラヌスの水着を参考にしよう。うむ。

 

 少し離れて、背泳ぎをしているウラヌス。見た感じ、全く危なげないな。並み程度には泳げると言っていた通りなんだろう。

 プールと違って、波で上下に揺らされ、常に岸へ押し戻そうとする流れがある。身体が浮きやすいといっても、泳ぎやすいとは言いがたい。

 

 私がぷかぷか浮いていると、ウラヌスが私にクロールで近づいてくる。

 

「アイシャ。

 キミなら大丈夫だと思うけど、離岸流には気をつけてね」

「あ、はい」

 

 沖に流されるやつだったかな。まぁオーラなしでも、私の身体能力なら大丈夫だろう。

 

「どうする? そろそろ戻る?」

 

 私が動かなかったからか、頃合いと見たらしい。そうだなぁ……一旦戻るか。

 

「ええ。戻ったら例のヤツをお願いします」

「うん」

 

 そうして、2人で岸へと泳ぎ出す。大して離れてもいないので、すぐに辿り着く。

 ざばざばっと海から上がると、姉弟が暑そうな顔で手うちわしながら待っていた。特にツナギ姿のメレオロンは、ヘタってるのが見て取れる。

 

「いいなー、涼しそうで」

「ふふ。なかなか快適ですよ」

 

 うらやましそうなシームに、髪を払いながらそう返す。なんか姉弟の視線が違うな……はぁ。

 

「2人とも水分補給はしっかりしてくださいね」

「ビーチパラソルでも買っときゃよかったな。

 あれ、結構するけど」

「あっちー……

 レンタルとかないのー?」

「……多分ないな。

 グリードアイランドって、レンタルとかあんまり無いんじゃないかな」

 

 うん。言われてみれば、大体買わせるよな。

 

「ずっとここにいるならともかく、そんな荷物になるもの買えるわけないじゃない……」

「まあなぁ……

 仮に使った後『再生』でカードに戻しても、今度はフリーポケットの邪魔だしな」

 

 使い捨てする分には、グリードアイランドのカードシステムって便利なんだけど、こういう時に困るんだよね。フリーポケットが倍は欲しい……

 

「そんじゃま、水中用の能力を説明するよ」

 

 見せることにすっかり慣れてしまったようで、ウラヌスは躊躇いなく指先を光らせる。

 

 

 

(そら)(とお)る 一雫─(ひとしずく )─」

 

 

 

 常夏の海を背景に、指先の光が躍る。ウラヌスの濡れた髪や水着姿と相まって神秘的にすら映る。

 

 

 

「──【天の恵み/ブレスドロップス】──」

 

 

 

 ウラヌスが空いた手をピースするように構え、その人差し指と中指の間に透明な何かが出現した。

 

「アイシャ、受け取って」

「あ、はい」

 

 私が水をすくうように両手を差し出すと、そこにポトンと透明な球体を落とされる。

 

 んー……ガラス玉? いや、これは……

 

「簡単に説明すると、その飴玉を口に入れてる間、水中でも呼吸できるようになる」

 

 ほう。そういう飴玉を具現化したのか。やけに便利そうだけど、問題あるんだろうか。

 

 ウラヌスは難しい顔で腕を組み、

 

「ただ、けっこう注意点があってね。

 まず口の中にある時しか効果を発揮しない。それは誤飲した時の事故防止用だけど。

 いくら舐めても溶けたりはしないけど、その気になって噛めば簡単に砕ける。砕けたら消えてなくなるし、効果も消える。

 で、これは口の中にある空気と、外気を入れ替え続ける飴玉なんだ。呼吸自体の補助はしてくれない。

 だから口を閉じたまま、鼻からも息をせず、呼吸する練習をしなきゃいけない。

 基本的に空気を同じ量入れ替えするから、口の中に大量の水が入った時点で、空気交換できなくなる。

 つまり一度空気が抜けちゃったら、そのあと立て直しが利かない」

 

 ウラヌスの説明を聞き、私達は彼と同じように難しい顔をする。

 

