DQ11の世界でテリーになってました。いやマジでどうしよう。   作:こだわり和栗

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途中から一人称視点になります。よろしくお願いします。


第一話

 ――その日。城は、町は、堕ちた。

 

 

 

 雨が降り注ぐ。

 

 壁の如く迫り来る魔物の群れ。城の兵士は失意の内に倒れ伏し、戦う術を持たない町民は魔物の痛打を体で受けることしか許されない。

 寸前まで花の香りで満ちていた通りに吹く風には、血で濡れた冷たい匂いしか、ない。

 人々の笑い声で満ちていた空間が、悲鳴すら聞こえなくなった。

 

 唸り声のような音をたてて雨が降り注ぐ。

 

 ふいに雷鳴が鳴り響いた。眩い閃光によって、宵闇に紛れる魔物の姿がくっきりと浮かび上がる。

 闇よりも濃い瘴気を立ち上らせながら、地面を震わせて歩くカイザードラゴン。残虐性を現したような真紅の体を持つアンクルホーン。

 一人でも多く同胞を絶望に引きずり込もうと殺戮を振りまく、骸骨に瘴気が取り付くことで産まれた魔物、スカルナイト。

 数居る魔物の中で力も、残忍さも、この場にいる魔物に並び立つものは少ないだろう。

 魔物らは執拗に生命あるものを探し、息を潜めて隠れていた者を探しては、羽虫を潰すように生命を終わらせて行く。魔物の後には分厚く重苦しい絶望のみが横たわる。

 

 冷たい雨は少しずつ強くなり、地面を強く叩く。

 

 突然、二体のスカルナイトが顔を見合わせた。

 魔物らはカタカタと歯を震わせると――歩き始める。その先には町の門があり、門の脇からそっと顔だけ出して町の中を伺う七歳程の少年の姿があった。

 少年は小さく息を飲むと、反転。墓標のように立ち並ぶ木々の隙間を縫うように走る。

 

 少年は仕事で忙しい両親を労わろうと、町のすぐ傍に自生している薬草を一房摘みに出かけた帰りだった。

 帰宅したら雨で濡れた体を暖炉の火で暖め、両親にホットミルクを作ってもらうつもりだった。門番に挨拶をし、門をくぐれば、変わらない日常が広がっていた――筈だったのだ。

 

 泥と水が跳ね上がる。

 体を震わせながら子供はもがくように走った。自分の背ほどもある草々を書き分け、転ぶように必死に走り逃げる。

 

 なんで……。なんでッ!

 ぜい、ぜいと引きつる息と共に疑問が漏れるも、答えなどは無い。少年を追いかける魔物はカタカタと楽しそうに嗤いながら甚振るように迫る。

 子供の体力など限界が知れている。全身を包む疲労感に足を遅くしながらも、少年は生を諦めない。だが、しかし。

 

 衝撃。

 

「ガッ――」

 

 思わず声が漏れた。背中に衝撃が走り、肺から息全てが漏れ出る。瞬きするほどの刹那、意識が闇に溺れる。じくじくと痛みを訴える背中から、剣の柄で殴られたのだと分かった頃には最悪の状況だった。

 気がつけば、二体の魔物は少年を挟み込んでいたのだ。

 

 死ぬ。死んでしまう。――死にたくない。

 不安で歪む心を奮い立たせるも、手にはこんな状況でも落とさなかった薬草のみ。体力に乏しい子供の体は、ギシギシとこれ以上動くことを拒んでいる。

 スカルナイトは絶望の時を引き伸ばそうとしているのか、ゆっくりと手に持った片手剣を掲げ――。

 

 少年は薬草を強く噛んだ。口の中に広がる青臭さに顔をしかめながら、その場から横転する。

 果たして、スカルナイトの剣は空を切った。

 

 スカルナイトらはゲタゲタと下卑た笑い声を漏らす。この獲物は何も出来ないのだとわかりきっているのだ。むしろ、哀れな少年を弄ぶ時間が増えたのだと言わんばかりに、当てる気のない剣を何度も振り下ろす。

 

 汚泥に塗れながら少年は必死に避ける。避ける。避ける。

 酸欠で視界はちかちかと酩酊し、迫る魔物の輪郭を曖昧なものにする。限界を超えた肺は刺すような痛みを訴えているが、体を止める訳にはいかない。今は逃げなければいけない。でないと、死ぬ。

 根源的な恐怖は少年の体を強く突き動かし、ぬかるみもたつく足を走らせる。

 

 そうして避けて、更に避けた先には……抗えない結末があった。目の前には二十メートルほどの崖、下には増水して勢いを増した川がゴウゴウと轟き渡っている。

 

 逃げ場はない。少年は歯噛みするも、現実は変わらない。だらだらと逃げ続けていた結末が訪れただけの話だった。

 抱いてしまった諦観が体を蝕む。もう、体をほんの少しも動かせる気がしなかった。

 

 絶望した獲物を見つめるスカルナイト。二体の魔物は剣の先で少年を突くも、反応の薄さにつまらなさそうに体を震わせる。窪んだ眼窩に何の意思も映さず、剣を振りかざした。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 ……覚悟なんて決まっていなかった。それでも、死にたくないという一心で残っていた薬草を口一杯に詰め込むと、息を止めて、勢い良く崖に身を投げ出した。

