凡人の軌跡   作:kuku_kuku

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士官学院編:七耀暦1204年5月

 ========= 七耀暦1204年5月2日 =========

 

 以前から打診していた旧校舎地下の遺跡への立入り許可がようやくおりた。

 

「あんた達、放っておいたら勝手に一人で入っちゃうでしょ? あそこって一応は学院が管理してる施設だから、流石に一人での立ち入りを黙認するわけにはいかなかったのよね」

 

 とのことで、サラ教官からフィーと二人で探索することを条件に許可をもらえたのだ。

 

 だがしかし、俺は別にルールを破ってまで入ろうとはしない。実戦訓練時、町の外へ繰り出すのに必要な移動時間が勿体無いと常々思っていたのは確かではあるが。

 そう教官に伝えると「毎日学長に外出許可証貰いに行かされる私の身にもなりなさい! 私がサボったらあんた絶対に勝手に入ってたでしょう!?」と怒られた。解せない。

 俺と違い自由気儘なフィーはルール違反だと気づいてすらなく、「窓があいてたから」とすでに実行済みだったようだ。

 

 旧校舎地下遺跡は教官から聞いていた通り、オリエンテーリングの時とはすでに構造が変わっており、ありがたいことに徘徊する魔物の種類も異なっていた。不思議ではあるが遺跡なので仕方ない。

 

 実戦経験豊富なフィーとの共闘はかなり有意義な時間だった。勝つために手を尽くす猟兵の戦い方には、学ぶところが多い。

 探索を終えた後にそのことを伝え、可能ならこれからも一緒に旧校舎で魔獣狩りをしつつ、戦い方を学ばせてほしいと頼んだところ「ん……いいよ。私も運動したいし。でも、毎日は無理」と、気が向いた時なら可という条件付きではあるが許可を得ることに成功。

 

 旧校舎を出てフィーと別れた後は、今日の戦いで見た彼女の動きを模倣し、自身の動きへの反映を試みた。

 フィーの強みでもある一撃離脱を可能とする圧倒的な速度については真似出来ないが、銃撃による牽制からの間合いの詰め方や、グレネードを使用した撹乱技術には参考にすべき点が多々ある。

 両方とも戦闘の経験と勘、そしてセンスを要するものであるため一筋縄ではいかない。しかしどうにかモノにしてみせる。

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 ========= 七耀暦1204年5月15日 =========

 

「あの……言いにくいのですが、フィーちゃんをあまり夜遅くまで連れ回さないでもらえませんか……?」

 

 今日は唐突にフィーと共にエマ委員長に話があると呼び出され説教された。

 無理に訓練に突き合わせてるわけではないと伝えると、渋い顔で「そうだとしても、一日おきに勉強も出来ないほど疲れ果てるまで連れ回すのはちょっと……」とのこと。

 しかしながら、フィーは結構乗り気で付き合ってくれていたはずだと思い、彼女を横目で確認してみたらそっと目を逸らされた。

 

「ん……勉強よりは楽しかったから」

 

「でもフィーちゃん、このままお勉強しないと留年しちゃいますよ? お勉強するってサラ教官とも約束したでしょう?」

 

 まだ5月中旬なのになんで留年の話になるのか分からず聞いてみたところ、返ってきたのは「フィーちゃんの今の学力だと、中等教育の基礎から怪しいんです……」と悲惨な答えだった。

 どうやって士官学院に入学してきたのかと思えば「武術特待生。ぶい」とのこと。

 

「そういうわけなので、せめてフィーちゃんが授業に着いてこられるようになるまでは、頻度を落としてあげてください。フィーちゃんも、それでいいですか?」

 

「めんどいけど、しかたないか」

 

 フィーが留年するのは本意ではないため俺にも異論はなかった。

 勉強を疎かにさせてしまったことを謝罪し、今までのお礼として中等教育レベルならば俺でも十分に教えることができるため、必要であれば言ってくれと伝えると「裏切られた。勉強できない仲間だと思ってたのに」などと言われた。

