夜鶴の夢、雷光の如し   作:しゃくなげ

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第4話

 寂しげな女の啜り泣きが聞こえて、断ち切られていた鵠佑の意識が覚醒する。薄暗がりの中で最初に見たものは、ひび割れた木製の天井だった。ゆっくりと身体を起こすと、関節をひとつひとつ動かして身体の無事を確かめる。所々が軋むように痛んだものの、骨が折れているような、活動に支障の出る怪我はなさそうだと判断して、鵠佑はひとり胸を撫で下ろした。

 音を立てないように注意しながら、身体を起こすと周囲を見回す。寝かされていたのは、埃と腐った木材の臭いが漂う板間だ。破れた板戸の向こうから、泣き声は密やかに流れるばかり。声の主は、間違いなく頼光だろう。塗り潰された闇のように、心をまるで読み取れない瞳を思い出して、鵠佑の背筋を冷たいものがぬるりと撫ぜた。

 声にならない声が言葉を紡ぎ始めたのは、そんな折だ。寂しげに、切なげに、哀しげに。悲愴感すら漂わせるその声は、金時と、涙ながらに呼び始める。

「金時、金時……どうして、母の元へ帰って来ないのですか……母は、ずっと貴方を待っているのですよ……嗚呼、金時……もしや、怪我でもしたのでしょうか……私を、母を、助けを待っているのですか……金時、どうして答えてくれないの……金時……」

 訥々とこぼれ落ちる頼光の声は、胸が締め付けられるような窮愁に満ちていながら、同時に全てを包み込むような甘さを孕んでいる。狂化の内容を知らない鵠佑には、その言葉は、彼女に残された唯一の理性にも見えてしまう。嘆き悲しむその声を、可哀想だと、感じてしまう。どうにかしてあげられないのだろうかと、敵対しているのに、甘い考えに至ってしまう。

 きしりと、床が軋んだ。注意力が散漫になって、身動ぎをしたせいだ。蚊の鳴くような小さな音でも、板戸を隔てた頼光の耳は聞き漏らさなかった。ぴたりと啜り泣きが止まり、衣擦れの音が聞こえる。立ち上がったのだろうと察せはするものの、身体は、刻み込まれた恐怖で動かなかった。

 きし、きし、ぎし、きし。小さく、小さく、床が軋んだ。一歩、また一歩、少しずつ足音は近付いて来る。心臓がどくどくと、警鐘のように鼓動を刻む。頬を伝い落ちる汗を拭う事すらできなかった。

 板戸の穴から覗くのは、美貌。首を傾げるようにしながら、何も映さない双眸と視線が交わったのを感じた。息が止まり、思考も止まる。引き戸にかけられた白い指が、ゆっくりと、互いの隔たりを退けていく。

「ごめんなさい、金時は、まだ帰っていないのです。せっかく、貴方を弟分として仲良くできると思ったのに。でも、ええ、今はそれより夕餉にしましょう。こんなに痩せてしまっているんですもの、お腹も空いているでしょう? 直ぐに準備をしますから、良い子で待っていてくださいね」

 がたがたと音を立てて、開かれる板戸。向こう側には、何もない真暗な空間があるだけ。鵠佑の脳は、視覚の情報を拒絶して、理解する事を放棄する。漂う腐臭も、打ち捨てられた物体も、何もかもから意識を閉ざした。

 眼前の存在は、恐ろしいものである。如何に哀れに見えたとしても、決して、気を許してはいけない。そう戒められたようで、叫び声を堪えられた。歩み寄る鬼を刺激しないように、緩く、肺の中身を吐き出していく。

「あの……金時は、坂田金時さんの事ですか……?」

 鵠佑の問いに、満面の笑みで頼光は頷く。自慢の息子だと告げる言葉は、真実なのか虚構なのか。それを判断する術は、存在しない。ただ、少なくとも、先ほどの泣き声と彼女の反応で、頼光にとって金時が特別な存在である事は理解ができた。

