幼女戦記 ターニャの優雅なる後方勤務   作:ダス・ライヒ

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今回は長めです。

まぁ、デグ様ならキング・ジョージや戦艦大和も余裕で轟沈させるだろう。

追記、アインリッヒさん並びvariさん、誤字報告と修正サンクス。


対艦戦闘用意!

 ターニャが戦略爆撃機の編隊を撃退し、敵本隊の迎撃中の防空部隊へ増援に向かっている頃、東部のルーシー連邦の首都、モスコーで侵攻してきた帝国軍と交戦中のメアリーは遠方にも関わらず、エレ二ウム九五式を使用を察知した。

 

「この感覚は!? あいつだ!!」

 

 父を殺し、その形見である短機関銃すら奪った幼女を激しく憎むメアリーは、担当地区を放棄してまで殺しに行こうとする。

 

「っ! 何処へ行く!? 戻れ!」

 

 無論、はい、そうですかと言って行かせてやるドレイクではない。直ぐに腕を掴んで止め、血に飢えた反共主義者らを迎撃する戦線に留める。

 

「離してください! あいつが、あいつがあそこに!!」

 

「いったい何を言っているんだ!? まさか、あの例の幼女か!!」

 

「死ねぇ! 赤の手先め!!」

 

 あいつと聞いてか、ドレイクは直ぐにターニャであることに気付いた。そういえば、これほど重要な局面にも関わらず、あの幼女を見ていない。負傷して後方に送られたかと思ったら、自分の祖国であるアルビオンがある西方に居ると言うこと、メアリーの発言で分かった。

 だが、ここで行かせては、このモスコー防衛線は崩壊してしまう。メアリーを引き留めている間に、白頭巾を被った反共十字軍の魔導士らが容赦なく攻撃してくる。

 即座にメアリーから手を放し、M1ガーランドに似たライフルで迎撃して突っ込んできた数機を撃破する。メアリーもまた、その高い魔力で友軍の魔導士を袋叩きにしている敵魔導士を排除し、追い詰められていたルーシーの魔導士たちを救出した。

 

「あいつが西に居るんです! あいつは私が仕留めなくては!」

 

「馬鹿を言うな! 今どんな状況か分かっているのか!? お前も軍人なら、その程度のことは理解しろ!」

 

「くっ!」

 

 どうしてもターニャを殺しに行くと聞かないメアリーに対し、ドレイクは周りの状況が分かっているのかを問えば、彼女は自分の感情的な行動の所為で死んでいく友軍の将兵らを見て、納得せざる負えなかった。

 帝国軍とその支援下で創設された反共十字軍の攻勢は凄まじく、ルーシーを支配する共産党が防衛の為に解放した軍や魔導士らを圧倒しており、既に三つの防衛ラインが突破された。残り二つの防衛線を、何とかメアリーとドレイクの隊で支えている状況だ。ここでメアリーが抜ければ、帝国軍と反共十字軍はモスコーに雪崩れ込み、反共の名のもとに恐ろしい虐殺が行われるだろう。

 反共主義者らによる大虐殺だけは阻止せねばならないと言う正義感に囚われているメアリーであるが、ドレイクは正直に言うと今すぐにでも逃げ出したい気分だ。

 

「殺してやるぅ!!」

 

 そんな彼らの心情など気にせず、反共十字軍の魔導士らは襲い掛かってくる。

 戦意を失い、政治将校や特戦隊の静止の声も聞かずに逃げ出す赤軍兵らにも、容赦なく彼らは銃弾や砲弾を浴びせて惨殺し、時には髪や襟元を掴み、持っている刃物類で残虐に殺す。

 中には赤色テロに対する復讐心もあるだろうが、その大部分は単に人を殺してみたかったり、反共主義を誰かに叩き込まれ、自分の内なる残虐性を解き放ったり、宗教的な理由で殺しているのだ。更には外国の職の無い人間や放浪者まで反共十字軍に参加している。歩兵の大部分がそれらだ。

