話終えた時、電話のベルが鳴り響いた。
「―――はい、もしもし衛宮ですけど」
「はーい、もしもーし藤村でーす!」
日曜日のこんな時間の電話、心当たりがありすぎるので居留守を決め込もうと思っていたけど、それはそれで後でどんな逆襲が待っているか恐ろしい。
なので出てみると、案の定と言うかなんというか、昨夜から繰り広げられた非日常の出来事が、この人の一声で日常にひっくり返った。
「…なんだよ。断っておくけど、俺は暇じゃないぞ藤ねえ」
「なによ、私だって暇じゃないわよ。今日も今日とて、お昼休み返上して教え子の面倒見てるんだからー!」
なぜだろう…。
エッヘンと胸を張る藤ねえの姿が明確に脳裏に浮かび上がった。
「と言う事で、お弁当作って至急弓道場まで届けられたし!以上!」
ガチャリと一方的に切られた電話。
………………。
俺は呆然と受話器を眺めるしかできなかった。
……ほんと、何なんだろうあの先生は……。
……こっちはこっちで大変なんだが、それをあの人にも言っても仕方がない。
……とはいえ、断ったら断ったで、後々面倒と言うかなんというかだし、何より弓道部の連中が、猛獣をなだめるのに午後の練習の時間を食い潰されるのも気の毒だ。
思うところは多々あるけど、思い悩んでたって事態が進むわけでも解決するわけでもない。
ここは一つ、こちらの昼食も作って気持ちを切り替えよう。
「なあ、レム。マスターってのは人目に付くことは避けるんだろ?なら昼間は安全だよな?」
「ですが万が一と言う事はあります。シローくんを一人で外を歩かせるのは危険です」
藤ねえ用の弁当箱を携えて学校に行こうとして、レムに留守番を頼もうと思っていたのだけど、レムは頑として俺の後についてきてしまった。
学校への道中、レムは俺の二~三歩先を歩きながら辺りを警戒している。
「レム、もし誰かに呼び止められたら、何も言わずに首を横に振るんだぞ。出来れば「ニホンゴハワカリマセン」って顔が出来ればベストだ」
ここはもう俺が折れるしかない。と諦めて、一般人に遭遇した時の対処法を指示する。
「レム?」
校門に差し掛かった時、レムが立ち止まって怪訝そうな顔をしていた。
「…魔力の残滓が感じられます。お客様ほどの魔術師が一年以上いる場所ですから、彼女の魔力が漏れ出たのかもしれません。とは言え、今この敷地には魔術師らしき人間はいないようです。気になる違和感がありますが、とりあえず危険は無いようです」
「だから、危険なんてないって言っただろ」
レムの言う通り、妙な違和感はあるけど、それ以外は全く感じられない。
……そもそも、よっぽど強い魔力じゃないと俺には感知できないんだが……。
弓道場の入り口に立った俺達を出迎えたのは桜だった。
「…………」
「よっ、藤ねえに弁当を届けに来たんだ。悪いけど、これ、届けといてくれないか」
桜は目を白黒させて、その視線を俺の背後に向けていた。
その視線の先にいるレムは、外に立って辺りを警戒している。
「あ……はい!」
桜は我に返り、弁当を受け取った。
「あの…先輩、表にいる人は誰なのですか?そのすごく……可愛いらしい方ですが、知り合いですか?」
耳打ちするような声で言ってきた。
だよなあ……普通、レムを見たら驚くだろう。
「ああ、説明すると色々複雑なんだが………」
聖杯戦争云々のことは伏せて、説明しようとしたところに、
「シローくん!次の場所に行きましょう!」
と、レムが駆け寄ってきて宣言した。
「ちょっと待て!学校中を回る気か?」
「はい、安全と分かるまで!さぁ!」
「悪い、桜!説明はまたあとでーー」
レムがぐいぐいと腕をひっぱるから最後まで言えなかったが、おそらく桜ならわかってくれたであろう。
レムに連れられて学校中を見回った結果、概ね安全だろうと言う事だった。
弓道部の部活はまだ終わっていなかったので、俺たちは日が沈む前に帰ることにした。
今一番の問題。それはレムの事だ。
レムは霊体化できないと言う事は、一緒に暮らすことになる。
そうなれば、藤ねえや桜にどう説明すれば良いのか。
この問題を、可及的速やかに解決しなくてはいけなかった。