凡人の軌跡   作:kuku_kuku

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内戦編:七耀暦1204年11月

 ========= 七耀暦1204年11月4日 =========

 

 正規軍と貴族連合の陣を避けて遠回りをしながら、二箇所の村を経由して西に向かった。

 

 しかし、リィンの情報は得られず。

 同様に、西部に逃げてきたトールズの学生にもまだ出会っていない。

 

 リィンはともかく、現時点で西部に学生はほぼいないと考えている。

 

 トワ会長が書き起こしてくれた西部出身の学生のリストを確認しても、やはりラマール州の州都オルディス出身の生徒が多い。

 しかしオルディスは貴族連合の本拠地でもあるため、そこは当初からの想定通り、貴族連合からマークされている革新派に連なる学生が、あえてそこに向かうことはないはずだ。

 

 一方で、地方に身を寄せている学生がいれば、カレイジャスに連絡して保護する予定であったが、この分だとその機会もほぼないだろう。

 ここ数日、西部での戦闘が本格化するという噂が流れている。今からあえてこちら側に逃げて来るとは考えにくい。

 

 内戦が始まってまだ五日。その間にトリスタから西部にやって来れた生徒など、極めて少数だろう。

 

 幸いなことにまだ西部においても、人里には戦闘による被害が出ていないと聞く。

 今のうちに、近場の村は全て回ってしまおうと思う。

 

 ジョルジュ部長から預かった、導力通信の中継機も各所に設置してきた。

 こうして通信範囲を広げていけば、リィンも他の生徒も、何時かは見つけることが出来るだろう。

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 ========= 七耀暦1204年11月5日 =========

 

 つい先程、妙に強い魔獣の討伐を行った。先日、旧校舎地下七階で戦ったような、見かけない大型の魔獣だ。

 かなり強く、深くはないが怪我も負ってしまった。だが、本格的な被害が出る前に討伐できてよかった。

 

 魔獣は、ミルサンテと歓楽都市ラクウェルを結ぶ街道で暴れていた。

 本来であれば対処すべきラマール領邦軍は、しかし今は内戦の影響で迅速に動けない。領邦軍は現在、貴族連合として帝国最西端のオルディスに集結しつつあると聞く。

 

 また、昼には宿場町ミルサンテで、トールズの学生を一人保護した。

 つい先程、トワ会長から無事にカレイジャスで回収したと連絡もあった。

 

 魔獣の討伐ですぐにでも西に向かう必要があり、カレイジャスとの合流地点だけ伝えてすぐに別れたため、少し心配だった。だが、無事なようで何よりだ。

 

 ラクウェルに近いこの辺りは、貴族連合の勢力が強い。ここから先は、安易に隠密行動中のカレイジャスに降りて来てもらうわけにはいかない。

 

 それにしても、あの魔獣は何だったのだろう。

 あの魔獣の付近では、旧校舎やローエングリン城のように、上位三属性が働いた妙な気配がしていた。セリーヌさんが教えてくれた霊力が関係しているようだが、詳細は分からない。

 

 ただ、内戦以外にも、何か妙なことが起きているようだ。

 

 まあ、考えても分からないのだから、今日はもう休もう。連日の野宿は結構体力を使う。

 

 明日はラクウェルに潜入する。現在ラクウェルは、貴族連合も正規軍も出払い、無法地帯になっていると言う。

 もともと治安が悪い街ではあるが、リィンや他の生徒が隠れ潜むには向いていると言えなくもない。

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 ========= 七耀暦1204年11月10日 =========

 

 ラクウェルでも、リィンの情報はなかった。

 

 一方で、内戦の影響が思わぬ所でも出ていると実感した。

 

 ラクウェルは、野盗の被害にあっていた。

 歓楽都市として名高いラクウェルには、内戦時とは言え今までに蓄えた膨大な財貨がある。

 警備が手薄な今、他人から奪うことを当然するクズ共が集ってくるのは当然とも言えることだった。

 

