幼女戦記 ターニャの優雅なる後方勤務   作:ダス・ライヒ

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JKハルは異世界で娼婦になったを読み終えたよ。

ちょっと、物足りない部分があるが…読んでよかったと思う。
物書きなら、こういうのも読んでみるのも一環だぜ?


幼女の休暇その3

 ターニャの休暇が三日目に突入しようとする中、東部戦線では帝国軍によるルーシー連邦の首都、モスコーに対する攻勢が遂に開始された。

 先に魔導士を初めとする航空部隊が出撃し、集結や編成を終えた戦車を初めとした機甲部隊は列をなして全身を始める。

 その数は大軍と言っても良いくらいだが、防衛側のルーシー連邦の軍隊である赤軍は三倍である。

 少しでも数を減らして陸戦部隊の負担を減らすべく、強力な魔導士と航空部隊が先に仕掛けるのだ。

 

「旅団長殿、お先に!」

 

「応ッ! 死ぬなよ!」

 

「当然でしょう!」

 

 敬礼して先に飛んで行く魔導師に対し、フリードリヒは敬礼を返して死なないように元気よく告げた。

 続々と魔導師や航空機が飛来し、空を埋め尽くさんとする中、フリードリヒの突撃魔導旅団もその戦列に加わろうと出撃する。

 

「よし、今度こそ戦争を終わらせるぞ! 手加減は不要だ! 最後のつもりでやれ! 全軍出撃せよ!!」

 

『おぉぉぉ!!』

 

 先にフリードリヒが部下たちを鼓舞して飛び立てば、部下たちも一斉に彼の後へ続いて飛んで行く。

 凍てついたルーシーの大地を、帝国軍やそれに加わった反共産十字軍の軍勢が音を立てながら進む。空も埋め尽くさんばかりの魔導師や航空機も進軍していた。

 攻勢が開始された報告は、直ぐに監視していた赤軍の偵察隊にも知れ渡り、彼らは無線機を使って攻勢が開始されたとの報告を直ぐに行う。

 

「こちら赤い星! 敵は攻勢を開始セリ! 繰り返す、攻勢を開始セリ! 赤い星は帰投する!!」

 

 無線機で短く報告すれば、持ち帰られない無線機を破壊し、直ぐに偵察隊はエンジンを掛けていた雪上バギーに飛び乗り、味方の陣地まで逃げようとするが、飛んでいた反共産十字軍の魔導師に発見され、攻撃を受ける。

 

共産主義者(コミー)の偵察兵だ! ぶち殺せ!!」

 

 一人が発見して報告すれば、一斉にバギーに乗って逃げる偵察隊に殺到して弾丸の雨を浴びせる。

 これにバギーの後部座席に座る短機関銃を持った偵察兵は対空射撃を行うが、空を飛ぶ魔導師に拳銃弾が通じるはずが無く、バギーごと破壊されるか、撃ち殺されるだけだ。

 赤軍の偵察隊は味方の陣地に辿り着くことなく、反共十字軍の餌食となった。

 

「大佐殿、敵の偵察隊に発見されました。妨害電波も出していません。どうします?」

 

「構わん、このまま進め。どうせ攻勢に出ることなど知られている」

 

「はっ! 各隊、損害に構わず前進しろ! 勢いで踏み潰せ!」

 

 部下から偵察隊に報告されたと知らされたが、フリードリヒは攻勢が始まる前から赤軍に知られていると捉え、構わず前進しろと告げれば、部下はそれを傘下の隊に伝える。

 こうして、後に戦史の一つとして記憶されるモスコーの戦いが始まった。

 

 

 

 モスコーに対する攻勢が開始されたころ、三日目の休暇の朝が始まり、ターニャは朝食とモーニングコーヒーを嗜んでいた。

 それが終われば着替えを終え、軍人としてはもはや生活の一部と化した運動を行い、シャワーを浴びる。この日は何故かワルキューレ魔導航空連隊の第四大隊の何名かが豪邸に来ていた。

 浴室でシャワーを浴びていると、同じく運動を終えた彼女らが入って来る。

 

「なぜここに来ている?」

 

「貴方に恩返しがしたくて」

 

 シャワーを浴びているターニャは、なぜ来ているのかを問う。これにフランソワの魔導師であるソレーヌは、恩返しをしたいと答える。

 どうやら各中隊の代表者が来ているようだ。フランソワ中隊からはソレーヌを初め、レガドニア協商連合の中隊からはミア、他にはダキアとイルドアの志願兵だ。大隊長は事務作業で忙しいので来ていない。

