機動戦士ガンダムSEED 連合vsZ.E.O.N. DX 作:ダルマ
L1宙域に存在するスペースコロニー"世界樹"、それは、再構築戦争終了後、人類が戦争からの復興と相互協力のシンボルとして建設されたコロニーである。
しかし、そんな世界樹も、地球連合とZ.E.O.N.による戦争が始まってからは、地球連合軍の月への橋頭保となる事実から、Z.E.O.N.側にとっては攻略対象とされていた。
そして、血のバレンタインから一週間後のC.E.七十年二月二十二日。
Z.E.O.N.は、世界樹への侵攻を開始。
これに呼応して、地球連合も防衛の為に世界樹へと戦力を展開させた。
この時、地球連合側が展開させた戦力は、大西洋連邦と東アジア共和国の二カ国が血のバレンタインに未参加の二個艦隊ずつ計四個艦隊。
A.O.C.U.とA.E.C.の二カ国も二個艦隊ずつ、計四個艦隊。
合計、八個艦隊にも及ぶ空前絶後の大戦力であった。
地球連合側がこれ程の大戦力を投入したのは、それまでの戦闘でZ.E.O.N.のMSの威力を身をもって知ったからであった。
対するZ.E.O.N.側も、世界樹への侵攻を地球連合との一大決戦と捉えており。
動員可能な全戦力をもって、世界樹へと侵攻していた。
こうしてこの日、緒戦の一大決戦となった世界樹攻防戦が幕を開けたが。
その戦況は、やはりZ.E.O.N.優勢で推移していた。
その理由は言わずもがな、新型を含めたZ.E.O.N.のMSの存在。
そして、もう一つ、同攻防戦でZ.E.O.N.が初めて投入した新兵器、ニュートロンジャマー、通称Nジャマーの存在であった。
Nジャマーはその名の通り、核分裂を抑制する能力がある他、副作用として、レーダー撹乱や長距離通信などの通信障害を引き起こし。
この為、事前の対策を行っていたZ.E.O.N.側と異なり、長距離精密誘導兵器の使用不可能や友軍同士の連携が十分に取れないなど、地球連合側はNジャマー影響下での戦闘に混乱する事となった。
「突出した東アジア共和国の第二艦隊はどうした!?」
「それが、先ほどからの原因不明の通信障害により連絡が取れず、依然、詳細は分からずじまいで……」
「ならば偵察隊を出して一刻も早く状況を知らせろ!」
「は、了解!」
戦闘が開始され既に一時間以上が経過した頃。
大西洋連邦宇宙軍第一艦隊の旗艦にして、今回の地球連合軍連合艦隊の旗艦も務める事になったアガメムノン級宇宙母艦"アナンケ"の艦橋内は、怒号飛び交う現場となっていた。
戦闘開始直後、先鋒であるMA部隊とMS部隊との戦闘の最中、Nジャマーによる長距離精密誘導兵器を封じられ、混乱が巻き起こった地球連合軍連合艦隊ではあったが。
連合艦隊指揮官を務めるヨハン・I・レビル将軍の冷静な指示により、ミサイル攻撃を諦め、砲撃戦による攻撃を全面的に開始。
ミサイル攻撃を行えずとも、Z.E.O.N.に対して圧倒的な火力を見せた連合艦隊、その火力を前に、Z.E.O.N.は展開していたMS部隊共々、敗走していった。
だが、レビル将軍は違和感を感じていた、Z.E.O.N.のこの敗走の不自然さに。
そこで、他の艦隊に深追いせぬように通達を出したのだが、これまでの敗戦の名誉挽回に燃える東アジア共和国の第二艦隊が追撃すべく突出。
Nジャマーの影響も相まって、第二艦隊の状況は正確に把握できずにいた。
「将軍、第二艦隊が抜けた穴を埋めませんと、万が一またZ.E.O.N.が攻撃を仕掛け、抜けた穴から突破されれば甚大な被害が……」
「うむ。そうだな」