「……これで、ちゃんと泳げるもんなんですかね?」

「練習すれば。

 もちろん俺は泳げることを確認済みだし。

 ……能力を考えた時は、酸素と二酸化炭素をどうこうって考えたんだけど、思いのほか難しくてね。だったら、空気を直接入れ替えた方が早いなって。

 そのせいであんまり便利じゃなくなったけど……」

 

 うん、そうだね。ウラヌスがいまいちな顔をするわけだ。

 

 普通に潜水する分には問題なさそうけど、水中戦になりうる状況ではどうにも頼りない。なるほど、水中用の念能力だな。

 結局これじゃ、水中で発声できない問題は解決しないしな……贅沢言うもんじゃないんだろうけど。

 

「早速使ってみていいですか?」

「どうぞ。

 いらなくなったら、遠慮なく噛み砕くか捨ててくれていいから」

 

 無色透明な飴玉を手の平に転がし、口に放り込む。

 ころころ。……うん、味はしないな。

 んー。これ、呼吸できてるんだろうか。よく分かんないな。

 

「美少女がびしょびしょに濡れたスク水で飴玉転がしてるのって、なんかアレよね」

「メレオロン、ほれひじょーヘンなほほひっはら沈へまふよ」

 

 人が呼吸の練習してる時に、なんなんだ全く。かろころ。うっかり噛むといけないから、ちゃんと喋れないのに。

 

「アイシャ。

 鼻から息しちゃってるから、鼻つまんだ方がいいかも」

「あ、はひ」

 

 言われた通り、鼻を摘まむ。あ、ホントだ。なんか口の中に空気の流れがある。

 

 ん? あれ、ツバが溜まってきた。え、これどうしたらいいの?

 私が目線でウラヌスに訴えると、

 

「多分、唾液が溜まってきてるよね?

 飴玉を飲み込まないように注意しながら、少しずつツバを飲み込んで。

 それに慣れたら、後は泳ぎながら今やってることを全部できるように慣らしてく」

「ふぅん……大変そうね」

 

 ウラヌスの助言に、汗をだらだら流しながら首を傾げるメレオロン。んー……。確かにこれを泳ぎながらできるようになるには、慣れが必要だな……

 

 また手をピースの形にして、飴玉を具現化するウラヌス。おっ? 同じ能力の連続発動なら、詠唱とか諸々いらないのか。

 

 ウラヌスも飴玉を口に放り込み、

 

「ほえじゃ行っへふる。

 アひシャは練ふーしなはら待っへへ。

 あんまひ俺ぁ遅ひようなら、さっひのホへルへ涼んへくれへへひーはら」

 

 なぜ飴玉を放り込んでから喋った? ……まぁうっかりだよね。

 

 海へ戻り、じゃばじゃばと波を掻き分け、泳いでいくウラヌス。あ、バインダー出した。多分あらかじめ出すの忘れてたな。……なんだかんだでウラヌスも落ち着きがないけど、大丈夫か?

 

 それにしても、結局1人で指定ポケットカードを取りに行っちゃったな。いや、それを入手する為の壺か。ウラヌスが探す予定だったから、別にいいんだけど。

 

 あっ、しまった。ウラヌスと離れる前に『周』かけてもらうの忘れてた。でもヘアゴム取っちゃってるからなぁ……。ウラヌスはもう潜っちゃったし。まぁすぐ戻ってくるとは思うけど。万一プレイヤーが襲って来たら、メレオロンを頼りにするか。ころころ。

 

 シームが私を不思議そうな顔で見て、

 

「アイシャはまだ練習するの?」

「ひひおー」

「アンタも勤勉ねぇ。

 ……暑いんだったら、シームも一緒に泳げば?」

「いいよ、ボクは。おねーちゃんの方が暑いでしょ?」

「だーれも来ないんだったら、こんな暑っ苦しいの脱いで泳ぐんだけどねぇ。

 まぁアタシ達のことは気にしないで、練習行ってらっしゃい」

「ふぁい」

 

 かろころ。じゃないと私バカみたいだしな。こんなの着せられて収穫無しとかイヤだぞ。からころ。

 とは言え、これだけ暑そうにしてるメレオロンとシームを放っとくのも気が引けるな。いちおう提案しとくか。

 

「ふはひほも、もーひへもあふいーはっはら、ひっへふへはら、わはひもホヘフへもろひまふはら」

「だいぶ何言ってるか分かんない」

 

