とある飛空士への召喚録+日本国   作:創作家ZERO零

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第3話〜交渉〜

 

 『新幹線』と彼らが呼んでいる列車の内部は、かなり快適であった。車内は揺れがほとんどなく、ものすごく快適であった。

 横浜の駅で横須賀から飛空艦でやってきた天ツ上の使節団と合流し、一路東京へと向かう新幹線。いくつもの大都市を通り過ぎ、列車はやがて日本の首都東京に着いた。

 その都市の次元は違かった。エスメラルダでも新市街はかなり発展しているが、東京程ではない。

 何もかもが正確に動き、人の量も多く、ビルの高さも天を貫かんとするものばかりである。中には、634メートルだと言う高い電波塔もあった。

 

「これは……凄まじい都市ですね……」

「ええ、エスメラルダですら霞んでします」

 

 この摩天楼に比べたら、エスメラルダだってまだまだ山の一角に過ぎない。ファナ達使節団の面々は、日本の実力をひしひしと感じでいた。

 もしかしたら、レヴァームや天ツ上よりもさらに技術が進んでいるかもしれない。軍事技術についてはまだわからないことが多いが、それでも民生技術で負けているのは事実だった。

 街の人間が『スマホ』と呼ばれる小さな板のような物を持ち、歓迎される使節団一行のリムジンを撮影している。そのような小さな機械を作る技術は、レヴァームにも天ツ上にもない。

 一行はそのまま外務省の庁舎に連れてこられ、とあるプロジェクターの前に座った。レヴァームと天ツ上の一行はプロジェクターが何か分からなかったが、朝田が簡単な説明をして解決した。

 

「それでは皆様、まずはお互いにわからないことが多いかと思います。そこで、映像を用意しました。これより我が国についてご説明いたします」

 

 日本国外務省の職員が、会議室のプロジェクターを使用して日本国の概要を説明する。

 スイッチを押すと映像が始まり、日本に関する紹介映像が流れて始めた。その内容は多岐に渡るが、自然、文化、建築技術などが流れている。

 軍事に関しても、惜しみなく説明される。仕組みは説明しなかったが、日本が保有する自慢の戦車や戦闘機、護衛艦の数々が説明される。

 優美な映像と澄んだ音声に驚愕していたレヴァームと天ツ上の面々であったが、転移国家であるという日本の主張を証明する別世界の記録の数々に、それを信じ始める。

 

「改めてまして、神聖レヴァーム皇国並びに帝政天ツ上の皆様、本日は遠路遥々ご足労いただき、誠にありがとうございます。私は日本国外務省、朝田と申します。皆様のご案内を務めさせていただきますので、以後お見知り置きください」

 

 やがて、会議室で事前協議が行われる。まずお互いの国が何処にあるのか、今まで何をしてきたのかをお互いに話し合って理解を深めた。

 

「なるほど……つまりはあなた方もこの世界に転移してきたと……」

「はい、そうなります。元々我々の世界には神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上以外に国と大陸はなく、あとは果てしない海と両国を隔てる滝だけでした。もちろん、日本国という国は聞いた事もありません」

 

 会議室の日本の外務省の面々が少しざわついた。それも仕方がない、彼らはレヴァームと天ツ上をこの世界の大国だと思っていたからだ。

 しかし事実、先ほど会談したクワ・トイネ公国の人間達と交渉した際に「レヴァームと天ツ上に関しては知らない」と言っていた。あながち間違いではなさそうだ。

 

「なるほど、分かりました。それでは共にこの世界を歩むための話し合いをしましょう」

「ええ、そのつもりです」

 

 ファナ達一行と日本国の面々はその後も協議を続ける。その後、事前協議は成功に終わり、一行は明日日本国の首相と会談をする事となった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「朝田殿、私は是非とも貴国の軍について知ってみたいのだが、よろしいだろうか?」

 

 会談が終わった後、レヴァーム軍総司令官のセスタ・ナミッツは朝田にそう質問した。彼とて軍人の一人、やはり自衛隊の装備については気になるところがあるのだろう。それも、日本側は予測済みであった。

 

「はい、そう言うと思い準備しておりました。明日、航空自衛隊の百里基地で特別セレモニーが行われる予定です。そこへ行きましょう」

「おお、是非とも」

「その基地には我が国が保護した貴国のパイロットも居りますので、もしよろしければ面会の時間も作ります」

「おお、そこまでしていただけるのですか。誠に感謝する」

 

 一行は、明日二手に分かれて日本を視察することになった。ファナとマクセル達使節団は、外交交渉と市街地視察のために東京に残り、ナミッツ達は百里基地に行く予定だ。

 次の日の、航空自衛隊百里基地。茨城県にあるこの飛行場は、首都防空の要として昔から自衛隊の基地として重要視されていた。

 その基地に、本来いるはずのない第三飛行隊のF-2戦闘機まで配置されている。今回、レヴァームと天ツ上、そして最近接触したクワ・トイネ公国に対するセレモニーの一環で近くの基地から集められていたのだ。

 

「ナミッツ司令」

 

