幼女戦記 ターニャの優雅なる後方勤務   作:ダス・ライヒ

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後方勤務が決まったターニャのすることはまず一つ、それは、優雅にアイススケートの女子選手の如く踊るのだ!


幼女は華麗に舞う

 参謀本部の執務室にて、ターニャ・フォン・デグレチャフを二〇三大隊ごと取り上げられた参謀本部の面々の一人であるクルト・フォン・ルーデンドルフは、怒り任せに勲章を授与したことを知らせる新聞を床に叩き付ける。

 

「全く元帥殿にも困った物だ! あのガキの言う事を鵜呑みにしやがって! 戦局よりも皇帝陛下のご機嫌取りが大事か!」

 

「そう怒るな。我ら帝国の長である皇帝陛下(マイン・カイザー)からの直々の命令だ。陛下に忠誠を誓った我ら帝国軍人は、いかなる理由であろうと、従わざる負えない。例え、負けるような命令であろうとな」

 

 作戦の要である二〇三魔導大隊を取られて怒りを露わにするルーデンドルフに対し、ハンス・フォン・ゼートゥーアは自分等の帝国の長である皇帝陛下の命令は絶対だと答える。

 確かに自分等は皇帝が収める帝国の軍に属し、絶対的な長である皇帝に忠誠を誓った軍人だ。皇帝からの命令は絶対服従と決めているが、勝てる戦いを勝てなくする命令には従えない。

 今は戦況を考えて従ったが、次は例え首が飛ばされようが、左遷されようが従ってやる物か。

 敬愛する皇帝陛下ですら、最高総帥会議の者達と同様に現実味の無さを知ったゼートゥーアは、苛立ちを抑えるために葉巻を咥え、火を点けるルーデンドルフをしり目に心の中で思う。自分が首脳部から嫌われていることは知っていたが、まさかこんな暴挙に出るとは思わなかったようだ。

 次にゼートゥーアは二〇三大隊無き攻勢作戦で、二〇三以上の活躍をして成功に導くと豪語したフリードリヒについて、当の本人から聞いたレルゲンに成功するかどうかを問い掛ける。

 

「レルゲン大佐、君の先輩はデグレチャフ中佐無しでも、自分が居れば成功すると豪語していたが、本当のところはどうかね?」

 

「五分五分と言った所です。自分はフリードリヒ先輩を敬愛しておりますが、正直、焦っているように見えます。デグレチャフ中佐より前から実戦を経験しておりますので…」

 

「フン、嫉妬か。私も彼の功績は認めている。周りに親の七光りと言われながらも実力で周囲を認めさせ、コネ無しで大佐まで昇進した。だが、今回の件は頂けないな。人間、何かしらの欠点があるが、皇太子殿下は身の程知らずのようだ。嫌っている筈の親の権力を使って自分の活躍の場を設け、作戦の成功率を半数ほどに下げた。全く、妄想の中で済まして欲しい物だ」

 

 レルゲンより聞いたフリードリヒの印象に、ゼートゥーアは彼を嫉妬に駆られた身の程知らずの男と判断した。

 実力は物語の主人公のように有能と言っても過言ではないが、ターニャの活躍ぶりに焦りを見せ、禁じ手である親の権力を使って自分の活躍の場を無理に設けたことで、自分を嫌っている帝国首脳部と同類と思うようになった。

 

「だから言ったのだ。あの小僧は周りがもてはやす程、つけ上がると。皇室はこれだから困る」

 

「そう言えば、前から親の七光りだと嫌っていたな、貴殿は。実績の所為で、自分なら出来ると思い上がるようになったのだろう」

 

 ルーデンドルフはフリードリヒの事を前々から嫌っており、つけ上がって更に嫌いになったと話す。

 彼のフリードリヒに対する嫌悪感に、ゼートゥーアはいささか賛同する。彼ら帝国軍の頭脳からしてみれば、若者が積極的なのは助かるが、思い上がって自分等がこれまで積み上げた物を崩すことは許すことは出来ない。

 どうにか作戦開始前に、ターニャと二〇三大隊を戻すことが出来るかどうかゼートゥーアはルーデンドルフに問う。

 

「とにかく、デグレチャフ中佐と彼女の大隊は作戦の要だ。何とか戻すことは出来んか?」

 

「無理だな。あの元帥殿にそれを要請したが、卿等は英雄を死なせ、軍の士気を低下させるつもりかと門前払いされた。我々はその新しく制定された勲章など知らされておらんのだがな」

 

「はぁ。我らの陸軍司令官殿は皇帝陛下の機嫌を損ねるのが怖いらしい。自分なら作戦を成功させられると豪語すると仰っている皇太子殿下の奮戦に期待するしかないな」

 

