どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第九十一章

 

 お使いイベントをこなしながら、あちこちで色々食べ歩く私達。どこで何を売ってるかウラヌスが記憶してくれていたおかげで、ほとんど探し回ることなく依頼主とお店の間を行ったり来たりしていた。

 

「美味しいねー」

「美味しいですよねー」

「美味しいわよねー」

「まぁねー……」

「そんなこと言って、アンタもうちょっと食べなさいよー。一番消耗してるんだから」

「いや、その、こんなガッツリ食べ歩いてると……」

 

 あー……。ちょこちょこ時間を空ければ、いくらでも食べられるな。海の幸も文句なし、強い日差しの下でカキ氷、冷えたスイカ、たこ焼き、フランクフルト、ソフトクリーム。泳いだのも含めて、常夏の海水浴をこれでもかというほど満喫できてるよ。極楽極楽……何か私に妙な視線が集まってる気がするけど、気にしない。

 

 ただ、食べるのにそこそこ時間を取られて、移動時間もバカにならないから、どんどん時間が経ってるな。更に暑くなってきた……

 

 

 

 ──依頼主に10品目を届けた時点で、

 

「あ、やべ。

 そろそろ指定ポケットカードの時間が押してきた」

 

 ウラヌスが、携帯電話で時間を確認しながらそう言ってくる。

 

「そろそろお腹もいっぱいだし、ちょうどよかったんじゃない?」

「完全に目的変わってないか……?」

 

 満足そうに腹を撫でるメレオロンに、疑わしげな目を向けるウラヌス。いえ、変わってませんよ? 食べ歩き楽しかったですとも。ええ。

 

 ウラヌスが呆れたように肩をすくめ、

 

「……ま。

 日を空けてもいいイベントだし、続きは後日にするか」

「あ、今日中に終えなくてもよかったんですね」

「うん。このイベントに時間制限はないよ」

 

 確かにいついつまでに持ってこいとは言われてないもんな。だからと言って時間制限がないとは限らないんだけど、このイベントはそんな心配しなくていいわけだ。

 

「切り上げるのはいいとして、次に何を持っていくか、忘れないようにしないとですね」

「あーうん……

 忘れても、聞きにいけば教えてくれるけどね。皮肉と嫌味まじえて」

 

 それはヤダな。ちゃんと覚えとこ。

 

 シームが麦藁帽子ごと首を傾げ、

 

「次、なんて言ってたっけ?

 ハマグリの網焼き?」

「だな。最初のアサリと似たようなもん。

 値段は高いけど」

「……どうせなら、それも食べていきません?」

「いや、次来た時にしようよ……

 時間押してるんだってば。

 どうせいま食べても、次来た時にまた食べるんでしょ?」

 

 ちぇっ。ハマグリも美味しそうなのにな……食べられないとなると、かえって食べたくなっちゃうよ。

 

「それで、どこ行くのよ?」

「あー、えっと……

 もうじき時間だから、歩きながら説明するよ」

 

 やや早歩きを始めるウラヌス。私達もそれに付いていく。

 

「ここから大体1.5キロ行ったところに、太陽の畑と呼ばれる観光名所があるんだ。

 そこで取れるのは『千年アゲハ』。ランクAのカード」

「ということは、難しいんですか?」

「そこそこね。

 前と同じなら、いくらか楽だけど……

 あ、そうだ。ブック」

 

 バインダーを出すウラヌス。入手状況の確認か。

 

「──『名簿/リスト』オン。54」

 

 

 

 現在 54「千年アゲハ」を

 所有しているプレイヤーは

 3人

 所有枚数は

 4枚

 

 

 

「うん。この分だと入手条件は同じだな」

「急いでるのは、入手条件に時間が関係あるからですよね?」

「その通り。

 ポップタイミングは固定じゃないんだけど、毎日午前11時半から午後0時半のどこかで、太陽の畑に1匹だけ出現する。出現時間は5分」

「えっ?

