【完結】ドクター「オペレーターと仲良くなりたいけどどうすれば良い!?ミッドナイト!」 作:塊ロック
久しぶりのミッドナイトパーフェクトホスト教室です。
「なぁミッドナイト」
「なんですドクター」
「いやさ、前に言ってた『欲しがる物を察する』ってあったじゃん」
「ああ、よく覚えてましたね」
「エンカクって、何が欲しいんだろうか……」
「あの人の事ですし、強者との命がけの戦いとかその辺なんじゃないですかね」
あれから数日後。
今日も俺はロドスで仕事を片付けつつミッドナイトと雑談していた。
「まぁそうなるとは予測してた」
「ですよねぇ……」
「さて、どうしたものか……」
「じゃあドクター。役に立つか分かりませんが一つご教授しましょう」
「お、なんか久しぶりだな」
メモを取り出す。
ミッドナイトが話を続ける。
「何より大事にしなくてはならないこと、それは何だと思います?ドクター」
そのまま話すのもどうかと思い、珈琲とお茶請けを用意した。
「何よりも大事な事、か……」
前に話してくれた時は変化についての話だったが。
「相手の機嫌?」
「残念」
「あれ、違うのか?」
相手の機嫌と言うのはコミュニケーションにおいて何より優先されるべきだと思うが。
相手がこちらを意に介さない場合そもそも話にならないからだ。
「確かにそれも大切ですが、欠いてはいけないものがやっぱりあるんですよ」
「それは?」
「自分の機嫌、です」
「……自分の?」
「ドクターは今まで、俺やシルバーアッシュが講義したテクニカルな事を実践してきました。でも、それよりも大事な事なんですよ」
「それよりも、なのか……」
「ええ。他人を喜ばせようとして、『あの人は大丈夫かな、怒ってないか。嫌われてないだろうか』と気にしすぎるのも良くは無いんですよ」
ちょっと心当たりがあったので冷や汗が垂れる。
思った以上に、ミッドナイトは手練れだ。
「ヒトは『思う通りの感情』になりたいから生きてるんですよ」
「思い通りの感情……」
「例えば、一流のホテルに行って綺麗だな、とか優雅だなとかリラックス出来るなぁ、とか。そういった感情で自分を満足させたくて生きてます」
「ミッドナイトもそういう事思ったりするんだ」
「まぁ、昔の話ですがね」
閑話休題。
「どんな行動でも、自らの感情を満足させたいからやってるんですよ。そういった感情をいつも満たしてくれる人がいたとしたら……その人は重宝されます。まぁ、それを商売でずっとやっていくのはしんどいんですよ」
「ふむ……」
「自分の機嫌を取るためのファーストステップは、好きなものを思い浮かべることです。人間はリアルに想像すると現実と想像の区別がつきにくくなるんですよ」
「なるほど……確かにそれは、よく聞く事例だ」
「好きな事を考えていると、幸せな気持ちになれるんです」
「ふむ……」
「今回の相手は……手ごわいですよ。相手の要求を見極めて、空気の主導権を取られず、雰囲気を作り出す。独特の雰囲気の彼に、飲み込まれないでくださいね」
「ああ……」
―――――――――――
数日後。
とある戦場にて。
「お疲れ様です、ドクター。周囲の安全は確保できました」
「ありがとう、アーミヤ。被害状況は?」
「軽微です」
「了解」
戦闘に参加していたオペレーター達の顔を見る。
特に目ぼしい損害は見られない。
……その中で、エンカクに目が留まった。
つまらなそうに、得物についた血を払っている。
現在地を確認して、声を掛けた。
「エンカク」
「あ?どうした?」
「街に行くぞ」
「え、今からか?」
「砥石、買いたかったんだろ」
「確かにそうだが……」
「行くぞ。アーミヤ、撤収は任せた」
「わかりました!」
チャンスは、今かな。
エンカクと話せる環境を作り出して、真意を探る。
「何のつもりだドクター」
「エンカク、お前は俺の護衛だ」
「……そういう事か。全く、回りくどい」
エンカクがにやりと笑う。
「行動は縛らせてもらう。これが最低ラインだ」
「分かってる。昔から強情なのは変わらないな」
「……昔、か」
「気になるか?」
「記録を残しているとは言え、多少な」
「あの時のお前は……戦闘マシーン、そう言うに相応しかった」
