書きたいシーンがあるのって柱会議辺りからだから、ちょっとだらけてました。マジすんません。
次々回くらいから本気出す。
鼓の屋敷での任務で負傷した炭治郎、善逸、伊之助らはその後鎹烏から、藤の花の家紋が刻まれた、宿のような所での休息を言い渡された。
宿の女将は炭治郎らに食事と着替えを用意してくれたばかりか、負傷した炭治郎らに気を利かせ、医者を呼んでもくれた。三人と、それと同行していた狼も診察されたところ、三人は骨折をはじめとした様々な負傷により重傷と診断された。
ところが狼への所見は、
「狼さんが、無傷なんて……。てる子や清たちが言うには、たしか狼さんは凄く危ない鬼と戦っていたらしいのに……」
医者から、手当の必要もないほどの全くの壮健という診断を受けた狼に、炭治郎は、診断の後で女将が用意してくれた布団の中で訝しんだ。
現在瞑想している狼の今の服装を見てみる。
少なくとも浅草の時までの狼の服装と言えば、袴と革足袋を履き、脛には数本の細長い鉄板と一緒に脚絆を巻いていた。上半身に纏った半着の胸元から、着込んでいる鎖帷子が見えた。腕には、同じく細長い鉄板を巻き込んだ手甲を装着し、それらの上から柿色の着流し羽織り、襟巻を巻いていた。
今の狼の服装は、まず羽織っている着流しと襟巻、それと半着が、色褪せやほつれが補修されて小綺麗になっている。加えてそれらには裏打ちが施されて、強度が上がっているようであった。また、一部の衣服が西洋風になっているのも特徴で、例えば上衣に着込んでいた鎖帷子が黒のドレスシャツ(ワイシャツ)に置き換わっており、下も袴でなく茶色のスラックスに、革足袋と脚絆は折り返し
どこで調達し着替えたのかは不明だ。どういった服なのかも分からぬが、おそらくこの服は、炭治郎が着ている隊服のように、軽量ながら強靭な衣服となっているのだろうと推測した。
ただそれでも、強力な鬼と対峙すれば、如何に強靭な衣服と言えども傷は負う。少なくとも、狼が無傷で居られたのは、その衣服のお陰なだけというわけではないだろう。
(それだけ、狼さんが強いってことなのかな……。俺はまだまだ未熟だけど、だからってそれに甘えて、いつまでも狼さんに頼ってちゃ駄目だよな。俺も頑張らなきゃ!)
こう納得することにして、ひそかに炭治郎は意気込んだ。
炭治郎の思う通り、狼には強力な鬼相手に無傷で戦うだけの力量はある。が、今回の場合、狼はあの鬼相手に、怪我を負った。
相手の攻撃を受け損ねた時、逃がしきれなかった負担は狼の骨肉に掛かる。これはおよそ、骨にヒビが入ったり、筋肉が断裂したり、内出血をしたりといったことが起こるのは十二分にあり得るほどの負担となり、勿論、それらの損傷のいずれかが狼の身体の中で起きていたのは確かだ。
されど狼は尋常な人間ではない。竜胤という、たとえ死に落ちようとも蘇ることの出来る力、回生の力を、持っている。
この力は、単に蘇生するだけのものではなく、如何なる傷であろうが、病気や毒に侵されようが、しばしの休息さえ取れば回復する能力もある。傷薬等の力を借りれば、戦闘中でも傷を再生させることだって出来る。
と、このような要因から、医者は狼から最近出来た傷は発見出来なかったのである。これに医者は首を捻る。何せ狼の身体には、深々と負ったであろう古い傷口があるのに、過去数年の間に負ったと思わしき傷は、左腕の断面を除いて一つも無かったのだから。
そこで狼は、持ち合わせていた薬類などを、自身には無用だからという口実で炭治郎ら三人に分け与え、そうして三人の傷口は、医者も感心するくらい早く完治したのであった。
完治するや鎹烏から新たな指令を提示された。北北東にある、那田蜘蛛山という山だそうだ。
