凡人の軌跡   作:kuku_kuku

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放浪編:七耀暦1205年4月〜6月

 ========= 七耀暦1205年3月31日 =========

 

 思い返せば、トールズ士官学院の入学式はちょうど一年前の今日だった。

 色々な事がありすぎて、あれからまだ一年しか経っていないことに正直驚きを覚える。

 

 そして、この小屋に帰ってきたのは二年と四ヶ月ぶりだ。

 サザーラント州のイスタミア大森林にあった隠れ里エリンを発って、南東に歩くこと六日。

 エベル湖に繋がる川をずっと南下した、街道からも離れた辺鄙な場所にある爺ちゃんの仮住まい。

 

 俺は勿論、爺ちゃんも長い間戻っていなかった小さな家は、以前にもましてボロボロになっていた。

 

 今日の昼過ぎ、到底人が暮らしているとは思えなくなってしまった小屋に辿り着くと、しかしそこには剣を振る爺ちゃんがいた。

 

「早く川で水を汲んで来い。お主の仕事じゃろう?」

 

 驚いて固まる俺を他所に、飄々と桶を投げ渡して来た爺ちゃんは、まるで昔のようにそうやって声をかけてくれた。

 二年ぶりの再会とは、まるで思えなかった。

 

 昔のように河原で水を組んで小屋に戻ると、爺ちゃんがお茶を煎れてくれた。

 あまりにも自然に出されたお茶を飲んだ後、意を決して「せっかく入学金も払って頂いたのに、学院を中退してしまって申し訳ありませんでした。卒業することは出来ませんでしたが、強くなるために修行をつけて頂きたいです」と頭を下げると、頭を叩かれた。

 

「中退どころか、世間では死んだ事になっておるじゃろうが。人並みの平穏を願って送り出してみればこの有様……相変わらず呆れた奴め……」

 

 そして大きく溜息を吐いた後、「しかし、よくぞ生きて戻ってきた。馬鹿孫よ」と、そう言って頭を撫でてくれた。

 

 爺ちゃんは、ヴァンダイク学院長経由で俺が死んでしまったことを聞いていたらしい。

 しかしそれでも俺が生きていたことを見抜いていたようで、こうして俺が訪ねて来るのを待っていてくれたとのことだった。

 

 ヴィータさんとロゼさんが魔術まで使って、俺とクロウ先輩の死を偽造したのだ。

 ARCUSによって霊力的に繋がっていた先輩達と、先輩達経由で密かに知らされたⅦ組や協力者の皆くらいしか、その真相には気づいていないと思っていた。

 それを見抜いていたと言う爺ちゃんに驚いていると「儂の千里眼にかかれば当然じゃ」と笑って返された。

 

 そして事情を話そうとする俺を制して、爺ちゃんは準備をして着いて来いと言って、剣を持って立ち上がった。

 

 爺ちゃんに命を救われてから三年間、毎日剣を振ってきた小屋の裏の広場。

 

 俺はそこで、爺ちゃんと本気の手合わせをした。

 

 爺ちゃんと別れてから今までに培って来たものを全てぶつけ、そしてその上で完膚無き迄に叩きのめされた。

 

 届くとは思っていなかったが、それでもやはり敗けることは悔しい。例えそれが老師なのだとしても。

 

「人伝に聞いてはいたが、良き縁に恵まれたようじゃな。非才の身で、よくぞここまで強くなった」

 

 少しだけ微笑んだかと思えば、爺ちゃんは膝を着く俺を鋭く見据え、そして剣を突き付け、問いかけて来た。

 

「今こそ改めて問おう。五年前の問いに、今一度答えよ。お主は何のために強さを求める?」

 

 五年前の俺は、爺ちゃんのようになりたいと答えた。

 

 クズな人間に、生きる価値はない。

 優しいだけの人間では、守りきれなかった。

 賢い人間でも、まだ足りなかった。

 強くないと、生きることすら出来ないと分かった。

 だから、貴方のように、理不尽を全て全部斬り殺せるくらい、強くなりたい。

 

 五年前の俺は、確かそう答えた。

 

 だけど今は違う。

 

「俺でも助けられる人達がいることを知りました。絶対に守りたい人達が出来ました。一緒に幸せになりたい人が出来ました。だからそのために、強くなりたいです」

 

