Fate/stay night Left   作:夜はねこ

5 / 20
レムと赤い弓兵

「はい、到着。いくわよ衛宮君」

 

 遠坂は教会に向かっていく。

 俺もそれについていくと、アーチャーとレムが教会の門の前で立ち止まった。俺が不思議そうに見ていると、遠坂が説明してくれた。

 

「ああ、今から会う奴は私の恩人的な存在なの。だから、人を殺せるほどの力を持つサーヴァントは連れて行かないわけ」

 

 なるほど。納得だ。俺は、前を行く遠坂について行く。

 そして教会の前まで来ると、遠坂は立ち止まった。

 

「一応、ここに用があるのはアンタだから、アンタが最初に入りなさい」

 

 それも一理あるな。そう思い、俺は教会の扉を押した。

 開けて中に入ると、奥に神父が立っていた。

 

「ようこそ。バーサーカーのマスター」

 

 神父はそういうと、俺に向かって微笑みかけた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 衛宮士郎と遠坂凛の背中が教会の中へ消えるのを見送り、レムは側の花壇を囲むレンガの横に立つ。アーチャーは、教会の入り口から真っ直ぐと伸びる、不気味で広い石造りの道に立っていた。

 いつ彼らが出てくるのかは分からない。凛はすぐに終わるからと言っていた。凛の会話から何も起こらないと確信しているので、敢えて後は追わない。

 剣呑な静寂が訪れた。

 

「……」

 

 アーチャーはレムの様子を横目で伺い、時たま溜息を小さく漏らす。腕を組み、すぐ後ろにある門の柱に背を預ける。

 レムは異常と判断し次第飛び込む準備は出来ていた。

 学者かと言いたくなるくらいに活弁なアーチャーだが、他のサーヴァントと語る事はない。と思っていた。そのつもりなのだが。

ふと、口元が動いた。

 

「君は…」

「……?」

「バーサーカー、無礼を承知で問うが。君も英雄として召喚されたんだ。聖杯には、一体何を望む?」

 

 アーチャーは静かに、レムへと姿勢を向けて問いかける。

 レムは話しかけられると思っていなかったらしく、意外そうに目を見開いてアーチャーを見た。

 無駄口を叩くような性格とは思えない。士郎達が教会から出てくるまで、終始口を閉じ、非常事態に備えている。それがアーチャーへの印象。

 アーチャーは、レムから向けられた視線に弁解するように苦笑いをする。驚くことに、その笑いには一欠片も警戒の意思が見られなかったのは…いや、気のせいだろうか…

 

「いやなに、しばらくはあの小僧の説得にでも時間を費やすだろうと思ってね。聖杯戦争に参加した者同士で、言葉を交えたかったんだ」

 

「貴方はどっちかと言うと、敵とは何も話さない方だと思いました。」

「そうか?それでは味気ないだろう、私は口数は多い方だぞ」

 

 ニッと控えめに笑うアーチャー。目は閉じているが、やや崩れた表情は楽しそうで、レムとの会話をまるで待ち望んでいたかのようにさえ見えた。

  レムは、アーチャーのその表情に首を傾げる。

 

「……レムに聞くよりも先に、貴方が先に答える必要があると思います。貴方は聖杯戦争にどうして参加したのですか。聖杯で叶えたい事があるのですか?」

 

 この質問に、アーチャーの眉がピクリと動いた。次に薄く開くまぶた。視線は夜空に向けられて、レムの質問には違う形で返事を口にした。

 

「いや、質問を質問で返そう。君には、聖杯にかける願いはないのか?」

「……その質問はレムがメイド服の謎の英霊だから聞いているのですか。」

 

 アーチャーは、別にそういうわけではない、とだけ呟いて続ける。

 

「聖杯戦争に参加する者は少なからず、願望を持って参戦している。何も見返りを求めないサーヴァントというのは、そういるものではない。例えば、全人類を幸福にしたいと謳うような、根っからの聖人君子は普通の聖杯戦争には召喚されない」

 

 抑揚のないトーンで、しかし表情は悲しそうに語る。

 悲しさを表に出している訳ではないが、声音がそういう風に聞こえてしまう。そのイメージにつられてか、それとも向こうが無意識にかは分からないが。

 結果的に、アーチャーの表情を曇らせている。

 

「私も然り、果たさなければならない事はある。間違いなく聖杯にしか出来ない、奇跡という形でなければ成し遂げられない願いだ。

ここで語れる程のモノではないが。」

 

 アーチャーの、多くはない聖杯への願い、その一端を聞いた。

 それでも向こうは、全容は濁して言った。聖杯が欲しいと。ならば、レムも言う必要はないはずだ。なのに、

 

「……レムはただ、ある人に会うために聖杯を求めて此処に召喚されました。」

 

 呟くように口から出た。

 

「ほう……?」

 

 アーチャーは、興味深そうに呟く。

 レムの願い、いや、過去に興味を抱いたかのような詮索の視線を向ける。レムはそれ以上は言いませんとアーチャーの視線を受け止める。

 

 腕を組んで、門に背中を預けていたアーチャーは向かい合うように立ち位置を変える。

 二人の距離は二メートル程度しか離れていない。両者、武器を取る事はない。

 

「レムのことはレムで構いません、アーチャー。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「俺は、聖杯戦争を戦い抜く」

 

 覚悟を決める。俺は聖杯戦争を戦い抜く。

 そう声に出すことで、自分の心に刻み込む。言峰神父は、そんな俺に向かって

 

「喜べ少年。君の願いはようやく叶う」

 

 外に出ると、アーチャーとレムが待っていた。

 俺たちは、二人のサーヴァントに合流すると、教会を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 直後、重い教会の扉が開く音が響く。

二人は向き合うのを止めて、それぞれのマスターの前に歩いて行く。

 

「シローくん、気持ちは纏まりましたか?」

 

「あぁ、レム。俺は聖杯戦争に参加する。改めて、俺はレムのマスターになるよ」

 

 レムは微笑む。その決定を聞いて、アーチャーも微かに笑った。

 

「よろしくお願いします、シローくん。」

「あぁ。こちらこそ、よろしくレム。」

 

 二人は握手を交わす。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 衛宮士郎が聖杯戦争への参加を口にした時、アーチャーは表情にこそ出さないようにしていたが。内に湧き上がる達成感と意欲は、フツフツと膨れていた。肌を焼いてしまいそうな程の執念が、全身の熱を高めていくようだ。

 

「レム。私の願いの一つは、既に実現されている」

 

 どうして、ここまで暖かい抑揚なのだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。