機動戦士ガンダムSEED 連合vsZ.E.O.N. DX   作:ダルマ

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第七話 紅海の鯱と悪魔の子供達

 Z.E.O.N.によるオペレーション・ウロボロスは順調に推移していった。

 第一次降下作戦において橋頭保の確保と共に、アフリカ大陸におけるマスドライバー施設の一つ、南アフリカ統一機構の領内に存在する、旧ビクトリア湖跡に建造されたハビリスをその手中に収めたZ.E.O.N.は。

 南アフリカ統一機構の残る諸地域を制圧すると共に、アフリカ大陸に残るもう一つのマスドライバー施設。

 旧チャド湖跡に建造された、アフリカ共同体が自国領内にA.E.C.と共同開発したマスドライバー施設、ジュリアを手中に収めるべく行動を開始した。

 

 増援となる第三次降下作戦により更なる戦力を得たZ.E.O.N.軍は、ジュリアへ侵攻すると同時に、ヨーロッパや中東への橋頭保を確保すべく北上。

 また、この侵攻を確実なものとすべく、汎ムスリム会議内への一部勢力に極秘裏に支援を開始し。

 汎ムスリム会議国内における紛争を再燃させる事により、東アジア共和国とA.E.C.の動きを鈍らせる為の工作も同時に実行。

 

 これにより、東アジア共和国とA.E.C.は、アフリカのZ.E.O.N.に対する行動の前に、汎ムスリム会議内の紛争解決と難民対策に注力せざるを得ず、行動に制約がかかってしまう事となった。

 

 

 C.E.七十年四月十六日。

 北上したZ.E.O.N.軍の部隊、オペレーション・ウロボロス発動に合わせて発表されたZ.A.F.Tの空戦用MS、ディンや。

 国軍及びZ.A.F.Tの水陸両用MS、水中用ザクやジンフェムウスと言ったMSを主軸とする部隊が、紅海において同海域を守護するアフリカ共同体及びA.E.C.の海軍艦隊との間で戦闘が発生。

 所謂、紅海海戦が勃発した。

 

「機長、ここはもう一刻も早く撤退すべきでは!?」

 

「駄目よ! あの機体を、母艦や隊長達を殺したあの機体を見つけるまでは、まだ撤退できないわ!」

 

 平時であれば美しい海である紅海。

 しかし今では、そんな美しい紅海の水面、その至る所から濛々と黒煙が立ち上っている。

 黒煙の発生源付近には、鉄製や木製など、様々な部品や船体の一部らしきものが散乱している。

 

 これらの正体は、海戦勃発以前には、悠然とその勇ましい姿を示していた艦隊、それを構成する駆逐艦の、現在の無残な姿であった。

 

 そんな眼下に広がる惨状を眺める様に、上空を飛ぶ一機の対潜ヘリコプターの機内では。

 コ・パイロット(副操縦士)が隣の機長に撤退を具申していた。

 

「ですが、動いている友軍艦はもう殆ど確認できません! 敵が本機に気付く前に、いち早くこの空域から撤退すべきでは!?」

 

「駄目よ! アイツを見つけるまでは、梃子でも撤退しないわ!」

 

 しかしながら、機長は頑なにコ・パイロット(副操縦士)の意見に耳を傾けようとはしなかった。

 

 操縦桿を握りながら、コンソールの液晶画面に鋭い視線を向け続ける機長。

 ヘルメットのバイザー越しにも分かるほどの、美しい顔立ちをした女性機長。

 大西洋連邦海軍所属のジェーン・ヒューストン少尉は、今や怒りと復讐心に燃えていた。

 

 元々、彼女が機長を務める対潜ヘリを含む航空隊を搭載した大西洋連邦海軍所属のヘリ空母"カボット"は、護衛の駆逐艦と共にアフリカ共同体及びA.E.C.の海軍艦隊と共闘して海戦に参加していた。

 所が、従来の対潜戦(ASW)では対応しきれない水陸両用MSを前に、ヘリ空母カボットを含む海戦参加艦艇の多くが文字通り海の藻屑と化し。

 出撃した対潜ヘリやA.E.C.空母搭載のスピアヘッドも、水陸両用MSやディンの攻撃により、次々に炎と共にきりもみして地に墜ちていった。

 

 そんな地獄の様な戦場の中で運よく生き残ったジェーンの対潜ヘリだが。

 ジェーン自身は、母艦であるヘリ空母カボット、及び航空隊の仲間たちをこの紅海の底に葬った下手人、一騎当千の如く働きを見せている一機のジンフェムウスの探索に必死であった。

 