 規律が取れた帝国軍とは違い、もはや愚連隊である反共十字軍に、ドレイクや多国籍軍の魔導士らは恐怖を覚える。あの赤軍の将校や特戦隊でさえもだ。唯一恐れず戦っているのは、狂信的な共産党員か、メアリーのみである。

 そのメアリーにショックを与える敵が出てくる。祖国のレガドニアから義勇兵だ。

 

「っ! なんでこんなところにレガドニアの人が!? どうして帝国になんかに!?」

 

 祖国から帝国の義勇兵として共産主義者を殺しに来た自分の同胞に、メアリーはショックを受けた。

 しかも戦死した父と同じような装備を、魔導士の適性を持つ老若男女が装備して自分に攻撃してくる。

 同胞を撃つことに躊躇うメアリーは、なぜ敵であるはずの帝国軍の手先として戦うのかを、攻撃を避けながら問う。

 

「なんで帝国の味方を!? 私たちの祖国を焼いた憎むべき世界の敵なのに!」

 

「レガドニア語っ!? なら何故アカの味方をする!?」

 

「そうよ! 本当の敵は帝国ではなく共産主義者! 私の家族は奴らに殺された! 世界革命という馬鹿げた思想の為に!」

 

「何を言って…!?」

 

 赤軍の中にレガドニア人が居たことに驚いてか、その問いに同胞らは本当の敵は共産主義であると答える。

 事実、彼らの大部分は赤色テロの被害者である。そんな彼らの事情を知り、本当にルーシー連邦を守るべきなのかと思い始める。

 迷うメアリーに対し、反共十字軍に志願したレガドニアの中年女性の魔導士は、共産主義に対する怒りをぶちまけながら彼女を突き飛ばす。

 

「私の亭主を、そんな歪んだ思想で殺されたんだ! やる気がないならそこを退きな!」

 

「きゃっ!」

 

 自分の夫を殺した共産主義の復讐に燃える理由を明かした未亡人は、メアリーを突き飛ばし、地上に居る後退中のルーシー赤軍の将兵らに襲い掛かる。その戦い方は容赦はない。

 泣きじゃくり、喚き散らして糞便を垂らしながら逃げる赤軍将兵らに砲撃術式を浴びせ、おぞましい肉塊へと変えていく。たとえ命乞いをしようが、未亡人の魔導士は容赦なく銃弾を浴びせて殺害する。女の兵士や少年兵、少女であろうともだ。

 他の者たちもこれに参加し、逃げる赤軍将兵らを虐殺していく。

 

「ッ…! やめろぉぉぉ!!」

 

 流石に同胞を撃つことを躊躇うメアリーも、これは見過ごせない。自身の高い魔力を生かした攻撃で彼らを仕留め、同胞であろうとも撃つ。これに同胞の少年魔導士に命中し、彼の亡骸は雪原の上へと落下していく。

 他の同胞らもメアリーの過剰過ぎる攻撃で散っていき、彼女は同胞を殺したことに深い後悔を覚える。

 

「わ、私は…!」

 

 同胞を殺したことに後悔したメアリーであったが、敵は心情など理解してくれない。次にやって来たのは、帝国軍内において、あのターニャに次ぐ戦闘力を誇るフリードリヒだ。

 挨拶代わりにフリードリヒが行った攻撃は、自身が得意とする殺人音波である。彼が口を大きく開けて叫べば、音波を受けた多国籍軍の魔導士数名の頭が吹き飛び、赤軍の魔導士らも同様の死を迎える。メアリーは咄嗟に気付いて躱したので、難を逃れた。

 

「ちっ、外したか!」

 

「なに、こいつは!?」

 

 見たこともない攻撃をするフリードリヒに、メアリーは戦慄を覚える。

 当たり前だ。あんな攻撃をするのは、この世界においてフリードリヒのみである。

 

「お兄様、あの小娘が例の?」

 