「もう直ぐ夕餉の時間だと言うのに、困った子です。母は、いつだって金時のためを思っていますし、どんな時でも帰りを待っているのですよ。それなのに、金時ときたら、もう百七十三日、百七十三日も帰っていないのですよ?」

「それ、は……遅いです、ね。連絡もないと、心配、ですよね」

「ええ、ええ、とても心配です。虫が湧いてしまうから、見かけ次第、丁寧に潰しているのですけれど……便りのひとつも寄越さずに、何をしているのやら。良いですね、貴方はそんな事をしてはいけませんよ。母を、悲しませないように。わかりましたね?」

 念を押され、鵠佑は何度か頷いて恭順の意を示す。否定はせず、可能な限り、肯定的に。

 綱渡りのような会話は、生きた心地がしない。そんな中でも、断片的に拾える情報を集め、脱出の糸口を探す。そうしなければ生き残れないと、周囲の光景が教えていた。

 従順な子供の反応を見て頼光は満足したように頷くと、ゆるりと立ち上がって踵を返す。隣の部屋に向かう姿を、鵠佑はただただ、見送るしかできない。破れた板戸は閉ざされる事なく、逃げ出すには頼光の監視を掻い潜る必要ができてしまった。

「百七十、三日……」

 ぽつりと漏らした声は、家屋の軋む音に消されそうな、小さなもの。

 何かが起こって、こうなってしまった。

 最初はそう考えていた鵠佑も、徐々にその思考を改め始める。帰らないと言う、坂田金時。頼光が口にした、半年近い日数。その経過、死が溢れる島の様相を組み合わせると、少年の脳裏にひとつの可能性へ到達する。

 何も起こらなかったから、こうなってしまったのではないか。

 小さ過ぎて見落とされた末に、特異点と化したこの島は、本来ならばもっと早くに何かが起きているはずだったのではないか。その何かが起こらぬままに、月日が流れに流れた結果、島の生命は死に絶えて、狂った鬼が泣いている。ここはそういう場所なのではないかと、少年はひとり考える。

 そう言う意味では、彼女は、頼光は被害者なのかもしれない。もっと早くに特異点を発見し、解消のためにカルデアが動けていたのなら。罪悪感がじくじくと胸の奥を苛む痛みに、鵠佑は天井を仰いだ。唇だけで、ごめんなさいと小さく紡ぎ、それから思考を切り替える。

 ひと時の憐憫で、歩みを止めてはならない。踏み越えてきた過去に、支えてくれた人たちに、背中を向ける事になる。それがわかっているから、哀れに見える鬼とも戦う、心の強さを持つ必要があった。

 手首のディスプレイに表示されるのは、バイタル情報。ロマニのチェックを受けなくとも、ひとまず重篤な状況でない事が確認できて、鵠佑は安心した。Chargingの表記は、ガンドの使用不可を表すものだろうと察せられる。

 手持ちの物資は、治療用のスクロールとアドレナリン注射が二回分ずつ、携帯食料に最低限のサバイバルキット。これで何ができるだろうと考えながら指先で黒髪をかき混ぜる仕草は、最近ではすっかり、鵠佑の癖になっていた。

「家屋は木造、障害物が多くて視界が悪い。建物の間取りもわからないから、出口の方向が読めないのは危険。頼光との交渉は、不可能」

 小さな声で、現状を把握するように、ひとつひとつ。かすかな物音を立てるだけでも、板戸の穴から頼光の瞳が向けられて、監視されている事を痛感させる。その代わり、鵠佑が大きな動きを見せない限りは、頼光の反応はただ何をしているのかと声をかけるのみだった。

 咎められない程度に周囲を見回し、互いの位置関係を方角だけでも確認する。ひとつでも多くの情報を集めるのが、今の自分にできる戦いなのだと、鵠佑は理解している。魔術礼装の通信補助機能に希望を託して、己がサーヴァントに状況報告を呟きながら、今はただ、その時を待ち続けるのみだ。

