不死斬りの刃   作:YSHS

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 しばらくさぼりながらダラダラ執筆してたら、なんか祝福の導きが見えたんで、ちょっと狭間の地に遊びに行ってました。すんません。なんかどんどん投稿間隔広がってますが、やりたいネタがまだあるので、続ける気はあります。よろしければお付き合いお願いします。


無限列車の姦計:後編

 鬼と融合し浸食された列車の中を、時折乗客を喰らわんとする肉塊を斬り払いながら、三人の人影が駆け抜ける。伊之助、炭治郎、そして狼。

 

 煉獄杏寿郎の采配により、彼らは列車前側の車両内の乗客が喰われないよう注意しつつ、鬼の頸を捜している。

 

 催眠対策に狼は勿論、抑えに向かわせたほうが有効に動く伊之助と、その手綱を握りつつ上手く立ち回れる炭治郎らによる編成である。

 

 列車後方に残り乗客の保護を受け持つは、広範囲を守れる実力を持つ杏寿郎を筆頭に、鬼のみを焼き人を燃やさない血鬼術『爆血』を操る禰豆子、眠っていることで却って本来の力量を発揮し『雷の呼吸』の機動力を生かせる善逸らの三名。

 

「前だ! とにかく前ェ!」

 

 突如伊之助が声を張り上げた。

 

「さっき主(=列車)が揺れた時に判ったぜ! こいつの造りは蛇と変わらねえ、つまり首は主の頭だッ!」

 

 獣の呼吸『漆ノ型・空間識覚』

 

 那田蜘蛛山でも活躍した、伊之助の鋭敏な肌の感覚による探知法。先刻狼が不死斬りで、列車に同化した鬼を斬り付けたことで鬼がもがいた際、その揺れで伊之助は鬼の首を既に探知していた。

 

「俺様に続けえ!」

 

 雄たけびを上げながら、両手を交差させ二刀を構え――

 

 獣の呼吸『肆ノ牙・切細裂き』

 

 ――上に向けて放った六つの斬撃が、天井をこじ開け、突き破った伊之助が列車の屋根に飛び出した。

 

 その彼の後を、炭治郎と狼は、周囲の肉を切り払ってから追った。

 

 それから列車先頭の機関室に辿り着いた伊之助が、そこの天井を斬り裂いて中に入っていったのが確認された。

 

「怪しいぜ……、こっからビクビクとした震えが伝わってきやがる……。鬼の首はこの下だなぁ!」

 

 その時、自らの危機を察した鬼が放った数多の肉の触手が伊之助に殺到した。咄嗟に二刀の連撃で切り払うも、それすら上回る数の触手を前に、たちまち彼は手足を絡めとられ動きを封じられた。

 

 そこへ、追いついた狼が乱入した。背中の不死斬りの鯉口を切ると、またもあの不吉な紅い瘴気が溢れ落ちる。伊之助を拘束していた鬼は、その気配を敏くに感じ取るや、彼に絡めていた触手を緩め、引っ込めようとした。

 

 その隙に、狼を追い越した炭治郎が駆けつけ――

 

 水の呼吸『陸ノ型・ねじれ渦』

 

 ――周囲の触手を斬り払った。

 

 狼は、再び不死斬りを鞘に戻した。敢えて使わない。そう杏寿郎に指示された。

 

 先ほど不死斬りで列車を斬った時、ひどく鬼がもがいていた。使い過ぎれば列車が倒れ、乗客を危険に曝す恐れがあるため、なるべく控えねばならない。

 

 尤もこの鬼は最早、不死斬りを前にまともには動けない。チラつかせるだけで、事は足りる。

 

「でかした、子分! 頸はこの下だぁ!」

 

 と、伊之助が刀で床を切り裂く。硬い鉄が切れる音と、分厚い肉が切れる鈍い音がして、中が露出する。果たしてそこには、鬼の頸があった。

 

 巨大な人間の頸の骨が、赤黒い肉に包まれて、あった。

 

「よし!」

 

 それを見るや炭治郎は、全集中の呼吸で大きく息を吸い、刀を振り被る。

 

 水の呼吸『捌ノ型・滝壺』

 

 名の通り、落つる激流さながらに振り下ろされる刀の強烈な一撃が、その頸椎の隙間に叩きつけられ、大量の肉片と血しぶきが飛び散る。あまりの量に、標的はどうなったのかが分からないほどである。

 

「手応えがない……」

 

 炭治郎の察する通り、頸には届かなかった。

 

 吹き出す血と飛び散る肉片の勢いが落ち見えたのは、依然として無事な鬼の頸。

 

 その瞬間、炭治郎が付けた斬痕から膨大な量の肉が溢れ出した。咄嗟に狼らは飛び上がり、巻き込まれることはなかった。

 

 肉はたちまち機関室を埋め尽くし、そこに椀状の肉塊を形成した。如何にもここから入ってこいとばかりに上は空いている。

 

