HUNTER-KILLER 〜節度無き狩人に蒼色の弾丸を〜 作:BOMBデライオン
「ん…あれ?」
辺りを見回す。
立ってみると頭痛がし、まるで二日酔いの時のようなめまいを感じた。
「…俺の酒は?」
「何言ってんだ?」
「…!」
目の前に座る新米ハンターらしき男に気付く。
彼の周りには、俺と同じように仲間の皆が倒れていた。
「あっ! あんたは…!」
徐々に記憶が蘇る。
確か俺達は、目の前に座る新米ハンターらしき男の身ぐるみを剥ごうとしていたはずだ。
なのに…
「なんで俺達を助けたんだ?」
直近の記憶では、すぐには致命傷にならずとも、放っておけば命を蝕む程の怪我を負っていたはず。
運良く命が助かっても、警察機構に連れて行かれるのは目に見えていた。
だが、現実は違った。
「さあ? フィールドでならともかく、ここで人を殺したら殺人罪で捕まるから?」
嘘だ。
「…正当防衛が成り立つはずだ」
「じゃあ寝覚めが悪くなってしまうからだな」
これも嘘だ…。
「…あんた、何者だ?」
彼の手には、生命の粉塵と思しきアイテムの袋が握られていた。
生命の粉塵とは、使用すると同時に粉末が周囲に拡散し、触れた者の傷を癒やす薬で、調合には手間が掛かる上にかなり難度が高く、市場にもほとんど出回る事の無い貴重なアイテムである。
「そんな貴重なものを…! なんで…!!」
こんな落ちぶれたクズ共のために!
「まあ…1人で使うには勿体ないからな。 これも俺の善意だと思ってくれ」
「は…???」
バサッと無造作に置いていかれた袋の中身は、ここにいる全員が3日ほど食うのに困らない額のお金が入っていた。
無論、これには全員の家族の分も含まれる。
「あ…! ああ…!」
もう彼の姿はなかった。
助けられた男は天を仰ぎ、無上の感謝を口にした。
「神…様ッ…!!!」
あれから指令も来ず、集会所に行ってもクエストも無く、無為に過ごす日々が続いた。
宿泊している宿は巨大な幌馬車を改造したもので壁が薄く、気密は無いに等しいが、ベットは
そんな中、俺に客人が来た。
いや、客猫と言うべきか…。
「ニャンクック!」
「あ?」
ドアを開けると、目の前に赤い大きなキャスケットを被ったアイルーがいた。
確か郵便屋さんと呼ばれるアイルーだ。
帽子にはクルペッコを模したラッパを乗せ、手紙がはみ出たポーチを身につけている。
「ニャ。 すてきなであい」
「はあ…?」
強引に手紙を押し付け、彼、彼女?は
「あんしんサービスニャ」
と言い、どこかへと去って行った。
「…」
まさかとは思うが、これが指令だとすると、あの可愛らしいアイルーは組織の一員ということになる。
「まさかな…」
『指令 同封されている絵のモンスターを討伐せよ』
そのまさかだった。
そんな事実にちょっとばかりショックを受けたが、指令となればクヨクヨしてはいられない。
同封されている絵は複数のモンスターが描かれているだけで別段怪しい点はない。
強いて言うなら、絵が所々で途切れていたり、モンスターが変なポーズを取っていることくらいだ。
文章にも変な箇所はなく、指令と書かれていること以外は普通のクエスト依頼と変わらない。
…え?
これって普通の依頼か?
そんな訳がない。
個人を指名するようなクエスト依頼は普通、ギルドを通して伝えられるからだ。
となると…
「暗号か…」
早速、モンスターの絵が描かれている紙を焦げない程度にロウソクの火にかけた。
いわゆる「あぶり出し」だ。
「…正解か」
途切れた絵は徐々にその隙間を埋め、数人の似顔絵と共に、補足する文章が浮かび上がった。
『地底洞窟 大規模密猟グループの殲滅 危険度高し』
舞台は地底洞窟。
火山の噴火によって生まれたフィールドであり、深部に広大な地下空間が広がる場所だ。
1部を除き、現れるモンスターのほぼ全てが危険度4以下となるため、強力なモンスターが出にくいという点では穏和なフィールドかもしれない。
だが、ここの恐ろしさはモンスターというより環境だ。
実はこの地底洞窟は、すぐ側に火山があるため、その火山の活動状況によっては地底火山と名を変更する場合なある。
そうなるとそこは文字通り灼熱地獄と化し、何故か強力なモンスターの穴場ともなるのだ。
人間には火山がいつ活動するかなんて分からないため、運が悪ければクエスト中に噴火に巻き込まれる可能性もある。
そんな場所に住もうなんて、正気の沙汰ではない。
いや、そもそも正気だったら密猟なんてしないな。
「あら? どうしました?」
「いや、ちょっとな」
集会所には例に習って誰も居らず、暇そうにしている受付嬢がただ1人座っているだけだった。
特に仕事もないため、カウンターにもたれかけ、ぐで〜としている彼女はちょっとレアな光景かもしれない。
「あ、そういえば指令届いてますよね? ちゃんと解けました?」
「それは解けたんだが…1つ問おう。 これを1人でこなすのは不可能ではないか?」
そう、実質不可能である。
地底洞窟は洞窟と言えども、その空洞は非常に広く、時には最下層部にも飛竜種などが飛来する事があるのだ。そんな所に巣食っている人間を1人も逃さずに殲滅するのははっきり言って難しい。
壊滅ならともかく、殲滅は無理だ。
「何とかして下さい。 協力を要請しようにも、今はどこも手一杯なんです」
「ならせめて殲滅ではなく壊滅に出来ないか?」
「無理です!」
彼女はキッパリと言い放った。
この組織、とことんブラックだ。
人手不足なのは分かっているつもりだったが、蓋を開けてみればなんという事か。
絶望的なレベルの人手不足ではないか。
もはや笑うことも出来ない。
「じゃあ衛兵を何人か借り…」
「それもダメです!」
「何故だ? 犯罪者を取り締まるのに協力して貰っても構わないだろう?」
「ダメなんですよ。 同じギルド所属の仲間とは言え、彼らが人を殺すのに協力するとお思いですか?」
「なら殺さずに捕縛するのはどうだ?」
「ダメです! もう刑務所に空きが無いんです!」
近年では密猟等を行う犯罪者が多すぎるため、どこの刑務所も満員なのが現状だ。
捕まえても入れる牢獄がないため、街の警察機構は麻痺しており、最後の手段として汚れ役が増やされた次第である。
「殺す他ないと言うことか…」
「そうですね。 密猟者も自然の輪廻に帰れて万々歳じゃないですか」
俺は大人しく任務に従事しようと振り向き、何歩か歩いた所で足を止めた。
「そういえば…入口を埋めるために人を雇うのは良いのか?」
「え?」