HUNTER-KILLER 〜節度無き狩人に蒼色の弾丸を〜   作:BOMBデライオン

4 / 5
第4話

 エリア1。

 ここは地底洞窟のエントランスとも言えるエリアだ。

 ベースキャンプがある地上から、地底へ続く縦穴へと飛び込むことで移動できる場所であり、面積が広く、高い崖で3段に区切られている。

 

 普段であればこのエリアには必ずと言って良いほどアプトノス等の草食モンスターが居るはずなのだが、この御時世ではすでに狩り尽くされてしまったようだ。

 このエリアからすぐの所にあるエリア10、アイルーの集落も全く人気がしない。

 人気ではなく猫気なのだが。

 

 植物もこころなしか元気がないように見えるのも気の所為だろうか。

 

「あんちゃん! 工事終わったぜ!」

 

 工事が完了したことを報告しに来たこいつは、昨日のチェーンS装備を身にまとった追い剥ぎだ。

 一応は未遂で終わったのだが、牢屋にぶち込まないのを条件に、彼と彼の仲間が俺に雇われることで手を打った。

 

 彼らにしてもらった工事を説明しよう。

 このエリアには他の3つのエリアへと続く道があり、洞窟深部への通路となるエリア2、影蜘蛛(ネルスキュラ)の糸が張り巡らされたエリア4、ベースキャンプとほぼ同じ高度に位置するエリア7がある。

 今回はそのうちエリア2、4へと続く道を完全に封鎖してもらった。

 人が通れない程度にな。

 

「よくやった。 報酬はベースキャンプにあるから各々帰っててくれ」

 

「あんたはどうするんだ?」

 

「これからフィールドの調査だ。 モンスターが出るかもしれないから、早くキャンプに戻れ」

 

 と言うのは方便だ。

 観測気球の報告によれば、この一帯に脅威となるレベルのモンスターはいない。

 

「なに言ってんだ。 俺もそこそこ腕の立つ元ハンターなんだぜ? モンスターくらい──」

 

「早く戻れ!」

 

 俺が語尾を強めて言ったのは、機密があるため彼らに知られてはならないが、ここがモンスターよりも恐ろしい連中のアジトだからである。

 工事の前に付近の見張りは倒しておいたが、奴らの仲間がいつ戻ってくるか分からない。

 彼らは工事をしに来ただけで、わざわざ危険な目に合う必要はないのだ。

 

「…あいあい分かったよ。 安定した収入がある奴は態度もデカくなるようだな」

 

「…早く行け」

 

 これで良い。

 彼らを危険な目に合わせる訳にはいかない。

 

 最後の1人が崖をよじ登り、キャンプに戻ったのを確認してからが俺の仕事の始まりだ。

 

 まず今回の目的をおさらいしよう。

 今回の依頼は、ここに潜伏する密猟者グループの殲滅である。

 だが、この広大なフィールドに潜む人間を1人残らず殺害するのは不可能だ。

 俺が排除に戸惑っている間に別の入口から逃げられる可能性があるからだ。

 

 なら、入口を1つに絞れば良い。

 

 そこで俺は人を雇うことにした。

 金に困ってる連中に金の匂いをチラつかせれば、犬より従順な犬が出来上がる。

 そして彼らに工事をしてもらい、今に至る訳だ。

 

「よし…」

 

 バリケードの強度は十分そうである。

 大タル爆弾を爆破させようが、轟竜(ティガレックス)の突進であろうが耐えてくれそうだ。

 彼らは本当に良い仕事をしてくれた。

 

 俺もそろそろ自分の仕事に取り掛かろう。

 

 尋問で得られた情報によれば、グループのメンバー数はすでに倒した者も含めて約50人。

 その全てが元ハンターであり、技能、武装共に非常に強力。

 ギルドナイツもなかなか手が出せずにいた結果、ここまで膨張してしまったらしい。

 

 特に似顔絵にあった人物達は要注意だ。

 全員ハンターランクが高く、その内の1人に至ってはG級ハンターらしい。

 

 ハンターランクとは何かを説明しよう。

 そのままだが、ようするにハンターとしてのランクだ。

 これが高ければ高いほど難易度が高いクエストを受注することができ、ハンターとしての信頼度も上がるようになっている。

 クエストの難易度は下位、上位、G級と上がっていき、G級ハンターとはようするに、全体で見れば最高難易度であるG級クエストを達成できるハンターのことである。

 

 この御時世ではハンターランク(略してハンラン)の信用度など皆無なのだが。

 せいぜい実力を測れるモノサシとして使えるくらいだ。

 

 とまあ、言いたいことは侮ってはいけないということだ。

 こんな高難度のクエストを新人にやらせるとは、ギルドナイツの人手不足っぷりには文句が言いたくなるな。

 

「おい? 誰だあんた?」

 

「ッ?!」

 

 突然後ろから声をかけられ、心臓が飛び出るような思いをした。

 身体に悪そうなほどドキンドキンと鼓動し、振り返ると、そこには見張りらしき男が2人立っていた。

 まさか油断して敵の接近を許すとは、一生の不覚だ。

 

「…」

 

 大丈夫、まだ大丈夫だ。

 

 片方の武器は太刀、大剣から派生した細身の長刀。

 防具の防御力は少し低めで、弾が通る。

 

 もう片方は双剣。

 防御力は高めで、散弾では貫通力にやや不安がある。

 

 連携を取るとしたら、双剣が近距離戦に持ち込み、それを太刀が援護する形になるであろう。

 俺なら何とか勝てないわけでもないが、武器の相性的に相手に軍配が上がる。

 なら…

 