 皇帝の機嫌を取るのに必死な陸軍司令官は出来ないと答えるルーデンドルフに、ゼートゥーアは大口を叩いたフリードリヒに期待する他ないと口にした。

 

 

 

 参謀本部が自分等の何の断りも無しにターニャと二〇三大隊を引き抜いて皇帝と最高総帥会議に不信感を抱く中、当のターニャと言えば、新しい勤務先に着いた。

 

「中佐殿、到着しました」

 

「ご苦労。ここが新しい配属場所か。豪邸だな」

 

 将校用の乗用車から降りたターニャは、見るからに豪邸な屋敷を見て呟く。次に他の大隊の者達は何所に行ったのかを案内役の連絡将校に問う。

 

「他の者達は何所に?」

 

「付近の士官用兵舎に送りました。下士官は隣の方へ」

 

「そうか。私の副官は?」

 

 兵舎に居ると分かれば、その次に副官のヴィーシャは何所に居るのかを問う。

 

「いえ。ここでは彼女が副官です」

 

 その問いに連絡将校は、屋敷から出て来た女性士官に手をかざしながら彼女が任地の副官であると答える。察しの良いターニャは、直ぐに新しい副官が監視役であると見抜いた。自分の部下を他の兵舎に回したのは、明らかに自分を孤立させるための方便だ。これで監視が容易になって楽だろうなと、ターニャは心の中で思う。

 

「監視役か」

 

「はっ?」

 

「いや、独り言だ。それにしてもデカいな」

 

 この言葉に反応した連絡将校に対して独り言だと答え、紛らわすために新たな副官の身体つきを見て呟く。

 彼女はふくよかと言うか、まるで男の妄想を体現したかのような体型であり、顔立ちも整った美女だ。軍属で無ければ女優か、または愛人、貴族令嬢と言った所だろう。

 

「はい。任務で無ければ、共にベッドを共にしたいです」

 

「それはセクハラだぞ、中尉。まぁ、黙っててやる」

 

「すいません!」

 

 うっかり欲望を漏らした連絡将校に、聞かなかったことにしたターニャは、新しい副官に向けて挨拶する。

 

「軍本部より命令され、ここに着任することになったターニャ・フォン・デグレチャフ陸軍中佐だ。貴官が私の新しい副官か?」

 

「はい、ドロテー・ベック陸軍大尉です。ここではセレブリャコーフ中尉に代わり、私が副官と言うことになります。お荷物の方は私の部下に運ばせます」

 

「ご苦労。では、この豪邸の案内をして貰おうか」

 

「はい」

 

 ドロテーと名乗る新たな副官は、荷物を部下に運ばせたと告げる。事実、彼女の部下と思われる者達が、屋敷内へとターニャの荷物を運んで行く。

 これにターニャは礼を言って、自分の勤務地の案内をするように命じれば、ドロテーは美しい笑顔で応じ、小さな前線指揮官を屋敷内へと招いた。

 

「では、自分はこれで」

 

 役目を終えた連絡将校は、将校用の車に戻って自分の持ち場へと戻った。

 一時間余りで屋敷内を案内されたターニャは、前世の経験からして屋敷のほぼ全ての構造を理解した。

 自分が暫く滞在する屋敷の構造を理解したターニャは一人になれる部屋である客室を指差し、そこで一人にしてくれないかとドロテーに頼む。

 

「大体わかった。一人にしてくれないか? 前線勤務が長引いていてな、少しリラックスしたい」

 

「えぇ。風呂を沸かすように言って来ます」

 

 その要望にドロテーは応じ、風呂を用意をさせてくると言ってからこの場を後にした。

 誰も居なくなったのを確認したターニャは、客室のドアを開けて十分な広さがある事を確認した後、近くにある蓄音機にレコードをセットし、電気を着けて蓄音機を動かす。レコードに針を乗せれば、レコードに録音された曲が流れる。録音されているのはクラシック音楽だ。ここに置かれていると言う事は、苛立つ心を落ち着かせるためと、待ち時間を潰すための物だろう。

 ターニャはその音楽に合わせ、念願の後方勤務が決まったことを表現する喜びの舞を軽やかに踊り始める。

 時には舞って、時には回り、奏でられる曲に合わせて年相応の少女のようにターニャは踊る。その姿は日々鍛錬し、観衆の前の舞台で美しく踊るダンサーの様だ。

 これが戦時の客室では無く、平時の観客でいっぱいになった劇場の舞台であれば嬉しいのだが、残念ながらこの少女は魂は純粋な少女では無く、冷徹で慈悲も無い現実至上主義者の男の記憶を持ったまま幼き少女に転生した魂である。