 そこへ躊躇なく飛び込んだのは狼であった。

 

 肉の椀は、これを迎えるかのように、内部の壁が一斉に隆起し、そこから夥しい数の眼が現れるや、侵入者にその視線を殺到させた。

 

 この視線から放たれる力は、先ほど鬼が発していた音と同様の催眠効果がある。敵は催眠に秀でた血鬼術の使い手、その手口は音に限るはずもない。

 

 言うに及ばず、それは幻術の心得もある狼も読んでいて然りである。

 

 義手忍具『瑠璃の斧』

 

 展開した斧の刃から発される青白い光が、肉椀の中を照らす。縦横無尽に走る青白い煌めきは、視線に込められた幻術の力を狂わせる。

 

 斧の刃が底に叩きつけられると、玲瓏な、それでいてけたたましい音にまばゆい瑠璃の閃光が肉椀の内を満たし、血鬼術の眼々は最早無力となった。

 

 好機。この肉塊の下に埋もれた頸の骨を断つのなら今。

 

 その時だった。

 

「邪魔をするなァ!」

 

 どこからかこの肉椀に降り立った男が、手に持った錐を構えて狼に向かってきたのである。この男も、鬼に与する者であったか。しかしこれに後れを取る狼ではない。義手の手で相手の錐を持つ手を押さえ、壁に押し付ける。そして右手の刀で男の頸を突こうとしたのである。

 

 が、一瞬狼はこれを躊躇った。

 

 その隙に、男は狼の手を振りほどいて、錐で狼の腹を突いた。今まさに刀で突こうとされていた男に、躊躇は一切無かった。

 

「狼さん!」

 

「狼のオッサン!」

 

 狼の後を追って、同じように飛び降りてきた炭治郎と伊之助。当の狼は、襲ってきた男を押さえつけたまま、

 

「構うな! 頸を斬れ!」

 

 大事ないと言わんばかりに狼は声を張り上げた。その声を聞き、炭治郎と伊之助は気を引き締め、刀を構えた。

 

 これを尻目に狼は男と向き直り、

 

「来い……、死にたくなくば!……」

 

 返答を待たずに狼は、怯える男を引っ掴んで再び列車の屋根まで上った。

 

 押さえていた腹の刺傷を見る。錐は腹の太い血管を突いていて大量の血が出ていたが、狼はこれを呼吸術を駆使して止血していた。更に瓢箪の傷薬を呷り、痛み止めと活力を取り戻す。後は竜胤の力で再生を待てばよい。

 

(それにしても……)

 

 綻びだらけの、催眠術であった。幻術を十分に習得していれば、容易く破れるほどのもの。今までは幻術の心得を持たぬものばかりを狙って力を蓄え、それから強者を狙う魂胆だったのであろう。

 

 肉椀の底から多量の血が吹き上がったのはその時であった。同時に、耳をつんざく断末魔も聞こえた、おそらく鬼のであろう。炭治郎らがやり遂げたに違いない。

 

 だが喜んでばかりもいられなかった。列車と融合している鬼は、頸を斬られた苦悶にのた打ち回る。つまり、列車が路を外れ、今にも倒れそうなばかりか、その煽りを喰って狼は先ほどの男諸共放り出されるところであった。空に放られた拍子に、義手から鍵縄を伸ばして、どうにか堪えられはした。

 

「ここに掴まっておれ」

 

 男にそう声をかけておく。そこから狼は、屈めていた身を起こし、前方に居る炭治郎と伊之助を見る。どうにか踏ん張って、狼に手を振り、無事を知らせる炭治郎が確認出来た。

 

 そこで狼の目に、列車の前方から巨大な赤い炎の塊が、黒煙の尾を引きながら向かってくるのが見えた。

 

 危。

 

 という直感が即座に頭に上った。

 

「伏せろッ!」

 

 鍵縄を列車に引っ掛けて炭治郎の方へ駆けつつ、狼は叫んだ。

 

 義手忍具『神隠し』

 

 義手から飛び出した二枚の赤く八つ手の葉による大うちわを両手に持ち、体を回転させて扇ぐと、狼の周囲に朱い渦風が巻き起こった。これを『纏い斬り』で刀に巻き込んでやり、その刃で炭治郎と伊之助を斬りつけてやると、果たして二人は一瞬消えたのち、忽然と狼の背後に再び現れたのであった。

 

 向かってくる炎の塊は、炭治郎らを巻き込むことなく、身代わりに狼と衝突し、彼の身柄を攫っていった。

 

 列車はその直後に横転した。

 

 狼の身は列車の先頭から大分置いていかれた所で、減速した炎の塊から離れ、線路からずれた地面に投げ出された。それは受け身を取ることなく――しかし刀は握りしめたまま――力なく地面を転がってうつ伏せに倒れて、それから指一本すら動かなかった。体の下からは広がるその血の量は、彼は既に事切れているのであると物語っていた。

 

 ――狼よ、我が血と共に生きてくれ。

 

