とある飛空士への召喚録+日本国   作:創作家ZERO零

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本作の日本には『とある飛空士シリーズ』存在しない設定です。


第2話〜日本とレヴァーム〜

 

 あれから夜が明け……

 海上自衛隊横須賀基地には、多くの報道関係者と野次馬がスマホや高解像度カメラを片手に写真を撮っていた。基地のフェンスを挟み、上空に浮かぶ物体を写真に収めようとしている。

 

「まさかの光景だな……」

 

 百里基地司令官の猪木空将補はテレビを見ながら、そう言った。テレビに映る空に、鯨のような船がそのまま浮いていた。飛空駆逐艦『竜巻』というこの船は、横須賀基地上空に居座っている。

 駆逐艦の艦長によると、この船を待機させるためには特別な装備が必要らしい。そのため、空で待機してもらうことになっている。

 

「まさか、駆逐艦が空を飛ぶとはな……」

 

 そう言って、猪木空将補は唖然とした声を上げた。朝のニュース番組の話題は、横須賀上空に居座る駆逐艦の事でいっぱいだった。

 

『ご覧ください! 第二次世界大戦期の駆逐艦が空を飛んでおります! ここ横須賀基地上空に突如現れた謎の飛行船! 一体どこの船なのでしょうか!? 現場からは以上です!』

 

 興奮鳴り止まない様子のキャスター、すでにネットでもこの駆逐艦のことは話題になっている。

 突如起きた、海外と通信がつながらない現象。日本中が大混乱に陥っている中での、突然の来訪。ネットでは様々な憶測が広がっており、政府の発表を待っている。

 

『ありがとうございます。さて、ここからは専門家とのご意見を交えてお送りしたいと思います。東京大学天文学部の櫻井教授です』

『よろしくお願いします。早速ですが、昨夜の夜空が光る現象と合わせてお送りいたします』

 

 その後、専門家が昨夜起こった夜空が光る現象と海外との通信障害について話し合う。EMP攻撃を予想する人もいたが、日本国内の通信機器が使えることを根拠に否定される。そして、話題は百里にいる飛行船についての話題に移る。

 

『この飛行船、どう見ても第二次世界大戦期の吹雪型駆逐艦を上下対称にしたように見えます。なので、これは純粋な戦闘艦かと』

『だとしたら、一体どこの国のものなのでしょう? 自衛隊の物ですか?』

『現代技術では、飛行船でもない鋼鉄製の船をそのまま浮かべることは不可能です。なので、自衛隊の物ではないかと』

『では、一体どこの?』

『それについては色々憶測がありますが……』

 

 まだ民間には秘密であるが、乗務員との交渉により彼らが『神聖レヴァーム皇国』と『帝政天ツ上』という国からやってきたと名乗っている事は知っている。秘密を隠していることに少し罪悪感を覚えながらも、報道を見ていた。

 そんな事をしていると、基地内の部下が扉をノックした。テレビを消し、「入れ」と命令して入れさせる。

 外から入ってきたのは、部下と一人の黒髪の青年であった。彼こそが、百里基地に着陸したプロペラ機のパイロットだった。

 

「はじめまして、私はここ百里基地の司令官を務める猪木空将補です。他国では少将クラスにあたります」

「はじめまして、狩乃シャルル大尉と申します。基地司令にお会いできて光栄です」

 

 礼儀正しくお互いに挨拶を交わす。相手の教養が高い、猪木空将補はそう感じていた。おそらく軍人としてのレベルも高いのだろう。

 二人はソファに向かい合って話をする。狩乃シャルルは当たりのものが珍しいのか、目線をキョロキョロとさせている。

 

「さて、単刀直入に質問したいのだが……君はどこから来たのかね? あの現象の直後に君と駆逐艦が突然空に現れたそうじゃないか」

「はい、私はここから200キロほど北西に離れた場所にあるトレバス暗礁の飛空場からやってきました。神聖レヴァーム皇国の基地です」

「うーむ……実は私も『神聖レヴァーム皇国』という国は聞いたことがない。『竜巻』の艦長が言っていた『帝政天ツ上』という国も初めて聞く」

「私も、同じく『日本国』という国は初めて聞きました」

 

