「何処へ行っていた?」
「お前には関係ない!」
「親孝行だ。それより、こいつを潰すぞ」
「そんなこと、百も承知だ!」
ターニャとメアリー、シュンの三人が揃い、怪物となったシヌ・リーオとの決戦の火蓋が切られた。
初めに仕掛けたのは、メアリーからだ。父を辱めたシヌに対し、メアリーは怒りの突撃を敢行して、周囲のゾンビ魔導士を一掃する。
シヌに接近すれば、直ぐに怒りの拳によるラッシュを始める。
「お前が! お前が父さんを、父さんを辱めたのか!?」
無敵である自分に攻撃が効かないと思って余裕を見せていたシヌであったが、メアリーの攻撃は予想外であり、顔面を何度も殴られ、それが間違いだと気付いて慌てふためく。そんなシヌに躊躇と言うか、完全に怪物その物なので、メアリーは躊躇することなくラッシュを続ける。
「畳み掛けるぞ! 全隊、背後から一斉射撃、撃てぃ!!」
ラッシュを効いることが分かったターニャは、無線機を使ってこの場にシヌを射程に捉えている者たちに背後に回って一斉射撃を命じる。シュンもこれに応じ、他の者たちと共に砲撃術式による一斉射撃を行う。
シュンはバリアジャケットを纏って砲撃術式が使えないので、大剣を背中に背負っているラックに装着してコアから出したパンツァーファウストⅢを取り出し、安全装置を解除して一斉射撃に加わる。
前後方からの攻撃を受けたシヌは相当なダメージを受け、死んだかに思えた。爆風から身を守るために下がったメアリーは、斃したかと思って思わず口にする。
「やった?」
「馬鹿、言うんじゃない!」
フラグとも言えるそれを言ったメアリーに、ターニャは言うなと怒鳴ったが、フラグ通りにシヌはまだ健在であった。
『俺は、俺は不死身ダァァァ! 無敵ダァァァ!!』
「言わんこっちゃない…!」
あれほどの攻撃を受けたのにも関わらず、更にシヌの身体は受けた攻撃の分だけ大きくなっている。更には人間らしさも無くなってきた。攻撃も強力となり、周囲にレーザーを乱射してゾンビ魔導士ごと信徒軍団を一掃した。
「どんどん化け物になっていくな!」
「感心している場合か! 何か考えはないのか!?」
「だったら援護しろ!」
レーザー攻撃を躱しながらシュンが変わっていくシヌのことを言えば、ターニャは怪物退治に慣れている大剣の大男に対抗策は無いかと尋ねるが、スレイブを一度も叩き込んだことはないので、援護しろとの怒鳴り声が混じった返答が来る。これにターニャは応じ、原形を留めないシヌの頭部に狙いをつけ、M4カービンの5.56ミリNATO弾を撃ち込んで、シュンの接近を援護する。
ターニャの援護でシヌの目と鼻の先まで接近したシュンは、大剣を振り下ろして身体を切り裂いた。切り裂かれた傷口から血が噴き出す中、シュンは二撃目を入れようとしたが、反撃の振り払いを受けて吹き飛ばされる。
「ぐぉ!?」
『畜生、痛イ! ナンデ痛い!? 不死身で無敵なのに! 取り敢えず、お前は気に入らん! 死ねぇぇぇ!!』
「無茶苦茶だな、おい!」
出血は数秒もしない内に収まったが、大剣で受けた傷跡は残ったままであった。
シヌは自分は不死身で無敵だと思っていたのに、自分の身体に傷を付けたシュンに激怒し、彼にレーザーやゾンビ魔導士による集中砲火を行う。
凄まじい集中砲火に、シュンは逃げるか防ぐことしか出来ない。注意が完全にシュンに向いたところで、ターニャはメアリーの援護を頼み、エレ二ウム九五式で使った強力な魔弾を撃ち込む準備をする。
「ヘイトを稼いでくれたな。おい、援護しろ。私はかめはめ波を使う」
「かめはめ波?」