「いや〜! なんか見張りの仕事をしてたら相方とはぐれちゃって! 進行方向には変なバリケードもあるし、今日はついてねえな!」

 

 めいっぱいの笑顔で愛嬌を振り撒き、油断させる。

 堂々と笑顔でコミュニケーションを取っていれば、多少の不審感は払拭されるはずだ。

 

「…見ない顔だな? 新人か?」

 

「そいつは災難だったな」

 

「そうなんすよ〜! ところで、この障害物どかすの手伝ってくださいよ先輩!」

 

「お、おお。 そうだな」

 

 計画通り、と心の中で悪魔が笑う。

 

バキバキッ

 

「あ゛ッ?」

 

 こもったような耳慣れない音と共に、双剣使いの体が音もなく崩れた。

 

「え…? おい…?」

 

 太刀使いの方は動揺して状況がうまく理解できておらず、目の前で仲間が殺された事実を事実として認識出来ていなかった。

 敵が呆気に取られていても、手加減はしない。

 

 地面を強く踏み込み、距離を詰める。

 ここまで近付いてしまえば、御自慢の長刀も抜けず、抜けた所で取り回しづらい木偶の()となるだけだ。

 

「うわあっ!」

 

 俺が銃剣用の大型ナイフを取り出すと、敵も剥ぎ取り用のナイフを取り出し、近接戦闘に備えた。

 

「…」

 

「…」

 

 読み合いに読み合いを重ね、両者動けない状況が続く。

 

 距離をとり、ボウガンに持ち替えても良かったのだが、不用意に離れた場合即座に背中の刀を抜かれ、太刀の独壇場(間合い)に持ち込まれる可能性があった。

 それは今でも変わらない。

 

 一方、敵の脳裏にも今ここで距離を取った場合、即座に弾丸が飛んでくる可能性も含められていた。

 ナイフや防具の性能差あれど、先に動けば負け()に直結する状況がお互いの選択肢に大幅な制限をかけているのだ。

 

 だが読み合いは出来ても、冷静な頭が無ければ全て無意味。

 

 生き急いでしまったのか、先に手を出してしまったのは密猟者の方だった。

 突き出したナイフはいとも容易く捌かれ、その一瞬の隙が命取りとなった。

 

「…なんだ。 人との殺し合いはズブの素人じゃないか」

 

 首から熱いものが流れ、意識が遠のいていく中、最後に残った気持ちは後悔だけだった。

 

 


 

 

「敵襲!! 敵襲ゥー!!!」

 

 ガラガラと紐で繋がれた原始的なサイレンがけたたましく鳴り響き、地底洞窟に住まう者達は武器を取る。

 モンスターの襲来ではなく、同じ人間の襲撃だと知り、一同に緊張が走る。

 

「まさか…ギルドナイツか?!」

 

「バカ言うな! 都市伝説だろあんなの?!」

 

「御託は後にしろ! 訓練通りにやれ!」

 

 ハンターズギルドを守り、ハンター達を統括するためのギルド直属組織「ギルドナイツ」。

 それに任命されると「ギルドナイト」と呼ばれ、ギルド専属のハンターとなる。

 彼らの主な業務は要人の警護や、依頼主との交渉、未確認モンスターの情報収集や密猟者の取り締まりだ。

 これらは公に公開され、周知の事実として知られている。

 

 だがこれはあくまで表向きであり、その実は対人戦のスペシャリスト集団である。

 その事実は都市伝説として流布されており、彼らの身の回りでは不穏な噂が絶えない。

 

 曰く、モンスターではなくハンターを狩ると。

 曰く、単身で王国の近衛兵部隊と互角に渡り合えるくらいの実力を持っていると。

 

 中にはあまりにも人間離れした噂もあるため、誰もがただの都市伝説だと思っていた。

 

「敵は1人だ! 落ち着け!」

 

「急げ! 訓練通りにやれば大丈夫だ!」

 

 敵が例えギルドナイトであろうと、1人であれば50人もいる俺達が負けるはずがない。

 その思いが体を奮い立たせ、各員はいっそう奮起した。

 

 戦闘は今でも行われており、暗い洞窟に発砲時の閃光がほとばしり、ボウガン特有の轟音が響く。

 姿は見えないが、仲間達が健闘しているはずだ。

 

 …しかし、何かがおかしい。

 

「なあ…。 迎撃に向かったの、何人だっけ…?」

 

 敵が1人なら、こうも戦闘が長く続くのはおかしい。

 ランク上位陣を何人か含め、15人以上はいたはずだ。

 

 

 ──瞬間、皆の脳裏に都市伝説の話が浮かび上がった。

 

 

「あああ…! ヤバイヤバイ陣形急げェッ!!!」

 

 胸騒ぎは恐怖へと変わり、パニックや恐慌にも近いものが背中を強引に押し、いつもの訓練では考えられないペースで陣形は組まれる。

 その間も地獄のような戦闘音は徐々に距離を縮め、作業速度は加速度的に早まった。

 

 

 ドパァン!!

 

 

 

 

 

パァン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………

 

 

 

 

 

 

シーン…

 

 

 

「あ…」

 

()()()()()()()

 銃声が止み、場を支配した恐ろしい程の静寂に、誰もが生唾を飲み込む。

 耳が痛いほどの静けさは壁の向こうで起こった全てを物語っており、これから起こるであろう惨劇は自分の身に降り掛かってくるのだ。

 

 絶望と戦慄。

 

 自らの死を前にした人間が思うことは予想に及ばない。

 

 試合のゴングはすすり泣きで始まった…。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。