 

「でっ、なにをする?」

 

 恩返しと聞いてか、何をするのかをシャワーを浴びて服を着た後に問えば、彼女らは薄着で現れた。これにターニャは呆気にとられ、自分は女であると告げる。

 

「おい、なんだその服装は? 私は女だぞ?」

 

「えぇ、こうすれば良いと言われまして…では、マッサージを行いますね」

 

「(何所の風俗店だ? と言うか誰が教えたこんなことを?)」

 

 彼女らの恩返しとは、薄着でマッサージをすると言う物であった。これにターニャは生前の記憶でこの手の店の事を思い出し、誰が教えたのか気になったが、大人しく彼女らのマッサージを受ける。

 柔らかいベッドの上に腹ばいになり、大人にも老人にも成長していないのに、彼女らの何所で習ったかのマッサージを受け、ターニャは生前の感覚となって気持ち良くなる。

 

「ん~、このマッサージ、何所で習った?」

 

「イルドアの者から習いました。彼女からもマッサージを受けております」

 

「そうか。良い出来だ、戦後はマッサージ師にでもなるのだな」

 

 マッサージを行うソレーヌに、ターニャは戦後はマッサージ師をやると良いと告げる。ダキアの徴収兵とイルドアの志願兵は心地いい風を送るためか、大きめの羽を使ってターニャに風を送っている。残っているミアは、何かお礼をしなければならない使命感に囚われてか、胸元のボタンを外して自分の豊満な胸を露出させる。

 この行動にターニャは、まずますその手の店に近いのか、止めろと注意する。

 

「それは止めろ。マジで風俗店になる!」

 

「えっ、でも…私も何か…」

 

「良いから。取り敢えず、何か飲み物を持って来い!」

 

「わ、分かりました…」

 

 ターニャに注意されたミアは直ぐに胸元のボタンを掛け直し、言われた通り、飲み物を持ってくるために浴室を出る。

 それと同時なのか、ターニャにとっては思わぬ人物が浴室へと入って来ようとする。

 

『っ!? 大丈夫…ですか…?』

 

『だ、大丈夫です! では、失礼を!』

 

「この声はまさか…!? おい、服を持って来い! 大至急だ!」

 

 参謀本部では聞き慣れた若い男の声に、ターニャは直ぐに青年将校であるレルゲンと分かり、急いで部屋に居る三名に服を持ってこさせるように慌てる。

 三名が急いで持って来たのは予め用意されていた外出用の服であり、それもターニャが嫌がりそうなデザインの物であった。

 当のレルゲンは薄着の状態で出て来たミアに驚いていたが、いつもの冷静さを取り戻してか、話が出来るかどうかを聞いてくる。

 

『デグレチャフ中佐、話が出来るか? レルゲンだ』

 

「くそっ、寄りにも寄ってまたこれか! 仕方がない! ただいま!」

 

 急いでその服を着て浴室を出れば、直立不動状態を取ってレルゲンに向けて敬礼を行う。

 

「何用でありましょうか? レルゲン大佐殿!」

 

「あっ、後方勤務を命じられた貴官の様子を確かめに来ただけだが…所で、薄着の女性が出て来たのだが…あれは一体…?」

 

 子供らしさ全快の服を着て用件を聞いてくるターニャに、何処かの令嬢なのかと勘違いしたレルゲンであるが、先の薄着のミアのことを思い出し、顔を赤らめながらあれは何なのかと問う。

 

「いえ、決してやましい事ではございません。それだけは絶対にないので」

 

「無論、承知している。貴官が決して、決してそのような…店のような…何でもない」

 

「(なんだこいつ、童貞か? いや、そんなわけないな。この手の男が童貞など…ブッ)」

 

 これにターニャはそんな事はしてないと答えれば、レルゲンは何を想像したのか、恥ずかしがりながらそうじゃないと信じていると告げる。

 変に顔を赤らめながら言うので、ターニャはレルゲンは童貞ではないかと思ってしまったが、心の中で絶対童貞じゃないと思い、本命を問う。

 

「まぁ、そんな話は置いておき、何用で来られたので? 様子を見に来る為にお越しになるなど…」

 

「あぁ、貴官に知らせる、いや、知らせるべき事があったのだ。遂にアルビオンが本格的に動き出した。秋津洲の遠征艦隊を加えた連合艦隊だ。既に海軍はレガドニアに駐留していた二個艦隊を出撃させた。潜水艦隊も対処に当たっているが、対潜水艦対策を取られているから微々たる物となるだろう。上陸に備えて配置している西方軍も臨戦態勢を取って展開している。我々は背中を今、刺されようとしている…!」