身支度を整え次第、一行は藤の家紋の家を発って、指定された場所に赴いた。
那田蜘蛛山に着いたのは、夜が更けた頃であった。
狼は地面にある足跡を見た。最近出来たものだ。数が多い、十人以上は居るだろうか。それらは山へ向かって練り歩いていたようだった。那田蜘蛛山がどういった山なのかは分からぬが、通常の用件でこれだけの数の人間が入っていったわけではないだろう。
山の麓の、木々の前に、人が倒れていた。黒い衣服、鬼殺隊の服を着ている。やはり一行が来る前に、既に他の隊士が入っていたようだ。
その隊士は怪我をしており、何か凄まじいものでもみたように怯えた様子で炭治郎らに助けを求めた。その直後に、彼の身体に絡まっていたらしい、目に見難い細い糸がその身を持ち上げ、山の中へ引きずり込んでいったのであった。
これを前にして、善逸が臆病風に吹かれ、その場に蹲り、行きたくないとごねだした。元々、山が近づくにつれて消沈が深まっていたのだが、今の隊士を見てその程度が極まったことで、とうとう耐え切れなくなったのだ。
炭治郎も一言二言、善逸に声を掛けたが、けれど今しがたの隊士の安否が気になり、先行する伊之助の後を追うように山の中へ入っていった。
狼のほうは、炭治郎らと善逸を交互に見やってから、
「お、狼さん……。狼さんは、行かないよね?……」
「俺は行く。今、共に行かぬのなら、山へ入らず安全な所へ行け。独りで動こうとは思うな」
と、狼は炭治郎たちの後を追って小走りで進み出した。
炭治郎と伊之助たちを見失わないようにしつつ、善逸が踏ん切りがついた時に追ってこられるように、やや遅めに足を動かした。この山での単独行動をさせるわけにはいかない。
とうとう善逸は、置いていく狼の後ろから不平を飛ばしていたものの、狼たちについて行くことはしなかった。
「狼さん、善逸は?」
「俺の姿が消えたら、山へ入らず、安全な所へ行くよう言った。独りで山に入ろうとはしないだろう。爾後の心配はない」
「だといいですけど……」
どこか炭治郎は、不安げだった。
「けっ、放っとけあんな弱味噌。心配するだけ無駄だ。ああいうのは勝手に生き延びるんだよ」
と、伊之助が吐き捨てるように言った。
「そんなこと言うなって、伊之助。事実善逸は、身を挺して禰豆子を庇ってくれた。卑屈過ぎて自分の実力を分かっていないけど、信じたいもののために身体を張る勇気のある奴だ。――何はともあれ、無事だといいけど」
善逸の身を案ずる炭治郎を横目に狼は、先ほどから感じる異様な空気に意識を配っていた。
なるべく、足音や呼吸音といった己からの音を抑え、耳を澄ます。これだけの集中をし、やはり、と彼は確信をした。
「鳥の気配が無い」
ぼそりと発した狼の言葉に、炭治郎と伊之助は、怪訝な顔で一瞬狼を見てから、
「言われてみれば……、獣の臭いがしない……」
スンと鼻を動かして炭治郎。
「この空気の感触からして、鼠すら居やがらねえ。下手すりゃ、この山全体が鬼どもの領域だ」
おもむろに伊之助は、羽織っていた女物の着物から腕を抜いて脱いで上半身を曝した。着物は、腰に巻いてあった帯に巻き込まれ、伊之助の下半身に纏わる。
次いで伊之助は、視線を前方にある草陰に向けて、
「あれを除いてな」
顎でしゃくった。
どうやらそこには人間が一人潜んでいるようだった。その人物へ近づいていく。詰襟を着た男性が、何かを窺うように屈みこんでいた。案の定鬼殺隊士であった。
ちょうど彼は炭治郎たちに背を向けていたので、
「あのー」
と、出来るだけ驚かせないように炭治郎は声を掛けた。
そのつもりだったが、ビクリと彼は肩を震わせると、素早く抜刀して炭治郎たちに刀を向けたので、慌てて炭治郎は両手を顔の横まで上げて、敵ではないことを示した。