 この家を離れて二年かかって出した俺の答えに、爺ちゃんは大きく笑った。かつて見たことが無いほど楽しそうに、そして嬉しそうに笑った。 

 

「明日からは儂の持ち得る全ての技を授ける。二年前の獣には無理でも、今の只人になら修めることが出来るじゃろうからの。さて、今日は祝杯じゃ。成人にはまだ一年早いが、お主も付き合え。なに、心配せずともお主に供えるつもりで買ってきた酒は沢山ある」

 

 夜、爺ちゃんが自ら魚を釣って来てくれて、そして料理を作ってくれて、人生で二度目となる酒を飲んだ。

 一度目の時は、ほとんど事故のようなもので、オリビエさん達に半ば無理やり飲まされ、後日「君はもう飲んではいけない」と真面目な顔で説き伏せられた。後半は正直全く覚えていない。

 だがその時の経験もあって、二度目であった今日は、きちんと記憶が残っている状態で美味しく爺ちゃんと酒を飲むことが出来た。

 

 爺ちゃんとは、色々なことを話した。

 爺ちゃんも、色々なことを聞いてきた。

 

 中でもやたらとトワ会長のことを聞いて来たため、事細かに話しをさせられ、最終的に会長に結婚を申し込む前に一度結婚を断られていることを話すと、説教が始まった。

 

「とにかく、何から怒れば良いかわからぬが、物事には順序というものが……いや、これは剣しか教えられんかった儂の責任か……?」

 

 そして頭を抱えて悩み出した爺ちゃんに、おそらく会長はリィンの事を好いていることを話すと、最終的に同情された。解せない。

 

「まあ、お主でもアネラスでも良い。儂が生きとるうちに曾孫を見せて安心させてくれ。お主らはどうにも極端で、このままじゃと安心して死ねんわ……」

 

 深い溜息を吐いた爺ちゃんの言葉で、その場はお開きとなった。

 明日からの修行は厳しくなるため、早く寝ろとのことだった。

 

 しかし、酒を飲んだせいか、気分が高揚している。

 爺ちゃんはもう眠ったようだが、日記を書き終えてもまだまったく眠くならない。

 

 やはり今から軽くでも鍛錬をしよう。久しぶりにこの小屋に戻って来たことだし。

 

 

 

 追記。

 

 鍛錬中、ふと思い出した。

 

 俺は今日、爺ちゃんに生還と成長を祝ってもらった。

 だけど俺は、クロウ先輩とヴィータさんの結婚について、何も祝っていなかった。

 色々と意味がわからず初日に流してしまったせいで、今まですっかり忘れてしまっていた。

 

 そう思ってヴィータさんが持たせてくれた青い羽に霊力を込めてみると、「何かあったの?」とすぐにヴィータの声が頭に届いた。

 

 結婚のお祝いと、お祝いが遅くなってしまったことに対して謝罪すると、大きく溜息を吐かれて、

 

「あなたね……私たちだって隠れ里を出てから色々と忙しいのよ? そんなことで一々連絡して来ないでくれないかしら?」

 

 と、すぐに念話が切れた。

 クロウ先輩にもお祝いを言いたかったが仕方がないと思って、しばらく鍛錬を続けていると、今度はヴィータさんから連絡があった。

 

「……さっきの事だけど、一応、お礼を言っておくわ。それよりちょっと私の話を聞きなさい。クロウのことなんだけど」

 

 そして、クロウ先輩への愚痴を三十分くらい聞かされた。

 そしてその後、一時間くらいクロウ先輩の作ってくれた料理が美味しいやら、今日指輪をもらったやら、様々なことを聞かされた。

 最終的にはクロウ先輩が戻って来たからと言って、一方的に念話を切られた。

 

 何だったんだろう、これは。よく分からないが、解せない。

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 ========= 七耀暦1205年4月1日 =========

 

「今日からお主には、八葉一刀流の初伝を授けるための修行をつける」

 

 早朝、老師からそんなことを言われた。

 しかし俺は八葉の太刀を捨てた身。八葉一刀流を学んで本当に強くなれるのかと疑問に思って尋ねると、「そんなことも分からずに儂を訪ねて来たのか」と愕然とされた。

 

