ターニャ等サラマンダー戦闘団が戦艦二隻を轟沈させ、敵の士気を挫いた後に、新手の敵と交戦を開始した頃、東部戦線では激しい戦闘が繰り広げられていた。
「アァァァァッ!!」
「くっ、グゥゥゥ!!」
フリードリヒは得意の殺人音波を放ち続け、メアリーはこれを避けながら反撃している。
一進一退の攻防戦であり、その戦いに巻き込まれた双方の軍の被害は計り知れない。
「うわぁぁぁ!」
「は、離れろ! 巻き込まれるぞ!!」
殺人音波に当てられて墜落した戦闘機に巻き込まれ、一人が死亡する中、帝国軍の将校はフリードリヒとメアリーとの戦いから離れるように叫ぶ。
両軍の何名かを既に巻き込んでいるが、二人はお構いなしに死闘を繰り広げる。
「とりゃぁぁぁ!!」
殺人音波による射撃戦では埒が明かないのか、フリードリヒは目にもとまらぬ速さで一気にメアリーに接近し、腰に差してある棍棒を振り下ろす。
余りの速さに対応が遅れたメアリーは棍棒を受けるが、咄嗟に魔法障壁を張っていたために殴り殺されずに済んだが、地面に叩き付けられた。
叩き付けられた衝撃で雪が舞い上がる中、フリードリヒは空かさず殺人音波を放ち、メアリーの墜落場所にクレーターを作る。無論、ここで死ぬメアリーではない。素早くそこから離れ、強力な魔弾をフリードリヒにお見舞いする。
「フン!」
この強大な魔力による魔弾を、音が聞こえた時点で気付いたフリードリヒは魔法障壁で防ぎ、数メートルほど吹き飛んでから、倍返しの殺人音波を放った。
音波を浴びれば、死ぬことは間違いないので、メアリーは防御せずに躱して反撃した。
しかしながら、フリードリヒはここで終わる男ではない。その反撃すら防ぎ、自分を相手に数十分も生きているメアリーを褒める。
「中々やるではないか! この俺を相手に三十分も生き延びるとは! 褒めてやりたい所だが、もう飽きた! 死ねぃ!!」
褒めた称えたところで、フリードリヒは渾身の叫びをメアリーに放った。凄まじく強力な殺人音波だ。この殺人音波を受けたルーシー赤軍の軍用機は次々と墜落していき、魔導士の頭は吹き飛ぶ。これを受ければ、流石のメアリーでも持たないだろう。
迫り来る殺人音波に対し、メアリーは大技で対抗することにした。銃を紐で肩に掛け、両手の掌に魔力を集中させる。殺人音波が十数メートルとなったところで、掌に集中した魔力を殺人音波に向けて放った。その過剰過ぎる威力で、殺人音波を相殺しようと言うのだ。
二つの強力な魔法攻撃が互いに衝突すれば、周囲に恐ろしい衝撃波が走る。周辺を飛行していた両軍の航空機は巻き起こった余波に呑まれ、吹き飛ばされる。
『うわぁぁぁ!!』
『なんて衝撃だ!?』
パイロットたちがその衝撃に驚きの声を上げる中、両者の大技は同火力であったのか、消滅してしまう。決着は付かなかったのだ。
「ぬぅ、互角か…! 恐ろしい奴!」
「これじゃあ、あいつを…!」
互いの技が消えてしまったことに、両者とも歯痒さを覚え、再び銃を構えて撃ち合いをしようとした。
だが、その対決は決着がつかぬまま終わることとなる。ルーシー赤軍の陣地から強力な電流が、フリードリヒに向けて放たれたのだ。
「っ! なんだ!?」
その電流を咄嗟に気付いて躱したフリードリヒは、強力な電流、雷とも言える攻撃が来た方向を見る。
そこには、全身に電流を帯びた自分よりも三十センチは高い大勢の巨人たちが帝国軍と反共十字軍を睨んでいた。
現れた新手の敵に対し、反共十字軍の魔導士たちは大挙して襲い掛かる。
「なんだか知らんが、アカに違いない! 殺してやる!」
現れた電流を帯びた巨人の集団に、反共十字軍の航空魔導士らは空から襲い掛かるが、彼らが翳した右手より放たれる高圧電流を受け、一瞬にして肉塊に変わった。
この新たな敵の登場に、帝国軍と反共十字軍は恐れおののき、味方の魔導士や多国籍軍も驚愕せずにはいられない。聞かされていないのだ。
そしてこれが、ルーシー赤軍の奥の手、超人兵士である。
「な、なんだと言うのだ!? 奴らは!!」