 使節団が航空祭の来賓席にいた時、傍らから一人の青年の声がした。目を向けると、レヴァーム軍の飛空服に身を包んだ黒髪の青年がいた。

 

「お、君が保護されたという飛空士かね?」

「はい。ご無沙汰しております、狩乃シャルル大尉と申します」

 

 狩乃シャルル、その名前を聞いてナミッツはやっと思い出し、彼に挨拶をする。狩乃シャルルの名前は中央海戦争時のあの作戦の時に、ナミッツの耳にも伝わっていた。

 彼が日本国に一時的に保護されており、ファナは彼と『竜巻』の返還についても協議をしていた。

 

「構わず、隣に来たまえ」

「ありがとうございます」

 

 その様子を見て、朝田は少し疑問に感じた。パイロットとはいえ、一卒兵に過ぎない人間がここまで総司令官と肩を並べているのは異様だったからだ。

 

「有名なパイロットなのかな……?」

 

 朝田が疑問を持っているときに、航空祭が始まった。彼らにとっては見慣れない飛行機が、2機滑走路に並んだ。

 

「シャルル大尉、あれはなんという戦空機だ?」

「あれは日本の主力戦空機の一つの『F-2』という機体です。あの機体は凄いですよ」

 

 『F-2』と呼ばれた機体が、いよいよ滑走に入る。後ろから陽炎を引いて爆発的な勢いで上昇していく。

 

「は、速い!」

 

 ナミッツは見ただけで分かった、あの青色の戦闘機がかなり速い速度で滑走していることを。ジェット機があるとは聞いていたが、まさかこれほどとは思っていなかった。

 

『ただいまより、F-2戦闘機の機動飛行が行われます。F-2戦闘機は我が国のマルチロール戦闘機で、最高時速はマッハ2.0、時速2400キロオーバです』

「なんと……朝田殿、今2400キロと言ったか? 聞き間違いでは?」

 

 ナミッツが狼狽しながら質問してくる。彼とて軍の最高司令官、航空機のことについても詳しいのだろう。

 

「はい、間違いありません。F-2戦闘機の最高時速は2400キロオーバです」

「なんと言う速さだ……」

 

 ナミッツが吠えているうちに、青色の戦空機F-2が通り過ぎていく。その速さは、全力ではないにしろかなりの速さである。時速2000キロオーバ、というのもあながち嘘ではなさそうだ。

 

『まずは宙返りからです』

 

 青色のF-2はプロペラ機では考えられないほどの上昇角度で、垂直上昇をし始める。

 主翼上部には空気が白い雲を作り、翼端では主翼下部から上部へ回り込む空気によって白い航跡を引く。機体は宙返りを果たし、そのまま水平飛行に移る。

 雷鳴のような轟が周辺一帯に響き渡る。機体の後ろからは、赤い陽炎が見え、アフターバーナーを点火していた。その飛空機は、短時間のうちに空へと消えていった。

 

「凄まじいな…………」

「言ったでしょう? この国の戦空機は凄いと」

 

 シャルル大尉が、そう言ってナミッツに話しかける。

 

『さあ皆さま、F-2が戻ってきました!』

「凄いな、もうか……!」

 

 F-2はそのまま轟を発しながら基地上空を旋回し始める。その旋回性能は、アイレスVや真電改にも見劣りしない。

 

『F-2は各種武装を満載した状態でもこの機動をほぼ維持できます。この間、パイロットは旋回中に大きなGがかかります』

「各種武装……爆弾や空雷を積んでもこの機動を維持できるのか……」

「はい、F-2は対艦攻撃機としても制空戦闘機としても作られているので、機動性も高いのです」

「言葉に表せぬ凄まじさだ…………」

 

 ナミッツは最早開いた口が塞がらなかった。時速2400キロオーバともなれば、アイレスVや真電改ではとても太刀打ちできない。しかも空雷や爆弾もとんでもない量を積めるという。

 そんな化け物を、この国は何百機も保有しているという。いよいよ、日本はとんでもない国だとナミッツ達は理解した。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 百里基地にて、ナミッツ司令は狩乃シャルルとの面会を許された。一応事前の説明でシャルルの処遇や領空侵犯の件は、今後の交渉が終わるまで保留にされている。

 少なくとも日本側は「悪いようにはしない」と言っているので、おそらくシャルルと〈竜巻〉の領空侵犯は無かったことにされるだろう。

 

「シャルル君、ここでの生活はどうだい?」

「まず、衣食住は完璧に揃えてくれています」

「ああ、そうではなく何か知り得たことがないかということだ」

 

シャルルは敬礼をして。

 

「失礼しました。ここでの生活は全てが新鮮です。『液晶テレビ』なる映像機器や、『タブレット』と呼ばれる情報端末機器。凄まじい技術力です」

 

 シャルルは忌憚なく述べ、目上であるナミッツ司令にも分かりやすく教える。

 

「しかもこれが軍事だけでなく、民間にも広がっているという事実……この国の豊かさには目を見張るものがあります。おそらくレヴァームでも、ここまでの生活水準を手に入れるには数十年掛かるでしょう」