 

 彼を転生させた存在Xなる者は、虐げられる弱者や、不要とされて淘汰される者に対する慈悲の心、そして神に対する信仰心を持たせるために、この地獄のような世界へと転生させた。

 不運に死した彼を存在Xは哀れみ、ターニャと言う幼き少女に転生した彼に圧倒的な力を与えた。これが存在Xの最大の誤算と言える。

 この力を得たターニャは、生前の記憶であるエリートサラリーマンの手腕を駆使して士官学校を首席で卒業。初陣では重傷を負うも、その功績を称えられ、戦死者しか授与できない銀翼勲章を受章。更に戦果を上げ続け、この世界では初の部隊単位となる魔導大隊を結成。念願の後方勤務は叶わず、不運に見舞われながらも、右肩上がりで戦勲を立て続け、兵科の混成部隊である戦闘団団長まで至る。

 最後には現実の世界では一人しか受賞できなかった最高位の勲章、黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を授与された。

 男尊女卑の時代の女としての不遇で、女性や子供に対する慈悲の心を少しは持ったターニャであるが、生前の記憶から信仰心を持つことは無かった。

 これに業を煮やした存在Xは、連続して不運や新たな戦争をターニャに振りかけるも、彼女は決して屈することなく払い続けるばかりだ。

 

 存在Xが折れたか、それとも新たな戦線を作るためか、ターニャは遂に念願の後方勤務を勝ち取ることが出来た。後は成果を上げて大佐に昇進し、一気に参謀将校としてのコースを歩むだけである。

 

「見たか存在X! このクソッタレな世界にも私の味方が居たぞ!!」

 

 この後方勤務を与えてくれたフリードリヒを、ターニャは自分を転生させた存在Xに向けて味方であると天井を見ながら告げた。

 フリードリヒは自分が戦果を挙げたいがため、邪魔となるターニャを父である皇帝に頼んで後方に下げたのだが、彼女はこれを地獄から天国へと引っ張り上げてくれた救世主と捉えている。その理由には呆れたが。

 しかもフリードリヒは皇帝の息子である皇太子だ。もしかすれば、フリードリヒの伝手で近衛兵連隊の中隊長か大隊長になれるかもしれない。

 

「参謀将校は絶望的だが、あの皇太子殿下に認められれば、近衛兵になれる可能性がある! 私が魔導近衛兵と言う兵科を作ってみせるぞ! 無論、魔導近衛兵大隊長は私! 残念だったな、存在X!」

 

 参謀将校への道は、参謀本部より睨まれて不可能とも言えるが、自分には首都防衛を務める近衛兵の道があると自分を転生させた存在Xに告げる。近衛兵連隊は皇帝と首都ベルンを守るための部隊だ。戦況が悪化しない限り、前線に出されることは無い。

 既に枠は埋まっているだろうが、幸い近衛兵連隊内には魔導兵は存在しない。新しく魔導大隊を創設すれば、枠が増える可能が高い。無論、その大隊長は自分である。

 安全なる後方勤務への道を開いて見せると、存在Xに豪語するターニャであるが、周囲の時間が止まり、自分も動けなくなる。

 

「っ!? 来たな!! 何所だ!?」

 

 この現象はあの存在Xが来たと言う事だ。直ぐにターニャは唯一動く眼球で、何を使って存在Xが語り掛けて来るか見渡す。

 

『その様子だと、まだ信仰心は芽生えていないようだな。あれだけのお膳立てをしてやったのに』

 

 存在Xは、壁に掛け掛けてある絵画から語り掛けて来た。

 顔の形が変えられないターニャであったが、直ぐに動けるようになったので、声が聞こえた絵画に眼球を向けて反論する。尚、周りの時間は彼女を除いて止まったままだ。

 

「ふん、その程度で信仰心など芽生える物か! それと色々と聞きたいことがある! 私と同等の魔力を持つ少女、あれは貴様の差し金か?」

 

 自分をこの地獄のような世界に転生させた権化である存在Xに対し、色々と聞きたかったターニャは、まず父の仇討ちをすべく、自分と対峙したメアリー・スーについて問うた。

 これに存在Xは包み隠さず、メアリースーに力を与えたのは自分であると答える。

 

『然り。貴様が打ち倒したアンソン・スー同様、仇討ちに燃える娘、メアリー・スーに力を与えたのは創造主たる我だ。全てはお前に信仰心を芽生えさせんがため』

 

「私に信仰心を持たせる為に、貴様は他人の人生をも狂わすのか? 神が聞いて呆れる!」

 