 どうやら、お互いに初めてのことが多すぎるらしい。

 

「やはりそうなるか……」

「どう致しましたか?」

「……実はな、我が国の政府から自衛隊向けに発表があり『我が国とその領土が別の惑星に転移した可能性がある』と言われたのだ」

「別の星に転移……ですか?」

「そうだ、もしかしたら我が国と一緒に君たちの国も転移をしてきたのかもしれない。君たちの言う『大瀑布』も無くなっているのだろう?」

「はい、その通りです」

「つまりは、その可能性も捨てきれないと言うことだ」

 

 シャルルは猪木空将補にそう言われて、だんだんと納得していた。

 

「ちなみに、君の機体は我が国の歴史上初めて見るレシプロ機なのだが、あれはどんな性能を持っているのかね?」

「はい、あの機体は『アイレスV』といい、最高時速は720キロ、武装は20ミリ機関砲を4門、さらには自動空戦フラップを装備しております」

「自動空戦フラップを……良い機体ですな、美しさを感じる」

「ありがとうございます」

 

その後も会談は続いた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 海上自衛隊佐世保基地から出航した第2護衛隊群は、一路日本海だった海域を捜索していた。

 政府から神聖レヴァーム皇国とかいう国の使節団がやってくるという連絡を受けた第2護衛隊群は、その場所を捜索している。

 何度かにわたる航空偵察によって発見された新しい陸地。そして、そこにいると思わしき文明の痕跡。それを探るために彼らは進行していた。

 

「異世界か……」

 

 旗艦となるひゅうが型護衛艦『いせ』の艦橋から、内野海将補はそう一言呟く。

 

『こちらCIC、偵察機が帰っていきます』

 

 ほっと胸を撫で下ろす内野海将補、どうやら戦闘機ではなかったようだった。

 先ほどから青灰色の見たことのないプロペラ機が、艦隊上空を旋回していた。攻撃指示を出していなかった為無視したが、何もせず帰ってホッとした。

 

『〈あしがら〉より感! 巨大な飛行物体を対空レーダーで確認!』

「来たか……数は?」

『260メートル級が2隻、護衛艦と思しき2000トンクラス級が6隻です! 円陣で真っ直ぐこちらに向かってきます! 速力50ノット!』

 

 政府から報告のあった、空飛ぶ船かもしれない。洋上艦艇ではないから速度が出ているのだろう、50ノットというのはなかなかに速い。

 

「分かった、引き続き頼む」

『り、了解!』

 

 どうやら、政府の報告は正しかったようだった。空飛ぶ船、今こうしてレーダー画面を見て見れば分かる。これほどまでに巨大な鋼鉄製の飛行船は地球上にはなかった。

 

「本当に異世界に来たのかもな……外交官たちに甲板上に待機するように伝えてくれ。本艦だけを前に出す、私も行くぞ」

 

 そう言って、内野海将補は階段を下って『いせ』甲板上に出る。お互いの距離がある程度縮まった時、それが見えて来た。

 

「あれは……」

 

 まさしく、空飛ぶ船と言っても指し違いない偉容さだった。鋼鉄の塊である船が、何隻も空を悠々と泳ぎ、こちらに向かってきている。

 第二次世界大戦期の艦艇がそのまま空を飛んでいる、そんな異様な光景が目の前の空に広がっていた。

 

「御園さん見てください! 空と飛ぶ戦艦ですよ戦艦!! それに空母まで!」

「ありゃ一体どういう仕組みで飛んでいるんだ……?」

 

 隣にいる外交官の佐伯と御園も思わず興奮の声を上げる。『いせ』甲板上の他の自衛官達も、思わず空を見上げている。

 

「内野海将補、空母が降りてきます」

 

 その時、平べったい甲板を持った『いせ』のような船──おそらく空母──がズンズンと降りて着水をした。音を立てて水しぶきを上げる。

 

「よし、あの船と接岸して臨検をする。用意してくれ」

「はっ!」

「外交官殿も、準備を」

「分かりました」

 