「そんなにか……確かに先ほど見せてもらった戦闘機も含め、彼らは我々の常識が通用しない。面白い国だが、油断はできない」

「国交を持つときは、悪い眼鏡を外さなければなりません。我々の常識で判断しては、彼らに失礼です」

「ああ、それは身をもって知ったよ」

 

 その後も彼らは設けられた時間の中で情報交換をし、ナミッツ司令は東京へと戻っていった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 さらに次の日、ファナ達レヴァームの使節団は首相との本格的な交渉のため、首相官邸にリムジンで向かっていた。

 

「着きました、ここが政府官邸です」

 

 いよいよ、ファナ達の戦場へと辿り着いた。首相官邸はガラス張りでできており、敷地も合わせて美しい見た目をしていた。

 

「行きましょう」

「ええ」

 

 ファナ達使節団は、日本国との交渉のために首相官邸へと入っていった。しばらく歩き、会合のために用意されたと思しき対面の部屋に案内される。

 

「まずは、神聖レヴァーム皇国の皆さま、遠路遥々お越しいただきありがとうございます」

 

日本国の武田 実成首相が挨拶をする。日本国では、内閣総理大臣が政治を取り仕切る国体であり、レヴァームと天ツ上にも見られなかった民主主義だった。

 

「いえいえ、我々こそ貴国の素晴らしい交通システムを見させていただきました。誠にありがとうございます」

 

 その後、会談が始まる。

 

「農林水産省の日村です。単刀直入に申し上げますが、私たちは今、食料を欲しております。必要項目は──」

 

 手元の資料に日本語で書かれた資料が配られる。日本語(天ツ上語)が通用するので、今回はそのままである。

 

「なるほど……総量が一年に5500万トンですか……」

 

 この数字は別段珍しくない。レヴァームと天ツ上の人口は日本国を超えているため、食料はさらに必要なくらいだ。

 

「はい、貴国は共に農業が盛んな国と伺っております。クワ・トイネ公国からの交渉で『賄い切れる』との回答をいただきましたが、リスク分散という観点で貴国にも食料の輸入を打診します」

 

 日村達農林水産省が提唱したのは、リスク分散であった。クワ・トイネ公国が食料を輸出してくれるとの事だが、それでも緊急時に禁輸を盾にしてきたらまずい。

 そのため、リスク分散という形でレヴァームと天ツ上にも食料の輸入を打診したのだ。

 

「なるほど、どれも我々の知っている作物ですので輸出は可能です。ですが、日本国内には飛空艦が離発着できる設備はありますでしょうか?」

「いえ、ありません。では、それを解決すれば可能という事でしょうか?」

「はい、可能です」

 

 日本国の面々に明るい顔つきが芽生え始めた。

 

「外務省の佐藤です。それについては神聖レヴァーム皇国の教授の下、湾岸施設の拡張整備を整える事を考えております。その代わりと言ってはなんですが、貴国らの国土のインフラ整備も我が国がしたいと思っております」

 

 その言葉に、今度はレヴァームの面々が驚く場であった。

 

「よろしいのですか?」

「はい、我が国としてはインフラ整備に全力で取り組ませていただきます。民生技術に関しても、いくつかの物を輸出したいと思っております」

 

 今度も、レヴァーム側が驚く。食料を輸出し港を整備するだけで、それに余り余るインフラを整備してくれるというのだ。日本国の温情には頭が上がらない。そして次に、レヴァーム天ツ上との防衛協議が始まった。

 

「防衛省の厳田です。我が国としては貴国らが所持している『揚力装置』や『水素電池』に関する技術を求めております。これに先立ち、我が国からも軍事技術の一部を輸出したいと思っております」

「輸出をしてくれるのですか?」

「はい、ですがこれは貴国の技術協力が交換条件になります」

 

 そこまで言われて、ファナ達は少し迷い始めた。たしかに、ここまで日本国について見せられて、レヴァームの使節団の面々は日本国が自国より上だと痛感していた。

 しかし、日本が唯一持っていない技術として『揚力装置』や『水素電池』の技術がある。それを持つ事ができれば、レヴァームと天ツ上は日本に対しても優位に立てるかもしれない。

 しかし、先ほど日本国は「食料を輸出して、揚力装置と水素電池に関する技術をくれれば、インフラ整備と技術輸出をする」と言ってくれた。そこまで恩を売られて、こちらは何もしないのは国家として良くない。

 交渉が上手いと思った。彼らはあらかじめ欲しい技術と交換でこちらに技術を渡してくれるというのだから、悪くない条件ではある。

 そこまで考えたのは、ナミッツやマクセルも一緒だったようだ。互いに目配せをして、お互いにうなずいたところでファナは口を開く。

 

「分かりました、我が国からも必要な技術を協力できるよう、掛け合ってみます」

「ありがとうございます」

「いえいえ、対等な関係なら必要なことです」

 

 こうして、神聖レヴァーム皇国と日本国の交渉は成立した。その後も日本国は帝政天ツ上との国交を成立させ、新しい世界へ三人四脚で歩んでいく事になる。

 


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