「私」から「君」への手紙。

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手紙

 君へ。

 ありがとうね。

 たったの数か月しか一緒にいられなかったけど、私にとってはかけがえのない時間だった。

 私は君を未来永劫(えいごう)忘れないと思う。

 本当にありがとう。

 私と関わってくれる人なんて君くらいしかいなかったからさ。

 学校も休みがちな私の家に毎日来て、学校で起きた面白い話をたくさんしてくれたよね。

 初めて顔を見た時から、気づいていたよ。

 ああ、この子は私のことが好きになっちゃったんだな、って。

 ごめんね、って。

 私が普通の人なら良かったのにね。

 いっぱい会って、ちょっとずつ仲良くなって、遊びに行って、手を(つな)いで、もしかしたら将来一緒になれた、かも。

 恐る恐る玄関から顔をのぞかせて、私が「どうぞ」って言うと、満面の笑顔で、耳まで赤くして私のそばまで走ってくる君を見るたび、胸が痛んだ。

 君は悪くないよ。

 私が普通じゃないんだよ。

 君にはお父さんやお母さんや親戚のおじさんに、従妹までいる。すごく(にぎ)やかで楽しそうだなって思った。

 私は違うんだ。私には父も母も、育ててくれた人もいない。

 私は、君が到底想像もつかない、遠い遠いところから来たんだよ。

 私は人ではないよ。

 広い家はあるけど、住んでいる人は私しかいない。

 君がどれだけ心配してくれても、綺麗(きれい)なお母さんは帰ってこないよ。

 一人で、ずっと本を読んでいた。

 そんなことも全く知らないはずなのに、君は最初から、ぎこちない私と打ち解けた会話をしてくれたね。

 おかげで私もほんの少しずつだけど、君に心を開いていくことができた。

 楽しかったよ。

 でもね。

 だんだん、怖くなってきちゃって。

 何もかもぶちまけて、君を遠ざけようとした。

 なのに。

 私が秘密を打ち明けた時も、君は目をそらさずに最後までちゃんと聞いてくれたよね。

「私は君とは違う」そんなことを繰り返し繰り返し言ったっけ。

 君は帰る時間になってもまだうんうん(うな)っていたけれど、私は君が分かる努力をしようとしてくれたことが何よりも嬉しかったよ。

 いつまで君と一緒にいられるんだろう。

 その時、私たちは同じことを考えていたのかな。

 

 

 彼女ができたんだってね。

 うちの前を二人で腕を組んで歩いていくのが窓から見えたよ。

 おめでとう。

 幸せになって。

 これで私は元通り、一人。

 何だろう、この気持ち。

 冬だからかな。

 寒いよ。

 仕方がないんだと思う。

 君は悪くない。

 人の気持ちは移り変わるものだもの。みんな一緒に変わっていくんだ。怖くなんてない。

 でもね。

 私は変わらないんだよ。

 私は人ではないんだ。

 怒りも、泣きも、できないよ。

 本当、私も普通の人なら良かったのにね。

 この浮気者! って一喝して、たくさん泣いて、すっぱりと忘れられたなら、どんなに楽だったかな。

 毎日から、二日に一回、三日に一回、週に一回と、来る回数が減っていったね。

 愛想笑いは増えていったね。

 いつの日からか、君は家に来なくなった。

 君は私の思い出になってしまったみたいだ。

 窓の外が見れないよ。

 やっと、自分の気持ちを知った。今更、知ってしまったんだ。

 好きだよ。

 君はこの手紙を読まないだろうね。

 出してもいないのに、読めるわけがないんだ。

 何かの拍子に、私の気持ちが君に届いたりしないかな、なんて思ってしまうよ。

 でもきっと、君には響かない。

 何も、無かったことにしよう。

 今まで本当にありがとう。

 お幸せに。

 

 P.S.今となっては迷惑でしかないかもしれないけど、それでもやっぱり私は、君が好きだよ。

 

 愛をこめて 杏奈

 




 夕食食ってたら見えてきた物語。

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