新たに戦場に現れ、この戦争の常識を変える新兵器の登場に、フリードリヒは震える他なかった。
ルーシー赤軍が航空魔導士を超える新兵器、超人兵士を実践投入したことを知らず、西部でアルビオン軍と交戦状態に入っていたターニャは、ヴィクトリア魔導騎士団なる整列した女性魔導士一個連隊を、何の躊躇いもなしに攻撃した。
数名が攻撃で死亡して海に落ちていく中、名乗っている最中に攻撃してきたターニャに、騎士団長の長い金髪を持ち、剣を携えた女性魔導士が抗議する。
「この悪魔め! 我が神聖なるヴィクトリア魔導騎士団の伝統の最中に攻撃するとは!!」
「阿保か。敵を目の前にして堂々と名乗りを上げるとは、いつの時代の人間だ? もう二十世紀だぞ」
「まぁ、当り前だよな」
この前時代的な名乗りを上げると言う行動を取った女騎士団長からの抗議に、ターニャは軽く一蹴する。現場に急行していたシュンにもそれが聞こえていたのか、彼女の意見には同意した。情け容赦のない戦場を知る者なら、あの名乗り方は既に前時代の話なのだ。
伝統の名乗りの妨害を受けたヴィクトリア魔導騎士団は、ターニャに向けて怒りの反撃を開始を行う。
「ぬぅぅ! 絶対に許さない!! 総員、槍の陣形で突撃! あの悪童を懲らしめなさい!!」
「うぉ!? 訓練は受けているようだな!」
無駄のなく統率された動きにターニャは驚くも、リー・エンフィールドライフルの自動小銃型を持つ女魔導士の攻撃を避け、反撃して数名を撃破する。これに部下たちも同調し、傘下に加えている第四大隊も、ヴィクトリア魔導騎士団の迎撃行動を行う。戦闘機部隊は損害が多すぎるため、基地に帰投させた。
魔導士同士による空中戦が行われる中、シュンと包囲されていたはずのリューネブルクの大隊がその空中戦に参加する。
「おや? 自力で抜け出したようだな。手間が省けて助かる」
抜け出したリューネブルクの大隊を見て、ターニャは助けに行く手間が省けて助かると口にする。大隊は既に二個中隊を失っていたが、戦闘には支障がないようだ。もっとも、数の差では帝国は不利であり、自動散弾銃を持つシュンが近くに居る所為か、リューネブルクの隊の損害は拡大中であるが。
そんなことを門閥貴族としてプライドの高いリューネブルクは気にせず、自分が挑発されて勝手に損害を拡大させたのに、あろうことかターニャに指揮下に入るように命令してくる。
「デグレチャフ中佐か!? 丁度いい! 貴官の戦闘団を私の指揮下に置く! あの女魔導士共を根絶やしにするのだ!」
「何を勝手なことを…拒否します! 既に小官の任務は完了済み。それに貴官の隊の戦闘力は半減しているではないですか。ここは退いた方が良いのでは?」
「やかましい! 貴官は私の命令を聞いていればよいのだ! この門閥貴族の私の命令をな!!」
剣で近接戦闘を仕掛けてくる女魔導士を斧で斬り殺したリューネブルクは、命令を拒否するターニャに否が応でも指揮下に入れ、戦闘を続行させようとしてくる。
「ちっ、無能め。周りが見えていないのか?」
戦闘力は高いようだが、軍人としては失格過ぎるリューネブルクにターニャは苛立つ。そこに散弾銃、ブローニングオート5を持ったシュンはターニャを見付け、魔力を込めた弾を込め、彼女に接近する。
「下等なアジア人が! 死ねぇ!!」
ターニャを見付けたシュンに、リューネブルクの大隊に属する魔導士らが攻撃を仕掛けてきたが、幾百もの戦場を潜り抜けてきた大男に敵わず、挑んだ三名が魔弾の散弾を撃ち込まれて肉塊へと変わった。
散弾銃の火力で、シュンの存在に気付いたターニャは、自分に迫って来る大男が存在Xの刺客であると気付く。
「あの威力は…! そうか、貴様が存在Xの刺客か!!」
シュンが存在Xの刺客と気付いたターニャは、邪魔な敵を排除してから容赦なく短機関銃を撃ち込む。北欧製短機関銃の連射力に、シュンは怯むことなく散弾銃の射程距離まで接近し、最大火力の魔弾の散弾を撃ち込んだ。