 老師によると、今の俺は中途半端な状態であるとのことだ。

 

「お主の動きの根幹は、幼い時にその身に染み込んだ、致命傷だけは避けて上手く殴られるための身のこなしと、スリのための懐に潜り込んだ上での小手先の技じゃ。そこに半端な八葉の剣術の体捌きが乗っかり、泰斗の技を繋げておる。一見調和が取れているようにも見えるが、その実は歪じゃ。それ故に先ずは繋を果たす八葉の型を修め、その後、それら全てを在るべき自然な姿に正す」

 

 老師の話は難しかったが、意味は何となく分かった。

 泰斗で言うところの氣の流れを感じる術、ロゼさんが言う所の霊視。それが身についたことで、俺自身の動きが部分部分で無理やり接続された状態だったことは、何となく感じ取れていた。

 

「八葉一刀流は剣術。しかし八葉を成す型は、武における基礎の延長じゃ」

 

 改めて八葉一刀流を説いてくれた老師曰く、八葉一刀流は八つの型で成り立ち、それぞれの型は武の奥義へと通じる基礎と、理念から成り立つという。

 理念に関しては、昔に爺ちゃんが「今のお主に一番必要なものじゃ」と教えてくれた伍ノ型しか理解出来ていないから省略するが、基礎については今なら何となく理解出来る。正直に言うと、正しく理解できている自信はあまりないが。

 

 壱ノ型は、基点。螺旋の動きは全ての動作における基点にして基礎であり、奥義である。

 

 弐ノ型は、歩法。風の如く変幻自在にして、疾風の如く鋭き歩法は、相手を制し、延いては戦場を制する。

 

 参ノ型は、闘気。練り上げた豪炎の如き闘気は、攻守において戦いの要となる。

 

 肆ノ型は、斬撃。八葉を剣術たらしめる斬撃は、鋼鉄であろうが目に見えぬ物であろうが、舞い散る紅葉を刻むが如く全てを平等に斬り裂く。

 

 伍ノ型は、対話。我を識り、汝を識り、機を識り立ち会えば、戦いの後に残るのは月の如き剣閃のみ。

 

 陸ノ型は、間合。空を裂く紅き刃の間合は無限、彼我の間合ごと全てを斬る。

 

 漆ノ型は、無。この型が司る基礎は無く、そして同時に、全ての型を合わせた武における唯一の基礎でもある。

 

 壱から漆、そしてそれを扱う己が心身を基礎とする、捌ノ型。これら全てに通じ、全てを修め、そして一つを極め、八葉一刀流は『理』へと至る。

 

「お主には三年間、伍ノ型を中心に剣術を教えてきた。しかし今日からは、剣術ではなく、他の型を通して全ての武に通ずる基礎を叩き込む。言い換えれば、その根幹と泰斗の技を繋ぐ、半端な八葉の剣術としての体捌きを、土台から別のものとして叩き鍛え直す。ふむ、『真の八葉を完成させる一刀』としてリィンを鍛えた時を思い出すが、出来上がるものが八葉とは全くの別物どころか、無刀とはの。皮肉なもんじゃ」

 

 そう言って笑ったのを最後に、老師は太刀を抜いた。

 

 そして、いつの間にか意識を失うまで、ただただ過酷な修行が続いた。

 

 深夜になって意識を取り戻した。ヴィータさんから念話で起こされたのだ。そして、クロウ先輩が留守にしてるらしく、また一時間くらい昨日と同じような話しをされた。

 

 起こしてくれたことは有り難いが、一時間は流石に長い。

 

 

 色々と考えたが、修行が一段落するまでは、日記は一旦辞めにしようと思う。

 八葉の型と、型が司る基礎。理屈は言葉の上では理解できるが、体ではまだまだ理解が及ばない。

 しばらく思考の整理をする必要が無い以上、これからは修行に専念しよう。

 

 幸い、各方面に動きがあればクロウ先輩やヴィータさん、ロゼさんが知らせてくれる。

 今は一刻も早く、修行を終わらせることを考えよう。 

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 ========= 七耀暦1205年6月15日 =========

 