彼は張り詰めた面相に、びっしょりと冷や汗を滴らせ、脱力するように嘆息した。
「応援か」
「はい、階級・
「……階級・
村田と名乗った彼は、苦々しげに頭を掻いてぼやいた。
「まあいい、とにかくお前たちは今から俺の指揮に入ってくれ。他に増援が無いなら、これから――」
と村田が指示を出そうとした折である。
突如伊之助が村田を殴り飛ばした。
グッと呻き声と共に村田は地面に転げた。拳が鼻に当たったためか、鼻血も出ていた。
「この野郎、何しやがる!」
「うっせえ、この弱味噌ッ! 何でこの俺様がテメエみてえな弱味噌の下につかなきゃなんねえんだ! さっさと状況説明しやがれってんだ!」
罵倒しながら伊之助は、地面に背を付けている村田に迫る。
「伊之助! 何やってるんだ! やめろって!」
慌てて炭治郎はその伊之助を羽交い絞めにして止めた。
「何するんだよ、こいつ!……。俺は『甲頭』だぞ! ああ、畜生っ、痛てぇ……」
鈍い痛みに鼻を押さえて悶える村田に、
「甲頭とは、どのような階級なのだ」
構わず狼は尋ねた。
「ああ? 一般隊士の中で一番上の『甲』の中から選抜された、小隊単位で人員を管理したり、指示を出したりする役職だよ。元々無かった階級だったけど、お頭――今は『甲頭筆頭』――が『柱』になるのを固辞して作られた階級だ」
村田が続けて語るところに拠ると、現『甲頭筆頭』は、元は実力と実績、人望を見ても疑いようのない、鬼殺隊最高位の『柱』に就くに相応しい人物であった。ところがその人物は、『秘伝の技を会得するまで柱を頂くことは出来ない』と宣言して一般隊士に留まろうとしたとのこと。
どう謙遜しても『柱』としての実力を持つ者を一般隊士のままにしておくわけにもいかなかったが、しかしその人物が固辞している内に『柱』の定員である九名が揃ってしまった。そうして致し方なしに『甲頭』という役職が作られ、のちにその階級に増員されたことで、その人物は『甲頭筆頭』に就任することになったのだそうだ。
「秘伝とは、何だ」
「分からん。『雲の呼吸』は新興の流派だって聞いたけど、そんなものあるのか」
村田は首を捻って、結んだ。
質問を掛けた狼だが、彼にはその秘伝というものには心当たりがあった。而して、その『雲の呼吸』を扱う『柱』候補だった人物にも。
「もう話は終わりだ、そろそろ行かなきゃならない。まず状況を説明するぞ。俺たちは元々十数人で山に入っていたが、内半数が敵の血鬼術に掛かったことで操られ、それにまた半数程がやられほぼ全滅、辛うじて俺だけが残った。術の正体は糸だ。掛かりそうになったら、とりあえず頭上か背中辺りに向けて剣を振れ。それが遅れたら、ちゃんと声を掛けろ。特に、操られている奴が使い物にならなくなった時は気を付けろ。以上」
と結んで村田は立ち上がった。未だに伊之助は食って掛かるが、村田はいちいち相手にするべきではないと判断したのか、それについてはシカトしている。
溜息を吐いたところで村田はふと何かに感付いた様子でピタリと止まった。身じろぎすらせず、耳を動かし、静かに周囲を警戒しだした。
その様子を見て炭治郎、伊之助、狼も周囲に耳をそばだてた。それで聞こえてきたのは、何かが張り詰めた、耳障りな甲高い音であった。
「糸の音だ……。この音がした次の時には、同士討ちが始まったんだ……」
と、炭治郎らに目を向けないまま、緊張と怯えの混じった声で村田は告げた。
その音は段々と近づいてきた。音のする方を見ると、うっすらと人影が見えた。
奇妙なことに、それらは生きた人間がするような歩き方はしておらず、まるで滑っているような動きでこちらに近づいてきていた。