 

「なんですと…!?」

 

 レルゲンより、アルビオンが強力な援軍を得て本格的に動き出したと聞いたターニャは、また前線に送られると直ぐに分かった。

 悪夢の二正面が始まったのだ。それも宣戦布告もしないで全く動かなかったアルビオンが秋津洲との連合艦隊を伴い、東部でモスコーに対する攻勢が開始されたとの同時に、帝国の領土となったフランソワ西部に迫っている。本国に駐留している部隊も、出動要請が来るだろう。

 

「驚くのはそれだけでは無い。爆撃機の大編隊が本国に迫っているとの情報がある。狙いは恐らく我々の心臓部である工業地帯…! 陸海空の同時攻撃だ…!」

 

 驚いた表情を見せるターニャに、レルゲンは更に大型爆撃機による大編隊が帝国の心臓部である工業地帯にまで迫っていることを知らせる。

 本土空襲にターニャは直ぐに自分の世界に存在した大型爆撃機、B-17フライングフォートレスを思い出した。あの巨人機の大群による爆撃、名付けて戦略爆撃はナチス・ドイツの工業力を低下させ、連合軍の勝利を速めた戦略方である。

 今の東部で限界に近い状態である帝国の工業地帯が大型爆撃機の大編隊による大空襲を受ければ、瓦解することは間違い無しである。

 これにターニャは自分に信仰心を持たせるためだけに、戦争を続ける存在Xに対する怒りを更に積もらせる。

 

「艦隊攻撃から上陸、それに本土空襲…! この三方同時攻撃にベルンの方はさぞ大混乱でしょうね…!」

 

「あぁ、ゼートゥーア閣下もこれには頭を悩ませておられる。それで、貴官はやってくれるか? 情報では、この地方にも敵の爆撃機の編隊がやって来ると予想されている。狙いは演算宝珠を生産する工場だろう。ここも焼かれる可能性もある」

 

 ターニャがこの三つの同時攻撃にベルンの首脳部は混乱していると言えば、レルゲンはあのゼートゥーアが悩んでいると答える。そのついでにここにも爆撃機が来る可能性があると言うと、ターニャはリリーの事を思い出す。

 平和しか知らないあの子が暮らすここを、戦火の炎に包まれることを思うと、心がいたたまれない。

 自分は出世しか興味が無いが、リリーと共にいると、戦争に巻き込みたくないと思って来る。この優しさは性転換した所為であろうか?

 そんな考えは後ですることにして、レルゲンに本当は前線に戻るように説得しに来たのだろうと問う。

 

「そうですか。そんな話をすると言う事は、私に前線に戻れと言う事ですね?」

 

「あぁ、そうだとも。この我々の背中を刺すアルビオンの攻勢、数が分からない以上、総兵力五十万程度の西方軍では対処が難しい。幸いにも、先輩の我が儘のおかげか西には貴官が居る。貴官とその二〇三大隊以外、この状況を打開できる適任者は居ないだろう。頼めるか?」

 

 その問いに、レルゲンはターニャの言う通りであると答えれば、リリーに対して約束を破ってしまう事を謝らなければならないと思い、会って謝る時間は無いかと問う。

 

「僅か一カ月間の後方勤務も終わりか…それで、少し時間がありますか?」

 

「あぁ、敵は攻勢を開始されたばかりだ。防衛戦の方は暫く持つだろうが、爆撃機の方はお手上げだ。数は多いが、時間はある。心の準備か?」

 

「いえ、歳の近い友達との約束が果たせないので。小官が謝りに行こうかと」

 

「貴官に、友達だと…!? 歳が近い友達が居る…だと…!? 聞き間違いか…!?」

 

「いえ、聞き間違いではありません。その歳の近い友達に会って謝りたいのです」

 

 西方に配置されている方面軍が頑張り、爆撃機の大編隊の到着もそれほど早くなく、時間はあると答えれば、ターニャはリリーに会って謝ると答えた。

 このターニャの返答は、レルゲンを混乱させた。何せ歳が近い友達が居て、約束までしていて謝ると言ったからだ。

 あの性格なので、ターニャには歳が近い友達は居ないと思っていたようだが、本人の口から友達がいると言う言葉が出たので、妄想の友達ではないかと再度レルゲンは問う。

 

「済まない、もう一度聞く。その友達は…妄想の…」

 

「失礼な、妄想ではございません。れっきとした十四歳の少女です。ここに来るまでに聞いていないので?」

 

