凡人の軌跡   作:kuku_kuku

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内戦編:七耀暦1204年12月前半

 ========= 七耀暦1204年12月4日 =========

 

 正規軍と貴族連合の陣営から南に抜けた所にある辺境の村が、野盗の被害にあっていた。

 先日、ラクウェルを襲った野盗の一味の残党だ。

 

 約三十人の野盗達は、正規軍との戦いで中破して破棄された機甲兵二機を回収、修理して運用することで、完全に村を支配下に置いていた。完全な性能ではないとは言え、それでも二機の機甲兵を相手取れる戦力は、領邦軍が出払った村にはなかったのだ。

 

 ラクウェルの一件で野盗達に顔を覚えられていたようで、三日前に村に入ったその日に戦闘となった。

 

「軍人様が睨み合って手出しできない戦場だった場所なんて、腐るほどあるからな。そこから兵器を掻っ払って戦力を集めて、もう一回ラクウェルから搾り取れるだけ搾り取ってやるよ。当然アッシュとかいうクソガキも、お前もぶっ殺してな」

 

 そんなどうしようもない脅し文句を吐きながら、クズ共は先日の復讐とばかりに容赦なく攻撃して来た。

 

 所詮はまともに鍛錬などしていない野盗ではあるが、人数も多く、機甲兵まで持っていた。俺自身も導力バイクを置いてきた上に、先日の怪我が完治してない状態であったため、かなり苦戦した。

 

 一日目は、脅しをかけてきた二人を撃退し、すぐに村を離れ森に入った。一人は仕留めたが、もう一人には逃げられ応援を呼ばれたのだ。

 

 追手には十人と機甲兵一機を差し向けられたが、先日の猟兵崩れとの森での戦闘経験が活きた。

 罠を仕掛ける時間を確保できなかったが、機甲兵の圧倒的な戦力で完全に油断している野盗には奇襲だけで十分で、分散して俺を探す野盗達を奇襲して各個撃破しつつ、最終的に機甲兵と一騎打ちとなった。

 

 機甲兵は脚部のローラーが破損しており、強みであるその機動力は発揮されなかった。それが原因で、回収もされず戦場跡に放棄されていたのだろう。また、森での戦闘であったため、気をつけるべきはその圧倒的な巨体から繰り出される剣の攻撃力のみだった。

 

 一撃まともに食らったが、それでもどうにか勝利した。

 

 黒スーツの男との戦いで僅かに向上した零勁の一撃は、その分厚い装甲の上からでも操縦者と機体を繋ぐ中枢部に衝撃を届かせ破壊するに至ったのだ。

 あの男のように、機体の内部を全て破壊するような芸当は到底できない。だがそれでも、俺の力量でも、的確に弱点を狙い撃ちさえすれば、乗り手の力量次第ではあるが機甲兵に勝てる見込みはあることが分かったことは大きかった。

 

 二日目から今日にかけては、村を拠点に篭城する残りの二十人の野盗に、十数回の奇襲を仕掛けた。

 見回りをしている数人に奇襲をかける。複数ある根城に閃光弾や催涙弾を投げて襲う。わざと見つかって森の中におびき出し、罠にかける。

 思いつく限りのことを休むことなくやり続け、最終的にはもう一体の機甲兵もどうにか倒し、野盗を全滅させる事が出来た。

 

 村の人からは、お礼を言われた。

 しかし、元はと言えばラクウェルでクズ共を見逃してしまった俺に責任があるのだ。

 

 そう伝えはしたが、村の人たちはそれでも俺のお陰で助かったと言ってくれた。

 寝床を貸してくれ、手当をしてくれて、自分たちの分もままならない大事な食料も分けてくれた。

 

 小さな子どもがくれたリンゴは、とても美味しかった。

 

 

 明日は、予定通り沿岸部南地域に向かう。

 

 野盗達が使っていた導力車を村の人たちが快く譲ってくれたため、ここから北西に数時間走れば目的地だ。

 この村ともまだ交易があるとのことで、村長さんが用意してくれた通行証を持っていけば、正規軍の検問も通過出来る。

 

 ただ、想定よりも早く正規軍と貴族連合の戦いが始まるようだ。

 数日前から、南部には貴族連合から避難勧告が出ていると聞いた。

 

