あしたのSchool Days (あしたのジョー×School Days) 作:ラバダブ
幼い子どものように恐怖と悲しみ吐き出すのと同時に今はこの胸の温かさにもう暫く浸りたい。
ただ安心したかった。
気がついたら、私は公園のベンチに腰を下ろし、両手で顔を抑え嗚咽混じりに泣いていると、手の甲に仄かに冷たさを感じ、ゆっくりと顔を上げると男の人が缶ジュースを私に差し出していた。
「ほら飲みな」
またぶっきら棒な言い方だけど、顔には爽やかな笑みが浮かんでいた。
「あ゛ありがとうございます」
しゃくり上げながらお礼の言葉を言い缶ジュースを受け取ると同時に自分の大泣きしている姿を見せていまいぐちゃぐちゃに濡れた彼の背中を改めて見てしまい恥ずかしさが沸き起こり、顔が熱くなる。
穴があったら入りたいという気持ちを初めて知った。
「少しは気が治まったみたいだな」
「は、はい。…本当にすいません」
私は俯きながら恥ずかしさと罪悪感でいっぱいっぱいに成りながらも答えると「良いって事よ。これよ俺の驕りだから気にしないで飲みな」と私の横に座り、さも気にせずに男の人はジュースを飲みながら言う。
「はい。頂きます」と小さく言い蓋を開けて一口だけ飲むと、りんご味のジュースの甘さが口の中一杯に広がり、乾き痛んでいた喉が少しだけ癒され、ホッと息をつく。
けど、それから会話の無い間が続いて何とも言えない重い空気が漂い始め、話そうにも何を話せば良いのかあれ、これと考えるけれど私はお喋りなタイプではないのは自覚しているため結局、ひたすらジュースを飲んでいる。
今日1日の事を思い返すと本当に色々なことを体験した。
映画や小説の中でしかないような酷いことをされ、助けられて、まったく見知らぬ男性に簡単に恋をして、その男性と2人っきりでいるのも私の人生では初めての体験、めぐるめく変わる時間の早さに眩暈を覚えたと同時に、自分が人生という名の川で流れているんだと自覚した。
男の人は静かに飲み、星を見上げている。
やっと話す切っ掛けを見つけ意を決して話しかける。
「ほ、星が、す、好きなんですか?」
凄く言葉を噛みながら言ってしまってから、また顔が熱くなってしまった。
「ん? ああ、別に好きってわけじゃないが、今日みたいに星が良く見える日は見ているな」
「そ、そうなんですか」
ここで会話が終っちゃった、どうしよう…、男の人も私と同じで余り喋らないみたいだし、何とかしないと。
そう言えば、男の人の顔には所処に殴られたような痣や、痛々しい傷痕が至所に着いていた。
「あの、顔の傷は大丈夫ですか?」
私がそう訊くと男の人は静かに笑いながら「こんなの傷の内に入らねぇよ」と言った。
またそこで会話が途切れるかと思っていたら、男の人が続けて口を開いた。
「そういや、まだ名前教えてなかったな。俺は丈、矢吹 丈だ」
そうだ、なんでこんな簡単な話す切っ掛けを忘れていたんだろう。
「あ、桂 言葉です。先程は本当に助かりました」
私は再度、矢吹 丈さんにお礼を良い頭を下げた。
「だから良いって事よ。そう何度も何度も頭を下げるもんじゃないぜ」
「いえ、あの時矢吹さんが来てくれなかったら今頃……。本当にありがとうございます」
「分かった。そろそろ帰るとするか、風が冷たく成ってきたからな」
「はい、そうですね」
小さく頷ながらそう言い、私と矢吹さんは空になった缶ジュースをゴミ箱に捨て、公園を後にした。
暗い夜道を私は矢吹さんの横に並んで歩いている所為か、心細くは無かった。
「桂の家ってどっちなんだ?」
矢吹さんが唐突に言った。
「え? どうしてですか?」
なぜ私の家の事を訊くのか不思議に思い訊き返すと、矢吹さんは呆れた顔をした。
「また襲われでもしたらどうすんだ?」
そこでハタと気が付いた。
暗い夜道で1人で歩いた所為で変な人に襲われたんだ。
矢吹さんの言う通りまた襲われる可能性がある。
「す、すいません」
小さな声で言うと、矢吹さんは小さく笑った。
「ハハ、面白い奴だな」
「そ、そうですか?」
私のどこが面白いんだろうと必死に探すけれど、今までの私と矢吹さんとの会話で面白いところなんて1つも無い。
「ま、それは置いといてこっちで良いのか?」
私は矢吹さんが指を指した方に頷き、歩き出した。
此処までで私が知った矢吹さんは、マイペースな性格で良く口笛を吹くのが癖で、今も吹いている。
そして怒った時は凄く怖くなる。けど、凄く優しい人。
男性に苦手意識を持つ私でさえも、自然に? 接することが出来る。
さっきまで何を話せば良いのか分からなくなっていたけれど、矢吹さんのことがもっと知りたい、もっと話したいという欲が沸いてくる。
今なら話せる。
「あの…、矢吹さんは何歳なんですか?」
自分から話しかけた事に心の中で自分を褒めた。
「俺か? 19歳だったけかな」
矢吹さんはうる覚え気味にといった感じに話した。
正直、大人びていている雰囲気を放つ矢吹さんは20代半ばの大人に見えていた。
「なんだよ。目ん玉丸くして驚きやがって、そんなに老けて見えるかよ。」
「い、いえ!! そんな事は無いですよ!?」
気分を悪く指せてしまったと思い、直ぐに否定するも土盛りながら応える私には説得力なんて無いに等しい。
空気を悪くしたと感じた瞬間、また矢吹さんが小さく笑った。
「へへ、わりぃ、わりぃ。困ってるお前さんを見てたらよ、面白くてついな」
その後もすまねえなと、謝る矢吹さんに私は少し呆れていた。
矢吹さんはちょっと意地悪だ。
「で、桂は何歳なんだ?」
「…16歳です」
素っ気無く応えると、矢吹さんはへえーと感心したように頷いた。
「16か。なら学生か」
「はい。高校生ですよ。矢吹さんは?」
「俺は学生じゃないな。一応職には就いているかな」
一応という言葉が気になり、続けて訊いてみた。
「何の職業なんですか?」
何気なく訊くと、矢吹さんは歩くのを止め、ポケットか両手を出し、拳を握り締め顎の高さに上げる。
右手は顎の右前、左手は少し離れた処に位置にした。
この構え方はテレビで見たことがある。
次の瞬間、鋭い風きり音がなり私の髪の毛が揺れた。
「ボクサーさ」
矢吹さんはたった一言だけ言うと、風きり音が立て続けに鳴り、私の目では拳の動きを追える事は出来なかった。
ただ呆然と眺めていた私を尻目に、矢吹さんの動きは拳だけではなく、上半身は左右上下に揺れ、目線は見えない何かを追いかけ、小刻みに足を動かしだす。
その動きはまるで、クラシックダンスのように軽やかで、ヒップ・ホップダンスのように激しい。
私はボクシングのことはよく知らないけど、理屈を抜きにしてこの動きが格好よく見え、見惚れていた。
今日の私は普通の人生では体験できないようなことを何度もしている。
それは宝石箱のように輝いているのを私は後から気づいた。