あしたのSchool Days (あしたのジョー×School Days)   作:ラバダブ

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1章 ミッドナイトウォーク

 矢吹 丈の身体は熱く昂ぶっていた。

 

 今すぐにでも身体を動かさなければ、燃えるような熱で溶けて無くなってしまいそうになる。

 

 両拳が獣の様な雄叫びを上げる。

 

 早く殴らせてくれ、力石に勝るとも劣らないあの男を殴らせろと。

 

 ジョーは、後もう少しの辛抱だ。だから其れまで待ってなと獣に言い聴かせ宥める。

 

 あの男。

 

 南米ベネズエラから遥々、日本で試合をする為に来日したボクサー、世界ランク6位にランクする強豪、戦慄の男、無冠の帝王の異名の名を持つ

 

カーロス・リベラがジョーをそうさせた。

 

 あまりにも強すぎる所為で世界チャンピオンでさえ逃げまわり、今日後楽園ホールで対戦した全日本バンタム級チャンピオン、タイガー尾崎をたった1発の右ストレートでマットに沈めてしまった。

 

 それでもまだ実力の6か7割しか出していない。

 

 ジョーはその隠された実力と強さに驚愕すると同時に、異常なまでに闘志が湧き起こっていた。

 

 そして日本での行なう試合全てを消化したカーロス・リベラだが条件付きで日本に残り、4回戦のエキシビジョン・マッチとしてジョーと試合することを決めた。

 

 

 ジョーはそのまま散歩をしてくると丹下 段平に告げ、別れた。

 

 夜風に当たり火照った身体を冷まし、以前白木ジムでスパーリングしたのを思い出し何度も何度もカーロスの動きを頭で再現する。

 

 しなやかな筋肉、華麗なフットワーク、膝の強靭なバネ、上体の軟らかさ、下手をすれば命さえ取られる程のパンチ力、クロスカウンターを恐れないであろう度胸。

 

 剥き出したナイフのような危ない眼。

 

 どれをとっても完璧なボクサーに、ジョーは考えただけで抑えようとしても全身が小刻みに震える。

 

 早く試合がしたい。

 

 まるで片思いの彼にデートの約束をした乙女のようだなとジョーは自嘲的に笑った。

 

 気が付けば散歩のつもりが無意識に走り出して熱い汗を流し、見知らぬ街に着いていた。

 

 夜の冷たい風がジョーを包み込み、汗は直ぐに収まり近くの駅まで行こうとした時、ふと横の工事現場を見ると男が女を無理やり連れ込んでいる。

 

 面倒な物を見ちまったなと嘆息を着き、このまま知らん振りで帰っては目覚めが悪くなるとジョーは口笛を吹きながら工場の方に歩を進め、中に入り、奥の方に行くと男が女を押し倒していた。

 

 男はジョーの存在に気づき慌てて立ちあがり、「誰だ!」と驚きながら言う。

 

 ジョーは男の後ろに仰向けで倒れている女の子に眼を向ける。

 

 学生服に華奢な手足、黒いストレートに伸ばした髪にあどけない顔。

 

 泣いていたのであろう、怖かったのだろう頬には涙の痕が付き、小動物のように身体を震わせている。

 

 こんな卑怯な真似をするこの男にジョーは無性に怒りを覚えた。

 

 「どーした? ヤンのかヤンねーのか!! ハッキリしやがれ!!」

 

 怒号を飛ばすと男は一目散に逃げてしまった。

 

 何時もなら追いかけて1、2発殴ってやりたいが、そうする訳にもいかない。

 

 起きようとしない女の子に近づき手を差し伸ばす。

 

 「ほらよ」

 

 ぶっきら棒な言い草で言う。

 

 だが、女の子は何時までたっても手を握らない。

 

 面倒臭くなったジョーは強引に手を握り、引き起こした。

 

 “言葉Side”

 

「そんなにおれの顔が珍しいかい」

 

 私は男の人に言われて慌てて顔を背ける。

 

 「す、すいません…」

 

 小さな声で言うと改めて気づいた、男の人と私の距は殆んど無いに等しい。

 

 今までこんなに男の人にくっ付いた記憶は小学生の運動会の時以来。

 

 急に恥ずかしくなり、今の私は顔が真っ赤になっているに違いない。 

 

 「あ…あの…」

 

 「ん? ああ悪りぃ」

 

 男の人は私が言わんとしていることに気づき、離れる。

 

 ほ、本当には、恥ずかしかったよ…。

 

 さっきまでのはピリピリした雰囲気が無くなってきて、なんだか安心してきた。

 

 ん?

 

 「あ…あれ?」

 

 膝が大きく揺れ始め、お尻から座り込んでしまった。

 

 立とうとしても足に、腕に力が入らない。

 

 完璧に腰が抜けたみたい。

 

 立てない私を見ていた男の人はしゃがみ込み、背を向ける。

 

 「ほら負ぶさりな」

 

 何気ない男の人の放った言葉だけど、カーと顔が熱くなった。

 

 学校のでも男子生徒には、挨拶程度にしか話さず、手さえ握った事は無いのに、いきなり負んぶなんて恥ずかしくて出来ないよ。

 

 「い、いえ少し立てば直ると思うので大丈夫です」

 

 「待ってたら、明日の朝になっちまう。それとも此処が気に入ったのか?」

 

 

 男の人は悪戯ぽっく笑いを含みながら言った。

 

 意地悪な人だなぁ思い、観念し男の人首に腕を回す。

 

 男の人の背中は大きくは熱気と汗の匂いがしてくるけど、不思議と不快な気持ちにはならなかった。

 

 寧ろ心地よささえを感じていた。

 

 男の人は私の鞄を持ち、口笛を吹きながら工事現場を後にした。

 

 もし男の人が来なかった今頃…。

 

 いや、考えたくない。

 

 帰るの遅くなちゃったな、お母さんになんて言えばいいんだろう。

 

 うん黙ってよう。

 

 何にも言わなければお母さんも心配しないし、私1人が我慢していれば済む話だし。

 

 私が我慢すれば……。

 

 「う、我慢すれば…良いよね。ヒック」

 

 独り言のように呟いた嗚咽交じりに言った言葉は男の人の耳に入っていた。

 

 「今は我慢することねぇさ、偶には思いっきり泣くのも必要だぜ」

 

 優しく諭すように言う、その言葉を皮切りに私の感情は爆発した。

 

 「うわっあああ! うぐ、あああああ!」

 

 恥ずかしいだとか、情けないという羞恥心は無くなり、次から次に涙は流れ小さな子どものように声を上げて思いっきり泣いた。

 

 男の人の肩は涙と鼻水で濡れてしまったが、男の人は気にせずに口笛を吹いている。

 

 その優しい音色は私を包み込んでくれる。

 

 この人の背中は優しい温もりを感じる。

 

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