『なんとでも言うが良い、人間。全ては貴様が信仰心を持てば、あの親子は復讐に身を焦がさずに済んだのだ。これも全て人間、貴様の責任だ』

 

「私の所為だと…!? 貴様、やはり腐っているな!」

 

 自分に信仰心を持たせるために、人の人生すら狂わすのかと怒りを露わにするターニャに対し、存在Xは全てはターニャの責任と告げる。

 余りの理不尽極まりない答えに更にターニャが怒りを覚え、存在Xを腐っていると言えば、その創造主を自称する存在は動ずることなく信仰心を持つように説き続ける。

 

『最初から貴様が信仰心を持てば、争いはとうの昔に終わっていたのだ。それと次に聞きたいことは何だ? 何なりと答えよう』

 

 例えどんな目に遭わされようが、お前には絶対に従わないし信仰などしないと答えるターニャに、存在Xは次に聞きたいことを問う。

 

「何を言っても、私は貴様を信仰などせんぞ。次は私が本国勤務になったことだ。まさか、これも貴様の仕業ではあるまいな?」

 

『左様。銃後に行きたがっていた貴様に信仰心を持たせるため、その願いを叶えてやったが、それでも貴様は信仰心を芽生えることは無かった』

 

「ほぅ、通りで後方勤務がすんなり決まったわけだ…これも貴様の仕業だったと言うことか…!」

 

『味方が居るとでも思ったか? 貴様は孤高なのだ』

 

 後方勤務、それも本国の方に転属が決まったのは、存在Xの手による物だと知って、ターニャはこの世界に味方は誰一人と居ない分かり、更に憎き存在に言われて消沈する。

 そんな弱り切ったターニャに対し、存在Xは抗うのを止め、創造主たる自分に対して信仰心を持つように囁く。

 

『人間よ、貴様が我に対し抗うのを止め、信仰心さえ持てばこの孤独感から救われる。人は孤独には生きられぬ。誰かの存在が必要なのだ。人間、前世でも今世でも分かり切っている筈だ。抵抗を止めよ…!』

 

 抵抗を止めて自分に従えと告げる存在Xに、更に怒りの炎を燃やすターニャは抗う。

 

「黙れ腐れ邪悪な外道め! たかが一人に信仰心を持たせるために、戦争を長引かせるクソッタレな神を、誰が信仰してやるか! それでも私は否定し続けるぞ! 不条理で自分を維持する貴様をな!!」

 

 存在Xを戦争で自分を維持する邪悪な存在であると中指を立てながら啖呵を切ったターニャに、事実なのかそれとも腹を立てたのか、創造主を自称する存在は激怒する。

 

『ぬぅぅ…! いくら寛大な我でも、貴様の言動を許してはおけん…! 禁じ手であるが、貴様に異界よりの刺客を使わす。その者の圧倒的な力を前に、貴様は泣いて見っとも無く命乞いをし、頭を垂れるであろう! だがその者は、例え幼子のお前であろうと容赦なく大剣の刃を貴様に振り下ろす冷酷で非情な心を持つ剣士! 幼子のフリをしても無駄だぞ! その時が来るまで、精々余生を楽しむが良い!』

 

 怒る余り、自身が禁じ手とする異界からの刺客を送るとターニャに宣告した。

 その刺客は存在X曰く、幼き少女ですら手を駆ける冷酷で非情な剣士である。剣士であることから武器は剣、それも大剣なことををべらべら喋ってくれるおかげで分かったが、肝心の容姿と性別は不明だ。外道な男か、それとも冷酷なる女である可能性もある。

 アンソン・スーやメアリー・スーに次ぐ第三の刺客が来ることが分かったターニャが、それに備えるための迎撃策を考える中、存在Xは依代にしていた絵画から消え、周りの時間が動き出した。

 

「間抜けにも喋ってくれて助かったよ、クソ存在X。さて、相手は大剣使いか…まさかガッツかクラウドが来るのではあるまいな…?」

 

 第三の刺客が大剣使いだと分かり、第一、第二と退けて来たターニャは近くのソファーに腰掛け、大剣使いがどんな容姿か想像し始める。

 

「いや、容姿を考えても無駄だ。直接見なければ分からんからな。今は奴がくれた後方勤務を満喫しつつ、その対抗策を練るとしよう」

 

 しかし、直接対峙しなければ、どんな容姿か分からない。今は存在Xがくれた後方勤務を満喫しつつ、同時並行で対抗策を練ることにしたターニャは、ドロテーが来るのを待った。




次回は後方勤務を満喫しつつ、毒袋ことメアリー・スーの活躍。地雷オリ主による共産主義者(非党員の村人を含む)大虐殺。第三の刺客をお送りします。
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