 街ではまだ十代半ばの若者達が自警団を結成し、大規模な野盗団と戦闘を繰り広げていた。

 俺もその戦いに参戦し、野盗の撃退を手伝った。

 

 アッシュという自警団のリーダーからは、この先もラクウェルで自警団を手伝わないかと誘われたが断った。ラクウェルを逃れた奴らが、他の村を襲わないとも限らない。

 

 強力な魔獣の出現に、治安の悪化、そして内戦の激化。

 この先はもっと大変になるだろう。

 

 明日は、ラクウェルから南西に向かう。

 カイエン公爵、そして貴族連合のお膝元のオルディスには行けないが、沿岸部の南側はまだ正規軍の勢力下のようだ。

 正規軍からは指名手配を受けていないため、そこで情報を集めようと思う。

 

 沿岸部までの道中には、小さな街と村もある。

 引き続きリィン達を探しつつ、中継機を設置していこう。

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 ========= 七耀暦1204年11月13日 =========

 

 内陸部の小さな村で、貴族連合に雇われた猟兵崩れと、戦闘になった。

 

 いや、自ら戦いを仕掛けてしまった。

 

 オリビエさんとの、

 

「あくまでも貴族連合にも正規軍にも敵対せず、中立の立場としてリィン君やトールズの生徒、民間人の救助に徹すること。これが、君を西部に送り出すための僕からの条件だよ。そうでないと、後々君の行動の正当性を保証できなくなってしまうからね。ああ、もう一つ大事なことを忘れていた。Ⅶ組の生徒として君自身が指名手配されていることを忘れずに、何があっても自分の命を優先すること。これも追加させてもらおうか。君も、愛しの女性を泣かせたくはないだろう?」

 

 そんな約束を、自分の意志で破ってしまった。

 

 言い訳にしかならないが、奴らは、クズだった。

 猟兵崩れは貴族連合の名を持ち出して「俺達がいないと、こんな小さな村は賊軍の連中に潰される。守ってやるんだから、当然の対価だろう」などと嘯き、ただでさえ貴族連合に食料も金も徴収され苦しんでいる村から、更なる搾取をしていた。

 逆らう男は見せしめも兼ねて痛めつけられ、女性も被害を受けたという。

 

 そんな生活に耐え切れずに、住人達は村を捨てて、中立地帯であるアルゼイド子爵が治めるレグラム方面に避難しようとしていたが、クズ共はそれを許さず住人たちを支配していた。

 

 村の代表から疲れ果てた顔でそんな現状を聞き、俺は戦闘を行うことを選んでしまった。猟兵崩れを村から一時的にでも追い出し、住民の避難の時間を稼ぐために。

 

 幸いなことに高位と呼べるレベルにはない猟兵であったため、無事目標は達成。

 二十人ほどの集団だったが、深夜に奴らが拠点にしていた宿屋に忍び込んで一人一人始末することで大半は片付ける事が出来た。

 最終的には気づかれ、八人から追いかけられながらの戦闘となったが、辛うじて撃退には成功した。

 

 夜にクズ共の根城に忍び込むことも、集団に囲まれてリンチされることも、そしてそこからどうにか逃げ出すことも、随分と久しぶりだ。昔の経験が役に立ってしまった事実に、吐き気がする。

 フィーから教えてもらった潜入技術も、こんなことに使ってしまって申し訳ない気持ちになる。

 

 だけど、それでも、住人からはお礼を言って貰った。助かったと、そう言って貰えた。

 

 代表は、明日には南東に向けて出発すると言っていた。

 護衛することも考えたが、本当に奴らが貴族連合の命令で動いていた場合、援軍を連れて来る可能性もある。

 

 俺は、奴らを追いかけ様子を見た方がいいだろう。

 

 明日はカレイジャスとの定時連絡日だ。村のことを伝えて、可能であればカレイジャスで運んで貰えないか打診してみる。

 