「あれが二〇三の報告書にあった少女か? フン、他とは違い、面白そうだ!」

 

 メアリーと会敵したフリードリヒはターニャの報告書でも読んでいたのか、直ぐに彼女と激闘を繰り広げた多国籍軍の魔導士であると見抜く。アレクサンドリアに問われたフリードリヒは、メアリーに仕掛けると返す。

 

「俺は奴と戦う! あいつのおかげで進出が遅れているらしい」

 

「私たちもやりましょうか?」

 

「いや、結構。たかが一人の魔導士に、無駄な人員を割くわけにはいかん。お前たちは雑魚をやれ!」

 

「分かりました! ご武運を!」

 

 アレクサンドリアは自分の航空魔導連隊ワルキューレと共にメアリーをやるのかと問えば、フリードリヒは自分一人で十分だと答え、それに応じて妹は自身の隊を率いて周辺の敵戦力の掃討に向かった。

 一人で挑んでくるネームドに対し、メアリーはドレイクに味方を攻撃する帝国軍の新手に対処に回るように告げる。

 

「ドレイクさん、こいつは強いです! 貴方は味方の援護を!」

 

「やれるのか!? 奴はあの死音のシェーンだぞ!」

 

「何が来ようと、あいつを倒すまでは死にませんから!」

 

「了解した。お前なら出来るさ!」

 

 ネームドに一人で大丈夫かと問うドレイクに、メアリーは一人で大丈夫だと答え、彼女の力を知っている上官は味方の援護に回った。

 向かってきて早々に殺人音波で攻撃してくるフリードリヒの攻撃を避けたメアリーは、空かさず反撃を行うが、敵もまた躱してくる。そればかりか、一人で大丈夫かと聞いてくる。

 

「一人で大丈夫か? フロイライン」

 

「貴方如きには負けない! あいつは何処!?」

 

「この俺を前にして、他人の方が良いだと!? 報告書では奴に殺され掛けたと書いてあるが、間違いであったと言わせてくれるわ! はぁぁぁ!!」

 

 心配したつもりであるが、メアリーはフリードリヒをターニャに対する通過点として捉えたようだ。これにプライドが高いフリードリヒは怒りを覚え、得意の殺人音波攻撃を始める。

 飛んでくる殺人音波に、メアリーは魔法障壁で防御するが、人間の頭を吹き飛ばし、爆撃機の爆弾ですら爆発させる音波に障壁は耐え切れず、破壊されてしまう。障壁を突き抜けて飛んでくる殺人音波を、メアリーは咄嗟の判断で回避して反撃する。

 無論、相手のフリードリヒはこれを魔法障壁で防ぎ、携帯している水筒で喉を潤してからメアリーを褒める。

 

「中々やるな! だが、勝負はこれからだ!」

 

 ターニャほどとは行かなくとも、実力なら帝国内で二番手であるフリードリヒと、存在Xの第二の刺客、メアリー・スーとの戦いは続く。

 

 

 

 

「っ!? こいつは…近くにいるな」

 

「ん、なんか言ったか?」

 

 ターニャのエレ二ウム九五式の使用を察知したのはメアリーだけでない。異世界より第三の刺客として贈られてきた瀬戸シュンも分かり、標的であるターニャが近いことを察した。隣にいる秋津洲の魔導士は、全く察知できていない。

 

「敵だ!」

 

「おっ!? うわぁぁぁ!!」

 

 メアリーと同じく戦闘中である。西側のアルビオンと秋津洲の連合部隊の将兵として、帝国軍の西部方面軍と交戦しているのだ。

 察知したシュンに、帝国の魔導士一個小隊は容赦なく仕掛けるが、斃したのは隣にいた魔導士だけであり、躱されて彼が持っているM1918A2BARに似た軽機関銃を旋回中に撃ち込まれ、二名が背中を撃たれて落ちていく。残り二名は仇討の為にもう一度仕掛けるも、得意とする接近戦で近付かれ、一瞬にして二人とも銃剣で斬り殺される。