「いいから周囲のゾンビ共を片付けろ! サラマンダー全部隊へ通達、強力な砲撃術式を行う。各員、援護されたし」
『了解!』
かめはめ波を放つと言って首を傾げるメアリーに対し、ターニャは早く援護しろと言って有象無象に近付いてくるゾンビ魔導士に対処させれば、自分の部下たちにもその対処をさせる。
両手に魔力を溜め込み、精神を集中する。その間にゾンビ魔導士がターニャを殺そうと接近してくるが、メアリーにやられ、二〇三やサラマンダー戦闘団の魔導士らにやられるばかりだ。
それにターニャはシュンが大剣で切り裂いて付けたシヌの傷口が、再生せずに残っていることに気付いた。そこへこの収束砲撃術式を撃ち込めば、シヌを斃せそうだ。問題は、そこに当てるのにシヌを正面に向かせる必要があることだが。
収束中は自由に動けず、シュンかメアリーにシヌを正面に向かせるよう仕向けさせる必要性がある。直ぐにターニャはシヌと交戦しているシュンに、合図が出たら標的の怪物に正面を自分の方へ向かせるように指示を飛ばす。
「ガッツ擬き! 私が合図すればその怪物の正面を私に向けさせろ! お前の付けた傷に向けてかめはめ波を撃ち込む!」
「かめはめ波? 何言ってんだお前は?」
「収束砲撃術式の名前だ! 合図を出せば怪物の正面に私に向かせろ! 分かったな!?」
「了解であります、指揮官殿」
シュンがシヌが放つ触手を大剣で振り払いながら指示に従えば、ターニャは魔力集中に専念した。
その間にもターニャに対するゾンビ魔導士による集中攻撃は続き、やがては一人のゾンビ魔導士による突破を許してしまう。ゾンビ魔導士として復活したセヴラン・ビアントの特攻攻撃だ。突破を許した二〇三大隊の者たちが必死に撃ち落とそうとするが、今は亡き彼の怨念が死体に張り付いているのか、ターニャ諸共自爆するつもりである。この自爆攻撃に、魔力収束中で抵抗できないターニャは死を覚悟したが、意外な者に助けられる。
「ベック大尉!?」
「私、小児性愛者なので…!」
「無茶をして。ロリコンの鏡か」
ビアントの怨念による自爆攻撃をターニャから救ったのは、あのドロテーであった。魔法障壁を全開に張ったが、流石に自分の身体は守り切れずに重傷を負った。直ぐに第四大隊の残余の魔導士が彼女を回収し、戦線から離脱する。それと同時に収束砲撃術式の火力が十分になるまで溜まったので、ドロテーの犠牲を無駄にしないために、ターニャはシュンに向けて合図を出す。
「今だ! 奴を正面に!」
「応よ!」
ターニャからの合図に、シュンはシヌを彼女から見て正面に向かせた。その時間は僅か数秒、ターニャはこの一瞬のチャンスを逃すことなく、直ぐに収束砲撃術式を、シヌの身体にできた傷跡に向けて放つ。
「さらば、オリ主。生まれ変わったら、真面な人間になれ! クソ野郎!!」
自分の所為だとは思わず、周りの所為ばかりにする人物に腹を立てる人間であるターニャは、怒りに任せて収束砲撃術式を発射。正面でターニャと目と合ったシヌは反撃しようとしたが、間に合わず、ビームのように放たれた収束砲撃術式をシュンが斬り付けた傷跡に受けた。
戦艦の主砲ですら弾くシヌの鋼鉄の身体は、切り裂かれて再生して出来た傷跡は脆かったらしく、砕けて背中まで貫通する。そのビームを受けたシヌは、全身を走り渡る痛覚で絶叫し、地面へと落下していく。
『グァァァァ! アァァァァ!!?』
「これでようやく…!」
「今のが最終形態であってくれ…」
絶叫しながら大地へと落ちていくシヌを見て、ターニャは今しがた斃したのが、最終形態であること祈ったが、その祈りは届かず、祈る先である神が、シヌが最終形態と変貌したことを知らせる。どうやって斃せるか分からない程に巨大化し、元の姿が想像できないほどの禍々しい姿へと変貌を遂げたのだ。