「………………」
何となく、察してはいた。
俺が、無慈悲な殺伐を行うものとして。
龍門のスラムにたどり着いた。
目当ての店まで、取り合えず。
未だ、ロドスは市街地への立ち入りは制限されてしまっている。
「これで買えたぜドクター。わざわざ手間かけたな」
「オペレーターのケアも俺の仕事だ」
「ケア、ね……」
「含みがあるな」
「要らん苦労をよくもまぁ背負うもんだ」
「お前は苦労と感じるが……俺には掛け替えのない大事なピースだ」
「日和ったことを」
「何とでも言え」
「言わせてもらうが、お前は……」
「きゃああああああああああああ!!??!?」
悲鳴。
俺とエンカクが振り返る。
そこには、見慣れたレユニオンのマスクを付けた男が一人、通りがかりだろう女性に刃物を向けていた。
「エンカク……!」
「チっ……!」
エンカクが走り出す。
ものの数秒で、彼はあの暴徒を鎮圧するだろう。
言い聞かせてあるので、殺しはしないはずだ。
「貴様ッ!ロドスの……!」
「えっ……」
「拙い、ジョージ!!」
エンカクが叫ぶ。
……二人、居たのだ。
もう一人が俺の背後から急襲してきている。
エンカクは間に合わない。
やつの手には、ナイフ。
このままでは、確実に俺の胸を貫くだろう。
だが、俺は驚くほど冷静に……懐から銃を抜き放っていた。
「え」
これは、だれがあげた声だろうか。
ただ、その声は俺以外の耳に入る事は無かった。
……一発の銃声が、それをかき消してしまったから。
「………………」
俺は、首から上が綺麗に吹き飛んだ「ヒトだったもの」を見下ろす。
「……ククク」
笑い声。
こんな状況で笑う奴なんて一人しかいない。
「何がおかしい、エンカク」
「これが、笑わずにいられるか……!おいおいジョージ、なんだその銃は!アーツの気配が一切しない!ただ火薬で鉛弾をぶち込んだだけか?」
「……」
「ははは、おいおいおいおいおい!答えろジョージ!」
「うるさい」
「ああ、ああ!素晴らしい!なんだなんだこれは!良いじゃねぇか!まるで殺意の安売りだ!俺たちが必死に腕を磨きしがみ付いた物に一瞬で手を出しやがって!」
「黙れ!さっさと引き渡すぞ!」
耳障りだ。
そして何より、なぜこうも思考はクリアなんだ。
俺はたった今、俺の手でこいつを殺めた。
でも初めての感覚じゃない。
酷く気持ちが悪いが、とても慣れ親しんだ感覚だった。
「ククク……いいぜ、俺は嬉しいんだジョージ」
「……気味が悪いな」
「お前はちっとも変ってなかったんだからな。こんなに嬉しい事は無い」
「……俺は、最悪だね」
「逃げるのか?本来の自分から?」
「いいや、どうしようもないくらいこれは自分だって認識できてるから気持ち悪いんだよ」
ジョージと言う人間がとった行動として何一つ間違っていないと認識してしまった。
……逃げるなんて出来ない。
「それでも、綺麗ごとを抜かせるのか見ものだな」
「……やってやるさ。綺麗ごとだからこそ、実現したものなんだから」
――――――――――数日後。
「邪魔するぜ」
「邪魔するなら帰れ」
執務室で作業中の時。
また何の前触れも無くエンカクが現れた。
「連れないねェジョージ」
「名前で呼ぶな。何の用だ」
「ホラよ」
「あ?」
エンカクから、何か紙切れを渡された。
……長方形の青い紙に、白い花が一輪……押し花されていた。
「これは?」
「名前は知らん。書類仕事なら栞の一つでも要るだろう」
「お、おう……貰っとくわ」
「じゃあな」
「…………?」
そう言って出て行った。
……何の用だったのだろうか。
そして、この日からエンカクは、俺の指揮に何も文句を言わずに従い、終始楽しそうに刃を振るうようになった。
「ジョージ、いやドクター。俺はアンタの武器だ。好きなように使ってくれよ?」
エンカク編、完。
これもある種の信頼の形何だろうか。
今回は成功とも失敗とも言えない微妙な終わり方。
成功してばかりもつまらないしね。
でも次回から野郎のお茶会に参加します。
次回
「わたし、役に立った、よね……?わたし、帰るとこ、ないから……ここ、ロドスがお家……これからも、この場所を、守らせて……!」