 リィンを早く見つけたいという思いがある一方で、争いが治まる様子のない帝国西部にはいて欲しくないとも思う。

 村長から貰った帝国時報によると、帝国東部では、エリオットの父『赤毛のクレイグ』率いる第四機甲師団がガレリア要塞付近で抵抗を継続している。しかし、実質は貴族連合が東部全土を平定したようなもので、そういう意味では民間人への被害は西部よりも格段に少ないという。

 

 どこにいても狙われる可能性があるのなら、まだ小康状態の東部にいてくれた方が良い。

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 ========= 七耀暦1204年12月5日 =========

 

 沿岸部にようやく到着したが、両軍の激突に備えて四方に避難する人たちの行列が出来ていた。

 

 可能な限り情報を集めたが、リィンの情報はなかった。

 

 また、トールズの生徒の両親にも出会った。

 パスカルという一年の平民生徒の両親は、内戦が始まって以降ずっと息子の情報を集め続けていたという。その情報によると、少なくとも沿岸地域には士官学院の生徒は誰も来ていないとのことだった。

 

 少しだけ、安心出来た。

 

 ラマール州の主要な地域で残すところは、ここから北のオルディスと、ジュライ特区付近のみ。

 しかし、北は完全に貴族連合の勢力下。少なくとも、沿岸地域での戦いが終わるまでは、北に向かうことは不可能に近いだろう。

 

 そのため、戦いが終わるまでは街に残って、様々な理由で避難が出来ない、もしくは遅れている人の避難を手伝うことにした。

 この地域から住民の避難が完了するまでの二日間は、ここに残ろうと考えている。

 

 正規軍の拠点の位置からして、戦線はここより少し北になるはずだ。

 そのため、乗ってきた導力車も使ってもらい、昨日までお世話になっていた南東の村に一時的に避難してもらう。

 幸い協力者もいるため、残っている住人の避難誘導は彼らに任せられる。

 

 もしも正規軍の陣営が一気に崩され、南側のこの地域まで戦線が後退してくる事になれば、焼け石に水にしかならないが、避難完了までの時間稼ぎとして、貴族連合の妨害をするつもりだ。

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 ========= 七耀暦1204年12月6日 =========

 

 状況を整理するために、現状を書き下す。

 

 どう動くかを、どう動くべきかを冷静に見極めなければならない。

 

 答えはもう半ば出ているが、落ち着いて一つずつ整理する。

 

 一つ。逃げ遅れた住民たちは、今日、南東の村への避難が完了した。彼らの身は、当面の間は安全だろう。

 

 二つ。北から南に侵攻してくる連合軍と、それを迎え撃つ正規軍の戦いは、圧倒的に連合軍優勢な状態。そして、今日の夕方、正規軍の陣営が崩され、戦線が後退を始めた。

 

 三つ。しかし戦線は予想から外れ、南にではなく、東の内陸部へと後退している。正規軍が住民の避難先を考え、あえて内陸部に逸れたのだろう。

 

 四つ。二日前に避難した一部の人たちは、先日の戦いで破棄された東の街に向かっていると聞いた。その中には、この二日間、避難誘導を手伝ってくれた人の家族もいると言う。

 

 現状大事なことは、三と四のみ。東に移りつつある戦線の延長線上に、避難中の人たちがいるということだけだ。

 

 だから、そうだ。

 もう、答えは出ている。

 

 貴族連合と、正規軍の戦線を突っ切って、東に向かわなければならない。意味があるか分からないが、それでも両軍に避難民のことを伝えて停戦を呼びかける必要がある。

 そして、避難中の人たちに追いつき、現状を知らせ、進路を変えさせる。導力車を持って行って移動に使わせれば、多少は進行速度も上がり戦いに巻き込まれる確率を下げることが出来るだろう。

 

 不幸中の幸いだが、東の森には導力バイクを隠している。

 もし両軍が止まってくれなくても、導力バイクさえ回収できれば、先日のように両軍にゲリラ戦を仕掛けてほんの少しではあるが戦線を誘導することも、遅らせることも出来るはずだ。 

 

 やることは決まった。

 

 あと三十分程度で、完全に暗くなる。

 それまでに準備を済ませ、夜に紛れて両軍の陣営を突っ切ろう。

 全て予定通りに行けば、明日の朝には避難民に追いつけるはずだ。

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 ========= 七耀暦1204年12月7日 =========

 