『待て! 奴はまだ斃せていない!!』
『グォォォ!! 最強! 無敵ィ!!』
「なん…だと…!?」
「あ、アルマゲドンだ…!」
この世の物とは思えぬ禍々しい巨大な怪物に変貌を遂げたシヌにターニャは驚愕し、一同はこの世の終わりが来たと思い始める。シュンを除いてもう誰もが終わりだと思っており、神に祈りをささげる者まで続出している。ターニャもアニメでしか見たことが無い超巨大な怪物に、自身が嫌う神に縋り付きたいと思い始める。無理もない、渾身の一撃が、あの怪物を呼び起こしたのだから。
「ど、どうすれば…?」
数多の困難を乗り越えてきたターニャでさえ、あの怪物を一目見るだけで対抗策が浮かび上がらなかった。メアリーでさえ、震えて動揺している。この世界の誰もがこの世の終わりが来たと思っていたが、シュンはあのような巨大な怪物と交戦した経験でもあるのか、ベルトのコアから一応ながら盗んでおいた巡航ミサイルを取り出し、それを怪物に向けて投げ込もうとする。
当然、コアからそんな物を出したシュンにターニャが指摘せずにはいられず、何処から巡航ミサイルを調達してきたと問う。
「巡航ミサイル!? 貴様、何処から盗ってきた!?」
「ブラックマーケット」
「もうツッコミ切れん…」
ブラックマーケットで調達したとシュンが答えれば、おそらくソ連崩壊後に流出した物であると分かれば、ターニャは頭を抱える。そんな彼女を他所に、シュンは巡航ミサイルを槍投げの如く、巨大な怪物と化したシヌに向けて投げつけた。
「こんだけデカけりゃ当たるだろ! そいっ!」
槍投げのように、標的に向けて投げ込まれた巡航ミサイルは見事に命中し、凄まじい爆発を轟かせた。爆風が巻き起こり、周囲のゾンビ魔導士が吹き飛ばされる中、ターニャの無線機にシューゲルからの連絡が入る。
尚、目標は巡航ミサイルの直撃にも関わらず、未だに健在であった。奥の手のミサイルも効かなかったので、シュンは苛立つ。
『デグレチャフ中佐、聞こえるか!? 私だ! ドクだ!』
「こんな時に何の用だ? この世の終わりと言って、今までの非礼を詫びにでも来たか?」
『そんなつまらない物ではない。中佐、そのエレ二ウム九九式には、私が知らぬ世界を救う力があるはず! その力を使うのだ!』
「おいおい、作った本人も分からぬ機能だと? たくっ、どうなるか分かっていってるのだろうな?」
『あぁ、分からぬとも。だが、これに賭けなければ、世界は終わってしまう! 頼む、デグレチャフ中佐。世界を、この世界を神に代わって…』
この世の終わりだと分かり、自分に謝罪の言葉でも述べるために連絡してきたかと思ったが、それをつまらないと評し、自分が知らない機能を使って世界を救えと言ってきた。
もう飽きれて怒る気もないターニャは自分らしくもなく、存在Xに対する復讐心などどうでも良くなり、元からそのつもりであると答え、致命的である開発者が結果を知らない機能を使った。
「元よりそのつもりだ。私らしくないが、もうどうでも良くなってきたな。どうなるか、試しに使ってやるか…」
躊躇わず、その機能を使えば、奇妙な感覚が全身を走り、そして白く発光し始める。
「(な、なんだこの感覚は…? まるで母親に抱かれているような心地の良い感覚…! 誰かに感謝したくなる…そう、あの…)」
その言葉の後にターニャは光に包まれ、彼女の意識は遠のいた。この場に居る一同はそれを見て驚愕し、祈りをささげる者までいる。果たして、ターニャはどうなったのであろうか?