「…聞いていない。失礼した」

 

 妄想の友達と言われて少し腹を立てたのか、ターニャは生身の友達であると言い返せば、聞かずに押し掛け、レルゲンは眼鏡を掛け直して謝罪した。

 

「とにかく、そのフロイラインに謝りにいかねばならんのだろう。急ごう、私も同行する」

 

「着替えを…」

 

 疑っていたことを謝罪したレルゲンは、ターニャの友達を一目見たいと思ったのか、同行すると言えば、彼女は着替えてから行こうとする。だが、ドロテーに止められる。

 

「そのままで良いんじゃないですか? 謝ってから着替えれば良いじゃないですか」

 

「大尉の言う通りだ。着替えるのは謝ってからだ」

 

「えっ? 軍服の方が…」

 

 着替えてから行きたいと言うターニャに、二人は聞かずに出掛ける準備を始める。

 

「車を回しておきました。一分後に到着するかと思います」

 

「ご苦労、大尉。では、玄関に向かおう」

 

「(おい、お前ら。人の話聞けよ)」

 

 話を聞かない二人に、ターニャは心からツッコミを入れた。それと同時に薄着のミアが飲み物、オレンジジュースを持ってくる。無論ながら、薄着のミアを見たレルゲンは驚愕する。

 

「お飲み物をお持ちしました!」

 

「ご苦労、丁度いいタイミングだ」

 

 トレーに載せられたオレンジジュースを手に取り、持って来たミアに礼を言って喉を潤す。

 顔も身体つきも良過ぎる彼女の薄着を見たレルゲンは、浴室で何をしていたのかと眼鏡を掛け直しながら問う。

 

「貴官は浴室で一体なにを…」

 

「ただのマッサージですよ。大佐殿が考えているような、やましい事はしておりません」

 

「そ、そうだな。では、全部飲み終えた時に行こうか」

 

 この問いにジュースを一口飲んでから答えれば、レルゲンは冷静さを装ってジュースを飲み終えたら出掛けるぞと言って、先に玄関へ向かった。

 

 

 

 

 ジュースを飲み終え、用意された乗用車に乗ってリリーとの待ち合わせの場所へ着いたターニャとレルゲンは降り、車に乗って来たことに驚く彼女の元へ向かう。

 約束は工場見学の後にしており、この公園で待ち合わせをしていた。ターニャはまた疲れる羽目になると思っていたようだが、良いコーヒーを入れる店を知っているとリリーが言うので、また遊ぶことを約束してしまった。だが、その約束は動き出したアルビオンの侵攻で果たせなくなった。

 ターニャはレルゲンを伴って謝罪に来たのだ。

 

「あれ、車で来たの? 今日は張り切ってるね! そんなにコーヒーが楽しみなの? それに…誰…?」

 

 気合を入れて来たと思っているリリーに対し、ターニャは少し躊躇ってから謝る。

 

「すまない、リリー。約束は果たせない」

 

「えっ、何その喋り方…? お父さんの、マネ? 新しい冗談?」

 

「違う、これが本当の私だ、リリー。私は帝国陸軍参謀本部所属サラマンダー戦闘団団長、ターニャ・フォン・デグレチャフ中佐だ。兵科は魔導師、連合軍からはラインの悪魔などと呼ばれている。君には旅行に来た貴族の子女と偽ってすまない。私は親知らずの私生児であり、孤児院で育った。だが孤児院は貧乏だ。でも、幸い私には多大な魔力があった。満足に食うためには軍人になる他ない。この国では、魔力を持つ貧乏人はそうする他ないのだ。本当に君には、心から申し訳ないと思っている」

 

「ちょっと、何言ってるの? ターニャちゃんみたいなのが軍人な訳がないでしょ? あんなの、軍隊のプロパガンダ…」

 

 本当の自分を打ち明けたターニャであったが、聞かされたリリーは余りにも信じられない。目の前の幼女が軍人であるなど、リリーにとっては夢物語過ぎる。それに幼女の英雄など、軍のプロパガンダだと思っている。

 親知らずの私生児で孤児院育ち、その孤児院は貧乏であるために食事に困っていたが、多大な魔力のおかげで軍と言う職業に着け、飯には困らなかったし、高度な教育を受けてることが出来た。

 聞かされているリリーはまるで作られた物語のようで、信じられない。

 そんな彼女にこれが事実であると伝える為、レルゲンが前に出て口を開く。

 

