風の聖痕 新たなる人生   作:ネコ

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第4話

 中等部になり、厳馬が煉に付きっきりになったことで、和麻の自由な時間が増えた。だからといって、和麻に遊んで過ごすという選択肢はない。学園では変わらずに自ら学び、家に戻ってからは自己訓練に没頭する。そんな生活を続けていた。

 

 聖凌学園は初等部から高等部まであり、余程の事がない限りは、そのまま上へと上がっていく。それは、寄付金の額で融通が利くほどのものだ。成績優秀か、それとも金銭か、どちらかがあれば大抵は通用する。

 そのような学園が外から見れば、どのように見えるのか。金持ちの御坊っちゃんや御嬢ちゃんが通うところに見えるだろう。実際にも、入学している半数以上の者が、金持ちの家の出だった。

 その為、犯罪などで狙われることも度々あった。基本的に学園の近くでの防犯体制は、寄付された金額が莫大なことから、それを惜しげもなく使っているため高い。

 しかし、離れるとどうか……。送迎されているうちはいいが、成長するにしたがい、友達もできて、一緒に町へ遊びに行きたくなるものである。そんな中、学園の制服を着たまま、町中の方に行けばどうなるか。しかも、夕暮れ時に。

「彼女たち!いま暇? 暇なら一緒に遊ばない?」

「お断りそうします。離して!」

「そう言うなって。絶対面白いからさ」

「だから、断るって言ってるでしょ!」

 女生徒二人は、最初男二人に絡まれていた。その人数は、時間が経つにつれて徐々に増えていき、今では六人にまでその数を増やしている。

 女生徒の一人は強気に断っては、もう一人の気弱そうな女生徒の手を取り、先に進もうとしていたが、抜いては先に回りこまれ、しつこく付き纏われていた。そして、時間が経つにつれて馴れ馴れしさが上がっていき、ついには腕まで捕まれ、合流してきた男たちに囲まれてしまったのである。

 周囲を通る人は見て見ぬ振りをしていく。触らぬ神に祟りなし。自分に余計な火の粉が掛からぬように、無視していた。

 ただ、無視して通りすぎる人の先に、その女生徒の見知った顔が何食わぬ顔で通って来るのが見えた。同じクラスであるにも関わらず、一切他者を寄せ付けようとしない相手。神凪和麻である。他の通行人とは違い、わざわざ離れて通ることはなく、堂々と女生徒たちの方へと向かってき来ている。

 女生徒はその行動から助けに来てくれたと、顔を綻ばせて手を上げたところで───和麻はその集団の横を通りすぎていった。

 和麻にとって、その女生徒を含めてのナンパ集団は、わざわざ避けて通る程のものでもなく、通行の邪魔程度の認識しかなかった。そのため家路につくのに、必要最低限の道を通っているに過ぎない。

 まさか、素通りされると思っていなかった女生徒は、思わず叫んでしまう。

「待ちなさい! 和麻!」

 特別親しくもない相手、しかも、全く交流のない相手から、苗字ならまだしも、名前をいきなり呼ばれたらどう思うか。和麻は一瞬立ち止まり、面倒臭そうに振り返った。

 振り返った先にいるナンパ集団と女生徒を見比べ、面識がないことを確認し、再び歩みを進めようとしたところで、無理矢理抜け出してきた女生徒に肩を掴まれる。

「待ちなさいって言ってるでしょ! 彼女のピンチなのよ!(ちょっと、同じクラスのよしみでしょ! 口裏を合わせてよ)」

 和麻は掴んできた手を払い除けながら、女生徒の小声で言ってきた言葉に呆れていると、それを聞いていた男たちが動き出した。

「おいおい、こんなかわいい彼女を黙って見過ごすようなやつとは縁を切れよ」

「そうそう。俺が新しい彼氏になってあげるからさあ」

「そんな子供より俺たちの方が良いって」

「彼氏君は帰っていいよ」

 男たちは再度囲み出す。今度は和麻ごと。学園の制服を着ているのと、夕暮れ時で分かりにくいが、和麻の肉体は鍛え抜かれている。ナンパ集団に比べると背は低いが、それでも標準以上はあった。しかし、そんな和麻を見て、男たちは、和麻が弱そうだと思ってしまったのだ。

