伝染性吐血症害   作:犬屋小鳥本部

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答えと結果

俺の出した「答え」はこうだった。

 

汚染源が他にあった。

一昨日のガラス容器じゃなくて、もっと前にウィルスは水に流れ出していたんだ。

それはじわじわと町の飲み水に、畑の水に溶けていって、最終的には町の人たちの体に入ってしまった。

 

でも、体にコップ一杯程度入るくらいじゃ発症はしなかった。

一杯、また一杯とごくごく飲めば飲むほど「それ」は体に溜まっていく。

でも、発症する数のウィルスが体内に入るまでは無害だったんだ。

 

例えば、そう。

花粉症ってそういうやつだよな。

ある量までいかなければ花粉症にならないってさ。

 

時間が経つにつれてそれまで飲んだ水も増えてきた。

体内に溜まったウィルスの数も多いだろう。

だから、「一定量以上」になる人が出てきた。

 

あのウィルスの症状は二段階ある。

初期症状と末期症状。

初期症状は風邪っぽいくらいの些細な症状。咳とかな。

末期症状はその咳が酷くなって、血を吐き出す。そして

 

死に至る。

 

この二段階の症状も、体内のウィルスの量によって変わる。

一定量以上で初期症状が出る。更にその上のラインの以上の量で末期症状が。

今までは 末期症状レベルの量までいく人はいなかったんだ。血を吐いたなんて話、小さな町じゃ大ニュースなんだぜ?

 

でも、追い討ちがあった。

一昨日のガラス容器だ。

あれにはきっと、濃い濃度のウィルスが入っていたんだ。

だから、近くにいた父さんはあっという間に末期症状で。

町を水が巡りきるまでにはたくさんの水が追加される。汚染された水もそこそこ薄くなるんだ。だから、その大本の工場の水は一番濃い。その水道の水を三人は飲んだんだ。

当然発症も早い。

 

今までとは比べ物にならない濃度のウィルスが入った水を飲んだ人たち。

元々ウィルスが体内に入っていたせいで、末期症状になるのもあっという間で、あんなことになってしまった。

 

それに、俺は気づいたんだ。

 

夏休みになってこの町に来た俺も、感染しているんだって。

水、飲んでいたからさ。

 

俺にはワクチンが必要だった。

それに、この町以外の人でも感染して初期症状になっている人が近くの町でいるんだってさ。

 

専門団体の人たちが来た。

俺は、あの子を起こして一緒にこれからのことを話した。

 

俺は、父さんが残した切符で帰ることになった。

 

あの子は、ワクチンを作るために団体の研究所へ連れてかれることになった。

 

父さんや母さんや、町の人たちだったものは全部焼却しないといけないそうだ。

エボラ出血熱もそうだもんな。

そんなことを言ったら、団体の若い人が驚いて、そんなことよく知ってるね、と言った。

 

 

 

 

俺は自分の荷物をリュックに背負った。持っていけるだけの遺品と、あの子がくれた思い出の贈り物を両手の鞄に詰め込んで、父さんが住んでいた家の鍵を閉めた。

 

何か、忘れ物はないか?

???

何か、大切なことがある気がする?

何だろう?

何か、引っ掛かっている。

 

俺は、元の町の家に着くまで気づけずにいた。

 

 

 

 

がたごと がたごと

俺はたった一人で電車に乗っている。

 

 

 

 

 

俺を誉めた、あの団体の若い人が町から出る電車に乗る直前まで見送ってくれた。

その時、個人的な連絡先を君なら特別にって言ってメモに書いてくれた。

後日、といっても家に着いて次の日に電話がその人からかかってきた。

その人はまず、自分が団体を辞めたことを俺に告げた。

それと、自分の兄があの町で小学校の先生だったことも。多分、俺たち四人を怒った、あの時まっすぐ家に帰れと言った人だと思った。面影が似ていたな。

 

 

 

元の町に帰った俺を待っていたのは、誰もいない家だった。

俺はその夜、一人で泣いた。

 

もう九月に入って学校も始まっていたけど、しばらく落ち着ける所で休んだ方がいいっていうことで、俺は母さんの実家へ行くことになった。

 

 

 

がたごと がたごと

電車に揺られながら、俺は父さんのノートを開く。

ページには、あの町に行った初日にみんなで撮った集合写真が挟まっている。

みんな笑っている。

みんな笑っていたんだ。

たった一夏の思い出。

俺の、大切な大切な思い出。

 

 

 

団体を辞めた人、兄さんと呼ぶぜ。兄さんはあの町の調査した事実を教えてくれた。

まず、生存者はやっぱり俺たち二人だったこと。

ウィルスは水路だけでなく、水路からとった水を使用していた畑も汚染していたこと。

あの工場の偉い人が、何ヵ月も前に失踪していたこと。

あとは大体俺の考え通りだった。

 

俺は兄さんに気になることを聞いた。

まず、あの子は元気かということ。

兄さんは沈黙した。

実は、あのウィルスは致死率が異常に高いため発症途中で治るなどあり得ないそうだ。

団体はあの子からたくさんのデータをとって、「今後」に「役立てる」つもりらしい。

つまり、実験体だ。

せっかく生き残ったのに?