メアリーの父、第一の刺客であるアンソンもポンプアクション式の散弾銃を使っていたが、シュンが使うのは二十世紀に突入する二年前に天才銃器設計者ブローニング氏によって発明されたブローニングオート5である。前世でアメリカに留学した経験のあるターニャも見たことがあるが、こうして撃たれるのは初めてである。
「トレンチガンの次はオート5だと!? 存在Xめ! 戦時条約違反だ!!」
半自動散弾銃を撃ってくるシュンに、ターニャは彼を差し向けた存在Xに戦時条約違反だと怒りを燃やす。そんな彼女のことなど気にせず、条約違反な散弾銃を連射するシュンは、弾切れするまで撃ち尽くした後、再装填の為に乱戦場まで後退しようとする。無論、敵を倒すチャンスを逃すターニャではない。即座に傘下の一個中隊に追撃命令を出す。
「再装填に入ったぞ! 今のうちに奴を殺せ!!」
命令通りに乱戦場に突っ込み、追撃に入る中隊であるが、自分らを見るなりヴィクトリア魔導騎士団の女魔導士らが群がって、とても追撃できる状態では無い。
『だ、駄目です! 敵が多すぎて追撃出来ません!』
「ちっ、邪魔者どもが。数ばかりは多い! 離脱しろ、奴に殺されるぞ!」
「後ろから!」
「なにっ!?」
敵の女魔導士が多すぎて追撃が困難であると無線連絡が入れば、ターニャは後退を命じる。そんな彼女の背後から、二個小隊ほどの女魔導士が襲い掛かる。何名かがルイス・ガン機関銃を持っており、凄まじい弾幕がターニャを襲う。
理想の教官であり、上司であるターニャを守るためか、第四大隊の一小隊が魔法障壁を張り、弾幕から彼女を守るが、長時間の戦闘で二名が耐えきれずに弾幕を浴びて散った。
「ソレーヌ! よくも!」
「止せ!」
弾幕が終わった後、弾幕を耐え抜いた一人がターニャの静止の声も聞かずに二個小隊に突っ込むが、一人を道連れに先に散った二名の後を追った。
圧倒的な数の魔導士を前に二〇三大隊も被害が出る中、敵の数もさらに増加する。象徴艦の仇を取るためか、秋津洲の魔導士二個大隊も投入される。ここに長居していては、いずれか物量で圧し潰されるだろう。
「敵、更に二個大隊! こちらに接近中!!」
「ここに長居していては、いずれかは潰されるな。よし、撤退の用意だ!」
「バカ者! 退くな!! 貴様それでも帝国軍人か!?」
敵の数は増えるばかりなので、撤退すると言えば、リューネブルクは撤退するなと言って近付いてくる。これにターニャは軍人として反論する。
「何を仰います? ここに留まっていれば、連合軍に圧し潰されます。今すぐ撤退せねば、全滅しますぞ」
「黙れ! 一番階級の高いのは私だ! 撤退は許さん! ここで奴らを返り討ちにするのだ!」
そのターニャの正論にリューネブルクは狂ったようなことを言って、更には戦略的にも戦術的にも不利なのに返り討ちにするとまで言う。
即座にターニャはこの男を殺さねば、全滅する可能性があるので、敵の攻撃に見せかけて殺そうとしたが、それは異世界からの刺客であるシュンがやってくれた。
「ぐわっ!?」
「よくやってくれたな! お礼だ、受け取れ!!」
あの散弾銃でリューネブルクを撃って仕留めれば、ターニャはお礼代わりに部下らと共に砲撃術式を撃ち込んだ。
この二個中隊による包囲攻撃をシュンは避けきれず、当たる直前で腰に巻いているベルトにメダルを挿入した。この行為は爆風でターニャたちからは見えず、斃したと勘違いする。
「なんだ、ガッツに似ているからドラゴン殺しでも持ってくるかと思ったら。条約違反の散弾銃とBARだけだったとは。あれはただの悪夢だったな。サラマンダー戦闘団と他の残存部隊に通達、これ以上の戦闘は不毛である。撤退せよ!」
シュンを完全に倒したと思っているターニャはあの夢が予知夢ではなく、ただの悪夢だと分かれば、部隊に撤退を命じる。
だが、爆風の中で既にシュンは異界の魔法技術であるバリアジャケットを纏っており、自分の得物である大剣スレイブも、待機状態から元の大きさに戻していた。
「殿は私と二〇三大隊だ。気にせず全力で逃げろ! 戦闘は自衛以外に極力避け…」
「戦闘団長、あれを! 目標がまだ…!」