 しかも、声も掛けずに通りすぎようとした相手。意気地の無い奴として、侮らない方がおかしかった。

 和麻としては、気にもしていなかったところへ、急に声を掛けられたので、振り向いただけだ。それ以上でも以下でもない。

 助けるつもりは毛頭ない。なかった。そう……なかったのだ。相手が勝手に誤解して攻撃を仕掛けてくるまでは。

 早く帰れと言ってる割りに、男たちはヘラヘラと笑いながら、囲むのをやめようとはしない。逆に閉じ込めて、女生徒の前で恥を晒させようとし、それが手を出すといった行動に繋がった。

 女生徒だけを標的にするのであれば、和麻も無視して行ってしまっただろう。しかし、それをせずに軽くではあるが、蹴りを和麻に対して放ってきたのだ。和麻がすんなりその蹴りを受けるはずもなく、蹴りを放ってきた男の軸足を逆に払う。そして転んだのを確認し、その隙間から抜け出ると同時に、倒れた男の腹へと、力を込めた足を踏み出す。

 転んだ男が悶絶しているところを、無視して帰ろうとしたところで、他の男たちが動揺しながらも動き出した。

「お前何してんだよ!!」

「ちょっと待てや!!」

 男たちは女生徒から、和麻へとその標的を変える。今度は和麻だけを囲む形に。

「邪魔」

 呟くように言われたひと言に、男たちは顔を怒りに染めて、問答無用とばかりに殴りかかる。その男たちの動きは、和麻から見れば遅すぎた。それに加えて、男たちの動きには連係など考慮されてない。当然隙間が空くことになる。その隙間へと和麻は身体を滑り込ませ、一人転ばしては頭を蹴り飛ばし、確実に意識を断つ。そこに手加減はしているものの、容赦の欠片などなかった。

 六人の内、四人が路面に倒れたところで、残りの一人から声が上がる。その声は震えていた。

「お、お前! ……こっち向け!」

「離しなさいよ!」

 和麻はその声の方を見向きもせずに、残ったもう一人を路面へと倒しにかかる。その姿に焦ったのか、男は更に大きな声で、和麻へと叫んだ。

「止まれ!!

 この女がどうなってもいいのか!?」

「痛い! 痛いって言ってるでしょ!!」

 五人目を倒し終えたところで、振り向いた先には、和麻に話し掛けてきた女生徒と、その腕を後ろで掴み、盾のようにして立ち、和麻を見て怯えた表情をしている男がいた。それを見て、もう一人の女生徒は青い顔をして震えている。

 その男には、最初の威勢などどこにもなく、声も震えたままだ。

「わ、わかってんだろうな……どうなるか!?」

 自分でも状況が理解できていないのか、あやふやな言葉を発する。その言葉に対して振り向いた和麻は、何も言わず、ただ黙したまま男に近付いていった。

「それ以上近付くな!!」

「───っ!?」

 更に掴まれた腕を、強引に捻られた女生徒は、悲鳴にならない声を上げる。しかし、和麻が立ち止まることはなく男へ近付いていき……そこから一気に男の真横へと移動して、その横腹へと拳を突き入れる。

「余計な手間をかけさせるな」

 腹を押さえて踞る男に、和麻は言い捨てると、その場から立ち去っていく。

 解放された女生徒は、顔を青くして震える女生徒の腕を掴み、急いでその場から逃げ出すように走り去っていった。残ったのは、気絶して倒れる者と痛みに苦しんで踞る者だけ。

 その数分後。通行人により、事前に通報を受けていた警察によって、男たちは連行されることになる。

 

 全速力でその場から立ち去った女生徒たちは、自宅近くまで来たところで立ち止まり、後ろを……来るはずのないナンパ男たちが、追ってきていないかを確認していた。

「危なかったわね」

 元気な女生徒は捩られた方の腕を揉みながら話し掛ける。その言葉に、もう一人は未だ呼吸が整わず、膝に手を突いて荒い呼吸を繰り返していた。そこに会話をする余裕はなく、言葉を聞き取るだけで精一杯といった様子だ。

「……柚葉大丈夫?」

「……うん」

 額には大量の汗を掻き、息は未だに整っていなかったが、相手を心配させまいと、返事をする。しかし、どう見ても大丈夫ではないその様子は、逆に相手を不安にさせてしまっていた。