それらは鬼殺隊の隊士であった。だが彼らは、生きてはいなかった。誰も彼も、瞳に生気は無く、それどころか首が何にも支えられてないためか、動くためにガクガクと揺れていた。よく見れば、何かに吊られているらしい足や腕などが、折れているのもあった。
「こいつぁ……死人を操っているのか」
胸糞悪そうな表情をしながら、低声で伊之助が呟いた。
「今言った通り、こいつらは糸で操られている。糸を切れば多少は足止め出来るけど、いずれまた糸を付けられて襲い掛かってくるぞ。そこら辺に居る小さな蜘蛛には気を付けろ、そいつらに取り付かれてしばらくすると皮膚の下に潜るみたいだ。そうなったらまず術から逃れられなくなる。糸を素早く切って、すぐに蜘蛛を払え」
地面に目を配りながら村田はそう指示をした。
「うっせえなこのクソッたれ! 糸を切れだの、切っても無駄だの! 何が言いてえんだよ、はっきりしやがれ!」
「術者を探すんだよ。こいつらを捌きながら術者を探すのは難しい、だから人手が欲しかった。――来るぞ!」
叫んで村田は伊之助の前に飛び出、ちょうど斬りかかってきた操り人形の攻撃を防いだ。
「テメエ何勝手なことしてやがるッ! テメエがやらねえでもどうにか出来たっつーの!」
「言ってる場合か! お前さっきから文句しか言わねえじゃねえか! 口ばっかで役に立たないなら余所で叫んでろ!」
「ああ? もっぺん言ってみろコラ!」
「文句言ってる暇があるなら、時間稼ぎするなり、術者の居場所特定してみろ! 出来るもんならな!」
と更に村田は煽った。
当然、伊之助はこれに黙ってはいない。
「おう、おう! やってみせようじゃねえか! 俺の凄さを前に吠え面でもかいてやがれ」
伊之助は、大見えを切るみたいに言い返してから、手に持った刀を地面に刺し、その場で膝を突いて両腕を広げた。そこから目を閉じて、何やら集中しだした。
着物を脱いだことで曝された上体の肌で、この山に流れる空気の動きを感じ取る。
四方八方の内、一方だけ異なる空気の流れがあった。その流れを手繰っていけば、やはりそこには妖しい影が悠然と腰を降ろしていた。
獣の呼吸『漆ノ型・空間識覚』
「この方角だッ! がはは! 今すぐ仕留めてやっからなア!」
見つけるや否や、伊之助は村田に指示を仰がず一目散にその方向へ駆け出した。
「あッ、待て伊之助! 一人じゃ危険だ!」
炭治郎が止めようとするも、
「いやいい行かせろ! どうせ言うことを聞かないだろ。それと、竈門って言ったか、あいつを追って、一緒に術者を仕留めろ!」
との村田が指示を飛ばした。
どうやら彼は、うまうまと伊之助を乗せることが出来たようだ。
「俺たち二人でですか!」
「仕留めたら、出来るだけあいつを引き止めておけ、すぐに追いつく!」
「それともう一つ!」と、投げつけるみたいに村田は重ねる。
「生き延びることを考えろ! お前ら水の位は、当て馬もいいところの捨て駒だ! 同時にそれは、お前らの生きる力を試されている。だから、生き残れ!」
「……はい!」
村田からの激励を受けて、決意を新たに炭治郎は、伊之助の後を追った。
そんな彼の背中を、狼は援護した。
「ここは俺が引き受ける、あんたも行け! あいつらを死なせたくないんだろ!」
操り人形たちの攻撃を捌きつつ村田は、狼にも離脱を促した。
その言葉を受けて狼は、しばし逡巡したように、黙って操り人形たちの攻撃をいなしていたが、その後思い立ち、それまで相手にしていた操り人形たちの糸を切って無力化をすると、炭治郎たちの後に続いた。
言葉は無かった。別れを前提としなければこそ。
雲の呼吸を使う柱候補とは一体誰なのか……(すっとぼけ)