幼女戦記 ターニャの優雅なる後方勤務   作:ダス・ライヒ

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新キャララッシュだな…


幼女の新兵訓練

 とある戦場にて、ターニャ率いる二〇三大隊は大剣を持った黒ずくめの大男一人に壊滅状態となっていた。

 数多もの戦場を渡り歩いてきた部下たちが、たった一人の大男の大剣で次々と惨殺されていく。大隊の中で戦闘力の高いヴァイス、グランツ、ケーニッヒ、ノイマンでさえ、あの大男が振るう大剣の餌食と化している。

 この光景を、ターニャは震えながら見るしかない。否、そうでしか無かった。余りの恐怖で身体が動けないのだ。

 

「せ、戦闘団長殿…助けて…!」

 

 大男の大剣で斬られ、微かに息があったヴァイスだが、直ぐにトドメを刺されて絶命する。

 

「戦闘団長殿! 指示を!!」

 

 魔導兵用のライフルを撃っていたヴィーシャはターニャに指示を請うが、未だに恐怖で固まっているままだ。それに大剣の大男には、どんな攻撃術式も効かない。見えない壁の前で、全てが弾かれているのだ。

 そんなターニャに容赦なく、大剣の大男は左腕のガントレットにボウガンと使用する矢を付け、彼女らに向けて発射する。

 

「戦闘団長殿! 早く指示…」

 

 放たれた矢は容易く防御術式を貫通し、指示を請うヴィーシャは側頭部に矢を受けて即死した。

 

「中佐! ご指示を! 中佐ぁぁぁ!!」

 

 残る部下たちも無数に放たれる矢の嵐の前に倒れ、残りはターニャのみとなる。

 

「うっ!? うぅぅ…!」

 

 一人残ったターニャは生き延びるため、切り札であるエレニウム九五式を使用する。これを使用すれば、存在Xの影響で強制的に祈りの聖句を唱えてしまう。

 使う度に存在Xに対する信仰心が芽生えてしまうので、普段は九五式の廉価版であるエレニウム九七式を使用している。

 

「神っ!? グゥゥ!?」

 

 だが、祈りの言葉を口にする前に大男に首を掴まれ、大きな右拳を口に突っ込まれる。

 自分は幼気な幼女だぞ!

 そう訴えたいところだが、今は手に腕を突っ込まれて言えず、大男は容赦なく喉まで手を突っ込み、自分の体の中まで手を入れ込む。

 

「(や、ヤバい! 死ぬっ!!)」

 

 血が噴き出しても大男は、容赦なく腕を心臓まで伸ばしてくる。ターニャは何とかして大男を引き剥がそうとするが、自分の力ではどうする事も出来ない上、強大な魔力も使えない。

 やがて大男の右手が心臓まで届くと、大男は容赦なく幼女の心臓を掴み、思いっ切りその心臓を引き抜いた。

 

「グボボ…ゴバッ! ガガァァ…」

 

 心臓を口から引き抜かれたターニャは、大量に吐血しながら地面へと落下していく。心臓を手に入れた大男はそれを懐に仕舞い、何処かへと去って行く。

 大きな手を突っ込まれた挙句、心臓まで引き抜かれたターニャはもはや生きる事すら敵わず、そのまま死を迎えようとしていた。

 

「(もうだめだ…! こんな所で、私は…!)」

 

 空へ手を伸ばそうとするが、その手は届くことなくターニャの意識が途切れた。

 

 

 

「わっ!?」

 

 悪夢に魘されていたターニャは目を覚まし、辺りを見渡して、自身がベッドの上に居て、ここが寝室であの悪夢では無い現実のものであると確信した。

 息を荒げ、暫くして呼吸を整えたターニャは窓を見て、起床時間に近い朝であると分かる。

 

「そろそろ起きるか」

 

 二度寝をすれば、夢の中でまたあの大剣を持った大男が自分を殺しに来るので、ターニャはベッドから出ようとした。

 

「ん? おいおい、そこまで許可を出した覚えはないぞ…!」

 