「いい、アイツを見つけて搭載しているミサイルで海の藻屑にしないと、犠牲になった隊長や仲間たちが浮かばれないの!」

 

「機長……」

 

「だから、可能な限り粘って、アイツを見つけ出す!」

 

「……了解しました! やってやりましょう!」

 

「ありがとう」

 

 仲間の仇を討とうとするジェーンの熱意に根負けしたのか、コ・パイロット(副操縦士)も、ジンフェムウスの探索に賛同する。

 こうしてジンフェムウスの探索を続けるジェーンの対潜ヘリ。

 程なく、その瞬間が訪れる。

 

「見つけた! 間違いない、アイツよ!」

 

 進行上、艦尾付近から濛々と黒煙を上げる、喫水線を大きく上回り今にも沈みそうな一隻の駆逐艦、その前甲板上に一機のMSが佇んでいた。

 それはジンをベースとしつつも、ベース機と異なり水中の抵抗を抑えるべく流線形の外見が特徴的な機体、紛れもなくジンフェムウスであった。

 その姿を確認したジェーンは、今回の海戦に参加したジンフェムウスが、確認できる限り片手で数える程度であった事を考慮して、その機体こそ探し求めたジンフェムウスであると判断する。

 

「仲間の仇!」

 

 刹那、ジェーンは操縦桿を倒すと、対潜ヘリの機首をジンフェムウス目掛けて向ける。

 地球上へのNジャマー投下に伴い、地球上でも誘導兵器の性能に影響が及び、本来ならば有効射程である筈が、それ以上にターゲットに接近しなければ命中を望めない現状が生まれており。

 加えて、対潜ヘリの弾架に携行しているミサイルは対MS用のものではなく、対艦・対戦車用のミサイルである為、MSにどれ程効果を発揮するかは未知数であった。

 

 それでも、ジェーンは死角から至近距離に近づき、その無防備な巨体にミサイルをお見舞いすれば、海の藻屑となる事は間違いないと確信していた。

 

「む?」

 

 だが、そんなジェーンの気迫を察してか、背を向けていたジンフェムウスが、不意にジェーンの対潜ヘリにその悪魔のモノアイを向けた。

 

「これで!!」

 

 しかし、時を同じくして、ロックオンと共にジェーンは操縦桿の発射スイッチを力強く押した。

 刹那、弾架に携行された対艦・対戦車用ミサイルが、鋭い音と主にジンフェムウス目掛けて放たれた。

 

「ふん! そんなヘリごときで……」

 

 だが、ジンフェムウスのパイロットは乗機に向かってくる対艦・対戦車用ミサイルを躱すべく、前甲板上を力強く蹴り跳躍すると。

 空中で迫る対艦・対戦車用ミサイルを躱し、ターゲットを見失い沈みかけていた駆逐艦の艦橋を対艦・対戦車用ミサイルが吹き飛ばすのを背に、ジェーンの対潜ヘリ目掛けて突撃する。

 

「この私に勝てると思ってか!?」

 

「!?」

 

 そして、急ぎ方向転換するジェーンの対潜ヘリ目掛け、その右腕を振り上げたジンフェムウスは。

 次の瞬間、振り上げた右腕を勢いよく振り下ろした。

 

 全高二〇メートル近くを誇る鋼鉄の巨人の一振りは、対潜ヘリのテールブームを容易に切り裂き。

 機体バランスを失った対潜ヘリは、ジェーンの必死の操縦も空しく、きりもみしながら、程なくして紅海に水柱をあげ没するのであった。

 

 一方、ジェーンの対潜ヘリを鋼鉄の一振りで撃墜せしめたジンフェムウスは。

 程なく紅海に着水し、やがて、その鋼鉄の巨体を紅海の中へと潜ませた。

 

 後に、水面を漂っている所を奇跡的に友軍に救助され一命を取りとめたジェーンは。

 あの時仲間の仇としたジンフェムウスのパイロットが、紅海海戦でヘリ空母カボットを含む多数の連合艦艇を葬った事で"紅海の鯱"の異名を持つに至ったZ.A.F.Tのパイロット。

 マルコ・モラシムであると知り、彼に対する復讐を誓い、それを果たすべく、大西洋連邦における水陸両用MSの開発に志願する事となる。

 

 

 このように、紅海海戦はZ.E.O.N.軍の勝利となり、同海の制海権はZ.E.O.N.の手に落ちる事となった。

 

 

 

 

 紅海海戦より四日後のC.E.七十年四月二十日。

 遂にZ.E.O.N.軍は、マスドライバー施設、ジュリア占領を開始。

 防衛に当たったアフリカ共同体及びA.E.C.部隊との間で激しい戦闘を繰り広げる事となる。

 