 失礼な話だ。確かに学校に行ったことはないが、数年前までは毎日のように勉強を頑張っていたのだ。老師からの最後の餞別としてもらった紹介状があったものの、士官学院の入学試験はちゃんと実力で突破している。成績は決して良い方ではなかったが。

 

「え? 勉強を……毎日ですか? 意外です……」

 

「絶対にうそ」

 

 解せない。

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 ========= 七耀暦1204年5月22日 =========

 

「そろそろ授業も本格化してきてると思うけど、これからも生徒会の手伝いをお願いしても大丈夫なのかなぁ? それも魔獣の討伐にセピスや素材の収集なんて、危険なものばかり」

 

「趣味みたいなものだし、体力は有り余ってるから問題ないだろうさ。なにせ私とクロウが何時もあれだけ相手してやってるにも関わらず、こんな時間まで一人でやってるんだ」

 

「ああ、その通りだぜ。むしろ息抜きになるってもんだ」

 

 トワ会長の申し訳なさそうな俺への問いかけに、何故か堂々と答えていたアンゼリカ先輩とクロウ先輩。解せないが、何と言うか、もう慣れた。

 

 街道や旧校舎に行かずにグラウンドで訓練する日には、たまに生徒会の仕事で帰りが深夜近くになったトワ会長と共に帰宅することがある。

 そこに今日は珍しく、数時間前に訓練を終えて切り上げたはずの二人の先輩も一緒だった。何でも明日の夕方はジョルジュ先輩を含めた四人で予定があるらしく、抱えすぎた仕事量的に予定が危ういトワ会長の手伝いをしていたのだとか。

 

「最近Ⅶ組のみんなの様子はどうかな? リィン君と今日少しだけお話ししたんだけど、ちょっと元気がなさそうだったから。マキアス君と貴族の子たちがちょっと揉めてるって聞くし……」

 

 そう言えば、とトワ会長はそんな質問をしてきた。

 マキアスの反貴族精神はもう学院内外問わず有名で、すでに名物と化していると街で聞いたこともある。最近ではリィンが実は貴族だったということをⅦ組の皆に打ち明けたこともあり、マキアスはユーシスだけでなくリィンに対しても辛辣な態度を通している。

 

 とは言え、マキアスは入学時からだいたいそんな感じだ。平常運転なので問題はない。リィンもそのうち慣れて元気になるだろう。

 自分の考えと共に、会長は優しくて心配症なんですねと返せば「えっと……そう、なのかな?」と首を傾げられた。

 

「今のはこいつに人間関係を聞いたトワが悪いと思うぜ」

 

「同感だね。未だに友人がいない彼に聞いたところで無意味だろうさ」

 

「な、何で二人共そんな酷いこと言うの!? 友達がいなくたって、頑張り屋さんで私の仕事だっていっぱい手伝ってくれるすごくいい子なんだから!」

 

 ニヤニヤと笑うこの二人の先輩にはもう慣れたものだが、トワ会長の言葉に少しだけ傷ついた。

 俺にだって友人はいる。フィーとは比較的仲がいい。一緒に遺跡で戦闘訓練をすることもあるのだから、友人と言えるだろう。

 他にも、先月はエリオットと、今月は委員長と会話したことだってある。

 

 俺の反論に「おう……そうか、そうだよな」「正直すまなかった」と、クロウ先輩とアンゼリカ先輩も素直に自らの否を認めた。

 その後、急に三人から明日の夕方に技術棟に来ないかと誘われた。どうやらジョルジュ先輩が手がけている導力バイクの新しいエンジンの稼働実験に立ち会い、その後は夕食を共にするのだとか。

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 ========= 七耀暦1204年5月26日 =========

 