 また、頭の中にあの言葉が響き渡る。回生をする度に聞こえるあの声が。狼のかつての主、竜胤の御子・九郎の声。

 

 俄かに狼の意識が浮き昇り、血反吐と共に狼は起き上がる。頭が弾けるように重い。骨が軋み、肉が裂けそうであったが、それでも起き上がった。

 

 しかしその首筋を、巨大な手が上から押さえつけた。

 

「やっぱり、生きてやがった――いや、生き返ってやがったってェわけか……」

 

 煮えたぎった湯からの蒸気さながらの熱い息が、その言葉と一緒に狼の耳と頬に吹き付けられた。

 

 そのまま宙へ投げられ、落ちてきたところに拳を叩き込まれる。宙になれている狼は、しっかりとそれを捉えて楔丸の刀身で受けた。骨にまで刻み込まれた技術により、直に喰らわなかったものの、体が吹き飛ばされ、木にぶつかって地面に再び落ちた。その際、刀が手から取り落された。

 

 すぐさま起き上がり、目の前に落ちていた刀に手を伸ばそうとする。

 

 が、狼の伸ばされた手と刀との間に、金棒の頭が鈍い音を立てて落とされた。それと合わせて、襲撃してきた者の足も映った。見上げてみると、またもあの鬼であった。狼がかつて斬り落とした左腕の断面から、生えている、燃え盛る炎によって形作られた歪な腕も、同じであった。

 

「ま、殺れるってンならァ、千度でもすり潰してやりゃァいい……。テメエが俺にトドメェ刺せねえ限り、何度だって行くぜ……」

 

 ニタニタと歯牙をむき出しにして、笑みを浮かべながら鬼は言った。

 

「知ってっか。下弦が再編されるってェ話だ。しかも、要るというなら、血も与えてくださるってな。尤も、俺はもうあの血には耐えられそうに無ェから、遠慮したがな。そンで、最も成果を上げた奴が新たな下弦になるってェわけだ」

 

 あざ笑う調子で鬼は語り続ける。その間に、狼は義手に仕込んだ忍具を、切り替えた。十中八九見えているはずであろうが、鬼は指摘するそぶりも見せない。

 

「あの御方も、なかなかどうして、おもしれェ気まぐれを起こすもンだ。俺の知る限りでは、頭は良くねェわ、すぐ癇癪起こすわ、そンで当たり散らすわ。そのくせ高慢ちきで、油断もする御方だったんだがなァ……。まあ、それでも、一度主と決めたら、たとえどンな唐変木だろうと仕えるのが義理ってモンよ。……テメエには分からねェか?」

 

 唸るような低声に変わり、ギロリと鬼は、はめ込まれたほうの目で狼を見据えた。

 

「俺はなァ……忍びってのが大嫌ェなのよ。利害で主にすり寄っといて、用が済んで背を向けたかと思えば、今度は弓引いてくる、テメエらみてえのがなァ!……」

 

 カッと瞳孔と共に目を見開いて鬼は、地面を突いていた金棒を引き上げ、肩に担ぐ要領で構えた。左腕の炎の義手が添えられ、金棒は血管が走るが如く赤熱した。

 

 狼は、相手からの殺気が強まるのを感じた。

 

 ――来る。

 

「死にさらせェッ!」

 

 狼の頭めがけて、金棒が振るわれた。合わせて狼は、『朱雀の紅蓮傘』を開いた。

 

 開くと同時に回転する傘の縁が、横なぎに振るわれた金棒を――激しい火花を散らしつつ――いなした。

 

 金棒が狼の髪の毛を掠める。

 

 構えた傘の下から、すかさず狼は刀に手を伸ばし引き寄せた。

 

 しっかりと握りしめ、紅蓮傘をたたむのに合わせて身を翻し、ふわりと一回りしてから、たたんだ紅蓮傘と刀を交差させ、鬼の横っ腹に一太刀。

 

 忍び義手技『派生攻撃・放ち斬り』

 

 強烈ではあったが、強靭な身体を持つ鬼相手には、決定打とはなり得なかった。元より狼も、それが通じるとは思ってはおらず、一撃入れるや瞬時にその場から飛びすさった。

 

 小癪な真似を、と言った具合に鬼は、横目で忌々しげにそんな狼を睨みつける。その凄まじい殺気に狼は、笏状にたたんだ傘と刀を構えたまま、宛然と目を据えた。

 

 夜明けまで、あと少し。やはりこの勝負は、まだ終わりそうもない。




 今更ながら、伊之助からファンゴフェイク取ったのめっちゃ後悔してます。取ったファンゴフェイクは葦名の伊之助に被せときました。

 あと厭夢、ごめんよ。

 あと誤字報告で、肉塊という単語が肉会ってなってたのを見て、肉パーティーみたいでワロタ。誤字報告の新たな楽しみ方を知りました。いつも誤字報告ありがとうございます、皆様。
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