あしたのSchool Days (あしたのジョー×School Days)   作:ラバダブ

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1章 ミッドナイトウォーク

とうとうこの日が来た。来てしまった。

 

日曜日の昼前、学校が休みということもあり、丹下ジムの面々とは試合会場である後楽園ホール前で待ち合わせていた。

 

矢吹さんの試合が後2時間程で始まる。

 

ボクシングの試合を初めて見るという奇妙な高揚感と、これから矢吹さんが殴られるられ、酷い目になるかもしれないというイメージが頭の中に写し出されてしまい、昨晩は緊張感が絶えず全身に走り回り、胸の高鳴りが押さえられずにいた。

 

その所為でまた一睡も出来なかったのいうのに、当の本人はというと。

 

「ヤッホー!」

 

必死に練習していたのとは裏腹に、試合直前の矢吹さんは遊園地の遊具で子供達と一緒に遊びはしゃぎ廻り、その光景に思わず脱力し、昨日の晩の張り積めていた私が馬鹿みたいと肩を落としていた。

 

ベンチから遠く見ていると、アイスを片手に持った矢吹さんが近づいてきた。

 

「へへなんだよ桂。遊ばないのか? ジェットコースターってのは案外楽しいもんだな」

 

緊張感の欠片もない矢吹さんの口調に無言で、首を横に振る。とても遊具で遊ぶなんて、気はさらさら起きなかった。

 

「とてもそんな気にはなれません。なんでそんなにリラックスしているんですか」

 

問い詰める私に笑みを浮かべている。

 

「なんだよ。お前さんもおっつぁんと同じで心配性かよ。今日はエキシビジョンだから七面倒くさい計量だの手続きなんだとねぇから気楽なもんさ」

 

気楽と言われても。それならストレッチとか相手の事を考えるとか色々あるでしょと口にでそうになってしまった。

 

「だって、それでも大切な試合前なんですよ。それなのにあそんで…。むぐ」

 

喋っている途中で、矢吹さんが口塞ぐように何かをいれてきたと同時に冷たさと甘さが口一杯に広がった。それがアイスだと分かったのは暫くしてからだった。

 

「まあアイスでも食べて落ち着きな。ここのアイスはなけっこううめーんだぞ」

私が緊張しているのを見透かしていて落ち着かせているのか、子供扱いされる恥ずかしさで益々ジトーっと見ていると。

 

「でもまぁそろそろ良い時間だ。控え室にでも行くか」

 

まるで散歩に行くかのような、軽い口笛を吹いて子供達と行ってしまった。

 

全くもう、あれこれ心配していた私が馬鹿みたいと。アイスを口から離すと、私が噛んでいないところが噛み後があった。

 

このアイスは矢吹さんがずっとてに持っていたのは見ていた…とするならこれは矢吹さんの食べ掛け。

 

思わぬ間接キスに頭から煙が立ちそうになった。

ーや、矢吹さんと間接キス…

あげた本人は子供っぽい、悪戯な笑みをしていたからこれは本当に悪戯なのだろう微塵にも気にしていが、手に持ったアイスが全部溶けてしまうまで固まってこの場から動けずにいた。

 

なんとか我に返り会場に入ると、物騒な掛け声が飛び交い、必死に叩き合う選手、ギラギラと光る観客の眼、なにもかも初めての経験する熱気に圧倒されてしまった。

 

キョロキョロと左右を見回していると、いつの間にか近づいていたサッちゃんが私の手を握った。

 

「ほら言姉ちゃんこっちこっち」

 

手を引っ張り、慣れた足取りで席に連れていってくれる。

 

「サッちゃんありがとうございます」

 

「いいのいいの。次の試合にジョーが出るよ」

指を指してそう教えてくれて、リングに眼をやると当たり前に殴り合いをしている男性に思わず顔を背けたくなる。

 

叩きあって顔はおろか身体中腫れ上り、顔からは血が所々ででいる。

 

ーこんな痛々しい事をこれから矢吹さんするの

 

分からない。

 

何故こんな事をしてまで殴りあうのか。それに熱狂する観客も私には理解が出来なかった。

 

観客はストレス解消の為?

 

選手は殴りあいがしたいだけ? 殴りあいがしたいだけ?

 

私にはただただ、面前に広がる世界が狂気に満ちた見世物に見えてしまい、理解が出来なかった。

 

試合終了の鐘が鳴る。

 

判定にもつれ込み、審判が勝者の手を上げると更に野次が飛び交う。

 

つまんねえ試合しやがって金返せ!

 

俺達は殴りあいを見にきたわけじゃねぇぞ、殺しあいを見に来たんだ!

 

どっちも荷物まとめて田舎に帰っちまえ!

 

更に酷い聞いてられない程の野次が会場内を飛び回り、思わず耳を塞いでしまった。

 

タロウ君達はこれが当たり前と平然とポップコーンをむしゃむしゃと食べている。

 

一頻りの野次が収まりると、会場アナウンス響きわたった。

 

これよりバンタム級4回戦。カーロス・リベラ選手と矢吹 丈選手の特別エキシビジョンマッチを開始します。

 

赤コーナー、カーロス・リベラ選手の入場です。

 

入場コールが終わると、会場のお客さんに陽気に手を振りな、時には投げキッスをしながらリングロープを飛び越える。

 

先程まで野次を飛ばしていた人達は、その派手な振る舞いで登場した、褐色の選手に歓声が沸き起こった。

 

あれが矢吹さんの対戦相手。私は自然に両手を祈るように固く握った。

 

神様お願いします…。矢吹さんを無事にリングから降ろしてください。

 

そんな私にはお構いなしに無情なアナウンスが入る。

 

青コーナー、矢吹 丈選手の入場です。

 

カーロスさんの時とは対照的、いっそう高まった野次が丹下会長を先登に矢吹さん、その後ろに西さんに降り注いだが、そんのは耳に入っていないのか、気にも止めずに静かにリングに入場した。

 

「すみませんキノコ君」

 

「なんでやんしょ」

 

「このエキシビジョンってどんなルールなんですか?」

 

普段のボクシングのルールもよく分からない私が、エキシビジョンといわれてもあまりピンときていなかった。

 

「えっと、確か3分4ランド、試合用のグローブじゃなくて練習用と、KO以外の勝ちはなし、判定なしの引き分け。あと何回倒れても大丈夫な筈でやんす」

 

3分4ラウンド12分。以外に早く終わってしまうのか。それに練習用グローブなら怪我もしなくてすむよね? と考えていた私はこの1分後に、甘かったと痛感する。

 

リング中央では審判が注意事項を説明が終わり、それぞれのコーナーに別れた。

 

カーン。

 

試合開始のゴングが鳴り響く。

 

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