機動戦士ガンダムSEED 連合vsZ.E.O.N. DX   作:ダルマ

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お待たせいたしました、"原作"の時系列の始まりです。


第十九話 INVOKE─発動─ for A

 C.E.七一年一月二五日。

 広大な宇宙(そら)を漂うデブリの一欠けらの如く、二隻のナスカ級がとある宙域を進んでいた。

 最低限の軌道修正のスラスター噴射を行う以外メインエンジンに火を点す事もなく、漂流したかの如く慣性航行を続ける二隻は、ヴェサリウスとラッセルである。

 

 何故、二隻がこの様な行動を行っているのかといえば。

 それは、二隻のいるL3宙域にぽつんと漂うシリンダー型の巨大な人工物。

 そう、目的地であるヘリオポリスに近づいているからだ。

 

 ヘリオポリスに駐留している警備隊の警備網にかからないように、必要最低限の自走と、搭載したZ.A.F.Tが独自に開発したアクティブステルス装置を用いてヘリオポリスに接近を図っていた。

 因みに、ステルス塗料もアクティブステルス装置もないシャア中佐指揮下の三隻は、近くの暗礁宙域から、クルーゼ隊の進捗状況を見守っていた。

 

「うぅ……」

 

 そんな行動を続けているヴェサリウスの艦橋内。

 熱探知対策の一環として、艦内の空調も最低限まで絞られており、その為、肌寒さを感じる程の気温となった艦橋内。

 艦長席に座る、Z.A.F.T内で副官等の役職の者が着用する黒い制服を着用したクルーゼ隊の副官、フレドリック・アデス大尉は、そんな肌寒さに耐えかね両腕をさする。

 

「心配するなアデス。この肌寒さも次期に終わる」

 

 そんなアデス大尉に、隊長であるクルーゼ少佐は、アデス大尉の肩に手を置くと、彼の身を案じるかのように声をかけた。

 

「は、そうですありますね」

 

「ん? 何かまだ言いたい事でもあるのかね? なら、遠慮せずに言いたまえ」

 

「で、では。本作戦の概要は理解しておりますが、その、作戦の要である新型MSの奪取を担当するのは、何もアスラン達でなくともと……」

 

「確かに、作戦の成功率を鑑みれば、アスラン達五人を担当にすべきではないな。……だが、今回の奪取作戦はプロパガンダの材料も兼ねている。いつの世も、民衆とは、常に英雄(ヒーロー)を求めているのだよ、それも、センセーショナルな英雄(ヒーロー)をな」

 

「は、はぁ……」

 

「最高評議会の議員のご子息たちが大西洋連邦の新型MSを奪取し本国に凱旋する。これ程民衆の心を掴み、戦意を高揚させるセンセーショナルなシナリオが他にあるかね?」

 

 クルーゼ少佐の言葉に、アデス大尉は肯定するかの如く口を紡ぐ。

 しかし内心では、まだまだ経験の浅いアスラン達を使う事に、一抹の不安を感じずにはいられないアデス大尉であった。

 

「艦長、前方に目標の小惑星を補足」

 

「……よし、船体固定作業準備!」

 

 だが、今更もう遅いと、それ以上この件について考えるのを止めるかのように、アデス大尉は作戦の成功に向けて自身の役割に集中するのであった。

 

 

 それから程なく、ヘリオポリスからほど近い宇宙(そら)を漂う小惑星の影に船体を固定したヴェサリウスとラッセル。

 その艦内では、出撃の為の準備が慌ただしく行われていた。

 

「いよいよだな」

 

「そうですね」

 

「お、何だイザーク、もしかして敵の真っただ中に飛び込むのが怖いのか?」

 

「ち、違う! これはただの武者震いだ!」

 

「……」

 