 ベッドから出ようとした時、隣にあのドロテー・ベックが寝ていることに呆れた。

 彼女の寝間着はもはや男を誘って共に寝るような物で、かなり透けている。前世の自分ならハニートラップと判断して寝室の戸締りをしっかりしたが、今の自分の副官代理だ。

 後で起きるだろうと思って、ターニャは起こさぬようにベッドを出て、朝の身支度を始める。

 

 数分後、世話係がこの屋敷に出勤したのと同時にドロテーが目を覚まし、素早く身支度を済ませ、少々の運動をターニャと共に行ってから朝食に入る。

 何度も言うようだが、帝国はターニャの前世であるドイツを模した国家だ。ドイツ文化であり、食や生活文化もドイツその物だ。

 ドイツの朝食はフリューシュトックと呼ばれ、冷たい食事が定番で、主に調理していない物を食べる。そして午前十時にコーヒーブレイクと言う二度目の朝食をする。ドイツの食文化は昼食が主流であり、夕食は朝と同じく冷たい食事か、昼食の残りを食べる。前世で日本で暮らしていたターニャであるが、十数年も生きていれば慣れてしまった。

 

「まぁ、前線の食事よりはマシだな」

 

 何カ月ぶりに真面な飯にあり付けたターニャは、前線の軍用パンやら冷めたスープ、具が少ないシチューの事を思い出し、この後方勤務を与えてくれた帝国の皇太子、フリードリヒに心から感謝する。

 今ごろは兵舎に送られた部下たちも、このような食事を取れて満足しているだろうと思い、ターニャは士官学校で習った作法で朝食を取る。

 朝食も終え、ドロテーより今日のスケジュールを聞かされようとした瞬間、この豪邸を訪ねる者の知らせであるチャイムが鳴った。

 

「何者だ? まさか…!」

 

「あっ、お待ちを!」

 

 自分を訪ねる人物は参謀本部のゼートゥーア達に違いないと思ったターニャはドロテーの静止の声も聴かず、玄関へと直行した。

 前線での急な要請にも迅速に応じられるように鍛え上げられた幼女は、瞬く間に玄関に辿り着き、ドアを開けて自分を訪ねてやって来た正体を確認する。その人物は、ターニャに取って思いがけない者であった。

 

「やぁ、デグレチャフ中佐。朝からすまんな。貴官がシェーンハウゼン皇太子殿下より後方勤務を命じられ、この地に着任したと聞いてな。ここは是非とも新しい新型、エレニウム九九式のテストを貴殿に頼み…」

 

 その人物は、ターニャがマッドサイエンティストと嫌うアーデルハイト・フォン・シューゲル。帝国きってのエレニウム工廠の主任技師であった。

 彼はターニャの着任先を自分の権限を使って見付け出し、彼女以外には扱えないエレニウム九五式を更に上回る自身の最高傑作であるエレニウム九九式のテストをやらせようと、屋敷に押しかけて来たのだ。

 無論、ただでさえ危険なエレニウム九五式が採用されないのに、更にそれを上回る危険な代物実験を自分にやらせようとするシューゲル博士に対し、ターニャは最後まで聴かずに即座に玄関のドアを閉めた。

 突然、何の返答も無しに即刻断られたシューゲル博士は、固く閉じられたドアを叩いて、ターニャ以外に頼めないと嘆く。

 

『なっ、何故ドアを閉ざすのだ!? 中佐! 貴官以外にこの演算宝珠は扱えん! 他の者はそれを皆恐れて応じず、逃げてしまうのだ! 貴官以外に居らん! 頼む!!』

 

「当たり前だ! 九五式を上回る更に危険な代物の実験を誰がすると言うのだ!! 良く考えろ!!」

 

 存在Xの介入でようやく扱えるようになったエレニウム九五式を更に上回る九九式と言う物に、ターニャは今度こそ確実に死ぬと判断した。九五式と同じく、存在Xの介入で扱えるようになれば、今度こそ奴の従属になりかねない。

 だからこそターニャは、シューゲル博士の誘いを断固として断り、ドロテーに今後のスケジュールを聞いた。

 