ターニャは開発者であるシューゲルも知らない機能を使用し、全身を光で覆われて数分後、世界の終わりから一変、希望に満ち溢れた天使が降臨した。
巨大な醜い怪物となり、自我さえ喪失したシヌは、神々しい輝きを放つその天使に攻撃を行うが、天使に向けて放った邪悪な魔力を込めた触手は塵と化す。その天使には、闇を打ち消す光の魔法を常に放っているようだ。
シュンを除く者たちは、奇跡が起きたと思い、救世主が来たと思って歓喜する。
「おっ、おぉぉ…! き、奇跡だ! 奇跡が起きたぞ!」
「救世主様だ! 救世主様が降臨なされた!」
「おぉ、神よ…! 貴方に感謝いたします!」
この救世主なる天使に、信徒軍団は存在Xに感謝する。二〇三の者たちも同様であり、救世主を使わせた神に感謝の言葉を述べていた。ヴィーシャは救世主である天使を、ターニャだと分かり、彼女のことを完全に天使だと思い込んでいる。
「や、やっぱり悪魔ではなく、神が我々の世界に使わした天使だったのですね…! デグレチャフ中佐は!」
このヴィーシャの言葉に、他の二〇三の者たちも同意する。ある意味で間違ってはいないが、当の彼女はその神を嫌っているのだが。
なぜヴィーシャがあの救世主兼天使がターニャであると気付いたか、いつも直していないアホ毛である。今の彼女の容姿は幼女ではなく、急成長を遂げて完全に大人であり、天使の特徴である羽も生えている。身体つきもシュンが息を呑むほどに良くなっていた。ヴィーシャが言わなければ、誰も気付かなかっただろう。
開発者の知らぬ機能を使い、精神汚染が進んで完全に自身の嫌う存在Xの僕となったターニャは世界の敵、即ち神を自称する存在Xの敵である
「主よ、今この世界を破壊せんとする怪物を、貴方様に代わりこの私めが斃します! 我にその邪悪なる力を打ち砕く神聖なる力を与えたまえ!」
もうそこには存在Xを嫌うターニャは居ない。自棄を起こしたターニャは、完全なる存在Xの僕となったのだ。自身が嫌う存在Xの僕となったターニャは、邪悪な怪物となって自我を失ったシヌに向け、神聖なる力を解き放つ。
神々しく、なんて輝かしい。誰もがそう思うほどの攻撃だ。その神々しい光を浴びたゾンビ魔導士は一瞬にして消滅し、
それと同時に、戦争やシヌによって汚された大地の緑は回復した。まるで戦争前のような光景を、この大陸に蘇らせる。兵器の残骸は緑で覆い尽くされ、まるで過去の残骸と化す。折れた木々も瞬く間に再生して、砲弾で吹き飛ばされる前の状態となる。奇跡だ。それしか言いようがない。
『ぐぉぉ…』
邪悪な怪物、シヌが完全に塵と化す頃には、フランソワ西部は元の緑豊かで美しい光景へと戻っていた。西部だけではない。戦場となって荒廃した中央欧州全土でもこの奇跡のような現象が起き、みるみる内に自然を回復させた。更に大地だけではなく、海の環境も回復させる。沈んだ軍艦から漏れ出た重油は消えていき、元の美しい海へと戻る。何ということであろうか。ターニャは荒れ果てた大地でさえ救ってしまったのだ。後にこの現象は、奇跡の日と呼ばれ、歴史に記された。
人類だけでなく、大地をも救ったターニャと言うか天使に、生ある者たちは祈りをささげた。
そんな者たちに答えようとした天使であったが、力を使い過ぎたのか、光に包まれて消滅したと言うか、元の幼女に戻って大地へと落下していった。
「おっと!」
落ちていくターニャを拾ったのは、シュンであった。今のターニャは一糸纏わぬ姿であり、シュンは黒いマントを手ごろな大きさに裂いて、彼女の全身を赤ん坊のように包む。顔だけを出している状態で包まれたターニャは目を覚まし、シヌと世界はどうなかったを、自分を抱えているシュンに問う。
「お目覚めか? 天使様」
「おい、世界はどうなった? この世の終わりか?」
「いや、救われたよ。あんたのおかげでな」
「私のおかげ? 何を言っている? 私はただ自棄を起こしただけさ。でっ、何だこの包み方は?