 

「銃剣もって戦ったのはいつぶりだ?」

 

 銃剣を使ったのはいつぶりかと考えつつも銃剣を鞘に納め、予備の武器であるオート5散弾銃を取り出し、自分を二十ミリで殺そうと接近してくるMe109に似た戦闘機に向けて構える。散弾銃で戦闘機を落とそうとするなど、馬鹿な話であるが、(シェル)に魔力を注入して威力を上げている。狙いが定めれば、直ぐにシュンは引き金を引いて撃ち込んだ。

 この強力な散弾を受けた戦闘機は、恐ろしい連射力を誇るミニガンでも食らったようにハチの巣となり、空中爆発を起こして墜落していった。

 交戦が続く中、シュンにアルビオン軍の魔導士が近付いてくる。その魔導士の人種は黒人であり、シュンの顔半分に刻まれた刺青のことを知っているようで、邪魔な敵を片付けてから話しかけてくる。

 

「お前、神の使いだな?」

 

「俺が天使に見えるのか?」

 

「いや、その刺青を見れば分かる。何処から来た?」

 

 何処から来たと問われたシュンは、異世界から来たと答えられず、秋津洲がある方向を指差す。だが、彼はシュンがこの世界の者ではないと見抜いたようだ。

 

「適当に言うな、お前は誇り高く、誉に満ちた秋津洲軍人ではない。当ててやろう、異世界から来た異界人だな? 帝国軍で幼子の姿をしている者は、転移者であるが」

 

「幼子? お前、知ってんのか?」

 

 シュンが異世界の者であると見抜いた後、彼はターニャのことも知っていたようだ。自分の標的であるターニャを知っていることに、シュンはなぜ知っているのかを問う。

 

「あぁ、奴が高い魔力を持った瞬間から存在を知った。前の馬鹿とは違い、利口のようだが、合理主義者だ。まだ神に抗っている。お前がこの世界に招かれたということは、信仰心を持たせるためだろう。力でな」

 

「…おいおい、俺は宣教師じゃねぇんだぞ」

 

 これにアルビオンの黒人魔導士、神を知る者は高い魔力を持った時点で気付いたと答える。シヌ・リーオのことは知っているようだが、嫌いなのか余り言わなかった。ついでに自分はターニャに信仰心を持たせるために送り込まれたと教え込まれれば、シュンは呆れ返る。

 そんな理由でこの世界に連れて来られたシュンは、顔の左半分の刺青をどうやって消す方法を神を知る者に聞く。

 

「でっ、この刺青を消すのはどうすんだ? 断れば死ぬとか言われたんだが」

 

「その刺青を付けられた者を知っているが、使命を果たす必要がある。お前に課せられたのは、その合理主義者の魂が宿る幼子に、信仰心を持たせることだ。それまでは消えず、運命から逃れることはできないだろう」

 

「最悪じゃねぇか。まぁ良い、要するに神様に助けを請うまで痛み付けろって話だろ? 痛み付けるのは得意だぜ」

 

「…酷い奴だな。まぁ、それだ。成功を…祈っている」

 

 消す方法がターニャに神の助けを請うほど追い詰めればいいと分かれば、シュンはそれなら得意だと言ってやる気を出した。これに神を知る者は、シュンを白い目で見ながら成功を祈っていると言って自分の持ち場へと帰った。

 神の知る者が帰った後、シュンは帝国軍の特殊部隊が狙いそうな場所を戦いながら探し、そこに張っていればいずれかターニャが来ると判断する。

 

「プロセイン軍が狙いそうな場所は…あれだな。大艦巨砲主義が詰まった大戦艦、大日本丸とドレッドノート! 俺が敵の指揮官なら、あの弩級戦艦を魔導士の特殊部隊で吹き飛ばす。このMSみてぇな魔導士なら出来るはず。特にあの規格外れな奴ならな! よし、ある程度の雑魚を片付けたら行くか!」

 