「おい、早くスケジュールを!」

 

「あっ、はい! 二週間ほどワルキューレ航空魔導連隊の第四大隊の訓練です!」

 

「よし、出発だ! 主任技師殿には憲兵を付けてお帰り願え!」

 

「はっ!」

 

「裏から出る! さもなければしつこく付き纏われる!」

 

 新兵訓練だと分かれば、直ぐにターニャはドロテーに憲兵隊を呼ぶように命じて、裏から出ると言った。

 数分後、ドロテーの要請に応じて憲兵隊が駆け付ければ、玄関のドアを叩くシューゲル博士を抑えて連行しようとする。

 

「主任技師殿、直ちにお帰りを!」

 

「は、離せ! 私はデグレチャフ中佐に用があるのだ! 彼女でなければ、彼女でなければエレニウム九九式が! 離すんだ!!」

 

 二名の憲兵に抑えられながらも、自身の最高傑作であるエレニウム九五式に次ぐエレニウム九九式の完成させようと、成功の要因であるターニャに必死に頼み込もうとするが、シューゲル博士は装着者の安全など考えていないので、彼女は応じるはずが無い。と言うか絶対に応じるはずが無いのだ。

 そんなシューゲル博士の嘆きを無視して、裏に回しておいた士官用乗用車で、ターニャは現在の副官であるドロテーと共に、自分が訓練を担当するワルキューレ魔導連隊第四大隊が待つ演習場へと向かった。

 

 

 

「傾注! 大隊長殿だ!」

 

 演習場へと辿り着けば、事前に連絡して演習場に先着していたヴィーシャとヴァイス等を初めとした二〇三魔導大隊の面々が、ターニャ等を出迎えた。

 整列して待っていた部下たちに、止まった乗用車から降りたターニャは敬礼を交わす。

 

「諸君、ご苦労。よく眠れたか?」

 

「はい、絶好調であります! 久々に真面な飯にあり付け、全員が満足の極みです!」

 

「本当に美味し過ぎて、頬っぺたが落ちちゃいそうです」

 

 ターニャが後方、それも安全な本土の快適ぶりを問えば、ヴァイスは意気揚々に答え、食い意地が張っているヴィーシャは大変満足したと答える。

 

「あぁ、それは結構。諸君、後方勤務に入って早々に新兵共の訓練だ。前線で生き残れる、敵の更なる脅威となるように。しっかりと鍛え上げるように」

 

 会話も終わった所で、ターニャは部下たちに新兵訓練を行うことを告げれば、早速、自分の隊が訓練を行う新兵らを見るために演習場の中央へと向かった。

 新兵らが集合している区画に向かう中、ターニャの部下たちであるヴァイスやグランツ、ケーニッヒにノイマンはどんな新兵が居るのかと喋り始める。

 

「なぁ、新兵共はどんな顔付きだろうな?」

 

「ワルキューレ魔導連隊と言うからには、女だ。あの連隊の構成員はみんな女だからな」

 

「あぁ、可愛い子だろうな」

 

「だな」

 

 野戦服のまま魔導兵装を背負い、会話を弾ませながら新兵らの居る区画へと向かう一同であったが、次にターニャの新たな副官であるドロテーの話題に入る。

 

「ヴァイス大尉殿、ベック大尉殿はどうです?」

 

「えっ、ベック大尉の事をどうだって? そりゃあ、まぁ…暴力的だな…!」

 

 ノイマンに聞かれたヴァイスは、彼女の胸の事を見てから答える。

 

「あぁ、確かに暴力的ですな。いや~」

 

「あれに顔を埋めたいってか? あぁ、確かに埋めたいですね」

 

「おい、貴様ら。聞こえてるぞ」

 

『はい!』

 

 ドロテーの胸の事で話題になる中、それをターニャは聞こえていたのか、一同を注意した。

 そんな事もあって、新兵等で編成されたワルキューレ魔導連隊第四大隊の区画へと辿り着いた。

 待ち構えていたのは、完全装備で整列した多国籍(主に帝国に負けた国家群からの強制的徴兵)の魔導兵三個中隊分の新兵等であったが、聞いていた四つ目の中隊、それも中隊長以外の全員の姿が無かった。直ぐにターニャはその一個小隊が何所に居るのかを、第四大隊の大隊長に問う。