 ヴェサリウスの艦内、新型MSの奪取という大役を任される事となったアスラン達五人は、ヘリオポリスへの潜入の為の準備を進めていた。

 制服と同様の赤いパイロットスーツの上にアサルトベストを着込むと、予備のマガジンや手榴弾等をポーチに収納し。

 無重力下では必須のジェットパックやアサルトライフル、それにサイドアームの自動拳銃等に不備がないかの最終確認を行う。

 

「よぉ、お前ら。準備できてるか?」

 

「あ、ミゲル」

 

 そんな五人のもとに、緑のパイロットスーツを着込んだミゲルが顔を出す。

 

「ん? 何だお前ら、いつもよりも大人しいな。さては、ビビってるな」

 

「こ、これは武者震いだ!」

 

「ははは、そうか、そりゃ悪かった」

 

 自身の言葉に顔を赤くして反論するイザークの様子を見て、ミゲルは愉快な様子であった。

 

「でもま、分かるぞ。お前ら、MSでの戦闘は宇宙海賊討伐の任務で何度かあるが、白兵戦は初めてなんだろ?」

 

「はい、そうなんです。ミゲルさんは、経験があるんですか?」

 

「ま、宇宙海賊のアジトを制圧する際とかで、何度かはな」

 

 五人の緊張の原因が、実戦では初めてとなる白兵戦の不安からくるものだと察したミゲルは。

 五人の緊張を少しでも和らげるべく、経験者としてアドバイスを送る事にした。

 

「じゃ、経験豊富(プレイボーイ)なこの俺が、チェリーボーイな可愛い後輩たちにアドバイスを送ってやろう。いいか、撃たれても死ぬな!」

 

「え?」

 

「ははは、ま、大丈夫さ、訓練通りやれば自然と身体は動いてくれるさ。じゃぁな」

 

 冗談なのか本気なのか、ミゲルはそんなアドバイスを言い残すと、自身も出撃の為に部屋を後に格納庫へと向かうのであった。

 

「ミゲルって、時々無茶苦茶な事言うよな」

 

「でも、ミゲルさんなりの気遣いなんじゃないですか」

 

「確かに、あまりに無茶苦茶過ぎて、呆れて緊張はほぐれたな」

 

「イザーク、やっぱお前ビビってたのか」

 

「だ、だからこれは武者震いだ!」

 

 と、ラスティ・ニコル・ディアッカの三人がイザークの慌てた様子に吹き出し、室内に三人の笑い声が木霊する。

 そして、イザークもまた、恥ずかしさから顔を赤くしていたが、三人の様子に怒る気も失せるのであった。

 

 こうして、緊張をほぐし準備を整えた一行は、部屋を後に格納庫へと赴くと。

 ヘリオポリス潜入の為に用意されたステルスランチに搭乗する。

 

「なぁ、アスラン、さっきからずっと黙ってるけど、もしかしてアスランもビビってるのか?」

 

 座席に腰を下ろしたラスティは、隣に座ったアスランに声をかけた。

 アスランは、準備の時からずっと神妙な顔つきのまま口を閉ざしており、それに気づいていたラスティは、声をかけたのである。

 

 しかし、アスランからの返事はなかった。

 

「ま、ビビッていてもいなくてもどっちでもいいけどさ。お互い、頑張ろうな」

 

 それでもラスティは、構わずアスランに言葉をかけ続けた。

 

「ステルスランチ一号艇、二号艇、発進カウントダウン開始、十・九・八──」

 

 程なく、発進のカウントダウンが始まると、ラスティも口を閉ざし。

 ステルスランチ内には、発進のカウントダウンだけが響き渡る。

 

「三・二・一、ステルスランチ一号艇、二号艇、発進!」

 

 そして、カウントダウンが終わると共に、アスラン達五人を含めた潜入部隊を乗せた二梃のステルスランチは、開放されたハッチから宇宙(そら)へと解き放たれる。

 また、潜入部隊援護の為、ミゲル搭乗機を含めた数機の、ステルス塗料で黒く塗装されたジンハイマニューバも、音もなく宇宙(そら)へと解き放たれる。

 