 自分が指揮官なら、敵の士気を潰すために地上軍にとって危険な巨砲を搭載した弩級戦艦を潰すと考えれば、そこにターニャは来ると判断して、ある程度の敵を掃討してから向かうと言って交戦を再開した。

 

 

 

 一方、久方ぶりに参謀本部のゼートゥーアに扱き使われ、本土爆撃を敢行していた合衆国製戦略爆撃機の大編隊の迎撃を成功したターニャ等の二個大隊は、次なる名を受けて空軍の戦闘機一個大隊と、Ju-87シュツーカに似た爆撃機一個中隊の混成された戦闘団となり、海面近くを飛行していた。

 爆撃機中隊には、大型の魚雷が一機に二本ずつ搭載されている。これを意味するということは、対艦戦闘をやれと言うことである。標的は敵連合艦隊の旗艦と思われる巨砲を搭載した主力戦艦二隻。秋津洲海軍とアルビオン海軍の旗艦と思われているようだ。

 その二隻の大艦巨砲主義を体現した戦艦の撃沈を命じられたターニャは、どんな戦艦と戦うことになるのか不安になる。

 

「まさか欧州で大和と戦うことになるとはな…」

 

「何か言いました?」

 

「いや、独り言だ」

 

「そうですか」

 

 事前にゼートゥーアよりアルビオン海軍のドレッドノートの詳細は知らされていたが、予想外の敵である秋津洲海軍の戦艦については、欧州とは無関係な以上に一切情報が無いので、ターニャは大艦巨砲主義と聞いてか、前世の知識でか、戦艦大和であると仮定する。標的の秋津洲海軍の主力戦艦は大和ではなく大日本丸であるが、ターニャは知る由もない。

 呟いたターニャに反応したヴィーシャはそのことを聞くが、長年の上司に独り言だと言われて納得する。

 

『十一時方向より敵編隊! 魔導士も確認! 戦闘機もです!』

 

 その標的の二隻の戦艦に向かっている最中に、敵の防空網に引っかかったのか、迎撃部隊が来襲した。前衛からの知らせで気付いたターニャは、直ちに自分の二〇三と配下の第四大隊、戦闘機大隊に魚雷を搭載した爆撃機中隊を守るように告げる。

 

「全部隊に通達! 爆撃中隊を守り抜け! さもなくば魚雷なしで対艦戦闘をする羽目になる!」

 

 この指示で、ターニャのサラマンダー戦闘団は敵の艦上戦闘機部隊や魔導士との交戦を始める。

 飛んでくるアルビオンと秋津洲の艦上戦闘機は、ターニャが前世で知っている物に似ていた。つまり、スピットファイアと零戦である。

 

「スピットファイアに零戦だと? ビルマや太平洋では交戦していた艦上戦闘機が共闘するとは、なんとも架空戦記な光景だ。だが、関係はない!」

 

 連合軍のスピットファイアと零戦が共闘している光景を、架空戦記になぞらえれば、ターニャは容赦なく隊戦闘機用の術式を使ってその両軍の艦上戦闘機を数機以上も撃墜する。

 火を噴いて墜落していく中、秋津洲とアルビオンの魔導士が迫ってくるが、数々の洗浄をくぐりぬけたターニャの敵ではない。そればかりか二〇三やその教え子たちである第四大隊にも敵わない。両軍の魔導士には実戦経験が無いのだ。

 

「やぁやぁ、我こそは、ぶばっ!?」

 

 一人の秋津洲の魔導士、おそらく士官が自分の家より持ち出してきたと思われる腰に差した日本刀、即ち大太刀を名乗りながら抜こうとしたが、ターニャは悠長に聞いてやるほど優しくはない。銃剣を首に突き刺し、殺してからその大太刀を奪った。直ぐにそれを手に取り、前世の少年時代の夢でもあった真剣の大太刀を抜いて柄を握る。

 

「これで前世の夢が叶ったな…!」

 