「が、ガッツが空を飛んでいるだと…!?」
指示を最後まで言い終える前に、ヴィーシャが叫んで指差した煙の晴れた方向を見れば、大剣スレイブを携え、黒い甲冑と黒いマントのバリアジャケットを纏ったシュンの姿がそこにあった。突如として現れた自分の知る漫画のキャラクターに似た大男に、ターニャは思わずその名を口にしてしまう。良く見れば違うが、余りにも似ている。
「さて、モノノケ退治と参るぜ」
大剣を振って調子が良いことを確認すれば、ターニャを睨み付け、一気に叩き殺そうと高速で接近した。
「なんの魔法か知らんが!」
「所詮、下等なアジア人よ!!」
リューネブルクの大隊の魔導士らが撤退命令を無視してバリアジャケットを纏ったシュンに突っ込んでいったが、彼が迎え撃つために大剣を素早く振るえば、突っ込んだ三名は一瞬にして肉塊と化した。バラバラになった彼らの血がターニャ等に付着すれば、傘下の将兵らはシュンに恐怖する。
「せ、戦闘団長…?」
「なんだこのガッツは…!? ゴッドハンドを皆殺しにして、グリフィスすら斃したと言うのか…!?」
「中佐殿!」
「てっ、撤退だ! 撤退しろ!! 各自あれとは交戦するな!!」
三人を一度に肉塊にしたシュンに、流石のターニャと二〇三大隊の者たちも死の恐怖を覚え、逃げるように撤退を始める。
かのフランソワやレガドニアを倒した二〇三大隊を恐怖に陥れ、敗走寸前に追い込んだシュンに連合国軍は調子に乗ったのか、追撃に入ろうとする。
「者ども! かの有名な大隊が敗走したぞ! 追撃のチャンスだ! 追え! 追え…」
秋津洲の佐官クラスの魔導士が追撃を先導しようとしたが、頭に大剣を突き刺されて絶命した。どうやらシュンは一人で、ターニャと戦うようだ。
「邪魔すんな、侍ども。あのモノノケは俺がやる。お前ら雑魚は下がってろ」
「きっ、貴様! やはりうらぎにゃ!?」
味方であるはずの一人を殺せば、この中にシュンを殴った上官が居たのか、手にしている小銃で射殺しようとしたが、撃つ前に素早く投げ垂れたナイフを眉間に突き刺され、絶命してしまう。自分を殴った上官を殺害したシュンは気分が晴れた後、邪魔をするなら殺すと周りに脅しを掛ける。
「すっきりしたぜ。取り敢えずだ、死にたくなかったら邪魔すんな」
殺気を放ちながら言えば、連合軍の魔導士らはその殺気に負けて引き下がった。邪魔者が居無くなれば、シュンは恐ろしい速さで撤退するターニャに迫る。
「も、目標! なんだこの速さは!?」
「馬鹿な!? ここまで来れる魔導士が居るわけが…!?」
部下からの知らせに、シュンが追ってくることに気付いたターニャはここまで追い付ける魔導士は居ないはずだと叫ぶが、現に追ってくる大男は一瞬にして大剣の間合いまで迫っていた。追い付いたシュンは直ぐに大剣を振り下ろし、ターニャを惨殺しようとする。
この斬撃をターニャがすんでのところで躱せば、大剣より発せられた斬撃は真下の海を切り裂き、その余波で水飛沫が上がる。舞い上がった海水の雨が降る中、シュンは間髪入れずに二撃目をターニャに向けて振り下ろしてくる。その大剣を振るう速さは、銃弾にも匹敵する。おそらくMG42機関銃の一二〇〇発分だ。
「どうなっている!? ガッツと一護の融合体か! 貴様は!!」
「何をごちゃごちゃと、言ってやがるっ!!」
凄まじい速さで大剣を振るってくるので、ターニャは知っている漫画のキャラクターの融合体かと言ったが、意味の分からないシュンは何度も振るってくる。
部下たちは勇気を振り絞って助けようとするが、その隙が見当たらない。むしろ助けに行けば、逆にシュンに殺されてしまう可能性がある。巻き込まれてしまうかもしれない。
「だ、駄目だ! 近付けない!」
「近付いたら、むしろ巻き込まれる!」
「あんな間合い、入るには入れない!」
「信じましょう! デグレチャフ中佐を!」
十メートルと言ったところで、斬撃の余波が飛んできた。近付いたグランツが腕を切れば、近付けないと叫んだ。これで部下全員が近付かず、上官と異界から来た剣士との対決を見守る。これにターニャは助けに来て欲しかったが、見守るだけの部下を見て腹を立てていた。これが逆に、近付くなと部下たちに捉えられてしまっていることを気付かず。