 因みに、ミゲルの搭乗機は通常型のジンハイマニューバである。

 チューンナップを施した専用機は、以前のフルアーマー・ガンダムとの戦闘による修理が間に合わなかった為、今回は用意された通常型での出撃となった。

 

 

 今回の新型MS奪取作戦の大まかな流れは以下の通りである。

 先ず、特殊改修の施されたクルーゼ隊の二隻がヘリオポリスに接近。

 そこから潜入部隊を乗せたステルスランチを発進させ、援護のMS隊と共に慣性航行でヘリオポリスに潜入させる。

 

 そして、合図と共に事前に潜入していた工作員による破壊活動を開始させ、ヘリオポリス内部に混乱を引き起こす。

 その混乱に乗じ、潜入部隊は目標となる新型MSを奪取し、速やかに母艦へと帰還。

 宙域離脱の援護を担うシャア中佐の部隊に掩護されつつ、クルーゼ隊の二隻は追加の大型ブースターを用いて宙域を離脱。

 事前に設定した帰還コースを用いて、Z.E.O.N.本国へと帰還する。

 という流れである。

 

 なお、本作戦の決行に合わせて、Z.E.O.N.宇宙軍では陽動と足止めを兼ねて地球連合側の各拠点に対する攻撃を敢行している。

 第二次世界樹攻防戦の敗北により、より一層厳しさを増した懐事情の中でこの陽動攻撃を行っている所からも、本奪取作戦がいかにZ.E.O.N.にとって重要視されていたかが伺える。

 

 そんな新型MS奪取作戦の最初の山場と言うべきが、潜入部隊のヘリオポリスへの無事の到着であった。

 

「どうだ? ステルスランチが敵に察知された様子は?」

 

「現在の所、敵警備隊に目立った動きはありません。数分前に入港が確認された大西洋連邦の輸送艦も同様です」

 

 ヴェサリウスの艦橋内。

 ヘリオポリス側の動向を監視していたオペレーターが、クルーゼ少佐の問いかけにそう答えた。

 

「そうか」

 

 オペレーターの言葉を聞いたクルーゼ少佐は、仮面で隠された瞳で窓の外に広がる漆黒の空を眺めながら。

 作戦が順調に進行している事に対するものか、ふと、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 ヘリオポリスの資源衛星部分の一角に、エアバッグによる姿勢制御の代用で無事に到着を果たした二梃のステルスランチ。

 搭乗していた潜入部隊の面々が、ジェットパックを用いて、内部への進入用出入り口へと向かう。

 

 それに続くように、数機の漆黒のジンハイマニューバがモノアイを点滅させると、同じく物資搬入に用いられている出入り口から内部への侵入を試みる。

 

「こちらミゲル、アスラン、そっちの準備はオーケーか?」

 

「こちらアスラン、こちらはいつでも準備出来てる」

 

「了解だ」

 

 そして、ヘリオポリス内部に広がる地上さながらの風景をモニター越しに眺めながら、ミゲルはヴェサリウスへと配置完了を告げるコードを送信する。

 コードを受け取ったヴェサリウスの艦橋内は、それまでの静けさから一変、慌ただしさを増していく。

 

「ゲストより連絡、プレゼントの準備完了!」

 

「では、始めるとするか。工作員に合図を、それと、シャア中佐のラグナレクにも合図を送信、パーティーを始める、とな」

 

「は!」

 

 これから始まる壮大な流血の舞台の開演を告げ、クルーゼ少佐は再び不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 ヘリオポリスは大西洋連邦とA.E.C.が共同開発により建造されたコロニーである。

 その為同コロニー内には、太平洋連邦の開発した新型MS、G計画の共同開発企業であるA.E.C.のモルゲンレーテ社の開発施設が存在していた。

 

 そんな開発施設の一部であるモルゲンレーテ社所有のドック内に、一隻の白亜の軍艦が、就役の時を待ち望んでいた。

 

