改めて彼女を見上げる。…さっきの衝撃で座ってしまった。
身長はおおよそ百五十センチ真ん中ぐらい。大きな瞳に桃色の唇、彫の浅い顔立ちは幼さと愛らしさを感じさせる。
ショートカットにした水色の髪の毛で右目を隠している。
黒を基調としたエプロンドレスに、頭の上に乗せたホワイトプリム。メイド服としてオーソドックスなクラシックスタイルに身を包んでいる。今の御時世にメイド服ーーーふざけているのかといった装いだが、素人目に見てもそれが一級品だということがわかる。
「サーヴァント、バーサーカー。召喚に応じ参上しました。
少女ーーーバーサーカーの言葉で目の前の幻想的な光景がようやく現実のものだと思い出す。それと同時に様々な疑問が湧いてくる。マスターとはなんだ?彼女は何を言ってるんだ?そもそも彼女は何処から現れたんだ?手の甲にあるこの赤い刻印のようなものは何だ?他にも多くの疑問が湧いたがその全てを飲み込んで言葉を紡ごうとする。そして気づいた、声が出ない。情けない事に腰も抜けてしまったようで立つことすら儘ならない。
「いきなりのことで何がなんだかさっぱりわからない…。」
するとバーサーカーは水色の髪を揺らしながら頷き、
「… 自覚なしの召喚ですか。構いません、ここに契約は完了しました。」
契約?何のことだろうか。また分からない単語が出てきた。状況から考えると俺は知らないうちに彼女と契約を交わしていたらしい。
いい加減に我慢の限界が来たのだろう、中庭から感じられる殺気が強まってきている。
すると、少女は槍使いを吹き飛ばした方を見る。
「敵を排除します。」
バーサーカーは止める暇もなく行ってしまった。
彼女が出てから数分が経った。ようやく立つことが出来るほど回復し、覚束ない足取りで土蔵の外に出るとバーサーカーはすでに男と戦っていた。
黒を基調としたエプロンドレス、頭を飾る純白のホワイトプリム。手にあるのはひと抱えほどもある棘付きの鉄球だ。ボーリング玉に殺傷機能を持たせたといってもいいそれは、長い長い『鎖』で使い手と結ばれたロマン兵器――その名も、モーニングスターだ。小柄な体躯には決して見合わぬ鉄球と繋がる鎖の柄を握り、鎖の音を引き連れて、暴力が高速で飛来した。
暴力的な一撃を眼前に、男の体が常識を外れた反射を見せる。
飛来した鉄球の勢いをわずかにそらし、胴体への直撃を紙一重で回避したのだ。槍と鉄球の打ち合い。
そして、その鉄球は鋭く槍を弾き、時に柔軟にいなして相対している。
「アンタ、一体何のクラスだ?バーサーカーにしちゃあ、正気があるようだが。」
「ここで死ぬ貴方には関係ないことです、ランサー。」
「ハッ!よく言うぜ!」
戦いが勢いを増す。主に速度が…もはや一般人には見えないスピードで行われている。バーサーカーが回転して鉄球を振り回す。男ーーーランサーは吹き飛ぶというよりも後ろに下がったようだ。
ランサーは槍の力を出すためかバーサーカーからの衝撃と共に後ろに下がりながら刺突の構えをとり、体を柔軟に使い勢いを殺さずにバーサーカー目掛け駆け巡る。
どちらかと言えば近距離向きの槍と明らかに遠距離で戦う鎖のついた鉄球。
この距離ならば、普通はこのままバーサーカーがランサーを嬲っているはずだが、彼らは普通では無い。ランサーは刺突の構えから槍を振り上げ、石突きがバーサーカーの鉄球もろとも跳ね上げる。
頭より上に鉄球が跳ぶ。
それは、ランサーにとってのチャンスである。バーサーカーの懐に入り、ランサーが槍の穂先に紅く魔力を集めていく。
「!」
「お前の心臓を貰い受ける!
殺気を振りまきながら、穂先の魔力が迸る。
ランサーは大きく跳ぶと、槍を全力で投擲した。
バーサーカーは、その槍を素早く避けたが、槍は進路を変え、再びバーサーカーに向かって行く。バーサーカーは足を止め、腕を槍に向かって伸ばし、
「――エル・フーラ!!」
叫びと同時に魔力が膨れ上がり、爆風を上げ、槍がランサーの元まで吹っ飛んだ。ランサーはそれを受け取り、
「凌いだというのか...我が必殺の槍を…。バーサーカー!!!いや、キャスターってこともあるのか?まぁ、いい。本気を出せなくてすまなかった。マスターの命令で今は帰らなくちゃあならないが、次会った時は全力で戦ってやる。その時まで死んでくれるなよ」
ランサーはそういうと、塀を越えてどこかに消えていった。
俺は、ランサーの消えていった方向をしばらく見た後、バーサーカーに向かって言った。
「バ、バーサーカー…?その、ありがとう。危うく死ぬところだった。」
「いえ、お礼は必要ありません。
しかし、ランサーの気配が遠のくと同時に感じられる新たな気配。
「ーーー
またしても、止める暇もなく行ってしまう。しばらく固まっていたが、俺は慌てて追いかけた。