ロドス・アイランド。一企業でありながら移動都市に匹敵する巨大な移動施設を持ち、感染者関連の研究では世界トップクラスの成果を出している製薬会社としては最大規模の会社である。
才能のある者であれば感染者、非感染者問わず雇い入れるという方針によって多くの才ある感染者をその内に納めており、結果製薬会社でありながら一国の軍隊にも匹敵する戦力を擁する。また、世界各地で一斉に蜂起したレユニオンなるテロ組織と真っ正面から事を構え、その上で著しい戦果を挙げている。
というのが世間一般からみたロドスの評価だ。次にさっきそこで捕まえたオペレーターにロドスの評価を聞いてみよう。
「ロドスがどのような場所かですか。頭のネジが外れ、いえ、愉快なトップ陣と、それに振り回される可哀想なオペレーターの集まりって感じですかね。ところでさっきから気になってるんですけど、今回ドクターは何が原因でドローンに逆さ釣りにされてるんです?」
「ちょっとヤクをキメすぎてケルシーがぶちギレたから…かな!」
ここはロドス・アイランド。感染者を救う為日々戦い続ける正義の組織。世界中から集まった有能な
…誰がなんと言おうとそうなのである、表面上は。
◇◆◇
「ドクター、お仕置き中に反省は済んだか?」
「ケルシー先生、反省は済みました。済みましたから頭の血管が切れる前に下ろしてください」
"お仕置き"と称した拷問は、大体いつもケルシーのラボから始まりロドス内を一週するまで続く。
仮にも世界最高の頭脳の一つ
そのため最近はお仕置きからの脱出の方法がエステルやメランサを筆頭に押しに弱いオペレーターの前を通りかかり次第、死ぬほど苦しそうな振りをして同情させて助けてもらう方向にチェンジしつつある。
ちなみにパフューマーはあらあらうふふと微笑むばかりで未だ一度も助けてくれたことはない。
今回は不幸にもそのようなオペレーターの前を通る事がなく、目の前で絶対零度の瞳を此方に向ける悪鬼、ケルシーの御前に戻って来ることとなった。この人は人の食生活に口を出す前にお仕置きの仕方を改善するべきではなかろうか。
ビビり散らかしているので声にしていない決死の抵抗を他所に、1ミリも隠せていない呆れの表情のままケルシーは続ける。
「理性回復剤の配給が何故制限されているのか分かっているのか?」
「ヤク厨回避の為です、先生」
「君は今日何本使った?」
「上級5本、初級4本です、先生」
ケルシーにそう答えると同時、ドローンの作業用フックが開放される。暴れまわらないよう全身紐で巻かれた上で吊られているので頭から落下した。この身は重装オペレーターでも何でもないため、これだけでも非常に痛い。
グラニが遠方に遠征すると聞き、
しかしもう少しこう、動機とかの部分で情状酌量してはくれないのだろうか。可愛い女の子にカッコつけたのがそんなに気に入らないのか。
「可愛い女の子にカッコつけたのがそんなに気に入らなかったのか?」
己の事ながら残念なことに、緩みきっている口は思ったことをそのまま吐き出してしまい、ケルシーからは返答の代わりに強烈な蹴りが返ってくる。水月に抉り込まれた爪先の異物感から逃れるため踵を返しドアに向かおうとして、芋虫状態故ラボの床を無様に転がることになった。
「とにかく理性回復剤の乱用は控えるように、次同じ事をしたら私の権限をフル活用し、データベース上に君のインターネットの閲覧記録を公開しなければならない。ああ、言っておくが履歴の削除は無意味だ。バックアップは完璧だからな」
ケルシーは最後通告を叩きつけてくる。閲覧履歴を公開される、つまり性癖がバレる。正直なところ別に体をいくら痛め付けられようがそちらは構わない、怪我と引き換えに可愛い医療オペレーターのお世話になれるのなら本望である。だが性癖バレはマズイ。