「ぼくから見て北西に、頼光がいる。窓のようなものは見えないから、奥座敷なのかも。……今、頼光が、動いた」

 板戸を開け放ち、ぶつぶつと何事かを呟きながら頼光が姿を表す。手にした刀は抜身のまま、血泥で汚れた刀身は尚も冷たい輝きを宿していた。

「表に虫が湧いていますから、今から潰して参ります。貴方は、ここで待っていてくださいね。直ぐに戻ります、それから夕餉と致しましょう」

 首だけをゆっくりと傾けて、鵠佑の方を見ながら囁くと頼光はひとり微笑んだ。言葉の半分は悍ましさを感じさせる内容なのに、残りの半分は驚くほどに優しくて、何故だか無性に泣きたくなった。

 それきり頼光は振り返りもせずに、暗い廊下の向こうへと消えて行く。床の軋む音に混じって、何処か遠くから武蔵の声が聞こえた気がした。

 

 

 

「屋外からでも声が聞こえるなんて、本当、カルデアの装備というのは便利なものね」

 ざくりと泥を踏み締めながら、武蔵は傍のマシュを流し見る。その視線に応じるようにマシュが頷くと、ふたりの間に、決戦を前にした時の張り詰めた空気が漂い始めた。

「はい。先輩から見て、頼光は北西にいるとの事です。恐らくこちら側からなら、彼女も気付くと……」

 待ってくださいと、マシュの声。双眸が見開かれ、刹那、盾を掲げると少女は鋭い一歩を踏み出した。泥濘を弾き飛ばしながら、壁のような大盾が地に打ち付けられて障壁と化す。

「──来ます!」

 マシュの声を掻き消したのは、轟音、そして破砕音。最初の音は壁が吹き飛んだそれで、続いた音は榴弾めいた飛翔片が盾に打ち付けられたものだ。

 持ち手に伝わる衝撃は、恐怖感こそあれど激しいものではない。だが、だからこそマシュは恐怖した。視界を遮る盾の陰から、回り込むように駆け出した頼光の姿を、確かに見つけてしまったからだ。

「そんな、今のは……!」

 自分を、この場に縫い止めるためだった。マシュの判断よりも先に、武蔵が地を蹴り頼光へと迫る。黒髪をたなびかせ、頼光もまた白刃を背負うように肩上で構え直した。

 踏み込み、加速を強引に押さえ込む事で加速の慣性を剣へと乗せる。袈裟懸けに振り下ろされた一閃は獲物を喰らう銀の大顎門のように、雨粒を斬り裂きながら武蔵へ迫る。

「ふふっ、あははははは!」

 響き渡る、頼光の哄笑。躊躇なく真横に跳ぶと、武蔵は泥の上を転がって胴を両断する斬撃から身を躱す。片腕で地を殴り付け、その反動を利用して跳ね起きると、迫る頼光に目掛けてひと呼吸の内に左の逆手で小刀を抜き放った。

 膝立ちからの、居合抜刀。頼光の胴を捉えるも、脇差が故に浅い。肋骨によって阻まれたと知ると、即座に後転して距離を取る。横薙ぎの軌跡が武蔵の頭上を通り抜け、髪を散らして空を断った。大刀へとかける手が、鯉口を切る。息をひとつ吐き出して、武蔵は呼吸を整えた。

「速く、重く、鋭く、伸びる。およそ人の力とは思えないのに、振るわれるのは磨き抜かれた人の技。本当に恐ろしいわ、剣に精通した鬼だなんて。……今のは、正直に言って首を取られたかと思いました」

 ずるりと、大刀を引き抜きながら武蔵が嘯く。抜刀の隙を覆い隠すように、マシュが今一度、両者の間へと割って入った。頼光の双眸は相変わらず、何処を見ているのかも曖昧。呆れ混じりのため息が一度、小さく漏れた。

