========= 七耀暦1204年7月5日 =========
トワ会長と喧嘩した。
気分が重たい。
鍛錬に集中していればその間は忘れる事が出来るため、今日は何時もより長く旧校舎に潜っていた。
気持ちの整理をつけるためにも日記に書き下すべきなのだろうが、疲れのせいもあってか筆が進まない。
今日はもう寝よう。
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========= 七耀暦1204年7月15日 =========
稽古終わりに、クロウ先輩とアンゼリカ先輩に無理やり居酒屋に連れてこられた。ジョルジュ先輩まで合流し、完全に逃げ道が塞がれた状態だ。
「で、お前、一体あのトワとどうやったら喧嘩なんてことになるんだ? トワに聞いても、何でもないとしか言わねえしよ」
「トワが本気で誰かと喧嘩したことなんて今までなかったからね。最初は温かく見守るつもりだったが、もう十日だ。君たち二人は頑固過ぎやしないかい?」
「生徒会の仕事は変わらずに手伝ってるんだろう? その辺は二人揃って生真面目というか何と言うかアレだけど、その分余計にタチが悪いなぁ」
トワ会長とは、あれから一切口を聞いていない。日常的に俺とトワ会長の二人と接する機会の多い三人の先輩は当然のように現状を把握しているらしく、素直に吐くまで訓練には行かせないとのことだった。
「あのな、何もトワの味方しようってわけじゃないんだぜ? お前は確かに人付き合いが致命的に下手な不器用君だが、悪いやつじゃない。だから別にお前を疑ってるわけじゃねえよ。ただ俺達は、トワがこういう時頑固で譲らねえってこの一年半で嫌ってほど知っちまってんだ。だからまだ少しは希望があるお前に話を聞いて、いい加減この微妙な空気をなんとかしてやろうとだな」
頭を掻きながら困ったように言葉を続けるクロウ先輩に、二人の先輩も大きく頷いていた。
俺と会長だけの問題だと思っていたが、どうやら思い違いだったらしい。三人にも十分迷惑をかけていたようだ。
簡単に解決する問題でもないが、迷惑をかけている以上、無関係と切り捨てるわけにはいかない。そう思って、喧嘩の原因を素直に話した。
事の発端は、俺が生徒会へのとある依頼を偶然見てしまったことから始まる。
あの日、何時ものように生徒会室で渡された依頼書の中に、普段俺が受け持っている魔獣討伐や素材採集とは別に、トワ会長の手違いで誰もが嫌がる汚れ仕事が紛れ込んでいた。
その依頼の内容を見てみれば、何度も取り立てから逃れている債務者に対する嫌がらせとして、トリスタの街で名高い生徒会を向かわせるという、単なる自分の仕事の押し付けと嫌がらせを兼ねたものでしかなかった。
そして何より依頼者の名にも問題があり、犯罪とまでは行かないが明確に犯罪スレスレを狙ってあくどい商売をすると有名な人物。
生徒会は善意で街の困りごとの一部に手を貸しているだけで、決して依頼されれば何でもやるというわけではない。
そう思いトワ会長に、こんな依頼は破棄して、依頼者には今後このような依頼を出すなと忠告してくると申し出たところ、喧嘩になったのだ。
クズを手助けをする意味も価値もないと主張する俺と、何か理由があるのかも知れないと主張するトワ会長。
平行線を辿った議論は本題から飛躍する。俺が「今までも似たような依頼を自分だけでこっそり処理していたのではないか」と指摘すれば、トワ会長は「中にはどうしようもない事情と背景があった依頼もあるから捨て置けない」と反論する。
徐々に白熱して最後には、「クズどもは平気で人を害する。トワ会長が今まで無事だったのは運が良かっただけだ」と、そう俺が怒鳴ってしまい、トワ会長も「私だって引き際はわきまえてるつもりだよ! それに、最初から疑ってかかるのは間違えてると思うんだ!」と怒りを露わにした。
結局は口論を聞きつけた誰かによって呼ばれたサラ教官に仲裁され、その依頼はサラ教官預かりとなる。
そして、俺とトワ会長のどちらの主張が正しかったのかについては、どうしようもない結果に終わることになった。
