どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第九十三章

 

 さあ、楽しい修行の始まりだー!

 

 忘れないうちに、早速メレオロンが着けるベストの重量を60から65キロへと更新する。

 

「ぐぇー」

 

 変態が汚い声出してるけど容赦しない。ウラヌスもこれくらいの重量追加なら疲労していてもアッサリできるみたいだな。200キロ近くを2つ付加してもらった時は、流石に顔色悪くなってたけど……

 

 シームは、オーラ切れ状態で60キロのベストを着て動けるだけの力はない。かと言って、オーラの回復を待っていては修行効率が悪いままなので、今日は方針を変えてみた。

 

 ベストは無し、手足にのみリストバンドを着けさせる。

 

 1つ10キロのリストバンド、これで常に負荷をかけるようにした。両腕を水平にするか、歩くか、必ずどちらかはすること。オーラの使用は禁止。これがシームに課した修行だ。左右のバランス感覚を養い、やや歪んだ体幹をピンとまっすぐにさせる。

 足を休ませたければ、両腕を水平に伸ばさなければならない。両腕を休ませたければ、歩かなければならない。手足にそれぞれ10キロだから、シームの筋力でもそこまで無茶な重さじゃない。

 オーラ有りの修行がしづらいなら、いっそ『絶』のまま身体を鍛える。そしてオーラが回復すれば、オーラ有りの修行をさせる。うむ、文句なしのプランだ。

 

 ……と思ったんだけど、現実はそこまで甘くなかった。

 

 仮に『絶』でも、オーラが回復するとは限らない。心身に高負荷がかかれば、回復量を上回る消耗が起きる。シームの身体能力では、この負荷でもまだつらいようだ。

 基礎が出来てないってキツイな……。まぁそりゃそうか。最初で手こずるから、努力は難しいのだ。シームの成長が遅いわけじゃなし、贅沢言っちゃいけないんだろう。

 

 対してメレオロンは、目に見えて伸びてるからな。計105キロになっても動きを鈍らせていない。基礎身体能力とオーラによる強化率、両方の成長が相乗的な効果を生んでいる。まだ地力を高めるか、本格的に体術を仕込んでいくか悩んじゃうな。

 

 そんなことを考えながら、みっちり身体を鍛えて鍛えて鍛え抜く。450キロのウェイトに、200キロのダンベル2つ。流石にオーラ無しだと手強い。いやぁ、心地よい負荷だ。

 

 ……うん、現実逃避だって分かってるよ。どうしようかなぁ、ウラヌス。彼、日常的に消耗するから修行させづらいよ。過剰に消耗させると、他プレイヤーが来た時ヤバイしな。私に『周』のオーラがある時ならどうとでもするけど、それがない時に大集団で念能力やスペルで連携攻撃とかされたらちょっと捌き切れそうにない。シームもいるし。

 

 それを考えると、メレオロンの戦闘力アップが喫緊(きっきん)の課題なんだよな。潜在オーラ量を考慮すれば彼女が一番安定して実力を発揮できるはず。……ただ、あの変態を過剰に強くするのは猛烈に不安があるんだけど。

 

 

 

 とりあえず筋トレを1セット終えて一息吐き、座り込むウラヌスの前へ行く。

 

「……えっと、組手?」

 

 そんな可愛い顔で不安そうに見上げられると、いじめたくなるからやめてほしいんですけどね? 小動物さん。

 

「組手したいんですか?」

「え? いや、俺は別に」

「私に無理して付き合わなくていいですよ。

 ウラヌスが技を磨きたいというなら別ですけど」

「……。俺が強くなるより、3人が強くなった方が効率いいよ。

 だって──」

 

 なおも言い募ろうとする小動物を、コツンと頭頂を叩いて黙らせる。

 

「あまり人のことばかり気にしないでください。

 ……かえって気に病みますから」

 

「……。ごめん」

 

 謝ると思ったよ。まったく、しょうがないな……

 私はウラヌスの前に腰を下ろして、あぐらをかく。

 

「休憩がてら、2人の修行方針について相談したかっただけです。

 後、それに絡んで問題になってくる私達の安全保障ですね」

「うーん……

 休憩がてらの話にしちゃ重い気がするけど」

 

 私はウラヌスが手渡すタオルと水を受け取り、汗を拭きながら応じる。

 