「G計画の肝となるGAT-Xシリーズの運用母艦。強襲機動特装艦の一番艦、アークエンジェル、か。……成程、確かにあの形状は、白き羽が羽ばたいている様にも見える。全くもって、言い得て妙だな。そう思わんかね、バジルール少尉?」

 

「はい、カシアス艦長」

 

 廊下の窓から見える白亜の軍艦、大西洋連邦がG計画の一環として、開発する新型MSの運用母艦として建造を進めていた最新鋭艦。

 無論、運用母艦の能力も勿論ではあるが、艦単体として見ても、陽電子破城砲ローエングリンを始め、強力な武装を有している。

 なお、A.O.C.U.のカニンブラ級強襲揚陸艦を参考にしたのか、どことなく艦影が似ている。

 だが、美しい流線型の前部、大気圏内飛行用の主翼、そして広げた羽のように流れる艦尾。優美さでは、間違いなく本艦に分があるだろう。

 

 そんなアークエンジェルを横目に眺めながら、廊下を進む二人の太平洋連邦の軍人。

 一人は、二十代半ばの女性軍人、軍人という事で厳格な雰囲気を醸し出している彼女は、アークエンジェルの乗組員の一人であるナタル・バジルール少尉。

 

 そして、そんな彼女の前を歩くのが、老練な雰囲気を醸し出す男性軍人、その名をパオロ・カシアス中佐。

 彼こそ、何を隠そう、アークエンジェルの初代艦長なのだ。

 

「しかし、如何に素晴らしい艦であっても、真に大事なのは動かすべく乗組員が文字通り一体となる事だ。……こんな情勢でなければ、慣熟航海を行い練度を高めたい所ではあるが。もしその様な余裕もなければ、君達先任連中には、苦労を掛ける事になるやもしれん」

 

「いえ、私も大西洋連邦の一員です、軍内の事情は、よく理解しています」

 

「そう言ってくれると、少しは気が楽になる。……全く、ハルバートンも、少しは敬って欲しいものだ。予備役のわしを引きずり出したかと思えば、最新鋭艦の艦長をしろとは。昔から変わらんよ、人がよさそうに見えて人使いが荒いのは」

 

 返答に困るナタルを他所に、パオロ中佐は淡々とハルバートン提督に対する愚痴を零す。

 実はパオロ中佐、ハルバートン提督のかつての上官であり、本来は予備役の軍人であった。

 所が、緒戦の敗北による大西洋連邦内の高級士官不足のあおりを受け、当初予定していたアークエンジェルの人事案が白紙となり、そこでかつての部下であったハルバートン提督の推薦もあり、現役に復帰し、アークエンジェル艦長の職を拝命する事となったのであった。

 

「おっと、すまんな。どうも年を取ると、小言が多くなってしまう」

 

「い、いえ……」

 

「それにしても、美しい艦だな」

 

「はい、私もそう思います」

 

 そして程なく、足を止め、二人は軍艦とは思えぬ優美さを備えるアークエンジェルの姿に見惚れるのであった。

 

 

 それから暫くして、二人はアークエンジェルに乗り込むべく、エレベーターホールを歩いていた。

 所が、次の瞬間、二人の体は突然の衝撃により吹き飛ばされ、固い廊下に叩きつけられた。

 

 それは、Z.E.O.N.側の工作員が仕掛けた爆弾によるものであった。

 しかも、爆発はその一か所のみではなかった。

 ヘリオポリス内の各所、特に、駐留している警備隊の駐留基地や、モルゲンレーテ社の開発施設の所在する工業区画において集中的に起こっていた。

 

 この事態に、ヘリオポリス内は一気に混乱の渦に陥る。

 

「い、少尉……。バジルール少尉、大丈夫か?」

 

「か、艦長?」

 

 先程まで何の変哲もなかったエレベーターホールは、今や、文字通りの地獄と化していた。

 そこかしこで火災が発生し、立ち込める煙で視界が悪い中、ナタルは鼻を突く嫌な臭いで目を覚ますと、パオロ中佐の声に気付き、声のする方へと足を進めた。

 