「では直ちに、他の艦隊に連絡を行います。後方に展開している艦隊においては、高速連絡艇を直ちに発進させ、一刻も早い伝達に努めます」
「この状況では、致し方あるまい」
艦橋内で声を張り上げている幕僚たちの中、司令官席に腰を下ろしたレビル将軍は、参謀長からの言葉に静かに言葉を返した。
そして、静かに目頭を押さえ始める。
「将軍、お疲れが?」
「いや、なんだ。さっきから少し疲れのような、痛みのような……。なにかこう、言い表せぬものがな」
「直ちに医療班をお呼びになりますか?」
参謀長からの問いにレビル将軍が答えようとした、その時であった。
艦橋でオペレーターを務める乗員から、悲鳴にも似た声での報告が響く。
「し、
「何だと!? 緊急回避!!」
アナンケ艦長の怒鳴り声にも似た指示が出された直後。
三〇〇メートルもの巨体を揺るがす衝撃が、アナンケを襲う。
そして、衝撃で艦橋天井の一部が外れ艦橋内へと飛散する。
「被害状況報告!!」
「左舷、第四ブロック、第七ブロック、及び左舷エンジン付近に被弾! 推力、三〇パーセントダウン!」
「左舷カタパルト、使用不能!」
「第二砲塔大破!」
「左舷第四ブロックで火災発生!」
「ダメコン急げよ!」
先ほどまでとは異なる、艦橋要員達の声が鳴り響く艦橋内。
一際声を張り指示を出すアナンケ艦長のすぐ傍で、司令官席に腰を下ろしたレビル将軍は、面を食らったかのような表情で艦橋内の様子を眺めている。
「あ……」
しかし、やがて何かに気付いたかのように指を差す。
レビル将軍が指を差した先、そこにあったのは、艦橋正面に設けられた隅に多少のひびが入った巨大スクリーン。
外部映像が映し出されていたそのスクリーンには、第一艦隊の左舷から迫りくる、多数のZ.E.O.N.戦闘艦の姿が、はっきりと映し出されていた。
そして刹那、それらZ.E.O.N.戦闘艦から幾多もの光りが放たれ、そして、アナンケの周囲に幾つもの閃光が生まれる。
「せ、戦艦オレゴン撃沈!!」
「護衛艦マクドナー、航行不能!」
「戦艦サンダラー、艦橋破壊により戦闘継続不能!」
環境に次々と舞い込んでくる第一艦隊の被害報告。
そんな被害をもたらした犯人達、Z.E.O.N.戦闘艦は、主砲を放ちながら悠然とアナンケを鼻先を横切り、左側面から第一艦隊を分断するかの如く進んでいく。
「やられたな、盛大に。思い切り噛まれてしまったよ」
巨大スクリーンに映し出された外部映像を目にしたレビル将軍は、東洋に伝わる古いことわざを思い出しながら、言葉を呟いた。
「
「やれやれ、トドメはご自慢の機動兵器か……」
「
「閣下、万が一の事もあります。脱出シャトルの方に移動を」
「うむ」
アナンケ艦長の怒号が飛び交う中、レビル将軍は幕僚たちと共に艦橋を後にし、一路、脱出用のシャトルに搭乗すべく格納庫へと向かう。
その最中、レビル将軍は、Z.E.O.N.恐るべし、と感じずにはいられなかった。
第一艦隊左側面から、同艦隊を分断するように突き進んだZ.E.O.N.艦隊。
その後詰めとして、Z.E.O.N.自慢のMS部隊が、混乱の只中にある同艦隊に襲い掛かった頃。
損傷したアナンケの艦内では、直掩の為、艦載機隊のスクランブルが行われていた。
しかし、片方のリニアカタパルトが損傷の為使用不能になった為、スクランブルは思うように進んでいなかった。
「しかし、Z.E.O.N.の奴らも、面白い事してくれるじゃねぇか」
格納庫の一角、自らの発進の順番を待つパイロット達が、自らの乗機の前で屯し、話を繰り広げていた。