債務者もいたるところから借金を踏み倒しているどうしようもない人間で、今回ばかりは悪名高い債権者である依頼人側が被害者であった。しかし、捜査の途中で明らかになった依頼者の過去の悪行によって、両者共に軍に突き出されたのだ。
喧嘩を原因を語り終えると、三人の先輩たちは揃って頭を抱えていた。
「お人好しが過ぎるトワもトワだが……君の考え方も随分と偏ってるように思うがね。だが、それもトワの身を案じてのことなのだろう? だったら私は、今回ばかりは君に味方してあげようじゃないか」
苦笑しながらもアンゼリカ先輩がそう言えば、
「でも、そういう事ならトワだって譲らないだろうね。最初からそんな風に割り切ることができてるなら、今みたいな形で生徒会長はやってないだろうし」
ジョルジュ先輩が溜息を吐く。そしてクロウ先輩は、
「なんつーか……勝手にやってろって感じだな。青春青春ってか」
投げやりにいつの間にか頼んでいたビールを飲み始めていた。いや、制服でそれは駄目なのではないだろうか。
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========= 七耀暦1204年7月18日 =========
自由行動日。
今日はリィンの妹、エリゼ・シュバルツァーに会った。
彼女は旧校舎地下四階層に迷い込んでおり、巨大な甲冑の機械人形に襲われかけていた。
最初は彼女を庇いながら一人で戦っていたが、駆け付けてきたリィンとクロウ先輩の協力により、どうにか倒すことには成功。
四階層は今日から行けるようになったばかりの階層であり、まだ詳細は誰も掴んでいない。
甲冑は閉ざされていたはずの巨大な扉から出て来たとエリゼは語っていたが、何故彼女が入ってきたタイミングで都合よく出てきたのかは不明のまま。
遺跡だから不思議なのは仕方がないと割り切っていたが、改めて考えるとこの遺跡はあまりにも未知数すぎて危険だ。
サラ教官が安全を確保できている階層までしか一人での探索を許可しなかったことは、全く持って正しい判断だったと改めて実感した。
何故そのような場所にエリゼがいたのかと聞けば、リィンと喧嘩して旧校舎に迷い込んで来たとのこと。
その後揃ってⅦ組と先輩達も駆け付けて来たのだが、皆でいなくなったエリゼを探していたのだとか。
そこには数日ぶりに見るトワ会長の姿もあったが、状況が状況で結局は会話する機会はなかった。
撤収する皆と別れて一人で三階層に戻り、巨大な甲冑との戦いを復習しようとしていると、「あんた、さっき自分でここは危険だとかって言ってなかったかしら?」とサラ教官に無理やり連れ帰られた。気まずいのだから許して欲しかった。
今日の甲冑との戦い、一人では確実に負けて死んでいただろう。
自身の無力さに嫌になるが、死の間際に掴んだものもある。
アンゼリカ先輩に叩き込まれたが、未だものに出来ていなかった泰斗流の発勁。
分厚い鎧にことごとく遮られていた打撃と違い、最後に苦し紛れに叩き込んだ勁は確かに甲冑人形に通じていた。
あの時の感覚を忘れないように、徹底的に鍛錬しよう。
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========= 七耀暦1204年7月19日 =========
エリゼはリィンと完全に和解したわけではないものの、最後は笑顔で去って行った。
喧嘩の原因は、リィンが養子であることを気にして、男爵家を継がずに家を出ようと考えていることだという。彼女はそれを心配して、わざわざ通っている帝都の学院からトリスタまで会いに来たのだとか。
リィンの「何時かは家族に納得してもらえる自分なりの答えを出す」という言葉に、彼女は少しだけ笑いながら頷いていた。リィンも、良い家族に恵まれている。
その後エリゼは、「この度は本当にありがとうございました。また今度、お礼をさせてくだいね。それと……これからも兄様と仲良くしてやってください」と俺にお辞儀をして、帝都行きの列車に乗り込んでいった。