 カレイジャスの人たちは、きっと難民の受け入れを拒否しないだろう。

 オリビエさん、アルゼイド子爵、遊撃士のトヴァルさん、そして先輩たち。皆、他人のために何かを成すことができる、凄い人たちばかりだ。

 だからきっと、村の人たちのことも、何とかしてくれるだろう。

 

 だけど、カレイジャスは現在、隠密行動中の身。中立派の勢力を密かに集結させるため秘密裏に各地を回っている最中なのだ。あまり派手なことは出来ない。

 

 そして、猟兵崩れが野盗などではなく、本当に貴族連合に雇われた者たちだった場合、俺は貴族連合に明確に敵対してしまったことになる。

 

 カレイジャスは、オリビエさんが駆る『赤き翼』は、中立であるからこそ意味があるのだ。

 その方針に自ら反してしまった俺が、カレイジャスを頼ることは出来ない。

 

 自分で蒔いた種は、自分でどうにかすべきだ。

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 ========= 七耀暦1204年11月16日 =========

 

 二日前の夜に、先日の猟兵崩れが機甲兵を一機連れて戻ってきた。

 

 捕虜にした猟兵を尋問した結果、最悪なことに、本当に貴族連合に雇われた猟兵団の一部だったことが判明。

 猟兵団の本隊は別にいるが、任務とその報奨も兼ねて、内戦中に限って団の一部の者たちが、村の警備を運営ごと任されたのだと言う。ふざけた話だ。

 

 奴らは猟兵団の本隊からの援軍として、計二十人を引き連れて住人と俺を捕らえに来た。正規軍との戦いで中破して使われなくなった機甲兵を一機と、自前の導力車三台に乗って。

 

 二日前の夜から昨日の明け方にかけては、囮として導力バイクでひたすら逃げ回った。住人の避難の時間を稼ぐために、適度に牽制を続けながら。

 森に逃げ込んでからは、どうにか一人をおびき出し捕虜にすることが出来た。そして奴らの素性と目的を聞き出した。

 その後はまる一日かけて奇襲を繰り返し、罠を張り、数を減らした。

 

 森の中まで追って来た機甲兵は、その性能の半分以上を失っていたため、どうにか倒すことだ出来た。

 木々に邪魔されて機動性を発揮できなかったこと、壊れていた部分が周辺を認識するためのセンサーと、攻撃性能に直結する片腕だったこと。勝因は、その三点だった。

 

 最終的には機甲兵が倒された時点で割に合わないと判断したらしく、まだ息があった者たちの命と引き換えに、この件から手を引くことを申し出て来た。実際、限界が近かった俺に断る理由はなかった。

 

 村の件に関しては、ひとまずこれで大丈夫だろう。十分避難のための時間も稼げたし、これ以上は彼らの言った通り、もう割に合わないはずだ。

 

 壊れて放置された機甲兵に関しては、修理を試みたが駄目だった。俺の知識では修理することなんて到底出来ない代物だ。

 

 だが、解体と戦闘を通して幾つかのことは分かった。

 

 一つ。機甲兵による周囲の認識手段は、頭部の複数のカメラにその大部分が依存している。故にそれが中途半端に壊れた状態のこの機体は、実力の大半を発揮することが出来なかった。

 二つ。機甲兵は、人間を模した兵器だ。そのためこの機体のように片腕を失っていると、バランスを取れなくなり、持ち味である機動力を失う。

 三つ。最も重要なこととして、機甲兵はかなり複雑で繊細な構造になっている。故に、操縦者の指示を伝達する中枢部を破壊すれば、無力化できる。結社の自律人形兵器と同じ要領だ。

 

 まあ、色々と壊しながら試してみたが、センサーにしろ中枢部にしろ、大事な部分は全て多重化されているようなので簡単には無力化出来ない。

 

 だが、俺単体でも勝ち目がゼロという訳ではないようだ。

 出来るなら、もう二度と戦いたくはないが。

 