雨の日に拾った行きずりペッローと×××とか、サンクタ少女とショットガンマリッジとかならまだしも、アヌーラのぬるぬる××××を筆頭に、ちょっとマニアックなプレイのある作品を買った履歴が公開されるのが即死級のダメージであることは想像に難くない。さらにロドス内のオペレーターに対象の種族が一人しか居ない作品、それらの履歴がバラまかれた暁には死は免れないだろう。
まだ死ぬわけにはいかない。レユニオン・ムーブメントとの抗争は日を追う毎に苛烈になっているし、ミッドナイトとの共著となる絶対に成功する!女性オペレーターのナンパの仕方百選も脱稿していない。レユニオンはともかくナンパ指南書の方は世のモテない男子オペレーターのバイブルにすらなれるポテンシャルを秘めている。絶対に脱稿せねばなるまい。
しかし明日は源石を直接吸引しようと思っているのでまた"お仕置き"されるだろうことはわかっている、なのでどうにかしてケルシーの目を欺かなければならないのだ。ご機嫌とりと仕事、両立出来なければ死ぬのがドクターの辛い所だな。
「ケルシー、聞いてくれ。俺はキメたくてヤクをキメた訳じゃないんだ」
「ほう、では何故アレほどの乱用をしたんだ?」
「アーミヤがやることはまだあるから休むなって」
さて、責任の転嫁という言葉をご存じだろうか。古来より行われてきたそれはある種の開き直りともとれる、しかし歴史が証明しているようにこの手は非常に強力である。
だから少しでも次回お仕置きされる時、性癖バレする危険性を下げるために哀れな子羊…を異様に敵視している子兎を生け贄に捧げることにした。ケルシーはアーミヤに甘々なのでそう厳しい措置はとられないだろうと目算しているのもある。
そして最も重要な事だが、今の発言に矛盾するところはない。アーミヤが社畜化を進めようとしているのは確かだし、ただキメたかったのではなく
巻き込んですまないアーミヤ、俺と一緒に怒られよう。でも散々演習して頭が死んでるのにまだ仕事を進めてくるのはどうかと思うの。
「そうか、アーミヤは君をなんでもできる万能の人と見がちだからな。そのうち機会を作って遠回しに注意しておく」
「助かる、記憶を失う前そのままの仕事ぶりを見せるのはまだ少し難しいからな」
やはりケルシーにはアーミヤが効く。アーツには源石、ケルシーにはアーミヤ。それ即ち世界の心理。今度カーディにも教えてやろう、そう考えこれ以上事態をややこしくする前にラボから逃げ出す事にする。
ラボの自動ドアが開き颯爽とミノムシ姿のまま跳ねて廊下へ去ろうとした所、待て、と声を掛けられケルシーの華奢な手が俺の肩を掴んだ。振り替えるとMon3terを展開したケルシーがイイ笑顔で此方をみている。
「ところで、君はロドス一週の旅に出る前グラニを応援するために理性回復剤を使った、そう言っていなかったか?」
「あっ…」
結局閲覧履歴は公開された。
ドクター:かつては研究に、戦闘指揮に、基地の管理にと寝る間も惜しんで働き続けていたが、記憶を失った事でハッちゃけた。アーミヤが余りに休ませてくれないので、記憶があった頃の自分は仕事のし過ぎで鬱になり記憶を失くしたのでは、と疑っている。最近自分の性癖がロドス中に公開されてしまったので、一部女性オペレーターとの接し方がわからなくなっている。
ケルシー:つよい。医療部門のトップの筈なのに前衛オペレーター並に戦闘が得意。ドクターにはアルティメット厳しいが、アーミヤに対しては激甘。彼女がその気になればドクターの人権を消滅させられるので、ドクターは一生頭が上がらない。
アーミヤ:ロドス・アイランド代表。ワーカーホリックの気がある。記憶を失くしてから別人のようになってしまったドクターとの距離感を掴みかねており、つい大量の仕事を押し付けてしまう。ポッと出でちゃっかり後輩ポジを確保した羊娘と、ドクターが記憶を失った後何故か代表と職員程度の関係しか築けていない自分を比べて羊娘に嫉妬しがち。尚当人はドクターに大量の仕事を押し付けているのが原因だとは気付いていない模様。