 するとそこには、壁際にもたれかかるパオロ中佐の姿があった。

 しかし、その脇腹には、爆発による破片が刺さってしまったのか、白い軍服を赤く染める出血の症状が見られた。

 

「カシアス艦長!? え、衛生兵!! 衛生兵!!」

 

 慌てて駆け寄り、状態を確認したナタルは、助けを求め叫んだ。

 すると、運よくエレベーターホールの状況を確かめに来ていたのか、数人の大西洋連邦の兵士がナタルの声に気付いて駆け寄って来た。

 

「カシアス艦長を早く医務室へ!」

 

「そ、それが、先ほどの爆発で医務室は……」

 

「何だと!?」

 

 まさか医務室も爆発により破壊されたとは思わず、ナタルは言葉を失った。

 すると、痛みに耐えながら、パオロ中佐が口火を切った。

 

「少尉、ならば、アークエンジェルの医務室ならどうか」

 

「確かに、それならば。幸いアークエンジェルは無傷のようですし」

 

「おそらく、この爆発はZ.E.O.N.の仕業だろう。であれば、連中の狙いは、G計画……」

 

「! ならば尚更アークエンジェルに急がなければ!」

 

 兵士達の手を借り、ナタル達は急ぎアークエンジェルを目指し始める。

 そんな彼女達を急かすかのように、けたたましいサイレンがスピーカーから流れていた。

 

 

 

 

 同時刻。

 爆発と共に一気に内部の奥深くへと侵入を果たした、ミゲル率いる援護のMS隊は、内部で展開し始めていた警備隊の部隊と交戦を開始していた。

 潜入部隊の存在をなるべく気付かれぬよう、出来るだけ派手に、しかし居住区画への被害は最低限に暴れ、警備隊の目を自分達に引き付けさせていた。

 

ザクモドキ(ザニー)如きが!」

 

 自機に向かって装備したMS用マシンガンを発砲する警備隊のザニー目掛け、ミゲルは飛来する九〇ミリ弾を軽々と躱しながら、試製三五ミリ機甲突撃銃を発砲する。

 正確無慈悲に飛来した、装薬の改良で威力は従来のものと遜色ない三五ミリ弾により、程なく警備隊のザニーは沈黙する。

 

 更にミゲルは、ヘリオポリス内部の空を自由に飛び回りながら、両腕の四〇ミリ四連装ボップ・ガンを放つガンタンクA2にも三五ミリ弾の雨をお見舞いし、あっという間にスコアを更に追加させる。

 

「ふん、自慢の主砲を使えないタンクで俺を止められると思うなよ」

 

 警備隊の戦力は旧型機が多く、また、ブルドックと呼ばれる対MS用ミサイル搭載車輛や自走リニア榴弾砲等の車輛兵器群の他。

 ムラクモ・クローム社が都市部やコロニー内部等での警備や戦闘等の運用を目的に開発し販売している、モビルワーカーと呼ばれる車両型マシン。

 その一種で、同種においては高級機となる、モデルとなったギャラルホルンモビルワーカーと同様の外見を有する、形式番号型式番号MC-NK17、その名を"ナースホルン"。

 

 これらも応戦したものの、やはりMSに対しては分が悪く、相手のパイロット達の実力が高い事も相まって、次々に炎と硝煙の中に消されていった。

 

 

 そんな戦闘が繰り広げられているのを他所に。

 とある丘の上から、眼下に望む、炎と黒煙が立ち上る工業区画の様子を見つめる一団がいた。

 アスラン達潜入部隊の面々である。

 

「ヒュー、出てきた出てきた」

 

「ブリーフィング通り、探す手間が省けるな」

 

 電子双眼鏡で工業区画からの脱出を図る車列を確認したディアッカとイザークは、そんな感想を零す。

 

「ちょっと突けば巣穴からわらわらと出てくるってやつ? 間抜けだよな、地上の連中って」

 