その中の一人に、金髪リーゼントに頬がこけ、野獣の如く鋭い目つきを一人の男性パイロットがいた。
「面白いって、何がだよ、ヤザン?」
「決まってるだろ、新兵器の投入よ。あのMSとか言う人型機動兵器の新型の他に、連合お得意のスタンドオフ攻撃を封じる新兵器の投入だぜ。つまり、裏を返せばZ.E.O.N.の連中にとって、今回の戦いは大一番って事だ。即ち、死ぬ物狂いでくるって事さ」
同じ中隊に属する同僚からの問いかけに、金髪リーゼントの男性パイロット。
ヤザン・ゲーブルは嬉しそうな声で答えた。
「それの何処が面白いんだよ。それって、俺達が楽できねぇって事だろ?」
「だからいいんだよ! 戦いは、相手が如何に本気でくるかで面白みが変わるんだ。だから戦いを楽しむには、相手が本気で殺しにかかってきてくれなくっちゃな!」
「ったく、相変わらずの戦闘狂だな」
同僚の呆れる視線を気にせず、ヤザンは嬉しそうに笑みを浮かべた。
ヤザンは、戦闘という行為自体を楽しむ人間である。
その為、今回のZ.E.O.N.の勢いを、個人的には歓迎していた。
「なぁ、アドル、お前も戦いが面白くなりそうで嬉しいだろ?」
「は、はぁ、そうですね、ヤザン隊長」
「何だ? アドル、お前? 緊張してるのか?」
自身が小隊長を務める小隊の隊員、即ち部下に話を振ったヤザンではあったが。
話を振られた青年、アドル・ゼノからの固い返事を聞き、ヤザンは彼が緊張している事を見抜く。
そして、徐にアドルの前に移動すると、次の瞬間、ヤザンはアドルの急所に手をやった。
「やっぱり緊張してやがったな。こっちの方も緊張で縮こまってるぞ」
「や! ヤザン隊長!? なな、何を!!?」
ヤザンの予期せぬ行動に、アドルは目を見開き口をあんぐりとさせる。
そんなアドルの様子を気にする事なく、ヤザンは彼のパイロットスーツの上から彼の状態を確かめると、やがてその手を彼の肩に当てた。
「そういえばアドルは初陣だったな。緊張するのも分かるが、あまり気を張り過ぎると見えるものも見えなくなるぞ」
「は、はぁ……」
「おいお前ら! 何時までそんな所で喋ってやがる! さっさと乗り込んで発進しろ!」
と、中隊長からの叱咤に、ヤザン達が小脇に抱えていたヘルメットを被り、各々の乗機であるMA メビウスに搭乗していく。
そんな中、アドルは未だ気持ちの整理が出来ずにいた。
「おい、アドル伍長!」
「……は、はい!」
「勘違いするなよ、ヤザンの奴はそっちの気がある訳じゃない。あれは、アイツなりの優しさってやつだ。分かったか?」
「は、はぁ……」
搭乗直後、ヤザンの同期である別の小隊長がアドルに近づくと、先ほどのヤザンの行動の補足を説明するのであった。
そんな同期のお節介を、メビウスのコクピットモニターから眺めていたヤザンは、コクピット内で余計な事をするなと小さく呟くのであった。
それから数分後、ヤザン率いる小隊は、アナンケ艦内から指定された防衛エリアへと飛び出していた。
モニターからは、漆黒の大空が広がっているが、至る所で、幾つもの光が光っては消えている。
それらは星ではない、大半は友軍の命の輝きである。
「アルジム! アドル! 準備はいいか!?」
「大丈夫ですよ、ヤザン隊長」
「だだ、大丈夫です!」
「おいアドル、まだ緊張しているのか!? ちっとは肩の力を抜け! 初陣で張り切ろうとするのは分かるが、初陣こそ、そこそこでいいんだよ。いいか、初陣だからって無理に花を添えようなんて思うな、先ずは、生き残る事だけを考えろ! 生き残れば、その後いくらだってチャンスは巡ってくるもんだからな!」