「しっかり深呼吸してね。はい、吸ってー、吐いてー」

 しばらく深呼吸を続けて落ち着いたところで、元気な方の女生徒は再び話し掛けた。

「それにしても、ビックリした。

 たまたま同じクラスのやつがいたから巻き込んだけど、……あんなに強いとは思わなかったわ」

「……そうだね。

 ───沙希ちゃんは彼のこと知ってる?」

 元気な方の女生徒───藤野沙希にとっては、今回の事は想定外だった。同じ学園で、同じクラス。成績優秀で、運動にも優れていたことを知ってはいたが、喧嘩が強いとは思っていなかったのである。沙希の方が一方的に見知っていたため、上手く理由をつけて男たちから離れようとしただけだった。

 もう一人の女生徒───平井柚葉は、同じクラスではあったが、内気な性格が災いし、幼馴染みである沙希以外に友達ができていなかった。それに加えて部活にも入っていない。結果、他者に対して怖がるようになり、自ら関わろうとはしなかったため、和麻についてもあまり知らなかった。

 そんな柚葉を見かねて、お節介焼きな沙希が、何人か友達を紹介してはいたが、沙希を含めて誰もが金持ちの家の出だった。柚葉は、沙希とは家が近いだけで、普通の一般家庭である。そんな中に内気な性格では、会話に入っていくことすら難しい。そのため、クラス内でも和麻とは逆の意味で浮いていた。

「柚葉が興味を持つなんて珍しい。

 もしかして……あれだったりしてー」

 からかい半分の沙希の言葉に、柚葉は過剰反応してしまう。

「そんなことないよ!

 ひと目惚れなんてするわけないよ!」

「私は惚れてるなんて、ひと言も言ってないけどねー」

 過剰反応してしまったことと、自分の発言の迂闊さに気付き、何もなかったことにするため、柚葉は家に向かって早足で進み始める。その顔は真っ赤にして俯いていた。

 沙希はニヤニヤと笑いながらその後を追いかけていき、追い付くと横に並んで一緒に進む。

「ごめん、ごめん。

 ねえ、機嫌直してよ」

「…………」

 いつもの気軽な声に、柚葉は幾分落ち着きを取り戻し、進む速度を落として歩く。しかし、その顔は未だに真っ赤なままだった。

「まだ怒ってる?」

 顔を覗きこむようにして窺う沙希に、努めて平静な声で返す。

「怒ってないよ」

「ほんとに?」

「うん」

 柚葉の言葉に安堵の吐息を出したところで、再び話題を元に戻した。その顔には、何か良いことを考え付いたような笑みが浮かんでいる。

「一応助けてもらったんだし、お礼は必要だよね」

「えっ?」

「えってなによ、えって。なんかおかしいこと言った?」

「ううん。おかしくはない……けど……」

 柚葉は立ち止まってしまう。頭の中では、お礼を言う場面が再生されているが、到底上手くいくとは考えておらず、逆に失敗する映像が流れる。そんな心配を余所に、沙希は柚葉を見て不審に思いながらも話しを続ける。

「明日の朝一で言うわよ!」

「でも、心の準備が……」

「そんなのは今日の内に準備しときなさい! こういうことは早めにするのがいいの!」

「う……うん」

 強引に話しを進めていく沙希に圧倒されて、柚葉は思わず頷いてしまう。それを見て満足そうに頷き返し、沙希は柚葉の手をとって、家へと再び歩み始める。

「ちゃんとお礼の言葉考えとくのよ。いい?」

「ありがとうだけじゃだめなの?」

 在り来たりな言葉を投げ掛けるが、沙希からの返答は却下だった。

「それだとインパクトに欠けるから、もっと良い言葉を選びなさい」

「インパクトって……」

「考えてくるのよ? じゃあねー」

「あっ……」

 家に着くと、沙希は別れ際に再度念押しして家へと入っていく。それを見て、柚葉は不安そうな顔をして、足取り重く家へと帰っていった。

 

 

 

 ナンパ男たちを撃退した翌日。朝早くに学園へ来ていた沙希と柚葉の二人は、和麻が登校するのを、今か今かと待ち構えていた。

「変なところないかな?」

「大丈夫だって」

 そわそわと落ち着きなく、教室の扉を見る柚葉に沙希は言って聞かせる。それでも、不安は取り除かれないのか、様子が変わることはない。

 結局、朝のホームルームが始まる手前で、和麻が来てしまったため、お礼を述べる時間がなく。その後の休み時間も、体育や実習などの移動で、まともに接触する時間を取ることができなかった。