 今日は5月の実技テストの日だった。

 内容は先月と同じくクラスメイトとの共闘。しかし先月とは異なり、チーム構成に大きくバラつきがあった。

 

 一組目は、リィン、アリサ、ラウラ、エリオットの四人。

 二組目が、俺とフィーの二人のみ。

 三組目は、ガイウス、エマ、ユーシス、マキアスの四人。

 先月の特別実習の班構成から、それぞれ俺とフィーだけが外された形だ。

 

 テスト結果は、一組目と二組目は最高得点。リィン達の連携は先月時点ですでに問題なかった。俺とフィーも共闘は慣れたものだ。何故かフィーは手を抜いて俺のサポートに徹していたが、今考えれば『連携』というテストの趣旨を踏まえた上での行動だったのだろう。「めんどいから」などと謙遜していたが、戦闘に関しては流石と言わざるを得ない。

 

 問題は三組目で、結果は最低得点。「……フィーちゃん達なんて、二人だったのに……」と委員長が珍しく愚痴るほど悲惨な有様だった。

 

「……分かってたけど、ちょっと酷すぎるわねぇ。ま、そっちの男子二名はせいぜい反省しなさい。この体たらくは君たちの責任よ。そこの二人だけでも完封できた相手に、君たちは四人がかりでも負けた意味を真剣に考えなさい」

 

 珍しくサラ教官も厳しく、原因であるユーシスとマキアスを注意していた。

 しかし勝手に人をだしに使わないでもらいたい。俺は何も悪いことをしていないのに、マキアスから「……くっ……屈辱だ」と怒りと絶望に満ちた目で睨まれた。

 

 その後は4月と同様に、特別実習の通達があった。

 俺はA班として、アリサ、ラウラ、エリオット、ガイウスと共に、旧都セントアークに向かうとのこと。先月のメンバーとほぼ同じで、リィンとガイウスが入れ替わっただけだ。

 B班のメンバーは、リィン、マキアス、ユーシス、エマ、フィー。つまり先月に引き続きB班への課題は、各自の蟠りの解消のようだ。マキアス絡みの確執をまとめてどうにかしてこいということらしい。 

 

 しかしながら、マキアスとユーシスは納得しなかった。同じ班にされたこともだが、マキアスが実習地である、ユーシスの故郷のバリアハートに行くことを拒んだのだ。

 公都バリアハートはクロイツェン州の州都、言わば貴族の中の貴族であるアルバレア公爵家のお膝元。「貴族主義に凝り固まった連中の巣窟って話じゃないですか!?」と、当然のようにマキアスは拒否反応を示し、ユーシスと結託してサラ教官に食って掛かった。

 

 そんな二人に、教官は笑顔で威嚇。

 

「私はⅦ組の担任としての使命に基づいて、君たちを適切に導くためのベストな選択肢を選んだつもりよ。それに異議があるなら、いいわ。二人がかりでもいいから、力づくで言うことを聞かせてみる?」

 

 そして実技テストの補習という形で、特別実習班の再編成を賭けたマキアスとユーシス、そしてさらにハンデとしてリィンを加えた三人対サラ教官の戦闘が始まった。

 結果は当然サラ教官の圧勝。流石Aランク遊撃士、達人級の実力に偽りはない。

 サラ教官は息も乱さすに笑顔で「それじゃあ、A班B班共に週末は頑張って来なさい」と、膝を付くマキアスとユーシスに結論を告げていた。

 

 その後、上機嫌に「お土産、期待してるから」と微笑むサラ教官に手合わせを願い出たところ「……今度相手してあげるから、あんたはちょっと黙ってなさい。話がこじれるから。いや、ほんと」と真顔で断られた。

 残念だ。

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 ========= 七耀暦1204年5月31日 =========

 

 昨日まで特別実習だった。

 結果は上々。

 