音声通信越しに緊張が伝わっていたアドルではあったが、ヤザンの言葉で少しは緊張が解けたのか。
アドルからの返事は、少し平常心を取り戻しつつあることが感じられた。
「ドルフィン・セブンからクーガー・スリーへ。レッド、ブラボーより敵機動兵器接近、迎撃せよ」
「こちらクーガー・スリー、了解」
直後、指揮管制を行う母艦のアナンケからヤザンの小隊に迎撃指示が出される。
「聞こえたな、アルジム! アドル! お楽しみの始まりだ!!」
刹那、ヤザン小隊のメビウス各機のメインスラスターが目一杯火を噴き、接近する敵MSの方向へと向かう。
母艦からの戦術データリンクによる情報共有では、これから迎撃する敵MSは一機のみの筈だが。
Nジャマーによるレーダー性能の低下により、捕捉できずに見落としている可能性が高い為、油断は禁物である。
「にしても、自分の目が頼りか。まさか、宇宙でドッグファイトなんぞする事になるとはな!」
従来ならば、母艦との戦術データリンクにより、捕捉できれば後は操縦桿のトリガーを押せば、あとは搭載しているミサイルが勝手に相手を撃破できた筈だ。
所が、Nジャマーの影響により、そのような従来の有視界外戦闘に必要なレーダーの信頼性が低下し、尚且つ精密誘導も命中精度が極端に下がるなど。
戦闘距離は大幅に後退し、有視界戦闘の様相を呈していた。
「見つけたぞ、クーガー・スリー、エンゲージ!!」
そんな有視界戦闘において最も有効な兵器としてZ.E.O.N.が世に送り出したMS。
その内の一機を、ヤザンはコクピットモニター越しに捉えた。
「先ずはご挨拶といくか! アルジム! アドル! リニアガンをお見舞いするぞ!」
「は!」
「了解です!」
三角形のデルタ隊形を維持し、捉えた巨人たるMSに向かって、機体中央に装備された対装甲リニアガンを放つヤザン小隊。
しかし、漆黒の大空に映える緑色の巨人は、右肩のシールドで命中弾を防ぐと、残りを巧妙な動きで躱す。
「っち! 軽々躱してくれるじゃねぇか! っと!?」
機体性能もさることながら、パイロットの操縦技術の高さに感心したのも束の間。
お返しとばかりに、敵MSの手に持った火器が火を噴き、ヤザン達のメビウスを襲う。
「アルジム! アドル! 大丈夫か!?」
「大丈夫です、ヤザン隊長!」
「じ、自分も生きてます!」
「よぉし、もう一度仕掛けるぞ!」
攻撃回避で崩れた隊形を整えながら、ヤザンの小隊は旋回し、先ほどすれ違った敵MSと再び対峙する。
「ガンが駄目なら、こいつはどうだ!?」
ヤザンのメビウスから放たれる、二発の有線誘導式対艦ミサイル。
しかし、敵MSは一発を手持ちの火器で撃ち落とすと、残る一発を軽々とスラスターを駆使して躱してみせる。
「アルジム! アドル! 今だ!」
だが、ヤザンもこの二発で片が付くとは考えていなかった様だ。
後方の二人の乗機から、それぞれ二発ずつ、計四発の有線誘導式対艦ミサイルが放たれ敵MSへと襲い掛かる。
流石に四発もの有線誘導式対艦ミサイルを迎撃し躱す事は出来ず、一発が右脚部分に命中する。
「これでトドメだ!」
こうして動きを止めた敵MSにトドメを刺すべく、再び旋回したヤザンのメビウスから再び対装甲リニアガンが放たれる。
刹那、敵MSから着弾の火花が飛び散る。だが、火花はその一度だけではなかった。
遅れて残りのメビウス二機から放たれた対装甲リニアガンの弾が命中し、火花を散らす。
そして次の瞬間、機体内部から膨張するかの如く、敵MSが爆発の中へと姿を消した。
「や、やった! やりましたよ! ヤザン隊長!!」