 

「少佐、貴官の大隊の第四中隊はどうした? 中隊長以外、居ないでは無いか」

 

「そ、それが…大尉! 貴方の中隊は何所なの!?」

 

「まっ、まだ…更衣中であります!」

 

「ドレスでも着てるのか? たくっ」

 

 大隊長が件の第四中隊の長に問えば、彼女はまだ更衣中だと答えた。これにターニャは軍人なのに時間通りに来ない第四中隊の面々に苛立つ中、残り三個中隊の隊員等が、中隊長や大隊長が慌てふためいているのに、笑っているのを見逃さなかった。

 ターニャの部下たちである二〇三大隊の面々は、直ぐにこれはイジメであると見抜く。

 

「おい、これって?」

 

「あぁ、いじめだな。俺も受けたことがあるよ。まぁ、イジメてた奴全員、前線で戦死したけどな」

 

「そんな事があるのか…!?」

 

「まぁ、大尉殿の方じゃありませんからね。見てていい気分じゃ無いっすよ」

 

「えぇ、そんなことするの…!?」

 

 まさか軍の訓練でイジメをする奴が居るなんてと、ノイマンの経験で驚く中、遂に第四中隊の面々、レガドニア協商連合からの徴収兵らが訓練兵が着る白い作業着で現れ、急いで第四中隊長の背後に整列する。

 

「あんた達! なんで遅れたの!? それとその装備は何!? 無くしたの!?」

 

「そ、それが…」

 

 予定時刻を大幅に過ぎて現れた隊員らに対し、上官である中隊長がヒステリックに怒鳴る中、ターニャは他の中隊の隊員等が嘲笑っているのを見逃さず、直ぐに彼女らが犯人であると見抜いた。

 幾ら協商連合が大戦の切っ掛けを作ったとは言え、流石に同じ釜の飯を食う仲になった者達にやるのかと、ターニャは自軍の装備を破壊した彼女らを睨み付けた。

 もう少し様子を見た方が良いとして傍観していたが、犯人らであるフランソワ共和国からの徴収兵の一人が調子に乗ったのか、勝手に前に出て来てレガドニアの徴収兵等を除隊させるべきだとターニャに訴えて来た。

 

「中佐殿、彼女らレガドニアからの徴収兵等は使えません。いっそのこと、前線の兵の慰み者にしたらどう…」

 

「ほぅ、貴様らか? 我が軍の装備を破壊したのは」

 

「えっ?」

 

 レガドニア兵等の装備を破壊した正体が分かっていたターニャは、そのフランソワ兵に問い掛けた。

 なんで気付いたかと、フランソワ中隊の面々が顔を真っ青にする中、ターニャは調子に乗って前に出て来た彼女の前に立つ。

 

「フン、バレないかと思ったか? マヌケめ、自分等がやりましたと顔に書いてあるわ」

 

「ち、違…」

 

「違うだと? 個人的にやるならまだしも、まさか我が帝国の装備を破壊するとは…貴様、自由共和国を自称するテロリストだな? ん? どうした?」

 

 幼女な筈のターニャに破壊工作員の疑惑を問い詰められたフランソワ兵の女性は、幼女とは思えぬ彼女の問いに、恐怖を覚えて泣き始める。

 フランソワ中隊のみならず、他の中隊の隊員等や大隊幹部らも、ターニャから発せられるオーラを感じ、鳥肌を立てて恐れた。

 

「ほぅ、簡単に口を割らぬと。だが分かっている。奴らが貴様のようなマヌケを工作員をするはずが無い。それにこんな辺鄙な場所を狙わず、軍事工場や軍の主要施設を狙うだろう。よって貴様の工作員の容疑は晴れた。安心して良いぞ、お嬢さん」

 

「畳みかけるぞ…!」

 

