あしたのSchool Days (あしたのジョー×School Days)   作:ラバダブ

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1章 ミッドナイトウォーク

ゴングが鳴る少し前、審判からの注意事項説が終わり、双方ニュートラルコーナーに戻ると最終打合せ。丹下は重苦しく口を開いた。

 

「いいかジョーよ、最初の3分間は無理せず相手の出方を見ろ。慎重に様子を見るんだ」

 

震える手でジョーの両肩を固く掴み、ジョー以上に己自身が落ち着かせるように言うも、ジョーはどこ吹く風と鼻で笑った。

 

「へ、な~に言ってんだおっつぁん。たったの4ラウンドしかねえんだぜ、そんなスッとろい事出来かっよ」

 

「な、なに言うとんのやジョー。ここはおっつぁんの言う通りした方がええって」

ジョーは軽口を叩くも、丹下と西は益々不安が募ってきた。

 

確かに以前行ったカーロスとのスパーリングではトラウマとなっているテンプルに叩き込んだ。が、それは今身に付けているグローブよりも重い練習用、更にはヘッドギアという防具の上からの話し。

 

エキシビジョンとはいえ本番の試合に近い形ではまた体と精神の緊張感は段違いに高まる。トラウマを克服せずにゲロを吐くかもしれない。そうなればジョーのボクシングの道は完璧に絶たれてしまう。

 

そんな丹下の不安を察したのか、丹下の胸に軽く拳を当てた。

 

「ま、見てろよ西、おっつぁん。全力で…。初回から全力でいくからよ。ほらセコンドアウトだぜ」

 

試合開始のゴングが鳴るとマウスピースを噛みしめ、ジョーは目の前のカーロスに矛先を向けて走り出す。

 

「ハァ!」

 

カーロスの顔を狙い、疾いキレのある右ストレートを放つものの寸前のところで、上体を横にずらし、すれすれで躱すも風圧でカーロスの髪が揺れている。

 

刹那ジョーとカーロスの目が合い、お互いにニヤッと笑みを浮かべた。

 

そこから更にカーロスの懐に潜り込もうと、前進しながらの左ストレート、右フックと繰り出すもスウェーバック、拳を下に弾くパーリングとことごとく不発に終わった。

 

ジョーはこうもあっさりと避けられるとはと苦虫を噛んだような表情を浮かべると。

 

「OKジョー」

カーロスが口に出して言ったのをジョーは聞き逃さなかった。

 

左ジャブ。ジョーの顔に速いだけのジャブが顔に当たった。ダメージは無いが、ジョーの前進が止めるには充分であった。

 

反撃の手を出すまもなく、カーロスの突き刺さるボディ打ちが更にジョーの手を止めてしまう。それどころか身体が“く”の字に折れ曲がる。

 

「ぐっ!」

 

ジョーが呻くような声を上げる。

 

倒す絶好のチャンスを見逃さないカーロスの右ストーレートが顔面に当たり、ジョーは弾かれ、たまらず後ろに倒れてしまった。

 

鮮やかなコンビネーションに沸き立つ会場。

 

それを会場席から見ていた言葉は絶句し、見ていられないと手で顔をかくした。

ーあんなに練習していたのに。あの矢吹さんが倒されるなんて。

 

そしてまた小さく祈った。どうか酷い怪我をしないようにと。

 

「ほら言わんこっちゃねぇ! 立て立つんだジョー! まだ試合は始まったばっかだぞ!」

 

コーナーから丹下檄を飛ばすが、ジョーの耳には入ってこなかった。ゆっくりと聴こえるカウントが徐々に徐々に、ある光景と蘇らせた。

 

天井に設営されている眩い照明が昔見た晴天下の中の太陽と重なってみていた。

 

あの熱い少年院で見た太陽。

 

ーそうだ、これだ。この光景だ。

あの日もこういう強烈な拳だったな。ガーンと全身がバラバラ裂ける強烈な一打。

 

あの時と一緒だ。

 

審判がカウント8まで数えたところで、ジョーはダメージなぞ無いと言わんばかりに平然と飛び起きた。

 

ー見てろよ。このままやられっぱなしお前さんに失礼だからな。

 

ボックス!