「この剣は、一対一のものじゃないわね。大軍だとか妖怪だとか、そうしたものを薙ぎ払うためのものでしょう。マシュさん、気を付けて。大振りだけれど、驚くほどに速いわ」

 マシュが応え、盾の持ち手を握り直す。受け止めるために足を止めれば、そこから裏へと回られる。あの重たい一撃一撃を、動き回り立ち回りながら受け止め続けなければならない。突き付けられた課題の重たさに、腹の底から叫ぶような力強い返答で、少女は自分自身の心を鼓舞した。

 それを嘲笑うかのように、頼光の剣が唸る。溢れ出す魔力が黒雷を迸らせて、抉るように放たれるひと突き。咄嗟に構えた盾ごと吹き飛ばされるように、マシュの両足はがりがりと、地面に二本の線を引いた。

「こ、の……っ!」

 弾かれながらも右脚を持ち上げて、鉄杭を撃ち込むように地を蹴り、マシュは耐えた。化生の如き怪力を受け止める身体の関節が次々に悲鳴を上げるも、前へ。自分の陰から踊り出した武蔵が、一の太刀を浴びせんと頼光に喰らい付く。それを見ながら、少女は加勢をするために、痛みを堪えて前に出た。

 だが、鬼の動きはそれよりもずっと早い。平突きを放ったままの姿勢で、頼光の太腿がみしりと軋む音を立てた。ぬかるんだ足場をものともせずに、地面を抉り飛ばしながら踵を返して捻りを作る。蹴り足を力強く踏み抜く事で、生じた力を背に乗せて、肩から手首、刀の柄へと走らせる。視線は既に武蔵を捉え、口元には牙を剥くような笑み。獣のようなその声は、誰の口から溢れたものか。

 武蔵は、前に出る事を選んだ。退がるには、もう遅い。左逆手の小刀を折られる覚悟で、大刀の柄頭を当てがいながら、鎬を用いて受け止める。前へ前へと進むのは、剣の根本で受け止めなければ、鋒どころか半ばほどでも、身体も共に断ち切られると理解しているからこそだった。

 鋼と鋼がぶつかり擦れる、耳障りな金属音。火花が舞い散り痛みが駆け抜け、そして身体は生きている。最後の一歩を踏み抜いた、から。頼光の斬撃が片手一本だった、から。この手に持ったふた振りが、無銘なれど極上の大業物だった、から。理由などは、幾らでも後付けできる。

 重要なのは、生きている、ただそれだけだ。初めて頼光の表情が歪み、眼前に迫る敵を認識する。同等の殺傷力を持つ、己を殺し得る存在を。それを見据える武蔵もまた、雄叫びと共に右の拳を力任せに打ち付けた。

 距離が、近過ぎたのだ。そういう意味では、この状況は痛み分けに等しい。顔を殴り飛ばしてやっても、頼光に怯む様子はない。左の脇差を放つには、先の一撃で受けた痺れが抜け切っていない。武蔵は舌打ちをひとつ挟みながら、頼光の胴へと大刀を押し付けた。このまま鎖骨から胸骨を斬り裂いて、力任せに心の臓を両断せしめる。その一撃で、決着を付けるのだ。

 思い描いた勝ち筋を、頼光の指が絡め取る。躊躇も見せずに刃を握り、鬼に相応しい握力を持って岩石のように締め付けた。ぴくりとも動かない刃は、左掌の肉を裂くばかり。赤い滴が刀身を伝うも、それ以上の傷を負わせる事が叶わない。

「なんて、膂力……!」

「失せなさい、蚊蜻蛉がぶんぶんと!」

 敵と認めた存在を、頼光のどす黒い殺意が真正面から射抜く。

 武蔵は、確かに死を覚悟した。この鬼ならば、素手で臓腑を引き抜くなど容易い。その気になれば人体なぞ、ぼろ雑巾のように引き裂けるだろう。

 己が死に思考を巡らせるのは、一瞬。今はそれよりも、この窮地を如何に切り抜けるかを考えろ。秒にも満たない時間の中で、武蔵の身体に染み付いた技は、次の一手を探り出す。生き延びるために、勝つために、負けないために、死なないために。