 それにしても、今日は疲れた。明日からのことを考えないと行けないが、気力が湧かない。

 

 戦いの最中に、長距離導力通信機が壊されてしまった。

 機甲兵の部品で修理できないかとも思ったが、肝心の長距離用のアンテナの代わりになるような部品はない。

 

 これで、カレイジャスと連絡を取ることが出来なくなってしまった。

 何かあっても、助けて貰える状況にあった今までとは違う。

 通信の手段が確保できるまでは、一人でどうにかするしか無い。

 

 まあ、そもそも俺はもう、カレイジャスと手を切るべきだ。

 貴族連合に明確に敵対してしまった俺がいると、カレイジャスの中立の立場が揺らぐ。

 だからここからは、一人で動かなければならない。

 

 何があっても、一人だ。

 共に戦ってくれる、Ⅶ組のメンバーもいない。助けてくれる、教官も、先輩たちもいない。

 

 駄目だ。思考が悪い方向に行っている。

 

 怪我をしてしまったため、少し気持ちが落ち込んでいるのかも知れない。 

 だけど、重症ではない。処置もしたし、まだ普通に動ける。だから大丈夫だ。

 村の人が分けてくれたリンゴでも食べよう。栄養と休息を取れば、大丈夫になる。

 

 とりあえずは、通信手段が途絶えてしまった時のための合流地点である、ラクウェルに戻ろう。

 カレイジャスと別れるにしろ、その旨だけは伝えないとさらに迷惑をかけてしまう。

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 ========= 七耀暦1204年11月19日 =========

 

 街が戦火に呑まれるのを、ただただ見ていることしか出来なかった。

 難民が巻き込まれ死んでいくのを、ただただ見ていることしか出来なかった。

 

 貴族連合と正規軍の、大規模戦に遭遇した。

 その余波で、街が火の海と化した。

 避難勧告が出されてはいたが、戦闘地域から全ての住人が逃げ出せた訳ではない。

 

 機甲兵、戦車、軍用艦。

 人の歩みに比べて圧倒的な機動力を持つ近代兵器の衝突の余波は、逃げ遅れた住民たちの命を容易く奪っていった。

 

 逃げ遅れた人たちと北東のラクウェルを目指し避難する最中、貴族連合と正規軍の小隊が、主戦場から外れ流れてきた。

 ただ無心で、少しでもこちらに近づかせまいと、逃げ遅れた住民がいることを叫び一時停戦を呼びかけて機甲兵と戦車の戦いに割って入ったが、何一つ意味がなかった。

 

 巨大な兵器同士による命の奪い合いの最中に、小さな人間がいくら停戦を呼びかけたところで、何の抑止力もないその言葉では戦いは止まらない。

 

 結局、一緒にいた五十三人のうち、半数以上が戦いに巻き込まれて死んだ。

 

 俺は、何もする事が出来なかった。

 

 

 

 

 追記。

 

 落ち込んでいても仕方がない。

 思考を停止している暇はない。

 

 先日の猟兵崩れとの戦いと同じだ。

 何が起こるか分からない戦場で、ただ逃げているだけでは、今日みたいに巻き込まれて死ぬだけだ。

 その上、今の常に小競り合いが発生している状況下だと、近づくだけで敵と見做され撃たれかねない。

 

 相手が貴族連合だろうと、正規軍だろうと、停戦を呼びかけるのではなく、こちらから打って出ればいい。

 

 そうすれば、少しでも避難経路から遠くに戦場を誘導することが出来たはずだ。

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 ========= 七耀暦1204年11月21日 =========

 

 最初は五十三人いた避難民は、今日、戦闘地域を抜け出す頃には十人になっていた。

 三十四人は二日前の戦い、三人は今日までの戦いに巻き込まれて死んで、六人は傷の悪化が原因で死んだ。

 

 あれから二度、鉢合わせてしまった貴族連合に雇われた傭兵の歩兵部隊から、問答無用で攻撃を受けた。

 