「浮かれるなアドル! まだここは戦場のど真ん中だぞ!!」
共同とは言え、初めて敵を撃破した喜びを隠しきれないアドルに、ヤザンはすかさず喝を入れ、気を引き締めさせる。
「こちら──、ィン・セブン。クーガー──へ、新たな敵──接近中、警戒せよ!」
刹那、母艦のアナンケから警告が届くが、戦闘中にアナンケから距離が離れてしまったためか、Nジャマーの影響も相まって、通信は所々ノイズ交じりで聞き取りずらい。
「アルジム! アドル! 聞いたな、新手だ。気を引き締めろ!」
「大丈夫ですよ、ヤザン隊長! 今の自分達なら、新手の一機や二機程度、幾らでも墜とせます!」
「アドル! あまり浮かれすぎるな!」
先ほど喝を入れ気を引き締めさせたはずが、まだ引き締まりきっていないアドルの様子に不安を覚えるヤザン。
だが、そんなヤザン達の状況を敵は汲み取ってくれるはずもなく。
乗機の搭載レーダーが、接近する三つの機影を捉えた。
「っち! アルジム! アドル! 新手だ! 迎撃するぞ!」
「了解!」
「了解です!!」
メインスラスターが火を噴き、乗機が加速していく。
しかし、その隊形は、綺麗な三角形を形成できてはいなかった。
「おいアドル! 突出し過ぎだ! 隊形を崩すな!」
突出したアドルのメビウスを追いかける形となったヤザン小隊。
だが、隊形を整える間もなく、新手の敵MSから火線が伸び、否応なく戦闘が始まる。
「っち! よりにもよって、嫌な色しやがって!」
コクピットモニターに映し出された新手の敵MSを目にしたヤザンは、その機体色を目にし、嫌悪感を露わにする。
宇宙に溶け込むかの如く、黒を基調とした新手の敵MS。
嫌悪感を現した理由は、標準色とは異なるその塗装、それに先ほど撃破したMSとは細部が異なっている事から、ヤザンが、相手が新型機を優先的に回され専用の塗装を施す事の許されたエースである事に気付いた他。
単に、ヤザンが黒という色合いを嫌いだからであった。
「アドル! 今すぐ隊形を整えろ!」
「これでもくらえ!!」
相手がエースと分かった以上、同数であっても自分達の方が分が悪い。
故に、ヤザンは、勝算を高めるべく小隊での連携を行おうと、アドルに指示を飛ばすものの。
先ほどの共同撃破で気を良くし、自身に満ち溢れたアドルには、ヤザンの言葉が耳に届いていなかった。
「そんな攻撃が当たるものか!」
アドルのメビウスから放たれる対装甲リニアガン。
しかし、狙われた三機の内の一機は、軽々とそれを避けると、お返しとばかりに、機体の身の丈程もある巨大な斧を構え、アドルのメビウスに近づく。
「う、うわぁぁっ!!?」
「アドル!?」
アドルを援護すべく、ヤザンのメビウスから対装甲リニアガンが放たれるが、放たれた弾丸は空しく漆黒の彼方へと消えていく。
「MA如きが! 俺達を倒せると思うなよ!!」
「た、たいちょーーっ!!」
アドルの叫びの直後、すれ違いざまに振るわれた巨大な斧が、アドルのメビウスを真っ二つに切り裂く。
刹那、真っ二つに切り裂かれたメビウスは、爆破と共に、周囲を漂うデブリの一部と化すのであった。
「や、ヤザン隊長! アドルが!」
「っち! アルジム! こうなったら逃げるぞ! 今の俺達じゃ、あいつらには敵わん!」
少しでも逃走時の時間を稼ごうと、迫る三機に向かって手持ちの武装を放つも、黒い三機の敵MSはそれらを軽々と躱しながら距離を詰めてくる。
「オルテガ! マッシュ!! MA相手の"お遊び"はここまでだ! とっとと片付けて、本命を墜としにいくぞ!」
