凡人の軌跡   作:kuku_kuku

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エレボニア帝国史
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 エレボニア帝国史 第三章《英雄の時代》 ―序文―

 

 

 

 現代帝国史において、七耀暦1200年代は《英雄の時代》と呼ばれている。

 

 帝国内における内戦、周辺諸国を巻き込んだ世界大戦、そして女神の至宝を巡る世界危機。当時は《激動》と称された程の動乱の時代は、しかしそれが故に多くの英雄を生み出した。

 

 世界危機を終息に導いた《剣聖》リィン・シュバルツァー、《耀翼皇帝》オリヴァルト・ライゼ・アルノールを筆頭に、数多くの英雄の名は現代においても語り継がれ、そして帝国の文化に息づいている。

 

 例を挙げるなら、先述のリィン・シュバルツァー、その顔に刻まれた戦傷から《閃の剣聖》とも呼ばれた英雄は、当代一と称されていた武名は勿論のこと、稀代の教育者としても有名だ。

 

「武の理に通ずると言われる私の剣もまた、頂きからは遠い処にある。少なくともこの傷の先を、私は知っている。故に私はこの傷に誓って、生涯、頂きをを目指し続けるだろう。そしてまた同じように、この帝国も頂きには至っていない。故に学生諸君、決して立ち止まることなく、頂きを目指し続けろ。諸君らの歩みに拠ってのみ、帝国は頂きに至るのだから」

 

 今や武術を嗜む者は勿論のこと、誰もが知る《剣聖》の演説。

 決して奢ることなく、生涯その生き様をもって現代の帝国の礎となる後進を育てた彼は、《シュバルツァー勲章》という形で今なお多くの民に親しまれている。

 

 しかし、かの時代が《英雄の時代》と呼ばれるに至ったのは、数多くの英雄の存在だけが理由ではなく、平民の台頭も一つの理由という説がある。

 

 かの時代を支えた四大名門カイエン公爵家の最後の当主にして、時代の変遷と共に消えるべく消えた貴族制度に、他の四大名門の当主らと共に自らの手で終止符を打った《指し手》ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエン公爵が、貴族制度が廃止されたその日に出した声明として、以下の言葉が伝えられている。

 

「大陸全土を火の海と化してしまう可能性すらあった世界大戦は、まだ記憶に新しいでしょう。私は当時、帝国がまだ国としての形を保った上で世界大戦を終息させる事が出来た場合でも、国力の回復には莫大な時間を要すると予想していました。経済崩壊、貧困、戦犯国として受けて然るべき差別問題。帝国は数え切れない程の問題を抱え、民は長く苦しみを背負うことになるだろうと、そう考えていました。しかし、帝国の民は強かった。自らの意志で立ち上がり、世界大戦を止める盾となり、復興を成し遂げました。私はかつて愚かにも、何の力もない平民が立ち上がったとしても、帝国を救うことはできない。それは大海の水を一つのグラスで掬い出すようなものだと、そう表現したことがあります。しかし、今ならばあの言葉は誤りだったと認めることができます。事実、立ち上がった民の愚直なまでの小さな行為の積み重ねが、いつしか帝国全土に根付き、そして今やこの帝国を支えているのですから。故に貴族制度は、もうこの帝国には不要でしょう。これからの帝国を作るのは、貴族も平民も関係ありません。大海に挑む精神を持った、帝国に住む一人ひとりの個人なのです」

 

 そしてその言葉を代言するかのように現れた、帝国史上三人目、そして初となる平民出身の女性宰相トワ・ハーシェル。

 彼女は、言わば旧来の軍事力主義国家であった帝国の在り方を捨て、周辺諸国をも巻き込み、現代国家体制と呼ばれる帝国の基盤を作り上げた傑物である。

 

 トワ・ハーシェルはその功績から《現代帝国の母》とも呼ばれ、今でも帝国の民に愛されている。彼女が夫でもあった護衛役と共に眠る《ハーシェル夫妻墓標》は、今や帝都の観光名所としてあまりにも有名だ。

 彼女の命日である4月20日には、今でも墓標は献花で埋め尽くされる。何時の頃からか定かではないが、11月12日にも林檎で墓標が埋め尽くされるようになったため、慣例的にその二日が祝日として祝わていることは、今や記すまでもないことだろう。

 

 そして、ハーシェル宰相の政策により、平民貴族の出自を問わず、数多くの人材が台頭することになる。

 

 現代帝国を作り上げた功労者たる政治家、起業家、研究者、文学者、その他多くの傑物たち。

 

 彼らの活躍により、帝国は急速に現代国家としての基盤を整えるに至った。

 

 このような経緯から、かの時代は《英雄の時代》と呼ばれている。

 

 名の残った英雄も、その裏で活躍した名のない英雄も含めて、全員が等しく英雄であった、帝国史上最も輝かしいとされる時代だ。

 

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