あしたのSchool Days (あしたのジョー×School Days)   作:ラバダブ

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1章 ミッドナイトウォーク

“ ラウンド2”

 

このラウンドはどうなるのか。スタミナ温存の為にガードを固めるのか、それとも第1ラウンド同様スタミナを無視した攻撃に出るのか。

 

一瞬たりとも眼を離さないとリングを凝視し、各々予想していた観客を余所に、ジョーはまだるこっいことはぬきだ、真っ向から勝負すると言わんばかりのダッシュに更に会場の熱気が高まった。

 

カーロスは冷静に先手は打たせんと、牽制と足止めに左ジャブを2発、3発とジョーの顔に当てる。

 

だが、カーロスはまだジョーの事をそこらにいる並のボクサーと心の奥底で考えていた。

 

ジャブとはいえストレート程の威力がヒットし、並のボクサーならば足を止めて、ガードに徹する。しかしジョーの獣の本能、ボクサーとしての資質を見誤ってしまっていた。

 

「いくぜカーロス」

 

これくらいのパンチなら止まらねえ。一撃で意識を刈り取るパンチじゃねえと止まらねえ、カーロスには確かに聴こえ、全ての毛という毛が逆立った。

 

言葉には出さない表情からは、不敵な笑みを浮かべるジョーにカーロスは鳥肌が立った。

 

引くに引けない。引いたとき、後ろに下がったとき怒涛の勢いで攻め込まれてしまう。

 

「ウォー!」

 

カーロスが大声を上げる。

気を押されたと感ずかれないために。

 

しかし、焦りから生まれた大振りになってしまった左フックをダはッキングで空を切る。

 

しまった。少しでもジョーの気迫に呑まれた自分を後悔するやいなや、まるで砲丸をボディに打ち込まれ、少し遅れて熱が内蔵から全身に伝わる。

 

それを単発ではなく、2発、3発、4発と連打されている。

 

ー第1ラウンドはジョー・ヤブキも全力ではなかったのか。

なんらかの心境の変化があったのか。以前行ったスパーリング、この試合の第1ラウンドとは気迫、闘志、パンチ力が大いに違う。

 

ーそれともこれがジョー・矢吹の真の実力か!

 

だが今は称賛は後にしろ、今は頭部を守るガードは下ろせない。下ろしてなるものか

 

打たれるボディは捨て腕に力を入れ、より強固にガードを固める。手が止まった時に体を入れ換えて反撃。カーロスの表情からは第1ラウンドにはあった余裕が消えていた。

 

ジョーは手を出さないカーロスに、ガードを崩そうと頭部に左右のフック放つ。

 

このままでは時期に攻め落とされてしまうじり貧の展開だと会場の観客はそう思っていた。

 

「グ!」

 

カーロスは呻き声を上げて、堪らずボディを守るガードを下げた。

 

ジョーのボディを打ちが堪えたのか。端からはそう見えてたが実はそうではなかった

カーロスは敢えて誘い込むように下げたのだ。必ず顔に目掛けてジョーは拳を繰り出すと信じて。そこをカウンターをとりマットに沈める為の布石であった。

 

ジョーはがら空きとなった顔にストレートを放つモーションを取る。それをカーロスは見逃さなかった。

 

左ストレート。これが当たればマットに倒れる簡単な作業。

 

ーGood buy 、…ジョー・矢吹!

勝ちを確信したカーロスの次に見た光景は白いマットであった。

倒れている筈のジョーが見下ろしていた。

左は当たっていたのだろう、赤い筋が口の端を伝ってピチャ、ピチャっとマット滴らせ、笑みを浮かべて見下ろしている。

 

「へへ。…これで第1ラウンドの借金は返したぜ。カーロス」

口からの血を拭いもせず、ジョーはそう呟いた。

 

カーロスの左ストレートに対してジョーは滑らすように右を十字に滑らせてテンプルに当てたのだ。クロスカウンター。

 

ジョーはカーロスのカウンターを予期していたのか、得意のクロスカウンターを叩き込んだのだ。

 

ー素晴らしい!

カーロスは口には出さず、心の中で喝采をジョーに送った。技術は数段上だと自負していたが、ボクサーとしての資質は己より上かもしれない。

 

心が震える。喜びで。

 

ここで立てなければ、情けない私を見せてしまう。それはジョーに申し訳が立たない。

 

小刻みに揺れる脚を無理矢理押さえつけ、ロープに掴みながら立ち上がる。

 

カウント9で立ち上がるカーロスを見て、ジョーもまた心が震え喜びに満ちたが、脚が言うこと聞かないカーロスはロープを背負って動けずにいた。

 

心とは裏腹に苦悶の表情を浮かべるカーロスにジョーは容赦しない連打が顔に腹に、雨のように浴びせる。それは手負いの獣を仕留めんとばかりひ襲いかかる狼のように。

 

“カーン”

 

「ストップだ! 矢吹! ゴングが聴こえんのか!」

 

審判が間に割って入った。

 