「プロパガンダでは無い。事実、彼女は幾度の実戦を行い、我が帝国(ライヒ)に勝利を齎して来た。フロイライン、彼女は実在するのだ。軍のプロパガンダが作り出した偶像の英雄では無い、君の目の前に居るのは本物の英雄なのだ」

 

「…アハハハ、軍人さんまでそんな事言って、何かのドッキリって奴なの…?」

 

「ドッキリでは無いさ。ありのままの事を話している。君が混乱するのは分かるが、レルゲン大佐の言う通りなのだ。分かってくれ、リリー」

 

 レルゲンの言ったことも信じないリリーに、ターニャは申し訳ない表情を浮かべて分かってくれと説く。

 自分は軍人であり、いつ君と再会できるか分からない。もしかすれば、戦場で命を落とすかもしれない。そうすれば永遠の別れになる。

 そう続けて話す幼き軍人に対し、リリーは両目に涙を浮かべ、自分より幼いターニャですら軍人として戦わねばならない現状や、行った友達を帰さない戦争に対する怒りを吐き出す。

 

「なんでここに来て本当のこと言うの!? 戦争だから!? おかしいよ、こんな戦争…! ターニャちゃんみたいなのが軍人だなんて…! 神様は何やってるの…? こんな子を軍人にするなんて! もう私わかんないよ! 軍人になったベンノお兄ちゃんは行ったきり帰ってこないし! アントンもデリアも! 友達の殆どが帰ってこないじゃない! おかしいよ、こんなの絶対おかしいよ…!」

 

「デグレチャフ中佐、何か言う事は…?」

 

 両膝を地面に着けて泣きじゃくるリリーに、レルゲンはターニャにどう言葉を掛けるかと聞いてくる。

 

「(そう言われても、子供の慰め方など私は知らんぞ)」

 

 これにターニャは哀れみの目でしか見ることが出来ない。慰め方を知らないのだ。前世では不必要と思って学ばなかったのだ。今も知らない。

 やり方が分からないターニャに、レルゲンは懐からハンカチを取り出し、泣いているリリーに代わって慰める。

 

「すまない、彼女は慰め方を知らないのだ。士官学校では君のような子を慰める作法は教えていない」

 

 泣いているリリーに代わって謝罪するレルゲンは、ターニャは慰め方を知らないと告げる。

 次になぜターニャと別れなければならない理由を、涙を拭くリリーに明かした。

 

「デグレチャフ中佐が君と別れなければならない理由は、勝手ながら身元を調べさせて貰ったが、君のお母さんを守るためだ。君のお母さんが働く工場に、アルビオンの爆撃機が向かっている。デグレチャフ中佐は、その爆撃機をやっつけるために君と別れるのだ。だが、それで終わりでは無い。西側から来るアルビオンの侵略軍とも戦わねばならない。激戦となるだろう」

 

 最後にレルゲンは、確証は出来ないが、戦争が終わればターニャと再会できるだろうと告げる。

 

「いつの日か、戦争が終わる時、君とデグレチャフ中佐は再会できることだろう。確証は出来ないが」

 

 だからそれまで待ってくれと、レルゲンはターニャに代わってリリーに告げて立ち去った。ハンカチは渡したままで。

 代わりにリリーを慰めて謝罪してくれたレルゲンに、ターニャは礼を言う。

 

「すみません、レルゲン大佐。私が不甲斐無いばかりに」

 

「皆まで言うな。女性の慰め方は士官学校で学んでないと見てな、だから代わりにやらせてもらった。理由は貴官がまだ子供だからだ。今度友達を作る時は…いや、戦争が終わるまで友達は作るな。またあの子のようになる」

 

「…はい」

 

 礼を言うターニャにレルゲンは慰め方を知らないから代わりにやったと答え、次にリリーのような子にならないように、戦争中は友達を作るなと言った。

 その言葉にターニャは従い、まだ涙を流しているリリーに向けて別れの言葉を告げる。

 

「さようなら、リリー。戦争が終われば、また会おう」

 

 別れの言葉と出来れば再会の約束をした後、ターニャはレルゲンと共に待っている乗用車に乗り込む。窓からはまだ涙を浮かべるリリーの姿があったが、既に車は動いた後であり、その姿はどんどん遠ざかって行く。

 あの場に一人で残すのは可哀想だが、彼女は一人で行動できる歳だ。気が済めば家に帰る。

 リリーが完全に見えなくなった後、ターニャは後ろを振り向くのを止めて前を向いた。新しい前線に向かうために。




今さら言うけど…このSSは休暇か?

でっ、次回はモスコー攻防戦とデグ様によるB-17大破壊です。

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