「そんな長話するつもりはありませんよ。

 2人の修行成果次第で調整していかなきゃいけないですし、あくまで今の方針についてです」

「休憩なら、せめて重しを外しなよ……」

「休憩も修行の一環です」

「ワケが分からないよ……」

 

 嘆くように首を振るウラヌス。そんなこと言われても。

 

「ああもう、話をそらさないでください。

 シームなんですけど、まだ当分は地力を伸ばしていった方がいいですかね?」

「うん、俺はそう思ってるよ。

 ぶっちゃけ体力・筋力・オーラ量があれば、いざって時に逃げられるからね。

 もちろん移動スペルがあるから完全には逃げ切れないけど、怪我さえしなければどうとでもなるし」

「……念をかけられたりすると怖いですけどね」

「それは俺達全員に言えることだしなぁ。

 そこまでの使い手がグリードアイランドにいればの話だけど」

「油断は禁物ですよ」

「もちろん。俺達も常に十全な防衛態勢を維持できないからね。

 で、シームはいいとして、本題はメレオロン?」

「ええ。彼女はそろそろ方針を修正した方がいいかもしれないと思って。

 目に見えて成長していますから」

「身体能力を伸ばしつつ、体術を向上させてるのが今の状況だね。

 現状でも効率はいいと思うけど、方針を修正したい理由は?」

「さっきも言ったように、安全保障の問題です。

 今のところ、私達の防衛力はあなたが要で(かなめ )す。

 ですがゲーム攻略や修行の際、あなた1人に頼りきりで消耗させすぎる為に、次の手が打てずにあなたの回復を待たざるを得ないことがあります。安全性の維持をあなた1人が担っている現状では、攻略も修行も早期の進展は望めません」

「……

 つまり、俺が頼りないのが悪いってことだね」

 

 切なげな顔をするウラヌス。思わずペースに巻き込まれそうになる。

 

「……もう!

 そんなこと言ってませんし、決め付けないでください。怒りますよ?」

「冗談だってば、ごめん。

 けどメレオロンかぁ……現状でも充分成長早いと思うんだけどなぁ」

「……私が戦えるのもあなたのオーラありきですし、移動スペルで強襲を受けた際に即応できる類のものでもありません。

 シームは圧倒的に実戦不足ですから現状期待できないでしょうし、そうなると──」

「メレオロンをなる早で使えるようにするのが、現状打破の近道だろうね。

 ……いちおう確認するけど、アイシャ的に1ヵ月待つってのは──」

「私が防衛戦力になるのはやぶさかではありませんが、悠長すぎるかと。それまでの間、安全ではないこの島で危険に晒されることになりますし。

 ……あと私は、移動スペルが使えなくなりますから。オーラ復活と引き換えに」

「あー、そうだった……

 誰か連れ去られても助けに行けないってことだもんね。

 うーん……」

 

 話していると、修行を続けながらシームが近づいてくる。

 

「2人とも、なに話してるの?」

「シーム! 邪魔しちゃダメよ!

 いま2人でデートしてんだから!」

 

 ランニングしながら、変態が声をかけてくる。

 

「あ、そうなんだ。邪魔してごめんね?」

「ちげぇ!」

「なに納得してるんですかっ!?」

 

 半笑いで離れてくシーム。ぐぬぬ、おちょくってるのか本気なのか分かんないから困る……

 

「……でもアレだよ?

 あいつ、ホントに強くしていいの? 1ヵ月の間、別の危険に晒されない?」

「うぅ……」

 

 メレオロンのことだから、図に乗るのは確実だろうな。今の力関係が崩れると嫌な予感しかしない。

 ……いや、そんなことはまだいいんだ。問題はシームが危機に陥った時、メレオロンがどう動くかだ。今までの様子を見る限り、ムチャして大怪我しそうな気がしてならない。それが回復可能な程度で済めばいいけど……

 

 だから、そういう事態が発生する前に是正しておかないと。地力を伸ばせばいいという話ではない。今の素人然とした動きや判断をさせたままでは危うすぎる。

 

 水分を口にして、嘆息する。

 

「ひとまずはこのままでいいとしても、いずれは方針を変える必要があると考えています。

 ウラヌスもそのつもりで考えておいてもらえますか?」

「分かった。

 特質系のメレオロンに相応しい技術があればいいんだけどね」

 

 ペットボトルを置き、ウラヌスにタオルを返して立ち上がる。難しいよな……やっぱり。

 

 

 

 筋トレを相応にこなした後、意を決して声をかける。

 

「メレオロン!