 両軍に停戦を呼びかけたが、意味がなかった。

 ただの一般人の言葉に耳を貸すことはなく、戦場を混乱させる妨害工作と取られ捕縛されかけた。

 

 両陣営の戦力は想像以上で、逃亡経路として南寄りに迂回せざるを得なかったため、導力バイクを回収して避難住民に追いついたのは夕方となってからだった。

 

 聞いていた通り、避難予定地はここから更に東に行った街。

 だが、その街もこのまま行けば間違いなく戦火に呑まれることになる。

 

 そのため、昨日までの戦況を避難住民の代表に説明し、東の街にも情報を伝えて協力してもらい、一緒にここから山沿いに北北東に進んでラクウェルを目指してもらうこととなった。

 

 約百人からなる避難民と、まだ残っているかも知れない東の街の住人達。ラクウェルでその全員を受け入れられるかは不明だが、それでもここから最も近い安全地帯はそこしかない。

 

 避難民の中には老人も子どももいる。足の遅い人から優先し導力車に乗せ、順次避難を急ぐこととなった。

 ここからラクウェルまで、普通に歩けば数日はかかってしまう。

 導力車で往復しても、たかが知れている。

 

 だから、少しでも避難完了までの時間を稼ぐ必要がある。

 

 俺は今から北に回り、夜中に正規軍の北北東側から夜襲をかける。ラクウェルまでの経路とは反対側に、軍の後退進路の誘導を試みる。

 

 二週間前は、失敗した。

 上手く立ち回れば救えたはずの命を、四十三の命を、取り零した。

 

 だが、今回は失敗しない。

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 ========= 七耀暦1204年12月8日 =========

 

 深夜から今日の昼にかけての計十回の奇襲は、概ね成功した。

 

 その成果であるかは不明だが、正規軍の後退進路は東南東に向いている。

 

 しかし、貴族連合の進軍速度が思ったよりも早い。

 これでは明日には、貴族連合の動きによっては後退進路なんていくらでも変わってしまう。

 

 正規軍だけに妨害工作を仕掛けても意味がない。

 

 今晩からは、貴族連合側へも仕掛ける必要があるだろう。

 大きく北西に回って、背後から奇襲を仕掛ければ、多少は進軍速度を下げることが出来る可能性もある。

 

 少しだけ休憩したら、すぐにでも導力バイクのメンテナンスに取り掛かろう。

 戦車の砲撃を受けた際に、直撃は免れたが、導力バイクごと吹き飛ばされ転倒してしまった。

 

 今は、この導力バイクが生命線だ。

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 ========= 七耀暦1204年12月14日 =========

 

 皆は、無事にラクウェルに移動できているだろうか。

 

 ARCUSの通信機能が壊れ連絡が取れない以上、俺は出来ることをやるしか無い。

 

 だけど、俺はもう、動けない。

 

 正規軍の背後から夜襲を仕掛け、後退を遅らせた。

 貴族連合に側面から奇襲をしかけ、進軍を乱れさせた。

 

 そんなことを、何度もやった。

 

 一度目は、成功した。

 二度目も、成功した。

 三度目は、警戒され、迎撃されて失敗した。

 四度目は、迎撃されたが、戦った。

 五度目以降も、同じことを繰り返した。

 

 何度目からか、貴族連合に雇われた猟兵団や、正規軍の一部の部隊が、奇襲を仕掛けて逃げる俺を追いかけるようになって来た。

 

 野盗や、猟兵崩れとは、装備も兵の練度もまるで違った。

 唯一のアドバンテージである導力バイクをもってしても、簡単には追跡を振り切れなかった。

 

 追いつかれれば戦い、何時間もかけて追跡を振り切り、その足でもう一方の軍に奇襲を仕掛け、また追い掛け回される。

 そんなことを、ちゃんと数えていなかったが、四日繰り返した。

 

 そして今日、何時壊れるかと心配していた導力バイクよりも先に、俺が動けなくなった。

 流石、先輩たちが協力して作り上げた導力バイクだ。俺なんかより、よほど頑丈だ。

 

 やらないといけないことがあるのに、体が動かない。

 今見つかったら、確実に死んでしまう。

 そうでなくても、この傷が原因で死んでもおかしくない。

 

 だけどもう、体が動かないのだから、どうしようもない。このまま、後は死ぬのを待つだけだ。

 

 結局俺は、何も出来なかった。

 