 そして四度は、今度はこちらから、それぞれ貴族連合の哨戒中の小隊や、正規軍の本隊から逸れた、もしくは待ち伏せをしていると思われる小隊に奇襲を仕掛けた。奇襲して、バイクで逃げて、また奇襲して、爆薬で狼煙を上げ、両軍を接敵させて戦場を誘導した。

 

 避難経路と両軍の位置関係上、それぞれを放置しておくと、互いに接触した後にまた近くで小競り合いをされる可能性が高かった。

 これで完全に両軍から目をつけられることになっただろうが、仕方がない。

 

 まだ油断できないが、昨日偵察した限りでは、戦線は全体的に南西に後退している。正規軍が敗退する形で。

 

 おそらく正規軍は、圧倒的な貴族連合に押されながらもどうにか南西に後退して、沿岸地域南部で別部隊と合流して拠点に立て篭もるつもりだろう。

 士官学院で、ナイトハルト教官に教えてもらった軍事学では、こういう時の定石とあった。

 六月に、トワ会長からも「この定石はたぶんテストに出ると思うから、忘れないようにねっ!」と教えてもらった事だ。ちゃんと、忘れていない。

 

 機甲兵や戦車との戦いで、銃弾も、閃光弾も、爆薬も尽きた。

 導力バイクも先程の戦いでエンジンがやられ、もう速度は出せない。

 俺自身の怪我も酷いが、薬品類は全て使い切ってしまったため、治療も出来ない。導力魔法で応急手当だけして誤魔化しているが、本格的な戦闘は無理だろう。

 

 だけど、それらと引き換えに、どうにか戦闘地域を抜け出せた。

 

 ラクウェルまで、あともう少しだ。

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 ========= 七耀暦1204年11月25日 =========

 

 二日前の昼、無事にラクウェルに到着した後、気を失っていたようだ。

 難民もろとも自警団に保護され、治療もしてもらって、意識を取り戻した時にはもう今日の夕方だった。

 

 修理してくれていた導力バイクを回収し、食料と装備を整えた後、すぐにラクウェルを出発した。

 

 正規軍、貴族連合の両軍に明確に攻撃をしかけてしまった以上、何時までもラクウェルに滞在するわけには行かない。

 今の戦況下でわざわざ一個人を追いかけまではしないだろうが、自警団にも迷惑をかけてしまう可能性がある以上、念には念を入れるべきだ。

 

 野営をしながら、ラクウェルで貰った帝国時報を読んだ。カレイジャスから情報を得られない今、現地で得られる情報だけが頼りだ。

 

 帝国時報によると、世間ではこの内戦が、革新派と一部の正規軍が企てた謀反を、貴族連合が阻止したことによって始まったものだと言う事にされていた。

 陛下の身柄も貴族連合が押さえており、今や革新派の正規軍は賊軍扱いだ。

 

 また、貴族連合と正規軍の戦いはこの西部だけでなく、帝国各地で頻繁に行われている状態。

 そして、帝国東部クロイツェン州は、多くの町村が戦火に巻き込まれながら、完全に貴族連合によって制圧されたと書かれていた。

 

 断片的に戦況を知ることが出来たが、色々と不安になる。 

 

 Ⅶ組の皆は、大丈夫だろうか。

 東に逃げたフィー、エリオット、マキアスは特に心配だ。両軍の戦いに巻き込まれていなければいいが。

 

 唯一安心できることは、指名手配が解除されていない以上、皆がまだ捕まっていない可能性が高いと言う事だけだ。

 

 帝国の現状と、そして先日の両軍の戦況を踏まえて、明日からの方針を決めた。

 

 明日はかねてからの計画通り、沿岸部の南側を目指す。

 まだリィンが見つかっていない以上、避けては通れない。

 そして、沿岸部の南側に正規軍が集結していると言うことは、そこが最前線となる可能性が高い。周辺の住民に危険が及ぶ可能性がある以上、無視することは出来ない。

 