 

あの子にはもう会えないだろう。そう、言われた。

あの子はつれていかれてしまった。

あの子は、もういなくなってしまったんだ。

 

俺は気落ちしたままもうひとつだけ聞いた。

△△企業って知ってますか?

もしかして、失踪したその人がウィルスを流していたとか?

兄さんは首を横に振った。

失踪したその人は発見されたらしい。工場の中で。

工場の一番奥にある、大元の水を汲み上げて溜めておくタンクの

 

中 に

 

沈んでいたそうだ。

腕には注射器で刺された痕。

 

え?ぅえっ!

俺は思わず吐きそうになった。

直感的にわかってしまった。ただ、受け入れたくなかったから、兄さんに聞き返した。

 

あのー、その人、感染してます?

感染してました?

あー、そうですよねー。

いやー、知りたくなかったかなー、俺。

 

あー、そうですよねー。

 

オブラートに包むと、俺たちその人のだし汁(血だよ、血)飲んでたんだよなー。

出てきてたのヤバいウィルスだったけど。

はははははは

はぁ…

 

兄さんもこれには苦笑いしか返ってこなかった。

しばらく水はコンビニでミネラルウォーター買うことにした。根本的な解決ではないと思うけど。

 

あと、俺が名前を出した△△企業。

兄さんはそれが理由で団体に見切りをつけたって言った。

△△企業が作った団体が、今回俺が世話になった団体。兄さんがいた団体だったんだ。

大きい企業だし、別にいいと思うだろ?

 

実はさ。父さんが調べていたんだ。

ウィルスの出所。

△△企業だって。

 

△△企業はあの父さんの勤めていた工場、感染源になってしまった工場のスポンサーだったんだ。

俺はそれをすっかり忘れていた。

団体の人が「△△企業から来ました××団体です」って紹介してくれた時に気づくべきだった。

 

はっきり言って、自作自演だったんだ。

 

工場のお偉いさんが邪魔になったから、変なウィルスを着けてタンクに沈めた。

それに工場が気づきそうだったから、ウィルスがたくさん入ったガラス容器を水路の飲み水に溶かした。

工場だけ変な病気が流行ったら、町の人たちに怪しまれる。なら、町ごと病気にさせてしまえ。

運悪く生き残った子供がいたら、遠くへやってしまえ。どうせ覚えていないだろう。

ワクチンの材料が手に入ればなんてラッキーだ。

 

あいつら、人の命をなんだと思ってるんだ。

 

兄さんもそう怒って抜けてきたんだってさ。

 

 

 

 

 

がたごと がたごと

もうすぐ電車が駅に着く。

俺の今年の夏休みももう終わりだ。

 

赤く染まった水が、あの子の幼い笑顔を思い出と一緒に過去へ押し流していく。

 

 

 

 

 

俺さ。思うんだ。

思い出はきれいなままであるべきだって。

 

どんなに嫌で汚くて酷い終わりを迎えても、大切な過去の思い出はずっとずっと、宝箱や宝石箱の中身みたいにキラキラ輝いていて欲しい。

きっとそれが、辛くて挫けるような時のエネルギーになってくれる。

 

ただし、これは過去の思い出のこと。

 

今、大きくなった俺は、二度とあんなことが起こらないように必死に現実にすがり付いてカッコ悪くも足掻き続けている。

大学に進学して専門的な知識を身に付けた。

そして、父さんと同じように水質調査を主とした専門分野で働いている。

 

過去は戻らない。いなくなった人たちは、もう二度と戻らないんだ。

 

それを知っているから、俺は後悔しないように大切なものにすがり付くんだ。

失ってからじゃ遅い。

 

あの後で俺は兄さんから貰ったワクチンを打った。だから、もうあのウィルスで発症することはない。

生かされているんだよ、俺は。あの子に。

あの子の血からつくったワクチンに。

 

 

 

父さんや母さんやたくさんの人に守られた。

あの町の出会いに助けられた。

あの子に生かされた。

 

みんな、みんないなくなってしまった。

守れたはずのあの子も、いなくなってしまった。

赤く染まったあの夏は、たくさんのものを持っていってしまったんだ。

でも、ここに残ったものもある。残してくれたものがある。





俺はこれから生きていく。
貰ったものを握り締めて、限りある命を燃やしていく。
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