 リィンやⅦ組の皆の無事も、確かめられなかった。

 オリビエさん達にも、迷惑をかけたままだ。

 アンゼリカ先輩やジョルジュ部長にも、呆れられるだろう。

 クロウ先輩をぶん殴って学院に連れ帰るどころか、あれから先輩と話すことすら出来なかった。

 トワ会長との生きて帰るという約束まで、守れなか

 

 

 

 

 

 

 違う。

 

 約束したんだ。

 

 まだ、死んでない。

 まだ、生きてる。

 まだ、終わっていない。

 

 だから、まだ、約束は守れる。

 

 Ⅶ組の皆と、リィンを探してもう一度会おうと約束した。

 オリビエさん達との約束も、一つは破ってしまったが、もう一つはまだ破っていない。

 先輩たちにも誓った。アンゼリカ先輩、ジョルジュ部長、クロウ先輩。三人の前で、俺がトワ会長を守ると、そう誓った。

 トワ会長と約束した。生きて帰ると、そう約束した。

 

 そして俺は、まだ死にたくない。

 生きて幸せになりたい。

 トワ会長が作ってくれたアップルパイを、もう一度食べたい。

 

 だから、まだ死ねない。

 

 体が動かないのは、血が足りていないからだ。食べて眠れば、回復するはずだ。

 だから、今晩休めば、明日からは動けるはずだ。

 

 まだ生きている。だから、まだ大丈夫だ。

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 ========= 七耀暦1204年12月15日 =========

 

 戦える体力は、もうなかった。

 

 でも、導力バイクに乗って近くまで行けば、もう、それだけで追いかけられるようになっていた。

 

 たった一部隊だけを引き付けるだけの囮なんて、何の意味もないのかもしれない。

 

 でも、それでも、俺が今やれることはこれだけだ。

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 ========= 七耀暦1204年12月16日 =========

 

 西部の戦いは、完全に貴族連合の勝利で終わった。

 

 西のラマール領邦軍と、南のサザーラント領邦軍。精鋭揃いの領邦軍を主体とする連合軍による挟撃と、そしてクロウ先輩が駆る蒼の騎神の猛威によって、正規軍の後退戦術により半ば泥沼と化していた戦況はたった一日で大きく動き、正規軍の陣営は崩壊した。

 

 正規軍は、今や散り散りになって敗走を始めた。

 近いうちに、貴族連合が掃討戦を開始するだろうが、これでもう、大規模な戦いは終わった。

 

 皆が避難を開始して、もう、九日だ。

 

 きっと、ラクウェルにたどり着いている頃だろう。

 

 だから少しだけ、休もう。

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 ========= 七耀暦1204年12月18日 =========

 

 意識を取り戻した時には、あれから二日経っていた。

 

 食事だけはちゃんと摂っていたこともあり、体はある程度は動くようになっていた。

 

 情報収集のために先ずはラクウェル方面を目指すことにしたが、一台の正規軍の戦車が、貴族連合の機甲兵三機から攻撃を受けている現場に遭遇した。

 

 もうまともに戦闘することなんて戦車には不可能な状態だったのに、機甲兵は無意味に戦いを長引かせ、ただ弱者を甚振ることを楽しんでいた。

 

 最初は、軍人同士勝手に潰し合えばいいと思い、無視しようとした。

 だが、貴族連合にも、一月前に出会った小隊の皆のように、いい人達がいた。

 そして、八月にクロスベルでお世話になった人達のように、正規軍にもいい人達がいることを知っている。

 

 だから、この内戦が始まってから初めて、民間人保護の目的以外で両軍の争いに割って入った。

 

 もう、人が死ぬのは嫌だった。

 

 背後から接近し、無防備な機甲兵の背中に零勁を二発打ち込んで、動作を停止させた。

 二機目にも一発叩き込んだが、しかし倒し切ることはできず、機甲兵はすぐに反転し俺を標的に変更した。

 

 まともに動かない体では回避も防御もまともに出来ず、薙ぎ払われた剣の一撃に、死を覚悟した。

 

 だけど、死ななかった。

 直撃した剣に無様に吹き飛ばされた体は、それでもどうにか命を保っていた。

 

 黒スーツの男の言葉を、その時になってようやく理解した。

 