「何だ? 61式戦車で俺達に敵うと思ってるのか!?」

 

 ジュリアの一角。

 徐々に占領領域を広げるZ.E.O.N.軍部隊の中にあって、比較的中枢近くまで食い込む部隊の姿があった。

 悪魔学における悪魔の一人、ソロモン72柱の悪魔の一柱であるマルコシアス。

 同名の名を冠した、国軍の特別競合部隊、それがマルコシアス隊である。

 

 将来のエースパイロット候補生達により構成される同部隊は、部隊の理念を示すかの如く、アフリカ共同体及びA.E.C.部隊を蹴散らしながら、快進撃を続けていた。

 

「ギーの奴、相変わらず張り切ってるなー」

 

「あぁ、でも、俺達も負けていられない」

 

 アフリカ共同体の61式戦車、2型と呼ばれるA.O.C.U.の運用する5型や7型に比べ型の古い61式戦車を鉄屑に変えながら、マルコシアス隊は侵攻の歩みを進める。

 対MS戦闘の戦術が確立していない事もさることながら、施設内の建築物により射線を思うように確保できない61式戦車に対し、必要とあれば建築物を飛び越えられるMS。

 この両者の戦術の幅の違いによって、そこに各々の練度の差も加わり、戦闘は一方的な様相を呈していた。

 

「それにしても、マスドライバー施設だって言うのに、思ったよりも抵抗が少ないんだな。もっと敵がわんさかいると思ってたが」

 

 そんな戦闘を続ける中で、不意に、マルコシアス隊隊員の一人であるリベリオ・リンケ伍長が、ここまでの戦闘の感想を漏らす。

 

「確かに妙だな、この抵抗の少なさは」

 

 そんなリベリオの言葉に、マルコシアス隊の総隊長兼部隊の教導試験官、ダグ・シュナイド大尉が同意する。

 

「総隊長、敵の通信を傍受した所、どうやらNジャマー投下による国内の被災地への復旧や、混乱地域の鎮圧の為に、戦力の一部が出払っているようです」

 

「成程、それは好都合だな」

 

 すると、隊員の一人が敵の防衛戦力減少のからくりを説明し。

 それを聞いたシュナイド大尉は、口の端を吊り上げると、この機を逃すなと部下達に訓示を飛ばす。

 

「Nジャマーの被災地、か……」

 

 そんな中で、マルコシアス隊隊員の一人であるヴィンセント・グライスナー曹長は。

 コクピットの中で一人、やるせなさを吐き出すかのように、独り言ちるのであった。

 

「なーんだ。それだったら、俺達だけで危険を冒してこんなに突出しないで、他の部隊の連中を先にいかせてもよかったのに」

 

「情けない。いいかリベリオ、危険な任務は強者に与えられた名誉なんだ。分かるか?」

 

「セベロは、すごいな……」

 

 リベリオとマルコシアス隊隊員の一人であるセベロ・オズワルド曹長とのやり取りを聞いていたヴィンセントは。

 同じ隊員ながら、セベロのその精神力の強さに感服の言葉を漏らした。

 

「こ、こちらF小隊!? くそ、何だよあの戦車の化け物は!?」

 

 そんなマルコシアス隊の隊員達の表情を一気に引き締めさせる通信が、各々のコクピット内に響く。

 通信の主は、マルコシアス隊でも特に突出していたF小隊の隊長を務める、ギー・ヘルムート軍曹からであった。

 

 この通信を受けた他の面々は、急いで発信元のF小隊の救援に向かう。

 

 F小隊がいたのは、施設内でも中枢付近の、比較的開けた場所であった。

 その一角に建てられた格納庫の影に、F小隊のMSが身を潜めていた。

 

「ギー、大丈夫か?」

 

「総隊長、俺は何とか。ただ、機体の方は……」

 

「よろしい、ならば一時撤退せよ」

 

「り、了解。……くそ! あんなのに油断しなきゃ」

 

 何とか自立可能なザクIIFS型を引きずる様に、後方へと撤退していくギー。

 そんな彼の姿を見て、リベリオはちょっとした皮肉を零すが、それをシュナイド大尉に聞かれ、リベリオはシュナイド大尉から一喝されるのであった。

 

「っ! 砲撃!? 各機散開しろ! 動き続けるんだ!」

 

 だが、そんな一幕も、突如襲った砲撃を前に中断させられるのであった。

 

「おいおい! ギーの言ってた戦車の化け物って、ありゃ、A.O.C.U.の開発したガンタンクってやつじゃねぇか!? 何だよ、あれはアフリカにはいないんじゃなかったのか!?」

 

