アンドリューは激怒した。かの半裸鳥頭の変態を殴らねばならぬと決意した。
アンドリューには恋愛がわからぬ。アンドリューはドルオタである。推しの尊さに悶え、推しのロボットを造りながら暮らしてきた。恋愛などとは遥かに遠い男である。けれども推しの恋愛に対しては、人一倍敏感であった。
今日未明、ベヒーモスにあるアンドリューのラボに、サイナは現れた。その隣に契約者であるサンラクはいない。珍しくも一人で現れたサイナに対し、アンドリューは声をかけた。
「ふむ、今日もまた美しい。日に日に感情豊かになっていく君をみるのは一ファンとしても造り手としても実に喜ばしいことだ。そしてそれ故に生じる様々な悩みについてもまた、素晴らしいことであると私は思う。そしてその悩みに対する答えを用意するのが、この私アンサーコード・トーカーtypeジッタードールの役目だ。さぁ、何なりと聞くがいい」
「………
「なんだって???????」
「……不具合が生じています」
105回目の世界の終わりを防ぐためにアンドリューは立ち上がった。なんとしてでも止めなければいけない。自己を確立した現状唯一の機体であるエルマ=317の喪失はオリジナルのエルマ=サキシマの喪失に匹敵する。宇宙の熱的死である。
たまらず立ち上がった彼は、しかしサイナの見たこともないような冷たい眼差しに見惚れ、大人しく話を聞くことにした。
「推測:不具合があるのは貴方の方では?」
「そんなことはない。私はいたって正常である。例え異常であったとしても君に不具合があるということの方が遥かに重要だ。このままでは世界が終わる。急遽我がラボにて点検と調整を」
「
そしてその前に、ワタシのインテリジェンスにより割り出した、不具合が発生する条件とその症状を共有したいと思います」
「よろしい、続けたまえ」
「
胸部に締め付けるような痛みを感じると共に、感情が負の方向へ傾くのを感じます。
以上がワタシの持つ情報ですが……どうしたのですか?頭を抱えて」
(ファンの屑め!!!!!!!!!)
アンドリューは激怒した。
アンドリューは推しの恋愛に対しては、人一倍敏感であった。
これはあれだろう。あれなのだろう。
エルマ=317はその純真さ故に理解できていないようであったが、アンドリューは既に問いに対する答えを出していた。
そして、出したのならば答えなければならない。
「…………答えは明確だ。エルマ=317型よ、答えは、そう、君は恐らく君の契約者に対し……そう、いわゆる恋愛感情を抱いている」
その時のエルマ=317の姿をアンドリューは決して忘れることはないだろう。
今に至るまで数千年の間、見たこともない表情。
あるいは黄金期にはこんな表情もしたのだろうか。
否。そうではないと言い切れる。こんな笑顔で落ちないやつがいるか?いやいない。ということはこの笑顔は今自分だけが見ている笑顔であると同時に、この先サイナのパートナーは飽きるほど見ることができる笑顔だということだ。
アンドリューは死んだ。しかしもう死んでいるのでセーフ。
悶えるアンドリューを圧倒的表情温度差をもって見つめながら、サイナは口を開く。
「ならば、重ねて問います。ワタシは、征服人形エルマ型317号は、恋をしても、いいのでしょうか。未来に希望を持っていいのでしょうか。
二号人類に生殖機能が無いのは知っています。それでも、彼は不死身で、ワタシは機械。ワタシのこれからは彼のために、悠久の時を彼とともに……」
後半に秘められた熱量はどれ程か。かつて何度も聞いたあの曲のように。それはアンドリューの心を揺さぶった。
──ああ。あそこで死んだことが、心の底から悔まれる。
「──ああ、ああ。エルマ=317。否、サイナよ。私は、アンサーコード・トーカーtypeアンドリューは、その問に対する答えを持ち合わせていない。それは、その言葉は私にかけていい言葉ではない
思考回路は複製できた、しかし、君たちに向ける熱情までもは複製できなかった。
私は、アンドリュー・ジッタードールではない。故に、君の恋愛を私は許可できない」
ああ、そんな顔をしないでくれ。確かに、私は君の恋を肯定してやれない。しかし、それでも。
「エルマ=317。君はアイドルだ。君は征服人形だ。文化を絶やすことないように、アンドリュー・ジッタードールのアイドルに対する情熱を注ぎ、造られた新たな人類だ。
アイドルとしての君が恋することを私は肯定しない。
新たな人類である君が恋愛をすることを私は必要だとは感じない。
しかし私は君の親だ、君は私の娘だ。
恋愛を許可しろ。その問いに答えは返せない。しかし、君が自由に生きることは何よりの私の望みである。
問いの解釈による、というやつだ。
君の恋愛に私の許可が必要か? 答えよう。もはや君は私に問わなくていいのだと。
この言葉を送ろう。好きにするといい。私は知らない。私は…………私は、君のファンをやめる」
もはや自分で何をいっているのかわからない。離別とはこうも心を乱されるものか。逃げるようにシャットダウン。ホログラムを消し、音声を切り、
「ありがとうございました、お父様」
やっぱりファンになろう。どうにも照れ臭くて、アンドリューは赤面した。
このあとサイナちゃんがサンラクと付き合うってマジ?幻滅しました。シュテルンブルームのファンやめます