 うるせーよ。喋りにくいの見たら分かるだろ。ていうか、飴玉おっきいんだよ。噛んで消えたら練習できなくなるから、口に力入れられないし。

 

 一度飴玉を出せば喋れるけど、それをもう一度口に入れられないんだよね。不潔だから。地味に困る……母さん、すごく困るよ……

 

 

 

 数分練習して大体コツを掴めたので、早速この状態で泳いでみる。

 

 ……あれだな。水上を泳ぐのって息継ぎの動作とセットだから、あまりうまくいかない。ていうか意味無いんだよな。普通に呼吸すればいいわけで……

 

 意を決し、勢いよく海中へ身体を沈める。

 

 想像していたより更に澄んだ海の中、飴玉による呼吸を試みる。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 呼吸は、なんとかなりそう。でも、息苦しさ自体は、どうしてもなくならない。多分、これはどうしようもない。この状態で、我慢できるかどうかだな。

 

 んー……

 

 じっとしてる分には、何とかなる。問題は、これで潜ったまま、泳げるかだな。移動ができないんじゃ、何の意味もない。

 

 一度水面に顔を出す。

 

「はぁー……

 すぅぅぅぅぅ……」

 

 口から息を吐き、改めて口の中に空気を取り込む。吸えないだけじゃなく、空気を吐き出せないのって結構苦しいんだよね。武術における呼吸法においても、当然その辺は無視できない。吐息一つで仕掛けのタイミングを見破れるからな。攻撃の意を消すには、吐く息の制御も必要だ。

 

 再び海中へと潜る。

 

 体感としては、かなり慣れてきているように思える。潜ったままで、まずはゆっくりと泳ぎだす。……おぉ、ワリといけそう?

 

 コツは、ほっぺたをふくらませる、しぼませる、この一連の流れを邪魔しないことだな。これさえしておけば息は続く。後はたまに口の中に溜まってきた唾液を注意して飲み込む。この時は誤飲を避ける為にも、無理に泳がない方がいい。

 

 うん、うん……よし。もう少し潜ったまま、泳ぎ続けてみよう。

 

 

 

 砂浜から離れ、海中を泳ぎ進んでいく。

 

 青く澄んだ、広い海。空から射し込む陽の光だけで、充分に見渡せる。

 

 少し目を凝らすと、離れたところで泳ぐ魚の群れ。海底にも、少し生き物の姿が見える。

 

 その光景と、海の中を泳ぐ感覚がだんだん気持ちよくなってくる。うん、なかなかいいもんだね。酸素ボンベ着けて泳ぐダイバーって、こんな気分なのかな。

 

 呼吸と潜水の練習がてら、しばし海中遊泳を楽しむ。

 

 

 

 ────沖の方、深い場所からこちらに向かってくる、見覚えのある影。

 

 ゆらゆらと桜色の髪を揺らし、バインダーを抱えたウラヌスが泳いできた。

 

 私は泳ぐのをやめ、その場に留まる。向こうもこちらに当然気づいていて、ウラヌスが指で○を作ってみせる。この様子だと壺は見つかったみたいだな。よかった。

 

 ウラヌスが一気に浮上。私も合わせて浮上する。

 

「はぁっ……ブック!」

 

 私が海上へ顔を出すのと同時、ウラヌスがバインダーを消す。

 

「はぁ、はぁ……

 アイシャ、すぐ戻ろ」

「ええ」

 

 手短に声を掛け合い、私達は砂浜に向かって、急ぎ泳ぎ出した。

 

 

 

 足のつくところまで泳ぎ切り、大きく息を吐いて後は歩いていく。

 

「アイシャ、もう噛み砕くか捨ててくれていいよ」

 

 ……。捨てるのはなんかな。ていうか遠隔で消せないんだ、これ。まぁ噛み砕けと言うなら、そうするけど。

 

 カリッと歯を立てて噛み砕くと、すぐに飴玉は消えてなくなった。

 

 んー? ウラヌス、さっきから普通に喋れてるな。とっくに噛み砕くか捨てるかしたんだろうか? それとも、自分の口の中のは消せるのかな。

 