リィンからは改めて妹を助けたことに何度もお礼を言われ、この恩は必ず返すと鬼気迫った笑顔で約束された。
正直、不気味な怖さを感じた。「シスコンは怖いぞ」とユーシスがニヤついて来たが、冗談になっていない。
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========= 七耀暦1204年7月24日 =========
特別実習日。
今月の実習先は、全員揃って帝都ヘイムダル。今日から三日間の予定だ。
何時ものように二班に別れ、広大な帝都の東西をそれぞれ受け持つ形だ。
実習の担当者はマキアスの父の帝都知事。士官学院の常任理事も務める関係で、帝都知事という大物が担当を務めることになったのだとか。
俺は西担当のB班。班のメンバーはガイウス、ユーシス、アリサ、委員長。先月からほぼ変わらず、リィンが抜けただけだ。
今回の拠点は遊撃士協会ギルドの旧帝都西支部。しばらく前に帝都からギルドが撤退させられたため、今は帝都庁の管理下にあるらしく、その縁で宿泊先として提供されたようだった。
帝都には初めて訪れたが、とにかく人も多く、導力車も当たり前のようにそこら中を走っている。今まで訪れたどの街よりも栄えた場所だ。
初日の課題は問題なく終了。特にトラブルもなかったため、平和なものだった。
ただ、課題をこなす中で皆から怒られてしまった。
皆が実習の最中フィーとラウラの心配をしていたので、何かあったのかと尋ねれば、思っても見なかったことを教えられたのだ。
先月猟兵だという出自を明かしたフィーと、それに対して思う所があるラウラの関係が良くない。そしてそれは先月から続いているのだと。
確かにあの二人同士だと戦術リンクを上手く使いこなせていなかったが、それは戦闘スタイル的に噛み合わせることが難しいからだと思っていた。噛み合いさえすれば、強力ではあるのだが。
そう伝えると、
「えっと……本当にフィーちゃんとラウラさんのこと、気づいてなかったんですか? あれだけ分かりやすく気まずそうにしているのに……信じられません。フィーちゃんとは良く旧校舎に一緒に行ってますよね? 最近はラウラさんとも話すようになってますし……どうやったら気づかないでいられるんですか?」
委員長には淡々と正気を疑われ、
「あんた、そんなんだから生徒会長にも愛想つかされたんじゃないの?」
アリサからは今一番言われたくない言葉と共に呆れられ、
「そう責めてばかりいても仕方ないだろう。何も気づかず変な気遣いをされていなかったからこそ、あの二人が自然体で気楽に接していたのは事実だ」
ガイウスからはむしろ同情され、
「そうだな。その呆れ果てた鈍感さは、むしろガイウスの言う通り美点にも成り得る。大抵の場合は役に立たないだろうがな」
ユーシスからは皮肉たっぷりにニヤリと笑われた。
今思い返せば確かに、フィーとラウラと三人揃って旧校舎に行ったことはなかった。声をかけても、どちらか一方には辞退されていた。そういうことだったのだろう。
Ⅶ組の中でも普段から接する機会の多い二人の不和に気づけなかったことは、反省すべきだ。
アリサの言う通り、トワ会長に対しても気づかないうちに何かしてしまっていたのかも知れない。喧嘩の原因は主張の違いだと思い込んでいたが、自信がなくなってきた。
レポートも終わっているし、一度頭を冷やすためにも今から鍛錬に行こう。帝都の地下道路に行けば魔獣と戦えるし、地下道からは型の訓練に最適な大きな公園にも行ける。
追記。
夜に公園で鍛錬していると「何で君までいるんだよっ!」といきなりマキアスに怒鳴られた。解せない。
フィー、ラウラ、リィンも一緒で、昼間に聞いた彼女らの不和の件で、仲直りのための試合をしに公園を訪れたのだ。
騎士としてのあり方を求めるラウラにとって、対極とも言える猟兵の存在は忌避すべきものだと考えていたと言う。
それでラウラはフィーに対して心を開けなかったようだが、しかしその価値観とは別に、フィーのこと自体はむしろ好いていたようだ。