 ラクウェルから南西は今、貴族連合の監視の目が厳しい状態だろう。多少無理をしなければならないだろうが、仕方がない。

 

 カレイジャスへの言伝は、自警団に託してきた。アッシュは、信用できるいい人だ。

 だからきっと、何時になるかは分からないが、近いうちに問題なくカレイジャスに俺と西部の近況は伝わるだろう。

 

 カレイジャスに戻ることがもう出来ない以上、少しでも西部の情報と、広げた通信網が役に立てばいいのだが。

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 ========= 七耀暦1204年11月27日 =========

 

 貴族連合軍の小隊と、一悶着あった。

 

 警戒が厳しい両陣営の境界を避けて来たつもりだったが、貴族連合の小隊に見つかってしまったのだ。

 どうやら導力バイクの存在が仇となったようで、先日の妨害工作の実行犯としてバイクを目印に指名手配されていたようだ。

 

 トールズ士官学院Ⅶ組の生徒としての指名手配ではなく、正体不明の襲撃者に対する反逆罪としての指名手配。

 捕縛命令ではなく、殺害命令が出されていたため、旧型の装甲車によって問答無用で攻撃が開始された。

 

 だが、戦車と事を構えるのに比べると、装甲車はまだ相手をしやすかった。

 貴族連合の兵士と戦いながら、隙を見て閃光弾で装甲車の視界を奪いつつ接近し、苦戦しながらもどうにかタイヤを破壊。

 

 機動力を奪ってしまえば後はバイクで逃げるだけと実行に移しかけていたが、その時、ここ最近現れるようになった新種の大型の魔獣が襲ってきた。

 

 装甲車をひっくり返して兵士達を襲い始めた魔獣を放置する事が出来ず、最終的には彼らと協力しながら魔獣を討伐した。

 以前戦った相手より強く、一人だと勝つことは難しかっただろう。

 

「我々は今日、偵察対象の新型大型魔獣に装甲車を破壊されるも、これをどうにか撃退。それ以外のことはなかった」

 

 小隊の隊長は、そう言って、俺の存在を見逃してくれた。

 

 もともと彼らは、新型魔獣の偵察任務のために本隊から外れた辺鄙な場所にいたらしい。

 軍の侵攻にも使えず戦略上も大して重要な場所でないため、割いても問題ない旧型の装甲車一台で来ていたのだとか。

 

 俺は運悪く、偶然そこを通ってしまったのだ。

 

「正規軍の方でも、お前と同じような特徴の男が指名手配されたと噂で聞いた。だからここを通しても、この先でお前は連中の手で勝手に捕まるだろう」

 

 指名手配の件や導力バイクが目印にされている件、そしてそれは正規軍側でも同じであることを、隊長が親切にそうやって教えてくれた。

 

「この内戦で、本来なら守るべき民を、我々自身の手で傷つけてしまっていることは知っている。すまないな」

 

 別れ際、小隊員から、そう謝られた。

 隊長はその小隊員を「それ以上は口にするな。立場上、罰則を与えなければならなくなる」と叱っていた。

 

 貴族連合の兵士も、戦いたくて戦っているのではないのだろう。

 本当に嫌になる。

 

 導力バイクは道中、隊長の忠告に従って森に隠してきた。

 

 明日からは徒歩で沿岸部南に向かう。

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 ========= 七耀暦1204年11月29日 =========

 

 結社『身喰らう蛇』の一員だと名乗る黒スーツの男と会った。

 格が違いすぎて、その実力を図ることすら出来なかった。

 

 街道の外れにいきなり現れて戦闘を仕掛けて来た、泰斗流の技を使う男。状況が理解できないまま始まった戦いは、一方的なものとなった。

 お互い素手による戦いを主軸にしているが、相手はそれだけではない。

 距離を取っても、男の遠当ては一撃必殺の威力。俺が得意とする超近距離戦闘の間合いに持ち込んでも、本来の泰斗の間合いでも無いにも関わらず、同じ土俵で完膚なきまでに叩きのめされた。