 昼休みに、言おうと構えるが、和麻は早々に教室から居なくなり、何処かへと行ってしまう。

 これには、さすがの沙希も頭を悩ませ、柚葉は落ち込んでしまっていた。何処に行ってしまったのか分からないのである。

 そして、昼食を柚葉と一緒に取りながら、沙希はある手段を使うことを提案した。

「こうなったら、手紙作戦に変更するしかないね」

「手紙?」

 作戦の内容に思わず聞き返す。

「昨日考えてきたものを書くに決まってるじゃない」

「えっ!?」

「さあ、書いて。今すぐ書いて。私も作るから」

 有無も言わさず、沙希は弁当箱を素早く片付けて、自席に戻って紙を取り出し記入し始める。それを見て、柚葉は諦めたように、同じく弁当箱を片付けて、こそこそと、周りから見られないように手紙を書き始めた。

 途中、ふと視線を感じて柚葉が顔を上げると、既に書き終わったのか、沙希が柚葉の手元を覗きこんでいた。具体的には手紙の内容を。

 柚葉は急いで紙を手で覆い隠し、沙希に問いを投げ掛ける。

「もう書き終わったの?」

「そんなのすぐよ、すぐ。

 それよりも、結構長く書いてるみたいだけど。どんなこと書いてるの?」

「見ちゃダメ」

「あー……。わかった。見ないから早く書いちゃって」

 柚葉の頑なな態度と、壁に掛けられた時計を見て答える。昼休みの時間は、終わりへと近付いていた。

 結局は、残りの昼休み時間中に手紙は完成しなかった。そのため柚葉は、午後の授業を使い書き終えることになる。

 和麻は昼休みの時間が終わるギリギリになって教室へと戻ってきた。その手には、本が数冊抱えられている。その本を見て、図書室に行っていたのが分かり、沙希は悔しがる。よく考えれば、授業中よく図書室の本を読んでいたのである。

 手紙は、午後からの最後の短い休憩時間に渡すことにして、授業を受けた。

 柚葉と和麻の席は一番後方にある。柚葉は、横をチラチラと忙しなく見ていたため、当然の如く目立っていた。いつも、大人しく目立たない生徒が余所見をしているのだから尚更だった。

「平井、余所見をするな。授業は真面目に聞け……神凪、お前もだ」

「はい……」

「…………」

 先生は、柚葉を注意するついでに和麻を注意した。先生の言葉に、柚葉は小さく縮こまって返事をする。和麻の方はと言えば、先生の言葉など、どこ吹く風と気にも止めず、図書室から借りた本で、違う勉強をしていた。

 先生は、和麻に対して話しても無駄と分かっている。しかし、注意したにも関わらず、完全に無視されることに少し苛立ち、声を大きくして発言した。

「ここはテストに出すからな!」

 ハッキリと和麻に向けて言っても、和麻は相手にもしていない。それを見て、諦めたように先生は授業を再開する。この光景は初めてではなかった。度々注意を受けるが、全く気にしない和麻に、今では偶にしか注意をしなくなったのである。

 テストに関して和麻は、教科書に記載されていることは、ほぼ完璧に答えを書いてくる。しかし、特殊な問題……先生の体験談等についての解答欄は、完全に真っ白だった。書く必要など感じないとばかりに。