「明朝、ここを発ち修行の場を変える。お主は五日でユミルまで走って来い。ただしこの二ヶ月で叩き込んだ歩法を崩さずにの。あと、魔獣に襲われようと己の身を守るために攻撃することは禁止する。基礎の動きだけを駆使して切り抜けよ」

 

 夕食後、爺ちゃんからいきなりそんなことを言われた。

 

 聞けば、爺ちゃんには情報局による監視がついているらしい。そして見立てでは、そろそろこの場所に監視の目が来るだろうとのことだ。

 監視による実害はないため、何時もは適当にのらりくらりと気儘に旅をしながら、その時の気分で追跡を巻いているらしいが、俺の存在が露見しないように今は一箇所に留まらないほうが良いだろうとのこと。

 

 爺ちゃんは鉄道でユミルへ向かうが、俺は修行の一環として走って来いとのこと。攻撃禁止の制約事項もまた修行のうちだ。

 五日となると、昼夜休まずに走り続けても間に合わない可能性がある。

 

 急遽旅の支度を整えて、先程ヴィータさん経由でクロウ先輩達に行き先を伝え、ついでに情報交換をした。

 

 クロウ先輩達は今、魔女の伝承に残る地を回り、まだ起動者がおらず目覚めていない騎神を探して旅をしているという。

 それと並行して、結社の下部組織であった『黒の工房』を密かに調査しているとのこと。ヴィータさんによると、オズボーン宰相に取り込まれたというその組織は、結社ですら把握しきれていない謎が多く、未だ詳細をつかめていない『巨イナル黄昏』について調べるにはそれが一番の近道なのだとか。

 

 そして、皆の状況についても大まかに教えてくれた。

 サラ教官を含むⅦ組の皆は、政府から英雄として縛られるリィンを除いて、特例で士官学院を卒業したらしい。残りのカリキュラムを極限まで圧縮して終わらせ、三月にそれぞれの道に旅立って行ったという。

 

 フィーは、サラ教官の下で遊撃士として生きるために学んでいる。

 

 ラウラは、子爵の下でアルゼイド流の奥義に至るための修行。

 

 ガイウスは、故郷に戻り激動の時代をノルドの民としてどう在るべきかを模索。

 

 エマ委員長は、一人前の魔女となるべくロゼさんの下で修行を。

 

 ユーシスは、クロイツェン州の領主代行として今の帝国の在り方を変えようとしている。

 

 マキアスは、帝国の在り方を正すべく、司法監察官になるための勉強に励んでいる。

 

 エリオットは、音楽を通して帝国を変えようと、帝都の音楽院に進んだ。

 

 アリサは、RFグループの後継者となるべく実家で働き始めた。

 

 ミリアムは、情報局に戻ったが、それでもⅦ組の一員として在ろうとしている。

 

 先輩たちもまた、卒業後はそれぞれの道に進んだ。

 

 トワ会長は、政府、軍、各所からの誘いを全て断り、帝国の未来を見極めるべく、内戦時に自ら築き上げた人脈を活用し各地でNGO活動に参加する道を。

 

 アンゼリカ先輩は、いずれノルティア州の領主を継ぐ者として見識を深めるべく、バイクで大陸一周の旅に。

 

 ジョルジュ部長は、技術者としての己を高めるべく、国内外の学院、工房を巡る旅に。

 

 皆、各々が帝国の行く末を案じ、そしてあの内戦が氷山の一角でしかないことを把握して動いているようだ。

 

 俺も負けていられない。

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 ========= 七耀暦1205年6月16日 =========

 

 エベル湖西側の湖畔で、フィーとサラ教官に出会った。

 日記を書いている余裕なんてないが、それでも思い返せば嬉しさが込み上げてきて、こうして少しの休憩の間にも日記に書かずにはいられない。

 

 街道で出会った旅人から、湖畔に巨大な魔獣が居座っていること、その魔獣と遊撃士二人組の戦闘が繰り広げられていることを教えられ、様子を見に行くとフィーと教官がいたのだ。

 

 突然の再会に驚いていると、駆け寄ってきたフィーに押し倒され馬乗りにされた。

 

「やっぱり、生きてた……!」

 

 少し涙ぐんだフィーはそう言って、小さく微笑んだ。

 

