その言葉が終わるや否や、何か、大きな物体を吹き飛ばしたかのような。重い音が遠ざかる衝撃。一瞬で何かが消えていた。
俺は音もなく消えていたソレに気付いた時、「……へ」と言葉を捻り出すしかできなかった。何故なら、
眼前で、セイバーの頭部のみがなくなっていたからである。
「うそ……」
そう呟いたのは誰だったか。
至近での撲殺に血飛沫がばらまかれ、真正面にいたレムは頭からその鮮血を浴びていた。直後、頭部を失った体がしかし勢いだけはそのままに、後ろに吹っ飛ばされて転がっていた。
いったいなにが――と、
「これでよろしいですか?」
黄色のレインコートを脱ぎ、スカートの裾を優雅にひるがえし、白いエプロンドレスを片手で軽く摘まみ、それと反対の手に凶悪な鉄球を携えて、水色の髪の少女が士郎の前に降り立つ。
次に視線は、坂の後ろの林へと向いた。痛々しく薙ぎ倒されている木々。その意味を理解した瞬間。
俺の全身から、完全に痺れがなくなった。
レムは身を回し、ゆるやかなステップを踏み、鎖の音を響かせながら微笑んでいた。不思議だった。俺だけではない。遠坂の僅かな不安すら、レムは取り除いていた。こちらに向けた微笑みは、殺伐とした雰囲気の中和剤として働いた。
遠坂は、口を開けて言葉を失っている。
「セイバー‼︎」
セイバーの吹き飛んだ方向へ振り返るイリヤ。
荒げた声には、凄まじい憎しみの感情が込められているように聞こえた。あれは一体、どういう意味なのだろう。
イリヤの呼ぶ声に反応し、セイバーが起き上がる。
「どうして…」
「しぶといですね。」
頭が吹き飛ばされたはずだ。それでもなお、立ち上がっていた。
モーニングスターの鎖で甲高い音を連鎖させるレムは、その反応を横目に、ゆっくりと己の正面――セイバーに舌舐めずりしてこちらをうかがうイリヤを見やる。
あれほど好戦的だったイリヤが、小柄な少女が己のサーヴァントの頭を吹き飛ばして、慎重派へと鞍替えした。セイバーの頭が一瞬で屠られた事実を、決して軽んじて見てはいない。
「セイバーを1回殺すなんて…」
次の瞬間にはセイバーの顔は元に戻っていた。
「申し訳ありません、お嬢様。」
「いいわよ、セイバー。……認めるわ。さっきのは私と、セイバーの慢心が招いた結果よ。だけど、これきり。もう次はないと知りなさい。」
「……」
レムを敵として認め、必ず殺すと目で伝える少女。
「セイバー、そのクラスを存分に奮いなさい。…… 令呪を持って命じます。その女を殺しなさい」
セイバーが一度でも死に近づいているという、癪に触る事態を目の当たりにした以上、イリヤは令呪の使用を躊躇しなかった。
「勿論です、お嬢様。」
その一言で、戦いの合図となった。
今頃、騎士の姿が林の向こうにある。
何の戸惑いもなくレムはセイバーの元へと走り、公園の中を駆け抜けて林へと消えていった。
「レムッ‼︎」
レムの背中を追って走ってきたけど、見つけたと思えば林の暗闇へと消えてしまった。
俺は後を追いかけた。