 あの男は、あの人は、零勁の撃ち方を教えてくれたのではなかった。

 教えようとしてくれたのは、力を受け流す術、本当の化勁の在り方だった。

 俺の衝撃を緩和するだけの中途半端な化勁に対し、あの混じり気のない研ぎ澄まされた純粋な勁を体全体に通すことで、力そのものの流れと、それを受け流す感覚を教えてくれたのだ。

 

 あの人のお陰で生き延びることはできたが、でも、その時はもう起き上がることすら出来なかった。

 

 その後、戦車はどうにか砲撃を機甲兵に直撃させ、一対一の状況となった。

 

 機甲兵側も分が悪いと踏んだのか、操縦者二人を拾って撤退を始めた。

 

「お前……そうか、味方じゃなかったが、敵でもなかったんだな……。助けてもらったのに、悪いな。お前を保護してやることは、今は出来ないんだ」

 

 戦車から降りてきた正規軍の軍人は、そうやって俺に謝りながら手当をしてくれた。

 人目につかない奥まった場所に移動し、テントを張りそこに寝かしてくれて、高価な薬まで使ってくれて、栄養価の高い携行食を食べさせてくれた。

 

 そして、何度も何度も戦いの邪魔をした俺のことを、見逃してくれた。

 

 テントで寝るなんて、久しぶりのことだった。

 

 少しだけ、心が軽くなった。

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 ========= 七耀暦1204年12月20日 =========

 

 気が緩んだのか、高熱が出続け、あれからまた二日間も寝込んでしまった。

 

 でも、正規軍の人が分けてくれた薬の効果もあって、体は随分と動くようになって来た。

 

 むしろ、かなり調子が良い。

 節々は痛むが、それを置いておけば体が軽く感じる。

 

 これで、まだ戦うことが出来る。

 

 今度こそ、ラクウェルを目指そう。

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 ========= 七耀暦1204年12月21日 =========

 

 色々なことがありすぎて、何から書いたらいいか分からない。

 

 だけど、良かった。本当に良かった。

 

 皆がこの内戦で、無事に生きていてくれた。

 

 本当に良かった。

 

 

 今日は、朝から色々なことがあった。

 ラクウェルまで後少しという所で、軍用艇から降下して来た貴族連合の小隊に囲まれた。

 

 導力バイクで逃げる隙など皆無な、見事な連携だった。

 指揮を取っていたのは、アルゼイド流とヴァンダール流、帝国の二大流派を極めた『黄金の羅刹』オーレリア・ルグィン。

 

「少しとは言え一人で戦線を停滞させた猛者がどれほどのものかと思えば……ふむ、この程度か」

 

 指名手配を受けた俺に興味を持ち、貴族連合の司令官がわざわざ出向いてきたのだ。

 

 実力の差など、戦う前から明白だった。奇跡が起きても勝てるはずのない相手だったが、それでもまだ捕まる訳には行かない。

 そう思い、剣を構える敵に戦いを挑んだ。

 

 オーレリア将軍は、強かった。

 

 爺ちゃん、サラ教官、アルゼイド子爵、クロウ先輩、黒スーツの人。達人と呼ばれる域にある人たちとは、これまでに何度か手合わせをして貰ったことがある。

 だが言わばそれはただの訓練で、戦いではなかった。

 

 オーレリア将軍は決して本気ではなかった。だが本気でないだけで、本当の戦いだった。

 

 臆して引けばアルゼイドの攻の剣。踏み込めばヴァンダールの守の剣。何処にも付け入る隙などなかった。

 それでも活路は一つしかなく、俺の間合いである零距離へと踏み込み、抗った。

 

「力の差も分からぬ愚者ではあるまいに、その在り方がまさしく狂犬という訳か。機甲兵を与えられ圧倒的優位に立った兵では、確かに苦戦しても仕方がない」

 

 しかし、十合ほど打ち合った後、真上から振り下ろされるアルゼイド流の一撃で勝負は決した。

 手甲で受け止め化勁で少しは受け流せたが、それでも全身に与えられた衝撃で、立ち上がることは出来なかった。

 

「捕らえて、すぐに治療にあたれ。それでも死ぬようなら、別に構わん」

 

 将軍の言葉で俺を捕縛しようと小隊が動き始めたその時、俺の周囲に導力魔法による暴風が渦巻き、気づけば目の前にトヴァルさんが立っていた。

 

「悪いが、こいつは遊撃士協会が保護させてもらいますよ」

 

