「……シローくん。」
俺の思考を打ち切るように、レムが呼ぶ。
「ああ、ごめんレム。こうやって落ち着いて話すのは初めてだけど」
「シローくん、お話の前に昨夜の件について言っておきたい事があります」
厳しい目つきでレムが俺の話を遮ってきた。
「シローくん、貴方があのような行動をしては困ります。」
「昨夜……」
頭が回っていないことと、何故か遠坂がいたと言う事ですっかり忘れていたが、昨日は一体何があったのか…。
思い返してハッとした。
映像を再生するかのように思い出す。
レムを助けようとセイバーの前に出た事。
セイバーの大剣で腹を切り裂かれた事。
そして、何故か俺は生きていた事。
レムが言うには、俺の傷は即死モノだったらしいけど、ひとりでに治っていったと言う事だ。
当然俺には、治癒魔術なんて高等な事は出来ない。
レム自身の傷は治癒をかければ、すぐに治るもので、今は完治したとの事。
「繰り返しますが、今後あのような行動はとらないようにしてください」
「っ!バカ言うな!あんなに血を流してたくせに、女の子を助けるのに理由なんかいるものか!」
レムがきょとんとした顔でこちらを見ている。
ああ、なんかものすごく場違いな事を言った気がする…。
「と、とにかく、うちまで運んでくれたのは助かった。ありがとう…」
「いいえ、サーヴァントとして当然の務めですわ、シローくん。…それに女の子扱いしてくれるだなんて。」
そう微笑むレムにドキリとした。改めて見ると、レムはとても可愛い。
最後はよく聞こえなかったが、なんでもないと言われてしまえば、深く聞くことは出来なかった。
あのメイド服はどうしたのかは疑問だけど、今は白のシャツと青いスカートと言う格好をしている。
「そういえばレム、その服はどうしたんだ?」
「ええ、これはお客様から戴きました。霊体化できないのなら普段着は必要だろうと」
へえ、遠坂はこんなお嬢様っぽい服なんて持ってたんだと素直に感想を漏らした。
「あの服以外着たことがないので、不思議な気持ちです。」
「へぇ、そうなのか。」
「はい。」
「……え?」
「え?」
「それはつまり、メイド服以外の服を着たことがないってことか?」
「はい。それが何か?」
「なんでさ!?」
それからはレムと話し合った。
レムもまた聖杯を欲しているとの事。
俺に勝機が無ければ、レムが作ると言う事。
お互いに無関係な人は巻き込まないと言う事。
「そういえば、体は大丈夫なのですか?」
「ん?ああ…少し体が重いのと、目眩がするけど大丈」
「それはいけません!今日一日動かないでください。おそらく…レムの戦いのせいで、体中の魔力を使い果たしてしまったのでしょう。大人しくしててください。」
「――それは困る!」
やんちゃした息子を叱る母のようなレムの声に、俺は思わず鋭い声でそう言っていた。
驚き、目を白黒させるレム。
「ああ、悪い。でも大丈夫だ。」
レムは小さく肩をすくめ、
「ホントに仕方ない人ですね。」
彼女の発言の意図するところがわからず、俺は視線をレムに送り、
「――? レム、なにをもがっ」
その視線を合わせた彼女の手が、ふいに俺の顔に当てられる。と、口の中になにかを押し込まれる感覚。
丸いなにか、柔らかい舌触り。
困惑に俺が彼女を見ると、レムは俺の口を掌で塞いだまま頷き、
「噛んでください」
「――?」
「噛んで、飲み込む。さん、はい」
有無を言わせぬ態度に気圧され、俺は口の中の感触――それを思い切って噛み潰す。
じんわりと、甘酸っぱい味が口内に広がる。果物かなにかだったらしいとその感触にあたりをつけ、直後――それは訪れた。
「おおおおおおお――!?」
全身に火を入れたような熱がみなぎった。
血が沸騰したかのように体内で騒ぎ立て、手足が指先、爪の中に至るまで情熱で焼き切れそうだ。持て余した熱を吐き出したいのか息は荒くなり、衝動を堪え切れずに足が勝手な腿上げを行っている。
が、そこまでやらかして俺はようやく、自分の中にあった倦怠感がなくなっていることに気付いた。
信じられないような顔で己の両手を見やり、拳を開閉して感触を確かめる。
「い、今のって……?」
「ボッコの実という果物です。食べると体の中の魔力が活性化して、ほんの気休めですが、力を取り戻すことができます。」
聞き覚えのない実だが、これもレムの故郷のものなのだろうか。
「……ありがとう」
「あんまり数がないですし、体にも良くないので使いたくはなかったのですが。……シローくんは頑固のようなので。」
貴重品の使用に踏み切らしてしまった。それを謝ろうとして、
「それに、半分はレムのせいですから。魔術師として半端なシローくんがバーサーカーであるレムを使役ましてや、レムが戦闘を行うとなれば魔力をごっそりと持っていってしまいます。……そう、もう半分は未熟な自分を呪ってください。」
うすうす気付いていたが、彼女、割と毒舌だ。もはや何も言うまい。