 ピカピカに磨き上げられた大太刀の真剣を見て、ターニャは興奮する。

 武士が名乗りを上げている最中に攻撃し、更には彼の魂である刀を奪ったことで、秋津洲の武士関係の魔導士らと戦闘機乗りたちは激怒した。アルビオンの騎士関係の魔導士やパイロットたちも、そのターニャの卑劣なる行動に激怒している。

 

「おのれ!」

 

『卑怯者め!』

 

「帝国軍にプライドはないのか!?」

 

『騎士道精神の欠片もないのか!?』

 

 これに合理主義者であるターニャは鼻で笑う。彼女にとって、戦争における武士道や騎士道は何の意味もない物なのだ。

 

「武士道? 騎士道精神? そんなもの、この近代の戦争では何の役にも立たんわ!」

 

 激高して腰に差してある軍刀やサーベルを抜いて襲い掛かってくる両軍の魔導士に、ターニャは試し斬りと言わんばかりに振るい、次々と斬り捨てていく。

 数秒もしないうちに、双方の近接系魔導士等は冷たい海の上に血飛沫を上げながら落ちていき、海を真っ赤に染め上げる。

 

「流石は戦闘団長! やることがえぐい!」

 

 全員を斬り捨てたターニャに、MG34に似た機関銃を掃射するヴァイスは褒めているのか貶しているのか分からない言葉を叫ぶ。

 それを気にせず、ターニャは腰に差してある鞘に大太刀を収め、同じ戦利品の短機関銃を持って敵魔導士や戦闘機と撃ち合いを再開する。魔導士の被害はほぼないが、戦闘機隊の方はそうでもなく、標的に近付くに連れて損害が拡大しているのだ。

 

『こちら第五大隊、既に一個中隊が損失!』

 

「戦闘機隊は大丈夫でしょうか?」

 

「まぁ、一個戦闘団で敵の艦隊に突っ込んでいるのだからな。この程度の損害は想定内だ。それより向こうの戦況は?」

 

「無線兵! こっちに!」

 

 邪魔な魔導士を片付けたヴィーシャがターニャに大丈夫なのかを問えば、彼女は戦闘機隊の損害は想定内だと答えた。次に大陸の戦況はどうなっているのかを問う。これにヴィーシャは第四大隊の無線機を背負った魔導士を呼び出し、受話器を持って大陸の戦況を聞く。

 

「大分押されているようで。敵は七十万の兵力で、その大部分は秋津洲陸軍だそうです」

 

「まぁ、アルビオンは海軍国家だからな。陸軍はそれほど強化されていない。さて、我々は守備軍の脅威を取り除くため、時代遅れの艦隊思想を粉砕するぞ。続け!」

 

「了解!」

 

 戦況は西方方面軍が圧倒されており、敵の陸軍遠征軍の大半は秋津洲陸軍であると分かった。これ以上、押されればフランソワを取り戻されかねないので、ターニャは陸軍の脅威となっている戦艦の撃破を優先する。

 そんな時に、ゼ-トゥーアからの無線連絡が入る。

 

「戦闘団長、参謀本部より無線連絡です」

 

「どうしました?」

 

『聞こえるか、デグレチャフ中佐。たった今、リューネブルク大佐率いる空軍の第五〇三航空魔導大隊が戦線を無断で離脱。アルビオン海軍のドレッドノートの方に居る』

 

「無断ですと? なぜ?」

 

『アルビオンの女魔導士部隊に煽られたそうでな。今は包囲されているようだ。馬鹿な男だよ』

 

 無線兵よりゼートゥーアからあのリューネブルクが敵陣の真ん中にいると知らせを聞いたターニャは、なんでそんなところに居ると問えば、参謀本部の頭脳は呆れながら理由を答える。

 なんと敵の女魔導士に煽られ、大隊丸ごと敵陣に突っ込んで包囲されているのだ。これにはターニャも呆れる他ない。まさか救出せよと言うんじゃないかと肝を冷やす。

 