 授業についてこれないなら未だしも、授業以上のことをしているのを知っているため、咎めにくい。神凪なので余計に、だ。

 授業が終わり、柚葉と沙希の二人は揃って和麻に向けて歩き出し近付いたところで……柚葉はすぐに沙希の後ろへと隠れてしまった。

「神凪君。今いい?」

「…………」

 沙希の問いに、和麻はちらりとその顔を見てから……無視して本を読み続ける。和麻にしてみれば、余計なトラブルに捲き込んできた相手の話など、聞く気にもならなかった。

「怒ってる?」

 何も反応しない和麻に、再度確認を込めて話し掛けるが、反応はない。溜め息を漏らしながらも沙希は謝罪の言葉を口にする。

「昨日はごめんね。こっちも結構必死だったのよ。あいつらしつこくてさ。

 ……中にもう一人の子の言いたいこと書いたやつ入ってるから読んでおいて」

 そう言って沙希は、手作り感が溢れる、手紙の入った封筒を和麻の席へと置いた。その言葉に、柚葉は驚いた表情で沙希を見つめる。

 沙希は自分の手紙など、書いていなかったのである。書いていたのは宛名などだけで、それを元に封筒作りをしていたのだった。

 そんなことは露知らず、柚葉は沙希に、書いた手紙を渡したのである。

「それじゃ」

 言いたいことを言い終えた沙希は、自分の席に戻っていく。柚葉は、しばらくその場で狼狽えていたが、休み時間が無いことから、柚葉も慌てたように自分の席に戻っていった。

 その手紙のやり取りを見た他の生徒が、沙希へと興味津々といった様子で質問しているが、次の授業の時間がきたことから、各自の席へと渋々戻っていく。

 最後の授業が終わると、和麻は席を立ち、封の開かれていない封筒を、教室に置かれたシュレッダーへと入れて帰っていった。

 それを見た沙希は怒り、周囲に集まってきていた他の生徒を掻き分けて、柚葉の元に向かう。

「追うわよ柚葉!」

「…………」

 手紙をシュレッダーにかけられたショックで、呆然と鞄を持ち立ち尽くしていた柚葉を、沙希は強引に連れて、和麻の後を追いかけていく。

 校門を出たところで、和麻に沙希たちは追いついた。

「神凪君! さっきのは酷いんじゃない!? いくらなんでも、シュレッダーはないでしょ!」

「さっきの謝罪はやはり嘘か」

「なんでそうなるのよ!」

 やっと口を開いてみれば、第一声が非難する言葉だった。それに沙希は、噛みつくようにして言い返す。

「昨日お前は俺に何をした?

 面倒に捲き込むのは酷くないのか?

 お前のやった事と、俺のやった事、どっちが酷いと思う?」

「だから、謝ってるんじゃないの!」

「謝ってなんでも済めば、世の中、平和だろうな」

 和麻の皮肉に、沙希は一瞬押し黙った。そして、柚葉をチラリと見て和麻に問い掛ける。

「……どうしたら謝った事になるの?」

「俺に関わるな。それと、面倒に捲き込むな」

「それだと、こっちが納得できないから」

「……なんで、お前が納得する必要があるんだ?」

 和麻は、沙希の理解できない言葉に眉をひそめ、沙希へと顔を向けて質問する。

「何がいいかなー。ねえ、柚葉は何が良いと思う?」

「おい、聞け」

「えっと……」

 一人で話しを勝手に進める沙希に、和麻は話し掛けるが、止まらない。柚葉は、急に振られた話題についていけず、また、和麻が怒ったような表情をしているため、戸惑っていた。

「そうだ!

 それなら、デートっていうのはどう?

 うん。我ながら良い考え」

「いらん」

「いつにしようか?

 やっぱり早い方がいいよね……じゃあ明後日の日曜十時に決定ー」

「…………」

 決定事項を伝えてくる沙希を、和麻は無視して歩みを進める。何を言っても無駄であると分かったからだ。

「待ち合わせ場所どこにしようか?

 それ以前にどこに行くか決めないと。

 まあ、楽しみにしててよ」

 先行する和麻に、確認もせず話しを続ける。柚葉は、和麻と沙希を交互に見るだけで、何も言えず黙ったままだった。

 一方的な話し合いは、和麻と別れるまで続き、その間、沙希一人だけで話し続けていた。あとの二人は黙ったままである。

 

 和麻と別れて二人になり、しばらく歩いたところで、沙希は柚葉に話し掛けた。

「さてと、デートコース考えないとね」

「神凪君、嫌がってたよ……」

「あんなのは照れ隠しに決まってるって。

 今までデートなんてしたことないから、つい拒否しちゃったのよ」

「でも……」

「いつまでもうじうじしない!

 決まったことはもう覆らないよ!」

 何か言いたそうな柚葉の言葉を遮り、態度を改めるように言い聞かせ、無理矢理納得させる。その目は拒否を許さなかった。

 言い出したら聞かない沙希に、柚葉は諦めたように溜め息を漏らす。幼馴染みなだけはあり、こういった時の頑固な性格をよく理解していた。

「分かったから落ち着いて……」

「分かってくれた?

 それなら、場所は今日の内に考えておいて。明日聞くから」

「……うん。それと、今更言いにくいんだけど……」

「何?」

 言いづらそうに柚葉は沙希に答える。

「沙希ちゃん、鞄を忘れてるよ」

「えっ? ……ああ!?」

 自分の手に何も持っていない事を確認し、声を上げ、次いで柚葉の手元を見る。そこには、鞄がしっかりと握りしめられていた。

「柚葉狡い……」

「気付いたのは、ほんのさっきだよ」

 家は目前まで迫っており、今から歩いて戻る気にもなれず、沙希は車で学園へと戻ることになったのだった。

 


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