 それ分かってても、普通にキツくない?」

「知らなきゃ、シャレにもならないけどな。

 あらかじめ言っとくと、太陽の畑って結構広いし、見通しも利かない。

 おまけに蝶なんていっぱいヒラヒラ飛んでるからな。

 オーラ探知が弱いと、ぜんっぜん本命を見つけられない。同時に何組も挑戦して、誰も見つけられなかったとかザラにあるからね」

 

 お、おう……。ムズそうだな、確かに。また私が役に立てないやつか。強制『絶』だと、探す系のイベントはどうしようもないな……。今回は動く蝶だから、海底の壺探しよりはマシかもしれないけど。

 

 

 

 じりじり上がる気温の中、汗をかきながらそれなりの距離を早足で進んでいく。これはこれで、なかなかいい運動だな。

 

 都市の街並みを眺めていると、ちょっと面白そうな場所もチラホラ。水族館や泉の広場、大きな公園、散歩コースになっているらしい林道など、いかにも常夏らしい景観だ。

 

「観光メインだと、そういうところに寄ったんですかね?」

 

 雑談がてらウラヌスに尋ねてみると、彼は首肯しながら、

 

「うん、そのつもりだった。

 後の方が都合いいんだけどね。いちおう指定ポケットカードに関係あるから」

「あ、そうなんですね」

「四季の街の観光スポットを撮影して回るイベントがあるんだよ。

 専用のカメラで撮らないとダメだから、現時点だと先に下見するくらいの意味しかないけど」

「何のカードが撮れるんです?」

「えっと、確か『思い出写真館』かな」

 

 あー、それは……必要かもって言ってたやつか。でも……

 

「それって結局、いらなかったわよね?」

 

 自分の整形に関することだけに、メレオロンがきっちり反応する。

 

「だな。もちろん指定ポケットを埋めるのには必要だけど、アイテムは不要。

 あの件は『失し物宅配便』で解決するはずだから」

 

 うんうん。なら、急いで『思い出写真館』を取る必要もないわけか。

 

 

 

 砂浜から十数分ほど歩いて、目的の場所へと到着した。

 

 ──……なるほど、太陽の畑だな。

 

 燦々と注ぐ日差しの下、たくさんの向日葵(ひまわり)が咲いている。まぶしいくらいの黄色の群れ。かなりの面積にわたり、悠々歩けるだけの草地と、向日葵の咲く土地が広がっている。

 

「アイシャ。そろそろ帽子返すね」

 

 シームが麦藁帽子を返そうとしてくる。

 

「え?

 別にかぶっててくれてもいいですよ。

 シームだって暑いでしょうし」

「でも、日差しでアイシャの髪が傷むかもしれないじゃん。

 だから返す」

 

 うーん、まあ……ちょっと普通の日光じゃないしな。オーラがあればともかく、潮風も吹いてくるこの場所で、髪や頭皮が傷まないかは気になるところだけど。

 

 私がまだ迷ってると、帽子をポンと押し付けてシームは離れてしまった。

 ……仕方ない。大人しくかぶるとしよう。

 

 にしても。

 

 蝶、いっぱい飛んでるなぁ。軽く見回しただけで数十匹はいるぞ。探索範囲も広いのに、これキツイなぁ。

 

「で、蝶は手分けして探すの?

 特徴は?」

 

 メレオロンがウラヌスに尋ねる。確かに手分けした方がいいだろうね。せめて二手かな。

 

「他にプレイヤーもいないし、自由に動いてくれていいよ。

 特徴だけど、羽根に紫の網目模様がついてる。

 見たら『あっ、コレかも』って分かるよ」

 

 紫か。ここから見える蝶は、だいたい黄色か白、あと黒だな。目を凝らせば青とか色々いるけど、全体から見れば少数だ。少なくとも紫はいないな。

 

 ただ……

 

「蝶はいいですけど、蜂が多くないですか?」

 

 ブンブンぶんぶん飛んでるんだよな。向日葵の周りに、結構アクティブな感じで。

 