「(あいつ等、なんで助けに来ない!?)」
そんなことも気にせず、シュンはターニャを殺そうと全力で斬りかかる。
数秒間、反撃できぬシュンのマシンガンのような速さの斬撃を躱していれば、部下たちとかなり離れてしまった。目の前のターニャ以外に聞こえる者がいないと分かったところで、シュンは斬撃を止めて距離を取り、なんで幼い少女に転生したのかを問う。
「なぁ、少し聞きたいことがあんだが。なんで幼女なんかに転生したんだ?」
「そんなこと、お前に私を殺すように命じた存在Xにも聞け」
「あれか? あの横暴な神様か? 俺もあいつ嫌いだな」
「私は大嫌いだ。意見が合うな」
この問いにターニャは、弱い立場の女に転生させて苦労させ、信仰心を持たせる為だと分かっていたが、敢えて答えずに自分が嫌う存在Xに聞けとシュンに言った。
これにシュンは存在X、即ち自分をこの世界に送り込んだ神を自称する存在であると分かれば、嫌いだと答えた。ターニャも同意見である。それに免じてか、見逃してくれないかと頼み込む。
「見逃してくれないか? 奴に一泡吹かせたいのだろ?」
「あぁ、そうしたいところだが、あんた殺さなきゃこの刺青が消えないんだ。そんでもってお前、随分と今を気に入ってるな? お前、生前はロリコンだろ。気持ち悪い奴だな」
「わ、私が…ロリコン…? この私がロリコン…!?」
見逃してくれと言ったのにシュンは応じず、そればかりか幼女に転生したターニャをロリコン呼ばわりしてくる。
この言葉にターニャは大変ショックを受けた。生前は援助交際もしてないし、幼い少女に欲情したこともない。ハニートラップには引っ掛かったことはあるが、何とか自分の能力で切り抜けた。ロリコンでは無いものの、なんで生前の自分を知っているのかを、ロリコンを否定しつつ困惑しながら問う。
「な、なぜ前世の私を知っている…!? 断じてロリコンでは無いぞ! ロリコンでは!」
「あっ? そうか。俺には、お前みたいな前世の記憶を持ってる奴を見抜けられるんだ。何故だか知らんがな。お前で三人目…だったかな?」
「あんまり大した能力ではないな。でっ、お前の名前は何という?」
なんで生前の自分を知っているのかを問えば、シュンは自分の隠れた能力で分かったと答えた。その後、ターニャは自分を殺そうとする大男の名を問う。
「バートル、いや、瀬戸シュンだ」
「モンゴル人か日本人かどっちにかにしろ」
「あぁ、そうか? じゃあ、殺し合いの再開としますか!」
偽名と本名を言えば、ターニャはどっちかにしろと指摘する。これにシュンはどうでもよく、大剣による斬撃を再開しようとした。距離はあるので、ターニャは直ぐにエレ二ウム九五式を使う詠唱を行う。
「そうか! 主よ、我が前の厄災を振り払いたまえ!」
短く詠唱すれば、強力な魔弾がシュンに向けて発射され、斬りかかる大男は避けられずに命中する。
流石にエレ二ウム九五式を食らって無事に済むはずがない。ターニャはそう思っていたが、爆炎が晴れた後に現れた目前の大男には、傷一つついていない。第二の刺客、メアリーですら退けたターニャですら、絶望するしかない。
「ば、馬鹿な…!? エレ二ウム九五式だぞ! あれを食らって、無事である目標があるはずが…!?」
「それがお前の全力か? 口ほどにもねぇな。とどめ、行かせてもらうぜ」
エレ二ウム九五式が効かない自分に恐怖するターニャに、シュンは口ほどにもないと言ってゆっくりと近付く。
違い過ぎるが、あの悪夢が現実となる。
そう思ったターニャは震えて恐怖し、手にしている武器を捨てて年齢に合った少女の如く逃げようとするが、おそらく逃げられない。逃げたいと言う衝動はあるが、今から逃げてもシュンに追いつかれて惨殺されるだけだ。
逃げようとするターニャに、ある無線連絡が入る。その連絡相手は、あのドクことシューゲルである。