はからずもカーロスらゴングと審判に助けられる形となった。

 

審判は無理矢理双方をニュートラルコーナーに下がらせた。

 

第2ラウンドはジョーが圧倒的な試合展開を見せて観客は度肝を抜かれた。

誰しもが“野生児ジョー”が復活したと確信し、もしかするとと勝ってしまうのではないか。

なにをするか分からない選手それが矢吹 丈に期待と興奮が渦を巻いて沸き起こる。

 

「口の中を切ったなジョー」

 

口だけではない、試合は優位に進めていたが、何発かは良いパンチを当てられていた。全身には火がついたかのように朱く染められている。

 

ジョーの汗と血を拭いながら丹下は聴くも、それを鼻で笑った。

 

「心配すんなおっつぁん。まだまだいけるぜ」

 

強がりをいうジョーだが、明らかに疲労と腫れ上りつつある顔には説得力がない。

 

「次も…次も打ち合うんだな?」

 

恐る恐る問いかける丹下に笑みを浮かべながら頷く。

 

健気に格上の選手と闘うジョーに丹下は溜め息をついた。

 

「…分かった。もうワシからは言うことはない。思いっきりやってこい」

「ああそのつもりだ、おっつぁん。カーロスもそのつもりのようだ」

 

ギラギラと眼を光らせ、こちらを見ているカーロスの視線に気づいた丹下の熱い汗は一瞬で冷たくなった。

 

※※※※

体に悪すぎる。心臓が止まるかと思った。

 

矢吹さんが攻めたと思えば、カーロスさんが巻き返して攻撃したかと思えば、矢吹さんが攻めている展開に動悸が激しくなり、手には尋常ではない汗を掻いている。

 

息をもつかない展開とはこういうことを言うのだろうか、インターバルが無かったら窒息寸前になりそう。

 

矢吹さんもカーロスさんもパンチを当てられた箇所は朱く染まってきているのに…。

 

「笑ってる…」

 

リングのコーナーに座っている矢吹さんとカーロスさんの表情は不敵な笑みを浮かべている。

なんで笑っていられるのだろう?

 

2人ともリングで噛み合うように叩きあっているのに。

 

これが分からないのは私が女だからだろうか。

男性にしか分からない世界なのだろうか。

 

何れにしても次のラウンド開始まで数秒しかない。

 

大きく深呼吸を繰り返して窒息しないように、次のラウンドに備えておこう。

 

“カーン”

 

ラウンド3

 

※※※※

 

両者リング中央にスリ足でジリジリと間合いをつめる。

様子を見るためのスリ足ではない。これから打ち合うのに余計な体力を消耗しないために。

 

ー1分の休憩で回復するような軽いダメージだったか?

 

先に仕掛けたのはジョーであった。

 

右ストレートをカーロスの鼻っ面に当てた。

 

「どうしたんだい!世界6位よ! 無冠の帝王よ!カーロス・リベラよ!」

 

ジョーは叫びながら顎に、ボディに、テンプルに当て続ける。

 

「…調子に乗るな!」

 

だがカーロスも前にでるジョーに負けじとカウンター気味のスイングフックがボディに当たる。

 

「ぐぁ!」

 

めり込むボディにジョーはダウンしそうになるものの堪えたがマウスピースが口から落ちてしまった。

 

動きが止まったジョーにカーロスは右アッパーを繰り出した。

 

ーま、不味い!う、動け!

 

間一髪スウェーで躱すものの、続けて打たれたストレートにジョーの首が後ろにのけ反る。

視界がグニャリと歪むが、脚を踏みとどまり下がりはしなかった。

 

「く…くそ!こ、この野郎!」

 

そこからジョーとカーロスの守りを捨てた壮絶な打ち合いが始まった。

 

ジョーが当てればカーロスが打ち返し、カーロスが当てればジョーが当て返す。

 

次のラウンドの事は考えない、ただただ思いっきりボクサーとしての意地、男としての誇りが2人を支えた。

 

次第に2人の顔は腫れ上り、目蓋は半分落ちて始め、鈍い音が会場を木霊する。

 

ジョーの右アッパーがカーロスの顎を捕らえるとカーロスはマウスピースを吐き出してしまうと、それが合図となったのか。両者の動きが見合うように止まった。

 

 

「ストップだカーロス! ストップだ!ニュートラルコーナへ下がった!」

 

突如審判はカーロスをジョーから離してしまった。

 

それから数秒後、ジョーはロープに持たれながらリング外へと落ちてしまった。

 

「フフフ、ジョー・矢吹め。あの右アッパー…。私の得意のエルボースマッシュを……。み、見事にくれて…いった」

 

そうジョーが最後に放った1打。

カーロスが見せていた肘打ちをジョーはやっていたのだ。

 

カーロスもまたコーナーでズルズルと落ちるようにダウンしてしまった。

 

「ジョー!」

 

「や、矢吹さん!」

 

丹下、桂の声だけが木霊していた。

 

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