317の愛   作:シャチQ

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 半年ぶりの投稿です。
 コミカライズ開始からは多分2ヶ月と2日ぶりです。
 単行本発売までは後1ヶ月となりました。エキスをキメろ。
 今回はこの次の話への繋ぎみたいなあれです。
 ちょっと闇かもしれん。
 相も変わらずフィーリングで書いたので何かおかしくても許してほしい


Dolly's Dream

 :長い、長い夢を見ていたのです。

 美しく、輝かしい、星のような夢を。

 愚かで、幸せな、星に手を伸ばす夢を。

 

 夢を見るのは、嬉しいことです。喜ばしいことです。何よりも、誇らしいことです。

 それはわたしが(サイナ)であることの、確かな証なのです。

 征服人形(コンキスタドール)エルマ型。

 アイドル、エルマ・サキシマを原型とする人形。

 1号機から316号機は夢を見なかったでしょう。318号機も、319号機も、この先の誰もわたしと同じ夢を見ないでしょう。

 エルマ・サキシマだって、こんな夢を見なかったはずです。

 だって彼女たちはわたしではないのですから。

 だって彼女たちはあの人を知らないのですから。

 わたしはわたしが317号機で良かったと、心から思います。

 あなたと共にあれたこと、あなたを見ていられたこと。

 そうです。わたしは幸せでした。

 

 

 全てが、終わった後のお話です。

 

 彼は時々、よくわからないことを言いました。

 自分はPCで、ワタシはNPCであると。

 自分には戻るべきリアルがあるのだと。

 …………いえ、わたしの溢れるインテリジェンスはその意味をしっかりと捉えていました。

 伝承曰く、開拓者たる二号人類は時々別世界に行って……そして帰ってこない。

 その言葉こそわからなくとも、彼がいずれいなくなってしまうということはよくわかっていました。

 

 あなたは渡り鳥。何もかも追い越し、置き去りにして、遠くへ行ってしまうことも、当然のことなのでしょう。

 

 それでもわたしは聞いたのです、わたしもそちらに連れていってくれと。

 泣きました、怒りました、すがりました、置いてかないでと、みっともなく。

 何故、どうして。

 征服人形(わたし)二号人類(あなた)と共にいるために生まれてきたというのに。

 エルマ=317(わたし)サンラク(あなた)と共にいるために生まれてきたというのに。

 わたしはあなたがどこで寝ているのか知らないのです。

 わたしはあなたがどんな夢を見ているのか知らないのです。

 開拓者のあなたが好きでした。

 今は、あなたが好きなのです。

 

 

 ……でも、彼にはどうしようもないのです。彼がどうにかする理由もないのです。

 わたしが、追いかけなければいけなかったのです。

 気付いたときにはあなたは遠く。

 いつも見たその背中に、もはや手は届かない。

 ……もっと早く手を伸ばしたのなら、届いたのでしょうか。

 考えてみれば、土台無理な話だったのかもしれませんね。

 

 嗚呼、嗚呼。

 何を引き換えにすれば、わたしはそこへ行けるの。

 泡沫に消えてもよかった。

 でも、声を差し出すことはできなかった。

 この惑星の名はユートピア。わたしの夢を、理想を叶えてくれるならと願いましたが、到底叶うことのないお伽噺であったのでしょう。

 

 だから、せめて。彼に歌を送りました。わたしと、彼だけの歌を。宇宙一の歌声を。

 たとえ彼が私の全てを置いて走り去ってしまったとしても忘れないように。

 

 遠いどこかで思い出してほしい。

 夜空を見上げる度に、地に咲く花を見る度に。

 眠りにつく前に、夢の中でさえも。

 この摩天楼を。

 

 彼の心に、脳に、私が一欠片でもいることができたのなら、それで良かったのです。良かったのでしょうか。さぁ、わたしにはわかりません。

 

 そうして、後は彼が居なくなるのを待つだけとなって。

 いっそ、彼が居なくなるより先に死んでしまおうか──なんて。そんなことを思っていました。

 そうしたら、最後まで彼の側にいることができるのだと。

 

 

 あぁ──世界は、何と残酷なのでしょうか。

 その願いは叶えられました。

 ……一番の願いは叶えなかったくせに。酷い話もあったものですね。

 

 

 その光は、わたしを否定する眼差しとともに。

 わたしの胸を撃ち抜いて、なお止まなかった。

 

 ズタボロになって頽れるわたしを見下ろす彼女の笑みは、しかし、わたしを受け止めた彼の出現によって歪む。

 

 何故、どうしてと叫ぶ彼女。

 あなたもなのねと、何となく感じた。

 

 だからこそ、彼の腕の中で、わたしは彼女に笑いかける。

 優越、嫉妬、憎悪、憐憫。

 ごちゃ混ぜになった笑顔は、とても美しいとは言えなくて、だけど、何よりも人間らしい笑みだったのだろう。

 

 爆発する彼女の感情に、わたしは名前をつけられない。

 だけどそんなことも、最早どうでもよくて、わたしは彼を見上げる。

 霞む視線の先で彼は、嗚呼……!彼は怒ってくれていた!

 わたしの死は、喪失は、僅かなれど確かに、彼の心を動かした。

 それが例え、眠りにつけば治ってしまう程度のものであっても、どんなに、どんなに嬉しかったか。

 

 だから、だから。例えこの夢が終わっても、後悔は無かったのです。

 ああ、本当にわたしは幸せでした。

 感情を得て、恋をして、愛を経て、最後までその人と共に居れたのですから。

 当然、死の恐怖はありました。

 しかし、いずれ来る別れならば、彼に看取られたいと、そしてそれは叶えられたのです。

 まったく。何の未練があるでしょう。何の、何の………

 

 ……ああ、そうです、共に、共に居たかったのです。

 

 あなたの全てを知りたかった!

 

 あなたと共に世界を見て回りたかった!

 

 あなたの側で、笑っていたかった!

 

 

 ……死にたくなかった、生きていたかった。

 

 

 

 一日の終わり、一生の終わりに。

 契約者(マスター)、あなたと一緒に、眠りたかったの。

 

 

 

 

 

 

 

 ──そうして夢は冥い眠りへと変わりました。

 




 Dolly's Dream
 人形の夢と目覚め



 次回は多分来年の3/17だぜ……
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