 ……組手をしませんか?」

 

 呼吸を整えつつ走っていたメレオロンが、ぴたっと足を止める。シームも思わず手足を休めた。

 

「それって、この間したスペルの取り合いみたいな?」

「いいえ。通常の組手です」

「……」

 

 前みたく『タスケテ!』って冗談めかすかと思ったら、意外に真面目な顔で考えている。

 

「……『絶』で?」

「いいえ。普通にオーラありで」

「マジで?」

 

 後に問いかけたのはウラヌス。私はそちらを見やり、

 

「怪我をする可能性があるのは承知していますが、それを恐れていてはいつまでも実戦ができませんから」

「……俺はいちおう反対しとくよ。個人的にはまだ早いと思ってる。

 組手をする必要性は分かるけど、オーラありは焦りすぎだよ」

「私は遠からず、メレオロンが大怪我をすると思っています。実戦で。

 メレオロンの念を前提とした体術のセンスが分からない以上、できるだけ早く見極めて指導することが必要だと認識しています」

 

 ウラヌスは渋い表情。……どちらの言うことも間違いではないのだ。危惧する点が違うだけで。私は予め怪我をしそうな修行をさせた方が、実戦においては安全だと思っている。ウラヌスは怪我をさせないことこそが肝要だと思っている。

 

 そもそもメレオロンは、既にトラリアで負傷してるからな。今後もあの程度で済むとは限らない以上、時期尚早とも言い切れないだろう。

 

「えっと……

 アタシはどうすればいいの?」

 

 困った顔のメレオロン。ウラヌスは息を吐き、

 

「メレオロンが決めればいいさ。

 二者間で同意したなら、俺が口挟んでも仕方ない。……警告はした」

 

 怪我をしてはいけないことはもちろん分かっている。メレオロンだけでなく私自身もだ。ウラヌスが治療してくれるだろうけど、彼のオーラを削ることになるし、なにより急速に回復する類の能力ではないと聞いている。つまり、後の攻略や修行に悪影響が出る。

 

 メレオロンはボリボリ後ろ頭をかき、

 

「んー……

 どっちの言い分もわかるんだけどさ。

 間を(あいだ )取らせてもらっていい?」

「と言うと?」

「組手はしてもいいけど、『絶』で。

 体術を教えながらオーラの身体強化も、って考えてるんだろうけど、それで怪我したら意味ないでしょ?」

「それはそうですけど……」

「みんなアンタみたいな天才じゃないんだから、慌ててもダメよ。

 いま言った条件じゃないなら、私は受けない」

「私は天才なんかじゃありませんよ。

 ……まぁでも、分かりました。そこまで言うなら『絶』の組手にしましょう」

「ん。

 重しは……なしよね?」

「外してください。

 実戦でそんなの着けませんからね」

 

 要は実戦的な体術を教えることに特化させるべきなんだろう。なら、重しも不要だ。

 

 メレオロンが重しを外すのを眺めていると、ふとこちらを見返し、

 

「ん? なんでアンタは重し外さないの?」

「え? ああ、そうですね」

 

 ウラヌスとシームが心持ち引いた気配を感じる。いや、忘れてたわけじゃないよ。うん。

 

 

 

 私とメレオロンが、修行場の中央でいくらか間を空けて対峙する。

 

 メレオロンの言った、体術を教えながらオーラの身体強化とは、詰まるところ『流』だ。それを鍛えない限り、念能力者同士の戦いではどうしても後れを取ることになる。

 

 ただ基本的な体術がなっていないのでは話にならない。これも事実だ。メレオロンならあるいは──とも思ったが、彼女が早期の習熟を拒否するなら無理強いはできない。……詰め込んで出来るとも限らないしな。『流』の習熟は、ゴンですら手間取ったからね。

 潜在オーラ量が多ければ愚直に『堅』で戦うのもアリなんだけど、メレオロンは特質系だからな……どうにも不安が残る。

 

「で、アタシはどうすればいいの?」

 

 さっきと似たような質問が飛んでくる。何はともあれ、まずは見てみないとな。

 