「あぁ、これで許すはずが無い」

 

 破壊工作員じゃないとターニャが言えば、フランソワ兵は肩を撫でおろして安心しきったが、戦場で共に暮らしている二〇三大隊の者達はこれで終わらせるはずが無いと知っている。

 直ぐにターニャは、フランソワ中隊の面々を許すことなく、そればかりか、連帯責任として第四大隊全員を罰する。管理と教育する側である中隊長や大隊長も含めてだ。

 

「だが貴重な装備を、あろうことか感情的な妬みから破壊したことは許さん! よって大隊全員、完全装備でグラウンドを三十周せよ! 中隊長並び大隊長を含めてだ! ついでにレガドニア! 貴様らもだ!! 国家反逆罪に問わないことを寛大に思え!!」

 

『えぇぇ!?』

 

「ほら、こうなった」

 

「あぁ、可哀想。あの子たち」

 

 大隊全員が驚く中、二〇三の面々は予想通りの結果になったと口にする。

 自分等が身に着けるはずであった魔導兵のジャケットをズボンを含めて切り裂かれ挙句、連帯責任として走らされるレガドニア兵らを、ヴィーシャは案じた。

 フランソワ中隊の責任なのに、なんで自分等も走らされることになるのかと、大隊長は直ぐにターニャに問う。

 

「な、なんで私たちまで!? そもそもの原因はフランソワの…」

 

「少佐、これは貴官の部隊だ。その長である貴官が、真面に部隊を統制できないのは問題だぞ? それに貴族として恥ずべき事ではないか?」

 

「で、でも! あれはあの敗戦国の奴らが…!」

 

お嬢さん(フロイライン)。否、このメス豚が!! 言い訳をしている暇があったら走れ!」

 

 第四大隊の大隊長は貴族の令嬢であったが、ターニャは身分関係無しに罰し、凄い剣幕でグランドを走れと言われれば、生命の危機を感じて泣きじゃくりながらグラウンドを走った。

 大隊全員も従わなければターニャに殺されると思い、言われた通りにグランドを走り始める。

 この区画のグラウンドは航空魔導兵用ともあってか大変広く、ここを三十周もするなど、陸軍の精鋭歩兵レベルだ。下手をすれば死人が出かねない。

 そこを走らされることになった女性である彼女らがやれば、どうなるか分かった物ではないが、ターニャの選別を生き延びた二〇三大隊の面々は彼女らの身を案じたのか、除隊を進めるよりも、あろうことかやり遂げるように促す。

 

「おい! 脱落するな! どうなるか分からんぞ!!」

 

「みんな! 気を保って! 私たちにも出来たのだから、貴方達も出来るはず!!」

 

 異常な光景だ。下手をすれば死者が出る地獄のランニングを、脱落しないように外野が応援している。

 この光景を見ていたターニャはやり過ぎたと首を傾げる中、二〇三大隊は一応ながらの訓練を行う。日が沈み、ワルキューレ航空魔導連隊第四大隊の訓練は、グラウンド三十周と言う所で終わってしまった。

 

「これはまだ序の口。明日からは本格的に行く。帝国に対する忠誠心を見せよ!」

 

『はい、大隊長殿…!』

 

 訓練が終わり、台の上に立ったターニャが訓示を行えば、疲れ切った彼女らは死人のような表情を浮かべて宿舎へと帰って行った。

 明日や明後日からも一日目のグラウンド三十周レベルの訓練が第四大隊に課せられるが、脱落すれば死ぬ、戦友となる者をイジメれば死ぬ、部隊長としての責務を果たさねば死ぬと思った彼女らは、ターニャの課題を死ぬ気で熟し、前線に出ている連隊本隊を越える程の精鋭部隊として成長していく。

 二週間の最終日には、最初の面影は当に無く、二〇三レベルの精鋭部隊と化していた。

 

「ハイル・デグレチャフ!」

 

『ハイル・デグレチャフ!!』

 