 どうやら光信号が通じるようで、『いせ』と不明飛行船は隣り合わせで接岸してお互いに機関を停止させた。

 そこに向かって不明飛行船の方からタラップがかけられる。そして、向こう側から何人かの外交官らしき人物がやってきた。

 

「私は日本国海上自衛隊の内野海将補です。ここは我が日本国の近海であり、このまま進むと我が国の領海に入ります。貴船の国籍と、航海目的を教えて……!?」

 

 と、その外交官らしき人物の後ろから、一人の女性が出てきて内野海将補は戦慄した。彼女のあまりの美しさに、思わず固まってしまっている。

 

「し、失礼いたしました!」

「? どう致しましたか?」

「い、いえ……それより日本語が通じるのですね」

「ええ、通じます。私は神聖レヴァーム皇国外務局外交官、アメル・ハルノートと申します」

 

 髪の長い男性──アメル・ハルノートは、透き通るような声で内野に話しかける。

 言葉の壁がなくなったことで、自然と安心感が出る。そして、いよいよその美しすぎる女性が前に出て自己紹介をする。御園と佐伯もその美しさに固まっていた。

 

「私は神聖レヴァーム皇国の執政長官、ファナ・レヴァームと申します。私共は貴国『日本国』との国交成立のために艦隊を派遣しておりました。前回、我が国の戦空機と天ツ上の駆逐艦が貴国の領空を侵犯してしまった事、申し訳なく思います」

 

 美しすぎる女性──ファナ・レヴァーム『執政長官』の名を聞き、内野海海将補は戦慄した。彼女らは『神聖レヴァーム皇国』のトップなのだ。失礼のないようにしなければならない。

 

「わ、分かりました。この件は我が国の政府にお取り次ぎ致します。では、こちらに」

 

 そう言って彼らレヴァームの外交官は、内野海将補の下に甲板上を歩く。

 

「これは……空母のように見えますが艦載機はオートジャイロだけなのですね」

「ですね、オートジャイロ母艦なのかもしれません」

 

 後ろで軍士官らしき人間とアメルが話しているのを尻目に、内野海将補は彼らを客室に連れて行く。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「参謀、あの艦隊どう思う?」

 

 使節団艦隊旗艦『エル・バステル』の内部で、艦隊司令官のマルコス・ゲレロはそう言って謎の艦隊を見据えた。

 

「奇妙な船体に砲が一門だけ、という不思議なレイアウトの船ですね……装置からして両用砲でしょうか?巡洋艦クラスだと思われますが、武装が少ない事しかわかりません。空母の方が脅威でしょう」

「そうか、我々と戦えばどうなる?」

「おそらくこの距離なら空母は戦力外です。巡洋艦が脅威になるでしょう。ですがこちらに戦艦がいるので、我々が有利かと」

「なるほどな、君の言う推察は確かに正しいかもしれん。だが私は……勝てないと思うよ」

「何故です?」

 

そう言って、マルコス長官は隣にいるレーダー逆探知機の画面を見る。

 

「これをよく見ろ。相手の艦隊から発せられるレーダー波はかなり強力だ」

「そんなに強力なのですか?」

「ああ、それもこちらの機器に支障を与えているレベルだ」

 

 参謀はそこまで言われて、あの謎の艦隊に対する感情を少し変えた。

 

「おそらくだが、彼らの船は相当強力な対空艦隊なのかもしれない。まだ見ぬ武器もあるだろう。もしかしたら、蹴散らされるのは我々になるかもしれんよ」

「なるほど……だとしたら侮れません。考察を続けましょう」

 

 そう言われて、参謀は自衛隊に対して脅威を覚えた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 日本国が正式に別の惑星へと転移したことを認め、日本国がクワ・トイネ公国と接触したその日。外務省はまたも大忙しとなった。

 そして、舞鶴市の自衛隊基地で空を見上げる外務省の朝田と篠原も、これから忙しくなる日本人の一人だ。空に浮いているのは、空飛ぶ戦艦と空母の艦隊、鋼鉄の飛行機械の塊であった。