 

審判の掛け声と同時にジョーはまた走り出した。

 

「ありがとうよカーロス。お陰で目が覚めたぜ。こっからは一味違うぜ!」

 

先程までとは違い、瞳には獲物を狙う狼のような狂暴な眼差し、より一層早く間合いを詰めるフットワークで懐に入る。

 

重いボディを打ち、ガードするカーロスの足を止め、続けて左ジャブを2発放ち、ロープまで下がらせると、待ってましたと言わんばかりに右ストレートをテンプルに思いっきり叩き込んだ。

 

強烈な打撃に脳が左右にシェイクされる感覚があるなか、カーロスは苦し紛れに返すショートアッパーがジョーの顎に浅くだが当たり、攻めきれずにリング中央に押し戻されてしまった。

 

両者中央で円を書きながら、出方を伺う形となり様子を見ていたが、先にジョーが半歩の踏み込む。

 

「アアア!」

 

「イヤァ!」

 

カーロスも踏み込みと、ジョーは左ストレートが顔に、カーロスは右のフックがボディに相討ちとなると、それを皮切りに、足を止めての打ち合いとなった。

 

両者一歩も引かない打ち合いに会場は更には沸き上がる。誰しもが刮目するなか、いまだに言葉はリングから眼を背けていた。

 

ー早く終わって。

 

そう念じていると伝わったのか。

カーン。

 

第1ラウンド終了の鐘が鳴った。

 

お互い直前で拳を止めて、名残惜しそうにニュートラルコーナーに戻った。

 

「見てたかいおっつぁん。やるもんだろ」

 

「け、馬鹿野郎。どこの世界にあの強打者と足止めて打ち合う馬鹿がいやがる」

 

「ここにいんだろ。へへ目の前によ」

 

ジョーの軽口に丹下は思わず頭を抱えて、押し黙ってしまった。

 

「まあなんにせよ。第1ラウンド、ダウンしたお礼はまだ返せてねぇからな。次のラウンドには返すさ」

 

 

 

「どうだカーロス。ダメージはあるか」

 

ロバートがカーロスの脚をマッサージしながら聴くとカーロスは首を横に振った。

 

「ノープロブレム、ロバート。しかしジョー・ヤブキは素晴らしいファイトを持つ選手だ」

カーロスはその強さに敬意を表するように言った。

 

「ああ確かにそうだなカーロス。日本に来た唯一の収穫と言って良いほどの選手だ。だがあまり時間は掛けるな。我々には世界が待っていることを忘れるな。決めれそうなら直ぐにフィニッシュだ」

 

「OKロバート」

 

※※※

 

会場席から見ていた私は、息がつまりそうとかではなかった。息が出来なかった。

 

これがボクシング。

先程の試合とはあまりにもレベルが違いすぎる叩き合いに終止、見えないように手で隠し背けていた。

 

太郎君やキノコ君、トンキチ君はおろかサチちゃんまでもがリングから眼を背けずに、全力で声援を飛ばしている。

 

「怖く、皆は怖くないんですか…?」

 

叩かれて、倒れている矢吹さんを見ても怖がらずにしている太郎君達に問い掛けると、太郎君達は顔を見合わせて不思議そうな顔をしている。

 

「なに言ってんだよ言葉姉ちゃん、ジョー兄ぃが一生懸命闘ってるんだ。俺たちが怖がって声がでないなんていえねぇよ。それに」

「それにジョー兄ぃは負けない、負けるもんか!」

 

太郎君の振り絞る声に続いて、他の子らもそうだそうだ。あたい達しかジョーの味方はいないんだと声が上がった。

 

強いな子の子達は。

私は自分の両頬を叩いて、弱気になっていた自分に渇をいれた。

 

そうだ今日は矢吹さんの応援に来たんだ。精一杯の応援に来たんだ。

 

「皆さんごめんなさい。次からは私も応援します」

 

改めて伝えると、子供達は笑顔になってエイエイオーと手を掲げた。

 

それに私も混ざり、あまり大声は出したことがなかったからか、恥ずかしさで小さな声で一緒に言った。

 

“ラウンド2”

第2ラウンドの開始のゴングが鳴った。

 

「矢吹さん…。頑張って下さい!」

 

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