 ふざけんな、そう魔物に訴えることが出来ればどれだけ良かっただろうか。ファッ○ュー。最後の抵抗で中指をおったてて――視界がグルグルと揺れる。

 

 暗転。

 衝撃。

 

 全身を刺すような感覚がしたかと思えば、今にも体が引きちぎられそうな圧倒的な力の濁流。

 入水したのだと頭の片隅で冷静な自分が囁く。両手で水を掻き分け水中から顔を出そうとするも、水の勢いがそれを許してはくれない。必死に薬草をモグモグと咀嚼し、視界に映った何かに必死に手を伸ばす。

 雨によって川によって流された木の枝だった。逃してたまるもんかと決死の思いで――掴む。

 右手で枝を掴んだ。左手も伸ばして、掴む。掴んだ。まだ、生きられる。多分。浮力によって枝が水面へと上がって行く。

 

「――ゲホッゲホッ」

 

 勢いよく蒸せる。

 今の一瞬が引き伸ばされて数倍に感じられるほどに、密度の濃い時間だった。

 手に振動が走る。掴んでいる枝が突っかかるように停滞し、水圧に逆らい手放すものかグギギとしがみついていれば、弧を描くように体が動き――浅瀬に打ち上げられた。

 

 何が起こったのかもわからずに全身一杯に新鮮な空気を取り込む。水を飲まなかったのが幸をなしたのか、溺れ死ぬことはなさそうだった。

 打ち上げられた魚のように浅瀬でへばり、やっと落ち着ついてきた息に上体を起こそうとして、

 

 ――痛みが爆発した。

 

「ガ、ガガガーッ!」

 

 思わず奇声が溢れた。

 全身にアホみたいな量の電気を流されたようだった。痛みのあまり無心でその言葉を叫ぶ。

 

「ホ゛イ゛ミ゛ッ!」

 

 痛み以外の感覚が薄い中、それでもするりと体の中から何かが抜ける感覚が走る。

 痛みが少し薄れた。その事実に安心して何度も何度もその言葉を口にした。

 

「お゛え゛ーー……」

 

 やっと息も落ち着いてきて、必死に行使した魔法について想いを馳せる。

 今世で母親から教わった魔法だった。勉強は嫌だと文句をたれる俺に何度も根気強く、何時か役にたつからと言い聞かせ教導してくれたのだ。

 本当にありがとうマッマサンキューマッマ。役に立つなんてとんでもない、命を拾わせていただきました。

 今世で、と言うとおり、俺には前世の記憶がある。とはいっても思い出したのは川に飛び込む瞬間だが。じゃなかったら魔法とかもっと必死になって覚えていたとも。だって魔法だぜ? この感覚、きっと日本人なら分かってくれると思う。

 

 べしゃりと大の字になりながら、記憶を思い出した時について、思考を巡らせる。

 

 ……俺は何もかも諦めていた。それほどあの諦観は大きかった。そして、俺の心はぽっきりと折れて――死んでしまったのだと思う。それでも死にたくない心が、前世を思い出させたのではないだろうか。いや何いっているのかわからんけど、きっとそうなのだ、多分。

 

 一度死んだというのは、それほどに大きな衝撃だった。死んでたまるかという強烈な意思を刻み込むほどに。

 

 浅瀬から体を起こす。

 眩暈と鈍い頭痛がはしる。はしる、が。勢いこそ衰えているものの、未だに雨は降り続けている。この場にいたら、川が増水をし続けたらデッドエンド不可避である。ふざけろ。

 気泡が混じり茶色く濁った水から少しでもと体を動かしつつ。

 そう言えば……なぜ俺は荒れ狂う川から逃れることが出来たのだろう。疑問に思って暗闇の中視線を走らせると、木の根に絡まった細長い木の枝がぼんやりと見えた。

 ……なるほど。九死に一生スペシャルもかくやという幸運に救われたらしい。

 

 ずりずりとナメクジペースで浅瀬を進む中、今世での両親についてぼんやりと考え、そして……再度とんでもない衝撃が俺を襲った。

 

 俺が住んでいた場所はユグノア城下町という。前世でプレイしたDQ11というゲームに登場した勇者の生まれ故郷だ。生まれと形容したのには理由がある。

 ……ゲーム開始時にイベントムービーが流れる。勇者の証であるアザがどうとか、色々と伏線が張られるムービーなのだが、そこでユグノアは魔物によって――滅ぼされるのだ。

 主人公は一人だけ川に流され、親切な老人に拾われてスクスクと健康に育つこととなる。16年の月日が流れ、ゲームが開始するのだが……。

 

 重要なのは俺がそのユグノアで育ち、ユグノアが滅ぼされたという事。

 

 さらに俺の名前は、テリー。あの、さんざっぱらネタにされている引換券と同名だ。

 事実、俺の容姿は子供ながらにニヒルな笑みが似合う銀髪つり目をしている。前世でプレイしたDQMテリーのワンダーランドに出てくるテリーそのもので。

 

 

 

 ……なんで?

 

 

 

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