 しかし、先月と同様に想定外のトラブルに巻き込まれた。革新派と貴族派の対立に端を発するものだ。

 ケルディックの時のように危うく逮捕されかけるような事態にまでは発展しなかったが、その代わり実習期間である二日間はほぼその対応に追われることになり、訓練はおろか日記をつける暇もなかった。

 

 ただ、ラウラとは少し距離が縮まったように思う。

 拠点のホテルに帰る暇もなく領邦軍基地を前に寝ずの番をしていた時に、会話をする機会があったのだ。

 

「ケルディックではリィンのことに気を取られ、ちゃんと聞くことができていなかった。何故そなたはその腰の太刀を使わない?」

 

 飾りだとは言わせないぞと厳しく睨むラウラに、俺は隠し立てすることなく理由と現状を話した。

 

「才能がなく、破門された……。すまない、事情も知らずに……。毎朝毎晩、そなたが剣の修練も欠かさずに行っているのを見ていたから、手を抜いているのだと……」

 

 ラウラはアルゼイド流を継ぐに相応しい才覚と実力を備えている。そんな彼女からしたら剣の才能がなく破門された俺の存在は衝撃だったようで、こちらが申し訳なくなるくらい謝られた。

 

 もとはと言えば八葉への未練を断ち切れず、後生大事に使えもしない剣を持っていた俺が悪い。

 事実、すでに剣を使うよりも格闘と銃で戦う方が強い。強くなってしまったと、実習を通して実感した。

 老師のもとを離れて剣を戦いに使わなくなること一年。そして学院に入って泰斗流と銃を学び始めてたった二ヶ月。それだけで、老師に師事した三年間を超えてしまったのだ。

 

 だから、ラウラの『飾り』と言う言葉は実に的を得ていた。事実上、八葉で使う長大な太刀はもう、俺にとって戦闘において動きを妨害する重りにしかなっていなかったのだから。

 

 自分でも呆れるほど剣の才能がない。

 とは言え、剣以外の才能があるわけでもないのだが。老師曰く「まだ無手が一番まし」。アンゼリカ先輩曰く「良くても普通より少し上程度」。クロウ先輩曰く「センスはない」。散々な評価だ。

 

 誤解させるようなことをして申し訳ない。もうここらが潮時だから、太刀を手放すことを本気で検討しよう。

 そうラウラに伝えると、彼女は悲痛な面持ちで「だ、だが……一度しか見ていないが、そなたの太刀筋は素晴らしかった。それを捨てるなど……」と止めてきた。

 だが、リィンの剣技と比べてどうだったかと聞けば、黙り込んでしまった。つまりはそういうことだ。

 

 落ち込むラウラに、改めて自らの意思と目標を伝えたところ、ようやく彼女は何時もの調子を取り戻した。

 

「私もだ。私もそなたに追い越されないように、日々精進しよう。リィンにも、そしてそなたにも、決して負けない」

 

 その後ラウラは「あと、完全な誤解で今までそなたを毛嫌いし、無礼な態度を取っていたことを謝罪させてくれ」と続けた。

 毛嫌いされているとは思っても見なかったので、衝撃だ。何はともあれ、実習を通してクラスメイトとの距離が縮まったことは良かった。

 

 実習中はすることが出来なかった訓練を、今日から再開した。

 しかし、太刀を用いた八葉一刀流の鍛錬は行っていない。

 老師に命を救われてから四年間、片時も手放さなかった愛刀を、今日ついに手放す決意をした。

 

 何時でも左腰にあった愛刀の代わりに、今は小太刀を腰の後ろに差している。

 万が一の時の護身用くらいにはなるだろうと、別れの時に老師から餞別として渡されたものだ。俺の為を思ってのことであったとしても、破門された事実を受け入れたくなく、今までは使う気になれなかったものだ。

 

 だが、もう八葉の影を追うことはしないと決めた。

 だから、老師の気持ちを無駄にしないためにも、今日からこの小太刀をお守り代わりにさせてもらう。

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