 

「なんだあれ……ラ○ュタのゴ○アテか?」

「装甲と武装、排水量を考えたら飛行船の類じゃないぞ! まさか、重力制御が出来るのか!?」

 

 朝田は軍事には知識はなくても、船のことはある程度知っている。そのため、その大質量を浮かべているかの船の異様に驚くしかないのだ。

 周りでも、フェンスの向こうから必要以上に写真を撮る一般人や、ぽかんと口を開ける自衛官、それを伝える報道関係者など様々である。皆一様に空を見上げている。

 もし、重力制御ができるのなら技術力は日本より上かもしれない。今回の交渉には、日本の未来が掛かっている。そう思うと朝田達に緊張が走る。

 やがて、外交官を乗せた『いせ』が舞鶴の港に着いた。タラップが降ろされ、その中から異国の外交官が出てきた。しばらく興味津々に見ていた朝田と篠原だったが、そのうちから一人の女性が出てきて更に戦慄する。

 

「はじめまして、私は神聖レヴァーム皇国外務局外交官のアメル・ハルノートと申します。こちらは、神聖レヴァーム皇国執政長官、ファナ・レヴァーム殿下にございます」

「し、執政長官!?」

 

 執政長官とは地球上で訳すと『執政官』、地球にあった国家『共和政ローマ』における最高職である。

 しかも、『殿下』と呼ばれていることから皇族だとも推測できる。これは、失礼のないように接しなければならない。

 

「し、失礼いたしました! 私は日本国外務省外交官、朝田泰司と申します! こ、こちらは補佐の篠原です!」

「よ、よろしくお願いいたします……!」

 

 彼らの狼狽ぶりを見たファナは、フフッと微笑みかける。

 

「そこまで硬くならなくても大丈夫です。あなた方が案内を担当される外交官ですね?」

「は、はい。よろしくお願いします」

「では、首都までのご案内をお願いいたします」

 

 そこまで言われて、朝田は気を取り直して対等な立場で話すことにした。

 

「失礼いたしました。それでは、自動車で一度京都まで向かいます」

 

 そう言って、彼らは用意されたリムジンに来賓を乗せる。チラリと横目で野次馬を見ると、彼らもファナの美しさに固まっていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 豪華な車に揺られるファナは、初めて見る『日本国』の景色に見惚れていた。地方都市なのに、それなりに発展した街。コンクリートでできた白い街並み。

 そしてレヴァームではまだ建設が始まったばかりの高速道路まで。ファナはだんだんと、『日本国』の技術が計り知れないことに気付いていた。

 

「これから向かう京都という街は、どのような街なのです?」

「はい、京都は我が国では1300年以上前から都として栄えてきた都市です。今でも歴史ある街並みが残っており、風情があります」

「なるほど、それほど歴史が深いとは……それは楽しみです」

 

 ファナは白バイによる警護の中、リムジンに揺られる。リムジンは車とは思えないくらい静かで快適だった。

 

「ところで、首都まではどれくらい離れているのですか?」

「大体、500キロくらいですかね?」

「なるほど、では飛空機で行くのですね」

「いえ、列車で行きます」

「え?」

 

 その言葉に驚く。列車で500キロを移動するとなれば、何時間もかかる。下手すれば一日、都市計画の間違いではないだろうか?

 

「ああ、失礼。我が国では、時速300キロ以上で走る『新幹線』呼ばれる列車を実用化しております。京都から首都まで伸びているので、それで向かうことになりますね」

「れ、列車が時速300キロですか……?」

「脱線などはしないのです?」

 

 信じられない。レヴァームでは特急列車でも時速150キロが限界で、天ツ上が研究中の『弾丸列車』は210キロほど出るが、脱線を危惧して170キロほどしか出していない。

 

「脱線の原因は解消しておりますゆえ、快適に乗っていただけるかと思います。事故も開通から50年以上無事故です」

「なんと…………」

 

 アメルとファナの二人は、いよいよこの国がとんでもない事を理解しはじめた。侮っていたわけではないが、改めて見える技術力の差に驚きの連続である。

 


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