「本当にあんたは手のかかる生徒ね! あのギャンブル馬鹿と言いあんたと言い! この子達がどれだけ心配したと思ってるのよ!」

 

 そして次いで駆け寄ってきたサラ教官にも、フィーごと抱き締められた。

 

 聞けば二人は、レグラムで遊撃士と準遊撃士として活動しているとのことだった。

 帝国でまともに活動できている地点などレグラム支部しかなく、何件かの依頼をこなした後は帝国最南端の町パルムを経由して、リベールに入る予定なのだとか。

 

「で、あんた達はこそこそ隠れて動いているようだけど、私達には言えないってわけ?」

 

 サラ教官から半目でそう問い詰められたが、ヴィータさんから「裏の事情は絶対に口外しないように。理解出来なくてもいいけど、物事には秘密にされているからこそ意味がある事もあるの。少なくとも私達が黒の工房を探り終えるまでは、例え信頼できる人間だろうと絶対に事情は話さないで」と十回以上は念を押されたため、説明することが出来なかった。

 

「サラ、仕方がない。情報戦ということなら、聞かない方がいいと思う。私達を裏切るとか、それだけは絶対にないから」

 

「はあ、私だってそんなことは分かってるわよ。ただちょっと、私達の情報をちゃっかり把握してることが気に食わなかっただけよ。どこから情報が漏れてるかだけも把握しときたくね」

 

「それはまあ、同意」

 

 だいたい全部、委員長から話を聞いたロゼさん経由だ。これも秘密だが。

 

 その後、特に制限がかけられていない今の自身の状況については説明した。

 二人に再会出来たことは嬉しいが、しかし今は刻限までにユミルに着かなければ老師に死の一歩手前まで切り刻まれると話して、その場をすぐに離れようとすると、

 

「ユミルまで走って五日って……相変わらず頭のネジが飛んでるわね」

 

「たぶん、半分は冗談のはず。流石にそれは無理」

 

 二人から大きく溜息を吐かれた。しかし、こと修行において老師に冗談はない。無理だとしても手を抜けば、切り刻まれる。

 

「まあ、ピンピンしてて安心したわ。他の子達にもあんたのことは話さない方がいいんでしょう? ちょっと納得行かないけど、協力してあげるわよ」

 

「何かあれば連絡して。一応、私とサラのARCUSの番号だけ教えておく」

 

 

 時間にして、フィーと教官と話した時間など、十五分程度だったと思う。

 しかし、内戦が始まって別れたあの日から今日まで、再会を喜ぶ暇もなかったのだ。

 

 二人が無事に生きていてくれたことを自分の目で確認出来たことは、本当に嬉しかった。

 

 日記も付け終わったし、休憩も栄養補給も終わった。

 

 ユミルへ急ごう。 

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 ========= 七耀暦1205年6月23日 =========

 

 昨日ユミルに到着した直後に老師と手合わせをして、今日の昼までずっと意識を失っていた。

 

 爺ちゃんは意識を失った俺を温泉に放り込んだ後、以前にユミルを訪れた時に皆と泊まった宿に寝かしてくれたようだ。

 今ならば分かるが、ユミルの温泉は隠れ里と同じように霊力に満ちており、ボロボロだった身体も随分と回復している。

 

 つい先程食事を持って来てくれて、明日からはアイゼンガルド連峰に登り、修行を再開すると告げられた。

 

「ようやく弐ノ型も多少は身について来たようじゃな。まあ、まだ初伝には遠いがの。明日からは攻撃に加えて、逃げることも禁止する」

 

 ユミルに来るまでは、魔獣に襲われても攻撃を避けて、後は走って逃げることでどうにかして来た。

 しかし逃げることを禁止されると、どうしようもない。そう爺ちゃんに言うと、

 

「助言だけはやるが、泰斗の化勁と壱ノ型を駆使すれば、逃げずともどうにか出来る。山の魔獣が活発なようでの、修行相手には困らんじゃろう。夜には儂との手合わせじゃ」

 

 昼は魔獣に嬲られ、夜は爺ちゃんに治療可能な浅さで切り刻まれ、最後には意識を奪われる。

 昨日までの強行軍よりも、よほど辛そうだ。

 

 だが、明日からも皆に負けないように頑張ろう。

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