「正直に言えば、あなたに武術を教えるのは無理があると思っています。

 身体の構造が違いますから、人間の身体であることを前提とした体術を修めようとするのは適切ではありません。

 なので、まずはあなたの好きに動いてください。探っていきましょう」

「美少女が手取り足取り指導ってことね。うひょー」

「……。

 真面目にやらないと──」

「わかった分かったから。音立ててコブシ握り締めないの」

 

 ったく……

 

 真っ当に武術を教えない理由は他にもある。単純に時間がかかりすぎるのだ。最終的に強くなるのは武術を修めた場合だと断じられるが、手早く力をつけるなら喧嘩殺法の方が遥かに早い。

 それに彼女の身体は整形手術でいじる可能性がある。見た目を人間に近づけるのが限界かもしれないが、せっかく身体と技術の適応を図っても無駄になってしまう可能性もある。

 

 その可能性がある以上、メレオロンはいまひとつ真剣には打ち込めないだろう。

 

「じゃあ行くわよ」

 

 言って、まさしく素人が喧嘩をするように、拳を握って両腕で身体を守るメレオロン。いわゆるボクシングに似た構え。

 

 言葉は返さず踏み込んで手を伸ばす。スルリと両腕の間を抜け、彼女のツナギを掴む。

 

「へ?」

 

 慣性を効かせ、メレオロンの両膝を勢いよく地につかせる。ガツッと衝撃が走り、

 

「あ……

 あ痛ー……」

 

 ツナギから手を放し、私は小さく息を吐く。

 

「今の構え、よくやってる人いますけど……

 どういうつもりでしてます?」

「へ? いや……

 なんとなくだけど。だって殴られたら痛いから、腕でガードしたいし」

「いわゆるボクシングの構えですよね?

 それ、今やってみてどうでした?」

「えっと……

 ご覧の有様だけど。案外防げないもんね」

「そりゃそうでしょう。

 ボクシングのグローブならともかく、素手なら簡単に隙間をすり抜けますよ。腹もガラ空きですし。

 大体、正面に構えてどうするんですか。狙ってくれって言ってるようなもんですよ?」

「うー……

 だってウラヌスもそんな感じだったし」

「おぉい。なんとなく俺の真似すんな。

 メレオロン、オマエそもそも立ち方が間違ってる」

「は? 立ち方?」

 

 だよねぇ。そこからか……

 

「彼とあなたの違いを教えましょうか?

 彼はいつでも動けるよう、筋肉と関節を適度に柔らかくしてるんです。その上で神経を張り巡らせ、腰から足の爪先に到るまでどのタイミングでどう力を入れるか、きめ細かに制御しています。

 それに対し、あなたはただ立ってるだけ。

 動く気がないって、見ただけで丸分かりでしたよ」

「えぇぇ……」

「戦いにおいて、上半身に意識がいくのはごく当然です。

 ほとんどの攻撃は腰から上に来ますから。

 けれど移動を行うのは、ほぼ下半身です。相手に(よ )らず、自分のタイミングで間合いを取りにいく場合、必ず自分から踏み込むことになります。

 よって相手の足が動く気配を読むのは、機先を制する為に必須です」

「言ってることは何となく分かるけど……

 具体的には?」

「要はあなた、戦いに不慣れなんですよ。

 だから相手がこういう状態ならどう動くか読めないんです。経験不足ですね」

「まあ……

 ここまで近づかれる前に逃げるからさ。至近距離でどう動くかなんて分かんないわよ」

 

 ……さて、どうしたものか。

 

 実のところ、解法は分かっている。彼女は出来ているのだ──関係ない時には。それがいざ不慣れな場になると活かせない。それだけのことだ。

 

 でもなぁ……教えると磨きがかかっちゃうんだよね。……その、セクハラスキルに。

 あれだけ人の虚を衝いて接触できるんだから、戦いに活かせないわけがない。

 認めたくはないけど、彼女の接触には悪意がない。本当にただ触れたいだけなんだろう。触られる方はたまったもんじゃないけど。──悪意のない動きはどうしても察知が難しくなる。そばにいる誰かの日常的な動きを常に警戒はできないからな。疲れるし。

 

 ただ、それを攻撃に転用することも容易ではないだろう。彼女は気殺に長けているわけではなく、誰かに害意を向けてこなかっただけなんだから。

 

 ──いや、ちょっと待てよ?