「これって遠隔では消せないんですか?」

「消せるよ。

 噛み砕いてくれたら、どれぐらい力を加えたら砕けるか分かるし、それを期待して」

「……。

 それならそうと、始めから言ってくださいよ。

 うっかり捨てちゃってたかもしれないじゃないですか」

「いやー、なんとなくだよ。

 飴を噛み砕くのに抵抗ある人もいるだろうし」

「……」

 

 ヘンな気の使い方をする。別にいいけど。

 

 

 

「2人とも、すっごいおつかれー」

「あぁっづぅー。

 んーで、どうだったのぉー?」

 

 砂浜へ戻ると、2人がそれぞれ私達にタオルを渡してくる。それをありがたく受け取り、

 

「あー、ちょっと待って。

 耳に水が……」

 

 頭を傾けてこめかみを叩き、片足ジャンプするウラヌス。私も少し耳に水が入ってるな。軽く頭を振る。

 

「2人とも今まで待っててくれたんですね」

「シームがさぁ……

 2人とも頑張ってるのに、自分だけ涼みたくないとか言って」

「おねーちゃん1人で戻ってよかったのに」

「そういうわけにもいかないでしょ」

 

 ぶすっとするメレオロン。ふふ、あなたがそんなことするわけないですもんね? ……シームを1人にするなんて。まぁ私のことを気にしてくれたのもあるのかな。

 

 とはいえ、炎天下で待ち続けたんだ。ヘタすれば私達より消耗しただろう。

 

「とりあえず首尾は上々なんだけど、話は後でいいか?

 さっさとシャワー浴びて着替えたい。……アイシャも、もういいよね?」

「ええ、充分練習できましたから。

 海水で髪が傷むとイヤですし、私も早くシャワーを浴びたいです」

「そうそう、それ。

 もー、気になっちゃって」

 

 4人で砂浜を歩いていく。……はやく、はやくこの水着を着替えたいよぅ……

 

 恥ずかしがったら変態がイジるに決まってるし、だからってこんなので堂々と歩くのもツライ。ああ、いやだいやだ。

 

 その変態が、後ろから声をかけてくる。

 

「でもさぁ。

 やっぱり美少女って、なに着せても絵になるわよねー」

「……なにバカなこと言ってるんですか」

「アイシャだけじゃないわよ。2人ともよ」

「おい、俺を美少女でくくるな」

「えー?

 あんた、自分のこと可愛くないとでも思ってんのー?」

「……それは別にしても、俺を美少女呼ばわりは詐欺だろうが」

 

 う。……それはなんか私にも引っかかるな。

 

「ほらシーム、見てごらんなさいよ?

 濡れたアイシャの髪。つやっつやで綺麗なもんでしょ?

 いっそ裸よりエロいと思わない?」

「え?

 ……でもボク、アイシャの裸とか見たことないし……」

 

 シーム、やめて! なんかその言われ方ヤダ! めっちゃハズイ!

 

 隣のウラヌスが顔赤くしてるのを見て、追加ダメージを食らう。ぐわぁぁぁぁっ……!

 

 はな、話を逸らさないと……

 

「……私より、ウラヌスの髪の方がいいと思いますよ?

 ええ、もうホントに」

「こいつの髪の良さは知ってるわよ。

 アタシは一緒にお風呂入ったことあるんだから」

「ぼくも、いっつも見てるから知ってるー。

 2人とも髪の毛すっごいキレイ♥」

 

 シームが容赦なく、ぐわらせてくるッ……! ウラヌスは耐え切れず、顔を覆う有様だ。くっそ、この2人がタッグを組むと手に負えん!

 

「ちなみに今どこ向かってんの?」

 

 流れをぶっちぎり、事務的なことを尋ねるメレオロン。そういえば、シャワーってどこ行けばいいんだ?

 

 ウラヌスは疲れた様子でぶっきらぼうに、

 

「……この砂浜沿いを行った先に、海の家がある。

 そこに海水浴をした後に浴びる用のシャワールームがあんだよ」

 

「あー、そういうことね。

 そこでアンタ達、その水着を脱いでシャワー浴びるんだ。うひょー」

 

 うひょー。

 

 ────じゃ、ねぇよッッ!! そんなの当たり前だろうがッッ!!

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 

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