「こ、こんな時になんだドク…!? 私を笑いに来たのか?」
『違う。デグレチャフ中佐、いま君は神からの試練を受けているのだろう? エレ二ウム九五式が効かない敵と戦っていると見ている。こういう事態に備え、私は君に最新鋭の演算宝珠、否! この地球史上最強のエレ二ウム九九式しかあるまい!』
「ドク! 別の意味で死ねというのか!?」
『そうではない! 中佐なら必ず適合する! 嫌がっているようだが、それでは死ぬだけだ。生きたいのだろ? ならば選択肢は一つ!』
私が死ぬのを笑いに来たのかと問えば、シューゲルは否定してエレ二ウム九九式を装備するように告げる。
得体のしれない物を装備する気はないと言って頑なに断るターニャであるが、生き延びるにはその得体のしれない物を装備する他ないと言われる。
これに窮地に立たされたターニャは、シューゲルの言う通りシュンに勝って生き残るには、試験もしていないエレ二ウム九九式を装備する他ないと思ってしまう。
「クソっ、全ては筋書き通りか。存在X!」
やはりシュンを送り込んできたのは、自分に信仰心を強制的に持たせるための筋書きであると気付いたターニャは、いつものように存在Xを恨む。生き残るにはエレ二ウム九九式を装備する他ないと判断し、装備することを決断した。
だが、自分がエレ二ウム九九式を装備する時間を、歴戦錬磨の戦士であるシュンが許すだろうか?
そんな疑問を抱く中、格好の時間を稼いでくれる者が、シュンの背後から現れる。
「我がリューネブルク家の威信にかけても、貴様だけは!!」
それは散弾銃で撃たれて死んだはずのリューネブルクであった。彼は全身血まみれであるが、シュンを道連れにする精神でまだ生きているのか、雄叫びを上げながら突っ込む。
「死ねぇぇぇ!!」
「てめぇと、心中なんざするか! 一人で、死ねぇ!」
血を噴き出しながらも斧を振るい、シュンを道連れにしようとするが、当の本人には避けられるだけだ。その間にエレ二ウム九九式を持った数名の魔導士が、ターニャの元へ駆け付けて来る。
「貴様は、ベック大尉!?」
「シューゲル博士に命じられ、中佐殿にこれを輸送するようにと」
「なぜ貴官が? 貴官は国家保安本部所属では?」
「緊急事態ですので。それに私は魔導士ですので」
「そういえばそうだったな」
数名の魔導士を率いてやって来たのはあのドロテーであった。彼女はターニャの所属違いに関する問いに、緊急事態であると答えてから彼女にエレ二ウム九九式を装備する作業に入る。
シュンが瀕死のリューネブルクと交戦している間に、数人がかりの作業は直ぐに終わり、ターニャにエレ二ウム九五式を超える更なる限界突破、並の人間では決して装備できない演算宝珠、エレ二ウム九九式が装着された。
「何処も異常はありません。起動させてみてください」
「了解した」
ドロテーから装着が終わったと報告が入れば、ターニャはエレ二ウム九九式を発動させた。この試験運用もしていない演算宝珠を起動させれば、感じたこともない感覚がターニャの全身を駆け巡る。そのターニャの感覚は、まるで母親に抱かれているような気分である。
完全に起動し、エレ二ウム九九式がターニャの小さな身体に完全に同調するころには、リューネブルクは得物の斧ごとシュンの大剣で叩き殺されていた。
「ぐぇあ…」
「やっと死んだか…」
「こっちも準備ができたぞ。そこの死んで落ちてる奴のおかげでな」
しつこいリューネブルクが死んだのを確認したシュンの元へ、エレ二ウム九九式を装備したターニャが駆け寄った。
今の彼女は、あのシュンを斃せる自信に満ちている。今身に着けているエレ二ウム九九式のおかげで。そんな演算宝珠を装備したターニャに、シュンは臨戦態勢の構えを取る。
「お前、何をやった?」
「別に。神様から死んだお詫びとして、チート能力を貰っただけだ」
大剣を構えるシュンからの問いに、ターニャはエレ二ウム九九式を神様から貰ったチート能力であると答えた。
次回からは、ターニャが身勝手な極意を発動して、宇宙にまで飛び出して戦います。