 

 立ち上がり、膝関節をはたいているメレオロンを眺めながら、

 

「メレオロン。

 ……少し、嫌なことを聞いていいですか?」

 

「なに?」

 

「NGLで──

 人間を相手にしたことはありますか?」

 

「……

 NGLで、か……

 あるとも言えるし、ないとも言えるわね」

 

「どういうこった?」

 

 ウラヌスがこちらへ歩いてきて、立ち止まる。

 

「正直、きちんと思い出せるわけじゃないんだけど……

 あの当時、女王に餌を献上する為に、人間を捕獲する部隊がいくつもあって。

 そのうちの1部隊の師団長を務めてたから……当然その現場にも居合わせた。

 アタシは……透明になる能力を使ってたから、正面切って相手してたわけじゃない」

 

 なるほど、格闘戦の経験自体はないわけか。油断してる相手を神経毒で一撃ってところかな。ということは、条件付きであれば気殺の心得もあるわけだ。透明になる能力じゃ、気配までは消せないからね。

 それがあのセクハラ技術の高さに繋がるのか……なんか腹立つな。

 

 ウラヌスが腰に手を当て、なにか考えている。

 

「どうしました?」

「いや……

 俺はNGLの現場を知らないからアレなんだけど。

 なんだかんだで殺し合いの場を切り抜けてきたなら、実戦経験がまったく無いわけでもないんだなって。

 その空気を経験してるだけでも、いざって時だいぶ違うからさ」

「……」

 

 その口振りだと、ウラヌスも経験ありか。……ヨークシンでゾルディック家と敵対したって言ってたもんな。技術水準を見ても、相当な修羅場を潜ってきたと見るべきか。

 

 私はメレオロンへと向き直り、

 

「ほぼ確信を持って尋ねますが、メレオロンは神経毒を使えますね?」

「やっぱり知ってるわよね……

 ええ。牙から送り込めるわ」

「いざという時は、躊躇いなく使ってください」

「……できれば使いたくないわ。

 中毒になった相手は、かなり長期間寝たきりになるはずだから。まぁアタシが知らないだけで、解毒する方法はあるかもしれないけど」

「使うのを躊躇って、死ぬのはダメですよ?

 相手を死に至らしめないだけ、まだマシなんですから」

 

 困った顔で首筋をかくメレオロン。……あんまりシームの前でしたい話じゃないだろうしな。でも、いざという時の為に認識のすり合わせはしておかないと。

 

「とは言っても、生きたまま餌として捕らえる為のものだからねー……

 はてさて、殺さないだけマシなんて言われても」

「もちろん最後の手段くらいには考えてほしいです。

 体術で相手を制圧してしまうのが一番望ましいですから。その為の組手ですよ」

「はいはい。

 真面目にやります」

 

 メレオロンは自ら距離を少し空け、私へと向き直す。

 腕を組んで、まだなにごとか考えているウラヌス。

 

「何か気になることはありますか?

 助言があるなら、してあげてほしいですけど」

「ううん。

 メレオロンに何か言うのであれば、アイシャ以上の助言はできないよ。

 それよりも、アイシャはキメラアントが神経毒を基本使えるって知ってるんだ?」

「ええ、まぁ……

 キメラアントによって、身体のどの部位から送り込めるかは違うようですけど」

「なんか引っかかるんだよな……

 違和感があるっていうか。俺にもよく分かんないんだけどね」

 

 言って、ウラヌスは離れていく。

 

 マズイ気がするな……

 

 なんとなくだけど、私がキメラアントについて妙に詳しいのを訝しんでる感じだ。

 私の正体については、最悪話してもいいかもしれない。けど、キメラアントによる生物災害を、広がる前に防げた理由は教えるわけにはいかない。

 言い訳は用意できるけど、嘘を見抜かれたらどうしようもない。まいったな……

 

 あ、そうだ。

 

 私が男になりたい理由も、教えるわけにはいかなかった……

 今はいいけど、いずれ聞かれるだろうしな。考えてみたら隠し通すのってかなり難しい気がする。ぐうぅ……前途多難かもしれない。

 

「アイシャー。始めていいの?」

「あ、はい。

 いつでもどうぞ。

 ……あとシーム、いつまでもボサっとせず。

 課題をこなしながらでも見物はできますよね?」

「ご、ごめん!」

 

 うん、今は考えるのヤメ。そのうち、なんか良いアイデアが浮かぶだろう。……うん、浮かぶはず。

 

 

 

 

 

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