「まさかその馬鹿を救出しろと…?」

 

『貴官の標的にはドレッドノートも含まれている。ついで代わりに寄ってくれ。無理ならいいが』

 

「余裕があれば助けましょう。では、標的が見えたので失礼」

 

『うむ、頼むぞ』

 

 余裕があれば助けてくれと言われたので、ターニャは応じてから見えた標的、大日本丸に攻撃を仕掛けるために連絡を切った。

 大日本丸の姿は戦艦大和に似ていたが、よく見れば大和のようで、二番艦の武蔵のような形をしている。主砲は大和型の物と同じだ。それが大陸に向けて撃ち込まれており、陸軍の守備隊を圧倒している。早く潰さないと、西方軍が全滅してしまう。

 護衛の艦隊は旗艦や空母を帝国艦隊と潜水艦から守るのに徹しているようで、駆逐艦の一隻もいやしない。余裕の表れであろうか。

 

「よし、見えたぞ! これより我がサラマンダー戦闘団は全力で秋津洲の主力戦艦を潰す! 大艦巨砲主義が如何に遅れているのかを思い知らせてやれ!!」

 

 大艦巨砲主義が如何に遅れているのか、前世で分かっているターニャは、配下のサラマンダー戦闘団に命じて攻撃させる。

 護衛もかなりいるようだが、魔導士や艦上戦闘機くらいしかない。それも碌に演習でもしていないのか、少し誘ってやるだけで、零戦とスピットファイアが激突して爆散するという光景が見れた。魔導士の方は回避飛行中にぶつかったりして、その隙を取られてやられている。

 

「碌に連絡も取っていないようだな。ならば一気に…!」

 

 この光景を見て、秋津洲とアルビオンは碌な連携も取れていないと見抜けば、一気に大日本丸の撃沈を試みようとしたが、大事に守っていた爆撃隊がその大日本丸の主砲の一撃で殲滅された。

 爆撃隊を一網打尽にした砲弾を知っているターニャは、直ぐに大日本帝国海軍の砲弾の一種である三式弾であると推定する。

 

「三式弾か!?」

 

 間違いなく三式弾と同じ類である。あれなら自分たち魔導士も一瞬で殲滅できるだろう。それに大日本丸の対空砲火や魔導士と戦闘機のセットは、こちらが近付けないほどだ。近付けば一瞬でやられる。近付こうとした第四大隊の魔導士が一人、そのコンボにやられて死亡した。

 対艦装備を失くしてしまったサラマンダー戦闘団であったが、ターニャにはエレ二ウム九五式がある。まさかここでも使う羽目になるとは思いもしなかったターニャは、邪魔な敵を部下に排除するように命じる。

 大日本丸は近過ぎて三式弾が撃てないのか、搭載している対空機銃や機関砲、高角砲を撃ってくるだけだ。爆撃隊は離れているために撃たれたようだ。

 

「ちっ、ここでエレ二ウム九五式を使う羽目になるとは! 各員に通達、エレ二ウム九五式を行う! 邪魔な敵を掃討せよ!」

 

 部下に命じた後、ターニャは詠唱を行う。

 

「主よ、我の願いを叶えたまえ。古き思想に終焉を…!」

 

 その短い詠唱を行うだけで、エレ二ウム九五式は発動し、強力な魔弾は狙った戦艦の三つある三連装主砲のうちの一つである中央の二番砲塔まで飛んでいく。ビームのような魔弾が二番砲塔に命中した。弾薬庫まで達したのか、大爆発を起こし、大日本丸は真っ二つとなって轟沈する。恐ろしい爆音がターニャの耳に響き渡る。

 

「うぉ!? 凄い轟音だな。そして敵戦艦は轟沈か。次はドレッドノート、アルビオンの精神も打ち砕こう」

 