「全くだ」

 

「ディアッカ、イザーク、その位にしておけ。作戦中だぞ」

 

「ちっ、分かっている、いちいち指図するな!」

 

「はいはい。喧嘩するならやる事やってからな、ほら、さっさとやる事やっちまうぞ」

 

 アスランからの注意に、イザークは不快感を露わにするも。

 ラスティの言葉に、イザークは芽生えた怒りを任務の邪魔となる大西洋連邦の兵士たちにぶつける事にするのであった。

 

「見た所、車列のMS用トレーラーの荷台に搭載しているのは、三機だけのようですね」

 

「確か、情報じゃ新型MSは全部で五機の筈だろ?」

 

「おそらく残りの二機はまだ施設内だろう」

 

「なら、俺とラスティの班で行く。イザーク達はあの三機を頼む、いいな?」

 

「ま、いいだろう。しくじるなよ」

 

「勿論だ」

 

 そして、担当の割り当てを決めると、潜入部隊は二手に分かれて目標の奪取へと向かう。

 

 上空を飛び交うミゲル達のMS隊に気を取られていた車列の兵士達は、突如横合いから現れたイザーク達に即座に対応できず、次々とイザーク達の凶弾に倒れていく。

 こうして、MS用トレーラーの荷台に乗せられていた三機の新型MSにたどり着いたイザーク・ディアッカ・ニコルの三人は、各々の機体のコクピットに滑り込む。

 

「へぇ、地球の連中が作ったにしては、なかなかいいじゃないか」

 

 コクピットハッチを閉じ、事前のブリーフィングにて知り得たシート脇のマニュアルにさっと目を通すと、イザークはシステムを立ち上げる。

 そして、まるで使い慣れているかの如く手際で、システムの根幹であるOSを書き換えていく。

 

 程なく、灰色の鋼鉄巨人が、固定用のワイヤーを引き千切りながら、ゆっくりとその巨体を起こし始めた。

 

「ディアッカ、そっちはどうだ?」

 

「こっちもオーケーだ」

 

 それに続くように、更にもう一機、灰色の鋼鉄巨人がその巨体を起こす。

 

「ニコル、何してる?」

 

「待ってください、もう少しですから」

 

 そして、少し遅れて、最後の一機が起き上がる。

 すると、それを確認したのか、三機の新型MSを守るかのように、漆黒のジンハイマニューバが三機の周りに降り立つ。

 

「イザーク、早かったな」

 

「まぁな」

 

「アスランとラスティは?」

 

「施設内の残りの二機の方だ」

 

「そうか。よし、さっさと離脱してヴェサリウスに帰還しろ」

 

 ミゲルからの通信に応えたイザークは、ミゲルの言う通り、ディアッカ・ニコルの奪取した二機を引き連れるように、バーニアを噴かせヘリオポリスの空へと舞い上がっていった。

 

 

 そんな三機の様子を、施設内にいた作業着姿の男性は苦々しい様子で眺めていた。

 

「くそ、このままじゃX105とX303まで奴らに持ってかれちまいますよ!」

 

 彼の名はハマナ、技術者としてG計画に携わる彼は、自らの子供のように手塩にかけて育ててきた機体がZ.A.F.Tの手により奪われ、自らはそれを指をくわえて見ている事しかできない。

 そんな悔しさに、彼は唇を噛み締めていた。

 

「仕方ない、X105とX303を今すぐ起動させて!」

 

「え!? 大尉!?」

 

 と、そんなハマナの後ろから、女性の声で指示が飛ぶ。

 同じく作業着を着た妙齢の女性、マリュー・ラミアス大尉の声を張り上げて飛び出した指示に、ハマナのみならず他の技術者たちも驚いた様子を見せる。

 

「早く! トレーラーで運び出せないなら、起動させて直接運ぶまでよ、急いで!!」

 

「は、はい!!」

 