 突然の事態に混乱する俺と貴族連合の兵士を他所に、オーレリア将軍とトヴァルさんは言葉で牽制し合う。

 

「民間人ではなく、戦時反逆罪で指名手配された犯罪者であろう。遊撃士協会と言えど、犯罪者の保護までは認められていなかったはずだが?」

 

「あいにくと、民間人でも犯罪者でもないんでね。こいつは準遊撃士で、内戦に巻き込まれた民間人の保護を目的に活動していただけですよ」

 

「ほう、準遊撃士だと? 登録されている遊撃士協会所属者の一覧に名前もない上に、ただのトールズ士官学院の一生徒だったはずだが」

 

 俺も俺が準遊撃士だったなどと初めて聞いたのだが、立ち上がることすら出来ず聞くことが出来なかった。

 尋ねるオーレリア将軍に、トヴァルさんは懐から書類を取り出して広げた。

 

「帝国のリストにはないでしょうね。こいつは、リベールの準遊撃士なんですから。正規遊撃士でもない以上、帝国まで情報が行くことはないから知っていなくても当然ですよ。ちなみにこれが、内戦開始直後にオリヴァルト皇子が出された依頼書です」

 

「ふ、それで? 我が軍に攻撃を仕掛けたのは、遊撃士協会公認の戦闘行為だと?」

 

「はい。依頼中にほんの少しだけ貴族連合や正規軍と衝突したようですが、協会としては民間人の保護のため仕方ない行為という見解です。現に、帝国西部各地では、両軍の衝突に巻き込まれた多数の民間人が彼によって保護されています。通信機が破損したため最近は連絡が取れていませんでしたが、準遊撃士ということで持たせていた音声記録装置にも、両軍に民間人保護のため停戦を呼びかけている記録が残っていると思いますんで、必要であれば提出しますよ」

 

 音声記録装置って何だと思いながら聞いていると、オーレリア将軍は楽しそうに笑い始めた。

 

「ふふふ、そこまで根回しが済んでいるのなら是非もない。我が軍としても、賊軍の想定外の抵抗に合い、守るべき民を巻き込んでいた事には胸を痛めていた。貴族連合の、ラマール領邦軍の司令として、我が州の民を救ってくれたことに感謝を示そう」

 

 オーレリア将軍は「準遊撃士よ、此度の働き感謝するぞ」と言い残し、兵士を引き連れて帰って行った。

 

 その後俺は、トヴァルが呼んだ第七機甲師団の装甲車に乗せられ、多くの難民がいるキャンプ地に運ばれた。

 オリビエさんが率いる『自由への風』という中立派の団体が、帝国西部に溢れている難民を一時的に保護している場所だとのことだった。

 

 担架に乗せられて医療用のテントに連れて行かれ、診察を受けているとオリビエさんがやって来てくれた。

 

「気をしっかりと持つんだ。リィン君やⅦ組の子たち、それにトールズの関係者は全員無事だよ。今はトワ君の指揮のもと、東部でカレイジャスを使って色々と動いてくれている」

 

 ぼんやり診察を受けながら、少し焦った様子のオリビエさんの近況報告によって、皆の無事を知ることができた。

 

「連絡がつかなくなった時は焦ったが、生きていてくれて本当によかった。あれほど無茶はしないように言ったのに、君と来たら……。トワ君とジョルジュ君に感謝するんだよ? 君は絶対に無茶をするからと言って、遊撃士協会も巻き込んで色々と根回しをするように提案して来たのは、あの二人なのだから。このまま死んでしまうと、お礼を言うことすら出来なくなってしまう。それは君も嫌だろう? それに、愛する人にもう一度会いたいだろう? だから頑張るんだ」

 

 オリビエさんは、診察の間、ずっとそうやって声をかけてくれた。

 診察結果として、実は俺はかなり危険な状態にあるらしい。

 

 あと十分もすれば手術をしなければ行けないとのことだが、自分としてはそんなに危険な状態に思えない。

 

 妙に頭もすっきりしているし、医者から追い出されてしまったオリビエさんもいなくなって、暇になった待ち時間に今こうやって日記だって書くことが出来る。

 確かに今は手しかまともに動かせないが、それでも数日前の状態に比べたら全然ましだ。

 

 でも、危険な状態と言われると、確かにちょっとそういう気分にもなってくる。

 

 何だか眠くなってきた。

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