 最終日の訓示を行うために、訓練所へ顔を出せば、もう既に第四大隊は整列を終えており、カーリン・フォン・ギュンター大隊長が右腕を斜め上に突き出すと言うナチス式もといローマ式を敬礼を行えば、大隊の彼女らも同じ敬礼をターニャに向けて行う。

 

「おい、やった方が良いかな?」

 

「やらなきゃ駄目だろ」

 

 同じく整列していた二〇三の面々も、第四大隊と同じくローマ式の敬礼をターニャに向けて行う。

 そんな敬礼をされたターニャは、ナチス・ドイツの総統であるヒトラーのように崇められて複雑な気分になり、顔を引きつらせる。

 

「(なんだこいつ等、私をヒトラーかラインハルトでも思っているのか?)」

 

 そう心の中で思いつつも、台の上に立って訓示を行った。

 

「諸君は一通りの訓練を終えた。私が最初に見た時は、諸君ら第四大隊は連隊のごみ溜めであったが、今や前線に出ている連隊の者達と肩を並べられるほどに成長した。ここまで成長してくれた諸君らに、私はここに敬意を表する。誇っても良い! だが、諸君らはまだ実戦を経験していない。そこで、実戦さながらの演習を行う! 演習相手は実戦を経験している空軍の第五〇三航空魔導大隊だ! これまで諸君らが学んだことを生かし、もうごみ溜めでない事を証明しろ!」

 

 第四大隊の訓練の最終日は、創設されたばかりの空軍の航空魔導大隊との演習であった。

 当初は予定になかったが、ターニャが申請して空軍からの許可を得たので、ヘルゲ・フォン・リューネベルク大佐率いる大隊が演習を引き受けてくれたようだ。

 もう自分たちはごみ溜めでは無い。それを演習で証明せよ。

 ターニャに命じられた第四大隊は、ローマ式の敬礼を行って返答した。

 

『ヤヴォール!』

 

「(まさかこれ程まで成長するとは…! 二週間前は殺そうと思ってたのに、これはツンデレと言う奴なのか…!?)」

 

 自分でもどうしようも無いと思っていた彼女らが、結束の高い部隊にまで成長したことに、当の訓練を施した本人であるターニャも驚いていた。

 特に仲が悪かったフランソワ中隊とレガドニア中隊の面々は、まるで恋人同士のように仲が良くなっている。流石にそこまで仲良くする必要は無いんじゃないかと、ターニャはやや困惑しながら思う。

 悪役令嬢に等しく、いざとなれば自分一人でも逃げ出しそうなギュンター嬢まで、まるで精鋭部隊の長の風格に等しい物となっている。

 そのごみ溜めから精鋭に成長したことも知らず、門閥貴族のリューネブルク大佐率いる空軍の魔導大隊の面々が、嘲笑うために訓練所へ訪れる。

 

「ほぅ、これが戦乙女の名を騙る品の無い小娘の集まりか。諸君、我々の今回の演習は移動標的が相手らしい。悲鳴を上げるようだが、遠慮なく射撃せよ!」

 

「ハッハッハッ!」

 

「(あぁ、こいつは…ご愁傷さま)」

 

 相手が的同然だと思い、勝ったと判断して笑い声を上げる門閥貴族将校等に、ターニャは呆れた。




ヘルゲ・フォン・リューネブルク
 帝国の門閥貴族にして、陸軍に属する魔導兵にして大佐であったが、創設された空軍に移籍してそこでも大佐となっている。
 部下たちも軒並み空軍に転属し、新しく戦力を補充して大隊となった。
 決して無能では無い。ただし、煽り耐性は無い。
 外見のベースは銀河英雄伝説のOVA版ヘルマン・フォン・リューネブルク。

カーリン・フォン・ギュンター
 帝国の貴族にして陸軍所属の魔導兵。階級は少佐。
 実戦はある程度経験しており、中隊を率いていた。
 女性だけで編成された魔導部隊、ワルキューレ航空魔導連隊が編成された際には、その経験を買われて予備の第四大隊の大隊長に抜擢された。
 悪役令嬢みたいな性格であったが、ターニャの教育で立派な士官になる。
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