「うん、まぁね……

 そもそも向日葵畑って、ミツバチがすっごい多いんだよ。

 どうする、アイシャ? 念の為に『周』しとく?」

「んー……

 いえ、気をつけるんで大丈夫です。

 蜂ぐらい避けられますから」

「あ、うん……

 蜂って黒い色に寄ってくる習性があるから、髪の辺りは特に気をつけてね。

 頭は帽子かぶってるし、大丈夫だとは思うけど。

 あと、別に倒しちゃってもいいよ。ただの蜂だから簡単に倒せるし、蜂もカード化するから」

「分かりました。それなら大丈夫そうですね。

 メレオロンとシームも、蜂には充分気をつけてくださいねー」

「あいよー」

「うん、分かったー」

 

 ちょっと離れたところで、姉弟が向日葵鑑賞を楽しんでいる。他にプレイヤーもいないらしいし、さっさと探しますか。

 

 発見する可能性が一番高いウラヌスは、周囲を注意深く見回すだけで動こうとしない。

 

「ウラヌスは、まだ見つけられてないんですよね?」

「まぁね……

 まだポップしてないかもだし、俺の『円』じゃそこまで細かく分かんないからな……

 せめて視界に入らないと」

「ねぇねぇ!

 本命以外に、高く売れる蝶とかいないの?」

 

 メレオロンが現金な質問してる。隣のシームが呆れた目つきで姉を見てる。……そりゃ、いれば捕りたいけどね。

 

「うーん。

 いるかもしれんけど、見分けがなぁ。

 青はちょっとレアで、緑はかなりレアかな。

 簡単に見分けつくのはそれぐらい」

 

 そうなのか。……いや、ちょっと待てよ。

 

「捕るのはいいですけど、素手で捕るんですか?」

「あー……捕る道具がないから、そうなるね。

 真珠蝗と同じで、ヘタな捕り方するとダメだと思う。羽根を摘まんだりすると、鱗粉も付いちゃうし。

 止まってるところを、両手でかぶせるように捕るのがベター。

 自信なかったら帽子でもいいけど。あと俺に言ってくれたら代わりに捕るよ」

「素手で捕ったことあるんですね……」

「俺、虫捕り網なんて使ったことないもん」

 

 はぁー……なかなかの野生児だな。わりとゴンみたいな子供だったのか。

 

 

 

 向日葵鑑賞を兼ねて、ウラヌスと一緒に太陽の畑を散策する。自然と姉弟がそうしてるしな。私達もそれにならう。

 

「……アイシャ。その服、ホントよく似合ってるよ」

 

 突然そんなことを言ってくるウラヌス。ふむ……そう言ってくれて悪い気はしないけど。

 

「あなたもいつも通りですけど、似合ってますよ」

「……」

 

 褒め返してあげたくても、いつもの服だしな。こうなっちゃうよね。

 麦藁帽子を外し、ウラヌスにかぶせてあげる。

 

「……えっと?」

「ふふ、やっぱり。よく似合ってますよ」

「そう?

 ……全員分、買っとけばよかったかな」

 

 あー、確かに。麦藁帽子がいいかは別にして、帽子は必要だったかも。……いや、でもメレオロンがちょっと厳しいか。帽子じゃ隠し切れないもんな。

 

「でも帽子なんて、普段持って動くと荷物になるからねぇ」

「そうですねー……」

 

 かさばる荷物をどっか預ける方法ぐらい、用意してほしいもんだよなぁ。……隠れ家の1つも作った方がいいのか? ハメ組もアジトとかあったみたいだし。

 

「指定ポケットカードで、隠れ家を作れるヤツってありませんでしたっけ?」

「あるよ。まんま『隠れ家不動産』。

 ……1人用だけどね」

 

 全然ダメだ。

 そっか、そうだったな……。隠れ家だから、他の人にバラすとダメとか書いてあったと思う。そんなの使いにくいったらないよ。

 

「荷物をまとめて置いとける場所があると、確かに便利で助かるんだけど……」

「修行道具みたいに重ければ、盗られる心配もないんですけどね」

「普通の衣類は保存状態も大事だから、同じようにはできないかな。

 うーん。今後のことを考えると何とかしたいけど、こればっかりはなー……」

 

 話しながらも、ウラヌスがあちらこちら目を凝らしているのが分かる。いやはや、頭が上がらないな。言っちゃ悪いけど、何よりもウラヌスが便利すぎる。

 

 ──ん? あれ?

