あしたのSchool Days (あしたのジョー×School Days)   作:ラバダブ

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1章 ミッドナイトウォーク

 矢吹さんのこの動き、名前だけなら知ってる。

 

 たしかシャドーボクシング、実際にはいない相手を想像して、パンチを出したり相手の動きを予測して躱したりする練習だったはず。

 

 矢吹さんのシャドーボクシングの動きはテンポ良く、リズムに乗っていて素人の、ボクシングのボの字も知らない私でも時間を忘れるほど魅せられ、月並みな言葉だが感動の2文字しか頭には浮かんでこない。

 

 下から上に突き出した右のパンチを最後に、矢吹さんの動きは止まり、激しく長時間動いたはずなのに呼吸1つ乱さずに、少しも疲れていない平然とした顔で私の方を見ると静かに眼を瞑り、笑みを浮かべた。

 

 

 その笑みに、また胸の鼓動が激しくなる。

 

 「帰りが遅くなってるのに、変に時間取らせちまって悪かったな」

 

 矢吹さんは済まなそうに私に言うが私は数旬遅れて、頭を横に振った。

 

 「い、いえ! そんな事無いです!! 私、ボクシングの事は良く知りませんけど感動しました。良い例えが浮かんできませんけど、優雅な踊りを観ているようでした。凄かったです!!」

 

 私は想っていたことを口に出し、自分でも驚くくらい声を出して、矢吹さんに詰め寄っていることに気がつかなかった。

 

 矢吹さんの驚いた顔を見て直ぐに我に返り、自分のした行為に、また顔が紅潮しているのが分かる。

 

 何をしているんだろう私?

 

 何時もと違う、感情的な行為に疑問を浮かべつつ、チラッと矢吹さんの顔を見ると、矢吹さんは口を押さえ、笑いを押し殺しながら堪えている。

 

 笑われてもしょうがない。

 

 肩を落とし、落ち込んでいると矢吹さんが口を開いた。

 

 「踊りか…。確かに踊ってたかもな」

 

 それがどういう意味なのか聴けずによく、首をかしげる私を余所に笑いながらまた歩き始めた。

 

 この短い時間の中で、私は何度も心の中で笑ったことだろう。

 

 友達と話すように会話をしたんだろう。

 

 「試合とかも良くしているんですか?」

 

 ほらまた自然に話せる。

 

 「ここ最近はしてないな。1ヶ月後にエキシビジョンだが試合を控えているがな」

 

 「怖くないんですか?」

 

 「怖いってなにがだよ?」

 

 何がって…。

 

 「殴られたり、傷ついたりすることがです」

 

 私の問いかけに矢吹さんは頭を振った。

 

 「今まで一度も怖いと思ったことはねえさ。殴られたら血が出て、怪我するだけだからな。それにやられたら倍にしてやりかえせば良いだけの事だからな」

 

 矢吹さんは当然のように静かに言うと、私は少しだけ人柄が分かったような気がして口を押さえて静かに笑った。

 

 度胸があるというか、肝が据わっている男の人の言葉は普通の人とは違う。

 

 やがて私の家の前に着き、矢吹さんが口を開いた。

 

 「良い家に住んでるんだな桂は、金持ちなんだな」

 

 私の家を見ながら、矢吹さんは感心したように言う。

 

 「い、いえそんな事ないですよ」

 

 金持ちといわれて、恥ずかしくなり頭を振る。

 

 矢吹さんはそうかと、一言言い背を向ける。

 

 「じゃあここでお別れだな。今度から気をつけて帰るんだな」

 

 歩き出そうとする矢吹さんに、これで別れてしまったらもう二度と会えない。そう思いまた頭で考えるより先に口に出していた。

 

 「あ! あの…!!」

 

 急に声を上げた私に矢吹さんはゆっくりと後ろを振り向く。

 

 何を言おう。

 

 この後何を言えばいいんだろう。

 

 このままだと矢吹さんは帰ちゃう。

 

 「きょ、今日のお、お礼をしたいので、明日矢吹さんのジ、ジムに行っても良いですか?」

 

 かなり慌てて緊張しながら言う言葉は吃りながらで、変な子に思われたかもしれない。

 

 けれど、そんなことを気にする余裕は今の私には微塵にもなかった。

 

 矢吹さんの顔を直で見れず、恥ずかしくてずっと俯いたまま。

 

 「別にお礼される程の事はしたつもりはねえぜ」

 

 「そうしないとわ、私の気が済まないんです!!」

 

 かなり強引に勢いに任せて、後先考えない。

 

 無言なの間が続く、答えはどっちなんだろう? これで断られたらどうしよう。

 

 「…しょうがねぇな。紙とペン貸しな」

 

 ハッとして顔を上げる私に、矢吹さんは帽子を押さえながら言った。

 

 まさかと、絶対断られると思っていた私は呆然とし固まっていると矢吹さんは早くしなと手を差し出して言った。

 

 その時の私は鞄から適当な紙とペンを素早く取り出し、手渡すとジムの住所が書かれた紙を渡された。

 

 「暇な時にいつでも来な」

 

 そう言い残し、矢吹さんは再び歩き始めた。

 

 絶対行きます。

 

 必ず行きます。

 

 心の中でそう決め、何度も呟く。

 

 やがて矢吹さんの姿は闇に消えて、姿が見えなくなった。

 

 1人になった私も家の中に入ると、心が慌しく出迎えてくれた。

 

 「お姉ちゃん帰るの遅いよー!! お母さんも私も心配したんだよー!!」

 

 そうだった、今何時なんだろう? 携帯にもメールが数着入っている。

 

 「ごめんね心。明日から早く帰るようにするからね」

 

 心の頭を撫ぜながらそう言うと、心は不思議そうな顔をした。

 

 「どうしたの心?」

 

 「お姉ちゃん楽い事でもあったの?」

 

 「え?」

 

 「顔が綻んでるよ」

 

 「え!? そ、そんな事ないよ!!」

 

 否定する私に心は悪戯ぽい笑みを浮かべる。

 

 「春だからね〜」

 

 冷やかしながら立ち去る心に私は石のように固まって動けずにいた。

 

 

  

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