 だが、マリューの簡素な説明に納得すると、急いで残りの二機の機動準備に取り掛かる。

 ハマナを始め、その場にいた誰もが、一つの思いに突き動かされていた、残された二機だけは、何としてでも守り抜く。

 

 しかし、そんな彼らの思いを嘲笑うかのように、施設内に銃声が木霊し始めた。

 

 

 

 

 

「くそ、抵抗が激しいな!」

 

 コンテナの陰に隠れながら、ラスティは手にしたアサルトライフルのトリガーを引き、物陰に隠れて抵抗を続ける大西洋連邦の兵士や技術者達目掛けて銃弾を浴びせていた。

 

「もう少しだって言うのによ」

 

 他の潜入隊員の援護のもと、先行したラスティとアスランは、残りの二機の目と鼻の先にまで近づいていた。

 しかし、ターゲットを目の前にして、激しい抵抗を前に、コンテナの陰に釘付けにされていた。

 

「ラスティ、援護してくれ、俺が何とか突破してみる」

 

「待てアスラン。今迂闊に飛び出すと危険だぞ」

 

「しかしこのままでは」

 

 と、その時、相手の様子を窺っていたラスティが、何かに気が付いた。

 それは、大西洋連邦の軍服でも作業服でもない、明らかに民間人と思しき人影が、作業服姿の女性に近づいていく光景であった。

 

(あれはまさか、キラ・ヤマト!?)

 

 その民間人をラスティは知っていた。

 原作において、この突然の襲撃に巻き込まれ、形式番号GAT-X105、その名を"ストライク"のパイロットとしてZ.A.F.Tとの戦いに身を置く事となる、原作の主人公。

 その名を、キラ・ヤマト。

 

(くそ、オーブ連合首長国は存在しないから、もしかしたらいないんじゃないかと思ってたが、まさかいるとはな)

 

 原作と異なるこの世界では、キラ・ヤマトは存在しない、或いはヘリオポリスにはいないのではと考えていたラスティであったが。

 どうやら、この太陽の都とキラ・ヤマトの繋がりは、そう簡単に断ち切れるものではなかったようだ。

 

(いや、これはチャンスじゃないか。ここでキラ・ヤマトを殺せば、この先の運命は大きく変わる!)

 

 しかし、ラスティはこれをチャンスと捉えると。

 早速、自らの運命を、そして世界の未来を変えるべく、行動を起こす。

 

「アスラン! 援護してくれ!」

 

「ラスティ!?」

 

「うぉぉぉっ!!!」

 

 雄叫びと共にアサルトライフルを発砲しながら、キラのいるストライクへと走るラスティ。

 そんなラスティを援護する様に、アスランが援護射撃を行う。

 

 そして、ジェットパックを使い、横たわるストライクの脚の上に飛び乗ると、コクピット付近にいたキラとマリューのもとに近づく。

 

 当然、自動拳銃を所持していたマリューは、近づいてくるラスティに応戦する様に自動拳銃の銃口を向け発砲するも、ラスティはその銃弾を何とか躱し。

 逆に、ラスティの放った弾丸が、自動拳銃を持っていたマリューの腕に命中し、堪らず彼女は自動拳銃を手放した。

 

(やった! これで、これで俺は己の運命から解き放たれる!!)

 

 自らの死の運命を克服し、新たなる生の道を手に入れたと確信するラスティ。

 そして、安堵した、その一瞬の事であった。

 

「ラスティ!!」

 

「……え?」

 

 突如鳴り響く銃声、そして、ラスティの胸元に感じる強烈な衝撃。

 それが、撃たれたものだと理解した時には、ラスティは撃たれた衝撃で、ストライクの上から固いコンクリートの床へと力なく落下していた。

 

(何だよ、結局、変えられないのかよ……)

 

 固いコンクリートの床へと叩きつけられたラスティが、意識を手放す前に目にしたのは、炎と硝煙の中ゆっくりと起き上がるストライクの姿であった。




ご愛読いただき、そしてご意見・ご感想、本当にありがとうございます。
そして、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。
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