世界がどうなったかを問えば、シュンは目の前に広がる光景を見せてターニャを納得させた。
今、ターニャの目の前に広がるは、戦争とは無縁の世界だ。緑豊かで、硝煙の匂いもしない綺麗な空気。それを目撃した両軍の将兵は戦闘行為を止め、その光景に目を奪われる。
「これを、私がやったのか?」
「お前以外に誰ができるんだ?」
「スマンが、覚えていない」
「元通りってわけだ」
この光景を、自分が作り出したのかと問うターニャに、シュンはそうだと答える。だが、当の本人は何も覚えていない。どうやら精神汚染が酷過ぎたのか、力を使い過ぎたのか、先の天使としての記憶が飛んでしまったようだ。天使から元の幼女に戻ったターニャに、シュンは元に戻ったと口にする。
そんな二人の元へ、二〇三の者たちが集合して彼女を迎えにやって来る。
「戦闘団長殿!」
「お前たちか。犠牲者は?」
自分の元へやって来た部下たちに、ターニャは犠牲者はどれくらい出たかを問う。
「我が二〇三には負傷者はいますが、犠牲者はおりません。ですが、サラマンダー戦闘団傘下の…」
「分かっている。では、帰ろうか。ゼートゥーア閣下に報告せねば。おい、ヴィーシャに」
二〇三には負傷者以外は出ていないと答えたが、サラマンダー戦闘団傘下の部隊はほぼ壊滅状態であったようだ。特に第四大隊は、一個中隊規模にまで減少している。
残っている彼女らを見たターニャは帰投すると答え、シュンに自分をヴィーシャに渡すように告げる。赤ん坊のように包まれたターニャが、ヴィーシャの手に渡れば、シュンは復讐の旅に戻るべく、何処かへと去っていく。
「何処へ行く?」
「俺も元に戻るのさ。達者でな。生きてさっきみたくに成長しろよ」
「元よりそのつもりだ」
「追わなくて良いので?」
「追わんで良い。奴は帝国の敵ではない」
呼び止めれば、元の道へと戻るとシュンは答え、生きて成長するように言ってから去っていった。ターニャも幼女のままではいられないらしく、そのつもりだと答える。部下からシュンを追撃しなくて良いのか問われれば、帝国の敵ではないと答えて諦めさせた。
「さて、我々も戻るとしよう」
神を知る者が言えば、信徒軍団も元の場所へと戻っていく。アルビオンと秋津洲の連合軍、帝国軍もあの蘇った大地を汚したくないのか、撤退を開始する。
「これで世界は救われた…! でも、戦争は終わるのかな? 私も帰らないと」
メアリーも父の形見である短機関銃を見ながら、これで戦争が終わると思っているようだが、残念ながら終わりはしない。原隊へ戻るべく、メアリーは空高く上昇して帰っていった。
「俺は最強…あれ? 生きてる?」
シュンと両軍が去った後、緑豊かな大地の上で全裸で横たわっていた一人の男が目を覚ました。
その男の名はシヌ・リーオ。天使となったターニャに浄化されたはずであるが、何故か生きていた。生きていたことに驚き、やや動揺は覚えたが、こうして生きているのだから、全く反省せずにまた好き勝手にやろうと思い、立ち上がって近くの民家を探す。
「はっはっはっ! 俺は生きてるぞ! 俺の物語はまだ終わってないってことだよな! よし、まずは服を探さないと!」
あれほどの惨事を引き起こしたのにも関わらず、この男は一切反省せず、近くの民家に押し入る。
「おい、服を出せ! 俺は帝国軍人だ! 占領下の人間は大人しく…」
味方を数十名どころか、数百人も殺したにも関わらず、シヌは帝国軍人と名乗って民家より服を徴収しようとした。だが、民家の住人が出してきたのは、熊手の先端であった。
訳も分からず、熊手を腹に突き刺されたシヌは、血を吐き出しながら何をするんだと言うが、付近の住人達も彼を惨殺せんと殺到してくる。
「な、なにを…?」
「怪物を殺せ!」
「悪魔だ! 悪魔を殺せ!!」
「や、止めろ…! 誰を刺して…っ!? へやっ!? やめて! 助けて!」
腹を刺されたシヌは命乞いをするが、周囲の住人たちは聞く耳持たず、彼に熊手や何やらを突き刺して惨殺した。
こうして、シヌは完全に死んだ。
帝国軍の公式記録によれば、シヌ・リーオ大尉はライン戦線で名誉の戦死を遂げたと言うことだけが記されているだけである。後の歴史書も同様で、ただ名前だけが載っていが、やがては消えた。そればかりか、誰も彼のことを調べようともせず、ターニャより先の転生者であるシヌ・リーオは、世界を破滅の危機に陥らせた罰として、人々から忘れ去られた。
次回で最終回です。
最後のシヌ・リーオの末路は、原作Wed版の毒袋さんの末路です。