「はい、到着。いくわよ衛宮君」
遠坂は教会に向かっていく。
俺もそれについていくと、アーチャーとレムが教会の門の前で立ち止まった。俺が不思議そうに見ていると、遠坂が説明してくれた。
「ああ、今から会う奴は私の恩人的な存在なの。だから、人を殺せるほどの力を持つサーヴァントは連れて行かないわけ」
なるほど。納得だ。俺は、前を行く遠坂について行く。
そして教会の前まで来ると、遠坂は立ち止まった。
「一応、ここに用があるのはアンタだから、アンタが最初に入りなさい」
それも一理あるな。そう思い、俺は教会の扉を押した。
開けて中に入ると、奥に神父が立っていた。
「ようこそ。バーサーカーのマスター」
神父はそういうと、俺に向かって微笑みかけた。
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衛宮士郎と遠坂凛の背中が教会の中へ消えるのを見送り、レムは側の花壇を囲むレンガの横に立つ。アーチャーは、教会の入り口から真っ直ぐと伸びる、不気味で広い石造りの道に立っていた。
いつ彼らが出てくるのかは分からない。凛はすぐに終わるからと言っていた。凛の会話から何も起こらないと確信しているので、敢えて後は追わない。
剣呑な静寂が訪れた。
「……」
アーチャーはレムの様子を横目で伺い、時たま溜息を小さく漏らす。腕を組み、すぐ後ろにある門の柱に背を預ける。
レムは異常と判断し次第飛び込む準備は出来ていた。
学者かと言いたくなるくらいに活弁なアーチャーだが、他のサーヴァントと語る事はない。と思っていた。そのつもりなのだが。
ふと、口元が動いた。
「君は…」
「……?」
「バーサーカー、無礼を承知で問うが。君も英雄として召喚されたんだ。聖杯には、一体何を望む?」
アーチャーは静かに、レムへと姿勢を向けて問いかける。
レムは話しかけられると思っていなかったらしく、意外そうに目を見開いてアーチャーを見た。
無駄口を叩くような性格とは思えない。士郎達が教会から出てくるまで、終始口を閉じ、非常事態に備えている。それがアーチャーへの印象。
アーチャーは、レムから向けられた視線に弁解するように苦笑いをする。驚くことに、その笑いには一欠片も警戒の意思が見られなかったのは…いや、気のせいだろうか…
「いやなに、しばらくはあの小僧の説得にでも時間を費やすだろうと思ってね。聖杯戦争に参加した者同士で、言葉を交えたかったんだ」
「貴方はどっちかと言うと、敵とは何も話さない方だと思いました。」
「そうか?それでは味気ないだろう、私は口数は多い方だぞ」
ニッと控えめに笑うアーチャー。目は閉じているが、やや崩れた表情は楽しそうで、レムとの会話をまるで待ち望んでいたかのようにさえ見えた。
レムは、アーチャーのその表情に首を傾げる。
「……レムに聞くよりも先に、貴方が先に答える必要があると思います。貴方は聖杯戦争にどうして参加したのですか。聖杯で叶えたい事があるのですか?」
この質問に、アーチャーの眉がピクリと動いた。次に薄く開くまぶた。視線は夜空に向けられて、レムの質問には違う形で返事を口にした。
「いや、質問を質問で返そう。君には、聖杯にかける願いはないのか?」
「……その質問はレムがメイド服の謎の英霊だから聞いているのですか。」
アーチャーは、別にそういうわけではない、とだけ呟いて続ける。
「聖杯戦争に参加する者は少なからず、願望を持って参戦している。何も見返りを求めないサーヴァントというのは、そういるものではない。例えば、全人類を幸福にしたいと謳うような、根っからの聖人君子は普通の聖杯戦争には召喚されない」
抑揚のないトーンで、しかし表情は悲しそうに語る。
悲しさを表に出している訳ではないが、声音がそういう風に聞こえてしまう。そのイメージにつられてか、それとも向こうが無意識にかは分からないが。
結果的に、アーチャーの表情を曇らせている。
「私も然り、果たさなければならない事はある。間違いなく聖杯にしか出来ない、奇跡という形でなければ成し遂げられない願いだ。
ここで語れる程のモノではないが。」
アーチャーの、多くはない聖杯への願い、その一端を聞いた。
それでも向こうは、全容は濁して言った。聖杯が欲しいと。ならば、レムも言う必要はないはずだ。なのに、
「……レムはただ、ある人に会うために聖杯を求めて此処に召喚されました。」
呟くように口から出た。
「ほう……?」
アーチャーは、興味深そうに呟く。
レムの願い、いや、過去に興味を抱いたかのような詮索の視線を向ける。レムはそれ以上は言いませんとアーチャーの視線を受け止める。
腕を組んで、門に背中を預けていたアーチャーは向かい合うように立ち位置を変える。
二人の距離は二メートル程度しか離れていない。両者、武器を取る事はない。
「レムのことはレムで構いません、アーチャー。」
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「俺は、聖杯戦争を戦い抜く」
覚悟を決める。俺は聖杯戦争を戦い抜く。
そう声に出すことで、自分の心に刻み込む。言峰神父は、そんな俺に向かって
「喜べ少年。君の願いはようやく叶う」
外に出ると、アーチャーとレムが待っていた。
俺たちは、二人のサーヴァントに合流すると、教会を後にした。
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直後、重い教会の扉が開く音が響く。
二人は向き合うのを止めて、それぞれのマスターの前に歩いて行く。
「シローくん、気持ちは纏まりましたか?」
「あぁ、レム。俺は聖杯戦争に参加する。改めて、俺はレムのマスターになるよ」
レムは微笑む。その決定を聞いて、アーチャーも微かに笑った。
「よろしくお願いします、シローくん。」
「あぁ。こちらこそ、よろしくレム。」
二人は握手を交わす。
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衛宮士郎が聖杯戦争への参加を口にした時、アーチャーは表情にこそ出さないようにしていたが。内に湧き上がる達成感と意欲は、フツフツと膨れていた。肌を焼いてしまいそうな程の執念が、全身の熱を高めていくようだ。
「レム。私の願いの一つは、既に実現されている」
どうして、ここまで暖かい抑揚なのだろう。