猟兵として育ったフィーも、一般的には自分の存在が受け入れられないものだと認識しており、高潔な在り方をするラウラとのことは諦めていたと言う。
ラウラはフィーに、試合をして勝てば過去を教えてくれと要望した。
「どうも私は、見込んだ相手や気に入ってしまった相手のことは理解できないと気がすまないらしい。だからそなたの過去、そなたがそう在る経緯の一端を知りたい」
「やっぱりラウラは凄いな。……いいよ、教えても。でも、報酬は自分の手で掴み取るのが猟兵の流儀」
そう苦笑して剣を構えたラウラに、フィーも少し嬉しそうに笑いながら双銃剣を構えた。
そして終始「き、君たち、もう十分気があっているだろうが!?」と騒いでいたマキアスを無視し、リィンの立会のもと、二人の勝負は始まった。
結果は引き分け。
しかし、夜に閃光弾まで使って引き分けたのだから自分の負けだとフィーは負けを認め、ラウラの要望に答えて過去を語った。
フィーの過去。
幼い頃に西風の旅団の『猟兵王』ルトガー・クラウゼルに拾われ、十歳のときから猟兵として活動。
赤い星座と西風の旅団の抗争、『闘神』と『猟兵王』の相打ち、そして西風の旅団の事実上の解散。行き場を無くしたフィーは、サラ教官に引き取られる形で士官学院に入学。
西風の旅団に所属していたことは知っていたが、改めてフィーの口から語られた過去を考えると、かなり大変な人生を送ってきている。
フィーの重たい過去にラウラは少し沈んでいたが、彼女のことを知ることが出来てよかったと笑っていた。
そして不和の解消の証として、戦術リンクを用いた試合を俺とリィンに持ちかけてきた。
試合の結果はまたしても引き分け。
俺とリィンも、そこまで円滑に戦術リンクを使いこなせるわけではない。だが、一度は八葉を極めようとした身。慣れ親しんだ流派の動きにはいくらでも合わせることが出来る。
リィンと、そして実力はまだ三人と比べて劣る俺のペアが引き分けに持ち込めたのは、そこが一番大きいだろう。
ただ、修行の成果が出ていたことも事実だ。
ノルドの一件から形振り構わず、サラ教官に指摘された動きの癖を、むしろ戦いに積極的に取り入れるようにした。
そして先日の甲冑との一戦でモノにした、泰斗流の発勁。特に超至近距離で密着した状態から打てる零勁は、今の動きと相性が良い。
「……出来たな」
「……ん」
戦術リンクの手応えに静かに笑って手を打ち合わせたラウラとフィーは、しかし揃って俺を見た。
「でも、それ以上に、危機感」
「同感だ。我らもさらに精進せねば」
彼女らに、徐々に追いつきつつある実感がある。
その後、騒ぎすぎたことが原因で通報されたらしく、憲兵が来たので地下道に逃げた。
トリスタでは最近は通報されることがなくなっていたので少し油断しており、つい驚いて咄嗟に逃げてしまった。
四人がどうなったかは知らないが、おそらく大丈夫だろう。
トリスタの例を考えると、もう遅いから帰りなさいと注意されるだけだろう。
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========= 七耀暦1204年7月25日 =========
オリビエさんがオリヴァルト皇子だった。
意味が分からない。
未だに頭が混乱している。
いや、オリビエさんが皇子のはずがない。だってオリビエさんは、オリビエさんだ。
いや、でもオリビエさんだ。何をしてきてもおかしくはない。
頭を整理するためにも、今日あったことを書き下す。
実習課題が終わった夕方、サラ教官からの通達で理由を明かされないままリィンの妹が通う女学院を訪れた。
女学院ではエリゼと、そしてⅦ組を招待した張本人であるというアルフィン皇女殿下が待っていた。
帝国の皇女様といきなりお茶会が始まったこと、そして皇女様が友人であるエリゼをからかうために、リィンを兄を呼びたいなどと言って悪戯をしかける姿には驚いたが、そこまでは特に何も問題はない。
アンゼリカ先輩みたいな四大名門の令嬢がいるのだ。それに皇女様はアンゼリカ先輩とも知り合いのようだ。だから今更帝国の皇女様が先輩に毒されて多少お茶目な人になっていても、大して驚きはしない。