 

 ふわりと目の前を過ぎった蝶を、舞う最中ひょいっと両手で包み込む。

 

 ぼんっ! とカード化した。

 

「へ?」

 

 ウラヌスが私の方を見る。

 

 

 

『54:千年アゲハ』

 ランクA カード化限度枚数25

 伝説の昆虫 この蝶を捕まえることが出来た者は

 その後 何代にも渡り繁栄することから この名がついた

 

 

 

 カード内容を確認してから、ウラヌスにもカードを見せる。

 

「と。

 取れちゃいましたぁー……」

 

 ウラヌスは麦藁帽子のリボンをわなわな震わせ、

 

「ぅ……うおおっ、ばかな!

 アイシャ、なにイキナリ取ってんのッ!?」

 

 い、いや……だってそれっぽい蝶が鼻先を掠めてったんだもん。特別意識して探してたわけじゃないしな。

 

「おーい、2人とも! アイシャが取ったぞー!」

「うっそぉんっ!? マジで!?」

「ホントっ!? 見せて見せて!」

 

 姉弟がこちらへと走ってくる。とりあえず「ブック」でバインダーを出して、カードを指定ポケットに収める。うっかり1分経ったら笑えないからね。

 

「ぅわー……!

 ホントだ、アイシャよく見つけられたねぇ。いーっぱい蝶ちょ飛んでるのに」

「た、たまたまですよ……」

「アンタ、オーラも見えないのに化け物すぎるでしょ……!」

「いやいやいや、偶然ですってば」

 

 持ち上げられても困るよ。もう一度やれって言われても出来っこないもん。取った私が驚いてるんだから。

 

「持ってる人間は違うわねー。アタシこういうの全然ダメだし。

 ……にしても、アレね。

 アンタらしいカードよね、これも」

 

 メレオロンがそう言い、シームが首を傾げる。ウラヌスは思わしげな顔。何かちょっと前にも似たようなこと聞いたな。ウラヌスに言われたんだったか。

 

 何代にも渡り、繁栄ねぇ……実際どうなんだかな。そんな念能力があるとも思えないし、単にそれっぽいこと書いてあるだけじゃないだろうか。

 

 ウラヌスは麦藁帽子を押さえて、「はぁー」と息を吐き、

 

「もうちょっと手こずるかと思ってたのに、ソッコーだったな……

 まだお昼前だよ」

「あ、じゃあ……

 お昼にハマグリの網焼きなんてどうです? 1品届けるついでに」

「……。

 そんなに食べたい?」

「ええ、それはもう」

 

 麦藁帽子の似合う可愛らしい人に、窺うような視線を向ける。

 

「んー……

 功労者だからね。分かった、食べに行こう」

「ありがとうございます」

 

 落ち着き払ってお礼を伝える。頭の中ではガッツポーズ、拍手喝采だった。っしゃー!

 

 ウラヌスは姉弟へ目を向け、

 

「2人とも、それでいい?

 いちおう昼食のつもりでってことだけど」

「構わないけど、それなら他のも頼んでいい?

 ちゃんと食べたいから」

「いい、けど。

 ……腹いっぱいとか言ってたのに、まだちゃんと食うのか」

「間食とメインは別腹ー。

 どうせこのあと修行なんだし、食わなきゃ保たないもの」

「ぼく、アイスクリームがいいなぁ」

「冷たいもんばっか食うと、腹冷やすぞー」

「私もさっき金時を食べたんで、次はブルーサワーがいいですね。

 あ、レモンも捨てがたいですけど」

「……またカキ氷食うの?」

 

 だって暑いんだもん。カキ氷おいしいじゃないか。抹茶ソフトも最高だったけどねー。

 

 

 

 

 

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