 大日本丸を轟沈させ、海軍大国の秋津洲の威厳を打ち砕いたターニャは、同じ海軍国であるアルビオンの精神を打ち砕こうと、ドレッドノートにエレ二ウム九五式を使う。

 照準器に大日本丸を轟沈させたターニャに驚き、上陸部隊の支援砲撃を止めて全速力で友軍艦隊まで逃げようとするドレッドノートを捉え、躊躇いもなしに引き金を引いて魔弾を放つ。

 エレ二ウム九五式の魔弾に捕らわれた標的は、メアリー・スーでもシュンでも無ければ逃れることはできない。その魔弾に狙われたドレッドノートは大艦巨砲主義の名のもとに建造された大日本丸の後を追うように轟沈した。

 

「す、すげぇ…! こんな短い時間で…!」

 

「立て続けに、超弩級戦艦二隻を…!」

 

「轟沈させた…だと…!?」

 

「…戦闘団長、凄過ぎますよ!」

 

 ターニャが二国の戦艦を沈めた時間は三十秒ほどであり、二隻も一発で轟沈させたので、共に戦場を掛けてきた二〇三大隊の面々も驚愕する他なない。激しい対空砲火で被害が出ている第四大隊と戦闘機大隊の者たちも、この圧倒的なターニャの強さに言葉が出ないでいる。

 そんなターニャと対峙したアルビオンと秋津洲の魔導士の将兵らは畏怖し、戦意を損失して戦闘機隊と共に撤退し始めた。

 

「な、なんだあの幼女は!?」

 

「よ、よよ妖怪じゃ! 大妖怪じゃ!」

 

「退け! 退くんだ!!」

 

 たった三十秒で戦艦二隻を失ったアルビオンと秋津洲の連合軍は、やや統制が取れながらも撤退を始める。無論、帝国軍のサラマンダー戦闘団に追撃する理由はない。それでも追撃しようとする第四大隊を、ターニャは追う必要がないと言って止める。

 

「止せ、無駄な消耗だ。この戦力で敵艦隊に突っ込んでも、磨り潰されるだけだ。我が帝国海軍の艦隊が被害甚大で撤退したとの報告が、先ほど出された」

 

 撤退する必要がない事と、二国の象徴的新造戦艦二隻を轟沈させたのと同時に、帝国海軍の艦隊が二国の海軍大国の艦隊に追い返されたとの報告が来たことを知らせた。

 被害は全滅は免れたものの、無視できない状態であり、制海権の確保の為に追撃を受けそうだが、ターニャが二隻の象徴的超弩級戦艦を沈めたおかげか、敵の士気は低下して動揺でもしているのか、追撃は来ていないようだ。

 無線兵からこれを知ったターニャは、補給の為に一度基地へ補給すると告げる。

 

「まぁ、これも想定内だ。次はあの二隻の時代遅れ思想の戦艦の仇を取ろうと、敵も全力を挙げてくるだろう。我々は基地に補給の為に退いて…」

 

『お待ちなさい!』

 

「っ? 今度は何だ?」

 

 後退しようとすれば、もう仇討部隊が来たのか、ターニャを女性が呼び止めた。

 その女性とは敵のアルビオンの魔導士であり、どこかで見たような甲冑を身に着け、手には伝説の剣に似た剣が握られている。そして背後には、一個連隊相当の魔導士が整列していた。更にその連隊の背後には、敵の掃討に手こずったのか、シュンの姿がある。

 これを見たターニャは呆れる。また変なのが来たと。

 

『我らアルビオン王立空軍、空中魔導ヴィクトリア騎士団!』

 

「はぁ、武士や騎士の次は、くっころ騎士団か…」

 

 整列陣形を取った空中魔導ヴィクトリア騎士団なる彼女らは、ターニャに向けて騎士団名を堂々と名乗り挙げるが、当の彼女は呆れながら手にしている短機関銃の銃口を彼女らに向けた。




色々とぶっ込み過ぎた回だったな。

そして戦略爆撃隊はキング・クリムゾンさせて頂いた。

次回はくっころ騎士団とうちのキャラのシュンとの戦い。超人兵士大登場です。
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