凡人の軌跡   作:kuku_kuku

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少年期編

 ========= 七耀暦1199年10月2日 =========

 

 今日から日記を書くことを旦那様から命じられた。文字、文章、思考の整理。日記は色々な力を養うのだとか。

 

 何を書くべきか悩んだが、日記に最初に書くべきことは、昔のことだと思った。

 

 

 七耀暦1196年1月。

 

 あいつが死んだ日だ。死んでくれた日だ。最後の最後で唯一教えてくれた大事なことを絶対に忘れないために、今更だけど日記に書いておく。

 

 正確な日にちは覚えていない。だけど婆ちゃんが俺を拾ってくれた日から考えると、たぶん一月頃だ。

 

 あの日、俺はあいつに売られた。俺に盗みをさせて生きてきた借金漬けの父親。弱者を脅して傷つけて奪い取り、強者から殴られ蹴られ刺されても這いつくばって耐え抜き、そしてまた弱者から盗む。そうやって他人から奪うことを当然のこととして俺に教えて来たあのクズは、俺を借金のカタとして売り払おうとして、最後は自分がバラされ売られていった。

 

 当時はクズを連れて行った男に抵抗し泣き叫び追い縋った記憶があるが、今思い返せば感謝こそすれ憎むなんてとんでもない。理由はどうであれ、その男は俺をクズから開放し、そして見逃しさえしてくれたのだから。

 

 あの日俺は、あのクズの生き様とその最期から大事なことを学んだ。絶対に忘れては行けない、大事なことを学んだ。

 

 

 

 クズな人間に、生きる価値はない。

 

 

 

 七耀暦1197年6月10日。

 

 俺を拾ってくれた婆ちゃんが、死んだ日だ。婆ちゃんは色々なことを教えてくれた。数え切れないほど色々な、それこそ常識やまともな人間として在り方まで、たくさんの大切なことを教えてくれた。そして婆ちゃんは最期に、悲しくて残酷だけど、大事なことを教えてくれた。だから今更だけど、日記に残しておく。

 

 婆ちゃんは、野垂れ死にそうな俺なんかを、可哀想というだけで拾って面倒を見てくれたいい人だった。

 自分がいくら損をすることになっても、困っている人には手を差し伸べてしまう、いい人だった。

 そして、あのクズと同じクズである俺なんかのために、俺が過去に傷つけた人たちを一人一人訪ねては一緒に頭を下げて回ってくれた、凄い人だった。

 

 だけど婆ちゃんは、人の良さに漬け込み群がる薄汚い盗人どもに金をむしり取られ、不健康な生活によって病気を患い、最後には死んでしまった。

 

 弱っていく婆ちゃんに、無知な俺は何もしてあげられることがなかった。吐き気がするクズどもはいくら追い返しても、手を替え品を替え金を奪っていった。最後には食さえままならなくなるほど、全てを奪っていった。

 

 あの時の何もできなかった無力感と、他人のために尽くしてきた婆ちゃんの悲しい最期から、俺は大事なことを学んだ。

 

 

 優しいだけの人間では、守りきれない。

 

 

 婆ちゃんは死の間際に、昔助けた恩義がある旦那様に俺の世話を託してくれていた。

 

 だから俺は今、婆ちゃんの家から遠く離れたこの地で、旦那様の店の手伝いをしながら賢くなるための勉強をさせて頂いている。

 

 生きる価値のない、あのクズどものようにはならない。

 

 婆ちゃんを見殺しにした無知な人間のままでは駄目だ。

 

 婆ちゃんのように優しく、旦那様のように賢くなる。

 

 クズどもと同じ存在である俺を拾ってくれた婆ちゃんや旦那様達が間違えてなかったと、証明してみせる。

 そして、婆ちゃんの教えの通り、今まで傷つけたよりも多くの人を助けられるようになる。

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...

 

 

 

 

 ========= 七耀暦1199年12月8日 =========

 

 旦那様が死んだ。奥様も死んだ。使用人仲間も死んだ。みんな死んだ。

 

 魔獣に、殺された。あっけなく、全員殺された。

 

 なんで、何のために俺は生きてるんだろう。

 

 俺が死ねばよかったのに。

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...

 

 

 

 

 

 ========= 七耀暦1202年11月5日 =========

 

 クズな人間に、生きる価値はない。

 

 優しいだけの人間では、守りきれない。

 

 賢い人間でも、まだ足りない。

 

 強くないと、生きることすら出来ない。

 

 

 だけど、才能のない人間は、強くなることができない。

 

 

 日記帳を開くのは、久しぶりだ。

 

 今日、老師から破門された。

 

 命を救われた日から必死で身につけてきた剣術を捨てて、別の道を探せと言われた。

 

 どうしたらいいのかわからない。

 

 俺では八葉を極めることはできないと言われた。

 

 このまま修行を続ければ、十年先か数十年先か、何時かは達人と呼ばれる域に達することができる日が来るかもしれないが、俺の求める強さには辿り着けないし、そもそも老師はおろか八葉の後継者にも勝てないだろうと言われた。

 

 だから剣の道を極めることを諦め、別の人生を模索しろと言われた

 

 そのほうが幸せだと言われた。

 

 どうしたらいいのかわからない。

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