だが、問題はその後だ。
「やあ、待たせたようだね」
そんな軽い声とリュートの音とともに、オリビエさんがあろうことか女学院の施設に入って来たのだ。
ついに女学院に忍び込むなんて、そんなことをしてたら捕まってしまうと慌てていると、
「ふっ、心配には及ばないさ。忍び込んだわけではないのだよ。君に会ったのはリベールの異変の少し前くらいだから、一年半ぶりくらいかな?」
オリビエさんは以前のようにリュートを引きながら楽しそうに笑っていた。
とりあえず犯罪を犯しているわけではないと安心していると、皆から知り合いかと問われたので、オリビエさんを紹介した。
トールズ士官学院に来る前にリベール王国に用事があって少し立ち寄った際、オリビエさんと出会ったこと。今俺が使っている銃は、彼に貰ったものであること。
そして変人であるが良い人なので、皆とも気が合うと思うと伝えた。
「変人とは酷い紹介だねえ。本当は愛の狩人と名乗りたいところなのだが、ここでそれを言うと洒落にならないからね。穢れなき乙女の園に迷い込んだ愛の狩人。うーん、ロマンなんだが」
そんな相変わらずの様子なオリビエさんの頭を、アルフィン皇女が「お兄様、それくらいで」と笑顔で叩いて黙らせた辺りから、俺はついて行けなくなった。
「まあ、冗談はさておき、改めて自己紹介させてもらおうか。オリヴァルト・ライゼ・アルノール。通称、放蕩皇子さ。そしてトールズ士官学院の、お飾りの理事長でもある」
意味が分からなかった。
その後、オリビエさんと皇女様との会食が開かれたのだが、俺は終始呆然としていた。
会食中、Ⅶ組の設立はオリビエさんの発案だということや、 Ⅶ組設立の目的が、貴族派と革新派の対立、隣国との関係、宗教問題といった帝国を取り巻く様々な問題に立ち向かうための人材を育てるためということを告げられた。
『リベールの異変』での経験がオリビエさんにその考えをもたらしたとのことだが、異変前のリベールでのオリビエさんの姿しか知らないので、余計に混乱する。遊撃士ギルドで酔っ払って騒いでたり、街で男女構わずナンパして補導されかけたり、好き勝手していたイメージしかない。
とにかく、今回の突然の招待の目的は、Ⅶ組の発起人であるオリビエさんが、Ⅶ組に直接自身の考えを伝えるためだったとのことだ。
「まあ、難しい話はここまでだ。色々と話しはしたが、君たちは私や他の理事の思惑にはとらわれず、士官学院の生徒として青春を謳歌すべきだろう。恋に部活に友情に、甘酸っぱい青春なんかをね」
そんな台詞で締めくくったオリビエさんは、後は前のように好き勝手に変なことを話していた。
別れ際に「ああ、それと。僕のことはこれからもオリビエと呼んでくれたまえ」などと以前と変わらずに接してくれたその姿は、やはり皇子とは思えない。
だが、よくよく考えればアンゼリカ先輩のような変人も帝国貴族にはいるのだ。貴族の筆頭とも言える皇族がそれと同等以上の変人でも、なんらおかしくはないのかも知れない。
こうして日記に書き起こしているうちに冷静になれたようで、妙に納得してしまった。
オリビエさんは、まあ、オリビエさんだ。
会食の後は、サラ教官と一緒に訪れたクレア大尉から、明日の夏至祭でテロが引き起こされる可能性があると説明された。
ケルディック、ノルドで暗躍していたギデオンと名乗った男の組織が、帝都が賑わうこのタイミングで行動を起こす可能性があるという。
特別実習課題は中止。Ⅶ組もテロ対策のため、利権関係で軍が動きにくい隙間を埋めるため遊軍として、協力することとなった。
そうだ。明日は何があるのか分からないのだ。オリビエさんの件で心を乱しているような余裕は、そもそもなかったはずだ。
明日に備えて、万全の準備をしておく必要がある。
銃とARCUSの整備。薬品類と各種弾薬の点検と補充。
それらを終えたら、まだ寝るには少し早いが、今日は鍛錬は控えて十分に睡眠を取っておこう。
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