 逆手のままで、小刀を喉元へ。跳ね上げれば、突き出た乳房も真白い喉も斬り裂ける。頼光はさせじと鍔迫り合いに持ち込んで、武蔵の狙いを即座に封じてみせた。がちぎちと鋼が軋む音を立て、そのまま押し込まれれば、今度は武蔵の身体に刃が埋まる。震えそうになる左腕に渾身の力を込めて、互いの思惑を押し付けあった。

 これが一対一の仕合であれば、きっと武蔵は敗れただろう。膂力の差を覆す術はなく、刀の大小を覆す技もない。ほんの数秒、彼女は生命を繋いだに過ぎない。

 だが、今この状況においては、それで良かった。

 仕留められたのであれば、それはそれで上々。仕留め切れなかったとしても、生きていればそれで良し。武蔵の算段は最初から、その一点に終始していた。

 見開かれた頼光の双眸は、最早、武蔵もマシュも見てはいない。枯れ枝でも放るように武蔵を乱暴に放り投げ、鬼は大地を踏み締めた。

 地に打ち付けられる寸前の女剣士を、駆け寄ったマシュが抱き留める。刀を納める時間すら惜しいと、武蔵はすぐさま走り出す。

「殿は任せてください、武蔵さん! 先輩の事を、お願いします!」

 マシュの叫びは、轟く雷鳴にも負けない。その言葉の意味を、頼光が解したかどうかは誰にもわからなかった。

 だらりと諸手を下げた自然体で、暗い瞳がぎょろりと揺れた。こうと漏れる息は、真冬のように白い。柄を握る右の手が、腕が、肩が、膂宍が軋んだ鈍い音を立てる。開かれた口の合間に、唾液の糸が数本伸びた。

「██████████ッ!」

 最早それは言葉に在らず、獣の、鬼の咆哮だった。大気が震え空を割り、木々をざわめかせるほどの。野生の動物がいたならば、一斉に逃げ出していただろう。

「さあ行きますよマスター、振り返らずに! あんなのに捕まったら、三枚下ろし、もしくは膾に斬られてここで脱落。それこそコンティニューもできずにゲームオーバーまっしぐら、です!」

 玉藻の叫び声は、場違いな程に明るく、それでいて焦りが隠し切れないもの。大きな狐尾を揺らめかせ、彼女は救助した鵠佑を連れてあばら屋の裏口から脱出する。武蔵が、マシュが、その跡を追うように続いた。

 時間稼ぎであったと思考するだけの正気は、頼光には残っていない。あるのはただ、至極単純な、本能めいた意識だけ。だが、頼光に残されているその残骸めいた意識は、果たして正気なのか狂気なのか。

 我が子を、盗られた。

 人であれど獣であれど、母親であれば、激昂は道理だ。怨敵を縊り殺すまで、否、縊り殺したとしても怒りは晴れない。半ば正気を失っていた頼光にとってもまた、発狂に等しい怒りを生み出す引金となってしまった。

 狂戦士としての霊基に刻み込まれたその母性は、今この時、カルデアの面々を窮地へと追い込む殺意へと切り替わった。子を拐かした三匹の虫を、ひとつ残さず擂り潰す。それからあの子を取り返し、母子で共に夕餉にしよう。

 くすくすと漏れる笑い声は、童女のように空虚に響く。踏み出す歩みは緩やかながら、頼光は物言わず、執念にも似た足取りで鵠佑を追いかけていく。その思考の内を理解できる者など、最早、何処にもいないだろう。

 厚い雨雲の下、姿の見えない陽が落ちて、夜の闇が訪れていく。終わりの時がひたひたと、背後へ這い寄るかのように。

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