「了解だ」
「へっ! 分かったよ!」
心理的揺さぶりの為か、それとも単なるミスか。
オープン回線により、黒い三機の敵MSのパイロット達の会話が聞こえるや、ヤザンは自身の奥歯を噛まずにはいられなかった。
それは、乗機が旋回して加速度が体に襲い掛かっているからではなく。
MSとMAとの間に存在する、圧倒的な性能差。さらにはそれを少しでも埋める為に必要な自身の腕前が、まだ未熟だという事をまざまざと思い知らされたからに他ならない。
「ほらよ、とっとと墜ちな!」
「っ!?」
コクピット内に響き渡る警告音、咄嗟に操縦桿を操作し、回避を試みるも、コクピット内を衝撃が襲う。
隊長格と思しき敵MSの持つバズーカから放たれた弾頭がヤザンのメビウスを襲うも、寸での所で直撃は避けられた。
しかし、右のメインスラスターユニットを破壊されたらしく、コクピット内には相変わらず警告音が鳴り響いている。
「ヤザン隊長!」
「それじゃ、こいつでトドメを刺させてもらうぜ」
三機の内の一機、身の丈以上もの長さを誇るライフル状の火器を有したMSが、姿勢を制御しつつ、巨大なライフルを構えると、その銃口を損傷したヤザンのメビウスに向ける。
自身のメビウスが狙われているとヤザンは分かってはいても、片方のスラスターユニットが破壊された状態では、満足に回避行動をとるのも難しい。
「墜ちな!」
次の瞬間、放たれた弾丸は、ヤザンのメビウス目掛けて吸い込まれるように飛んでいく。
俺の人生もここまでか、ヤザンの脳裏に、諦めの言葉と共に、これまでの人生が走馬灯のように流れていく。
「ぬぉぉぉっ!」
だが、次の瞬間、ヤザンを襲ったのは乗機ごと宇宙に散る感覚ではなかった。
体を大きく揺さぶる激しい衝撃、そのあまりの衝撃に、ヘルメットを被っていたとは言え、ヤザンは頭を打ち付け気を失ってしまう。
「っち、あのMA、自分を犠牲にして味方を助けやがった」
「ガイア、生き残った方、真っ二つにしてやろうか?」
「いや、もういい。MA相手にこれ以上無駄なバッテリーの消耗は避けたい。それに、これ以上時間をかけると他の奴に手柄を全部持っていかれるからな」
この時、ヤザンは知る由もなかった。
ヤザンのメビウスに体当たりしたアルジムのメビウスが、結果としてヤザンの命を助けた事を。
それから、どれ程時間が経過しただろうか。
目を覚ましたヤザンは、まず自身がまだ生きている事を不思議がる。
だが、そんな疑問も直ぐに隅に置くと、ヤザンは状況の確認を行い始める。
「アルジム! おいアルジム! 聞こえるか!? くそっ! ……こちらクーガー・スリー、ドルフィン・セブン! おい、誰か応答しろ!」
無線の周波数を切り替えてみるも、誰からも応答はなく、空しいノイズ音が鳴り響くだけ。
ヤザンは遂に苛立ち、コンソールを叩くも、結局、更に空しさが増すばかりであった。
「敵機動兵器によるアナンケの撃沈を確認、しかし──」
「──ちらネレイド、只今より、臨時の指揮を──」
それから諦めず周波数を合わせていると、やがて、ノイズ交じりながら友軍の通信を捉える。
だがそれは、ヤザンにとって、聞いていて心地の良いものではなかった。
その後、ヤザンは敗走する友軍に拾われ、九死に一生を得るのだが。
同時に、彼は部下二人を失う事となった今回の敗北を糧に、Z.E.O.N.に対する復讐の炎を燃やすのであった。
ご愛読いただき、本当にありがとうございます。
そして、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。