 建築物の影に隠れ砲撃から身を護るリベリオは、乗機のモノアイが捉えた、砲撃を行う下手人の化け物戦車、ガンタンクの姿を確認して吐き捨てる様に言った。

 確かにガンタンクは、A.O.C.U.と大西洋連邦のみが配備している為、リベリオの認識ではアフリカ共同体及びA.E.C.はガンタンクを保有していない筈であった。

 

 所が、Z.E.O.N.のアフリカ降下に伴う状況の変化から、A.E.C.は急遽ガンタンクの採用及び配備を決定。

 緊急に調達した数輌を、Nジャマー降下の対応の為防衛戦力の数を確保できないジュリアに緊急配備し、質による穴埋めを行っていたのだ。

 

「く、ここは今までの場所と違って見通しがいい、早く対処しなければ我々はいい的だぞ!」

 

 とはいえ、マルコシアス隊にとってはそんな事情は何の意味もなさず。

 予想外の敵にどのように対処するのか、それを考える事で必死であった。

 

「総隊長、俺がいきます! 許可を!」

 

 そんな中、声を挙げたのは、ヴィンセントであった。

 

「な!?」

 

「いいだろう、許可する!」

 

「お待ちください総隊長! あの戦車の化け物の対処は我々A小隊が……」

 

「セベロ、忘れたのか? マルコシアス隊は弱肉強食の部隊(特別競合部隊)、即ち、言った者・やった者勝ちだ。今回は諦めて、援護に徹するんだ」

 

「……、了解」

 

「ヴィンセント! 言ったからにはこれ以上の被害が出る前にかたをつけろよ!」

 

「はい! ……リベリオ、援護してくれ!」

 

「お、おう!」

 

 そして、ヴィンセントは自らのパーソナルカラーの青に塗装された陸戦高機動型ザクのコクピット内で気合を入れ直すと。

 フットペダルを踏み込み、バーニアを噴かせてガンタンクに向けて突撃を開始する。

 

「お、おい! ヴィンセント!?」

 

「大丈夫だリベリオ。戦車に手が映えた様な見た目だって、戦車よりも強力な武装を持っていても、あれは結局のところ"戦車"だ! MSの機動力があれば、左右に揺さぶって……」

 

 ガンタンクの大口径砲から放たれる砲撃を、有言実行の通り機体の機動力をもって軽々と掻い潜りながら、徐々にヴィンセント専用陸戦高機動型ザクはガンタンクと距離を詰める。

 

「叩ける!」

 

 そして最後は、四連装機関砲から放たれる弾丸を多少の被弾を覚悟で強引に懐に飛び込むと。

 装備したヒートホークを横一閃に振るい、高熱の刃先をガンタンクの横っ腹に叩きつける。

 

(ほぉ、短時間で敵を見極めるか。見事な洞察力だ)

 

 程なく、炎と黒煙の中に姿を消したガンタンクを他所に、シュナイド大尉から密かに感心されているとは露も思わぬヴィンセントは、残りの敵の排除に移行するのであった。

 

 

 こうして、マルコシアス隊等の活躍もあり。

 明け方より開始されたジュリア攻防戦は、夕刻には勝敗が決し。

 その結果、同施設はZ.E.O.N.の手に落ちる事となり。

 

 この瞬間、アフリカ大陸におけるマスドライバー施設は、全てZ.E.O.N.の手中に収まる事となった。

 

 

 

 なお、この数日後には、南アメリカ方面においてもカリブ海の制海権をかけたZ.E.O.N.と大西洋連邦との間で大規模な海戦が勃発するも。

 大西洋連邦の鼻先とも言うべきカリブ海の制海権を奪われる事が如何なる意味を持つのか。

 その意味を理解している大西洋連邦は十二分以上の海・空戦力を投入。

 Z.E.O.N.側も、紅海同様に海・空対応のMSを中心に投入するも、流石に数の差は如何ともしがたく。

 

 とはいえ大西洋連邦側も、戦力を投入したものの決め手には欠けた為。

 結局、この海戦は双方の痛み分けで終わる事となった。

 

 

 なお、この海戦に前後して。

 南アメリカ合衆国やアフリカ共同体の現政権側が関係の深いプラント理事国に亡命。

 これにより、それら地域の政権を掌握したクーデター政権は、新たに新政権を発足。

 Z.E.O.N.は、これら親Z.E.O.N.政権との間で休戦協定を締結し。

 

 抵抗を続ける南アフリカ統一機構の一部支配地域を残して、南アメリカおよびアフリカ大陸におけるZ.E.O.N.の支配地域は、二つの大陸のほぼ全域に及ぶ事となった。




ご愛読いただき、本当にありがとうございます。
そして、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。
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