 俺は切り札を切ることすら出来ず、最後は強力な回し蹴りを食らって立ち上がれなくなった。

 

「野郎、適当なこと言いやがって。何が泰斗を使う狂犬だ。これじゃあ良くても子犬だろうが」

 

 動けなくなった俺に、男は苛立ったようにそう吐き捨てた。

 

「この馬鹿げた茶番の戦争ごっこで、両軍に喧嘩を売る頭のおかしい馬鹿がその狂犬だって話だから来てみれば、とんだ期待外れだ」

 

 俺から興味を無くしたように溜息を吐いて、男が煙草を吸い始めた後、その場に機甲兵が現れた。

 貴族連合の支配下で、あれだけ大騒ぎをしたのだから、気付かれて当然だった。

 

 この場所に本来ならいるはずのない俺達二人に対して、機甲兵は反逆の容疑でこの場で捕縛すると通達してきた。

 痛む体をどうにか動かし逃げようとしていると「……それなりに、本気で打ったんだがな。外しやがったか」と、男は煙草を消して機甲兵に近づく。

 

「俺はお前らの親玉に雇われた、結社の人間だ。ここにいるのは俺の趣味だがな。ま、言っても下っ端には伝わらねえか」

 

 飄々と笑う男に恐怖を感じたのか、機甲兵はその巨大な剣を男に振り下ろしたが、男は一歩で機甲兵の足元に移動していた。

 

「おい、野良犬。その化勁の巧夫の褒美だ、よく見とけ」

 

 そして、そんな軽い言葉と共に瞬時に氣を練り、発勁を放った。信じられないことに、機甲兵はそれだけで各部を爆発させながら、動作を停止した。

 

「高価な玩具でも、使い手が雑魚すぎて話にならねえな。野良犬。次はお前、これ受けてみろ。才能なんて欠片もねえ雑魚だが、それでちっとは体感できるだろ。ま、生きてればの話だがな」

 

 その後のことは、もう覚えていない。

 最後に覚えているのは、腹部を触れられた僅かな感覚と、次いで体の内部を爆発されたかのような衝撃だった。

 

 意識を取り戻した時は、戦った場所からかなり離れた茂みの中で、雑に散らばった荷物と一緒に倒れていた。

 状況から察するに、男が運んで隠してくれたのだろうか。

 

 体の中をぐちゃぐちゃにされたかのような痛みは、まるで治る様子がない。

 しかし、明日になれば多少は動けるようになるだろう。

 

 あの男の発勁、凄まじかったとしか言いようがない。

 アンゼリカ先輩、いや、キリカさんの一撃にもない、極限まで練り込まれた氣の静かさ、そしてそこからの爆発力があった。

 

 生きていればなどど言っていたが、機甲兵に打った時と同様の威力で撃たれていれば間違いなく死んでいただろう。

 ぎりぎりで、本当にぎりぎりで、化勁によって受け流す余裕をくれたからこそ、死なずに済んだ。

 

 あの男の目的は分からない。俺を捕らえるでも殺すでもなく、ただ戦っただけ。結果だけ見れば、貴族連合の機甲兵から助けてくれている。

 言葉通り俺と戦いたかったと言うだけでは流石にないだろうが、しかし本当にそれだけである可能性も捨てきれない。

 ユミルでの『怪盗紳士』ブルブランの件を考えると、結社にも頭のおかしい人間がいる。結社繋がりで「野郎」となると、俺にはあの頭のおかしい迷惑な奴しか思い当たらないし、同類の可能性も大いに有り得る。

 

 だが、あの発勁を見せて、体験させてくれたことには感謝すべきだ。

 俺が目指すべき発勁は、あれだ。

 

 痛みはあるが、少しだけ動けるようになってきた。

 導力魔法で多少は誤魔化しも効く。

 

 あの感覚を忘れないうちに、少しだけでも鍛錬しよう。

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