とある飛空士への召喚録+日本国   作:創作家ZERO零

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第二章
第5話〜動乱〜


 

 クワ・トイネ公国

 

「すごいものだな、レヴァームも天ツ上も。明らかに三大文明圏を超えている。もしかしたら我が国の生活基準も、三大文明圏を超えるやもしれぬぞ」

 

 レヴァームと天ツ上、そして日本が転移してきてから二カ月が経とうとしていた。レヴァームと天ツ上、そして日本はお互いに国交を結ぶだけでなく、周辺の異世界国家とも国交を結んでいた。

 その中の一つが、クワ・トイネ公国とクイラ王国だ。そして、彼らにとってこの二か月間は、クワ・トイネにとってこれまでの歴史上最も発展した二ヶ月であったとされている。

 日本が主導して、クワ・トイネやクイラのインフラ整備を行っており、あらゆる輸出品を惜しまなかった。

 大都市間を結ぶつなぎ目のない道路。日本本土にあったような鉄道と呼ばれる大規模輸送機能。さらには電気も輸出された。

 この電気の存在は大きい。発電施設はレヴァームと天ツ上の出資で作られた水素電池による発電施設だ。水素電池は海水から電力を無限に生み出す。いくら大規模な発電施設を建てようが燃料費はタダだ。

 さらにはレヴァームと天ツ上は飛空艦たちが発着可能な湾岸設備が整えていた。主にマイハーク周辺である。

 

「ここクワ・トイネもすっかり変わってきました。我が国のような辺境国家が、文明圏内国を超える生活基準を手に入れるなど、世界の常識からすれば考えられないことです。ですが、使節団からの報告書は何度読んでも信じられません」

「ああ、もしもこれが全て本当なら、国の豊かさは本当に文明圏を凌駕するな」

 

 首相カナタと秘書は、興奮鳴り止まない。その分、かなり仕事が増えて多忙な毎日を送っているがそれでも満足そうだ。それだけ、レヴァームと天ツ上、そして日本は凄まじいということだろう。

 さらには軍備も着々と整えられ始めていた。レヴァームと天ツ上から輸入した、『銃』や『装甲車』などの兵器や装備などを使って訓練を行なっている。

 できれば日本からも輸入をしたかったが、日本では武器輸出に消極的でなかなか渡してもらえなかったのが残念なところである。これは、レヴァームと天ツ上との間で決められた協定が関係している。

 日本は技術力がレヴァームや天ツ上を超えている為、もし仮に武器輸出をした場合、レヴァームと天ツ上の軍需産業が打撃を受ける可能性があった。

 そのため、日本はインフラを輸出する代わりに日本製兵器は輸出しない方針をレヴァームと天ツ上との間で固めたのだ。

 

「しかし、彼らが平和主義で助かりましたね……彼らの技術力と国力で亜人廃絶を唱えられていたかと思うと……かなりゾッとします」

 

 その言葉にカナタは少しだけ顎を抱えると、怪訝そうな顔をする。

 

「いや、そうでもないぞ」

「どういうことですか?」

「……なんでもレヴァームと天ツ上は数年前まではお互いに敵同士で、共に差別をし合っていたらしい」

「え!? そうなのですか? 二国はかなり仲が良いように見えますが……」

「それはレヴァームのトップのファナ・レヴァーム殿の努力のお陰でな。数年前まではお互いを『猿』や『豚』と呼んで、人間以下として差別をしていたらしい」

 

 カナタの口から語られる昔のレヴァームと天ツ上の関係は、とても今の関係からは想像できない壮絶なものだった。

 他人を人間以下と勝手に区別して、差別して迫害する。やっていたことはロウリア王国と同じであった。そんな事をかの二つの国々は行なっていたのだろうか。

 

「そして、それは戦争にまで発展した。彼らはその戦争を『中央海戦争』と呼んでいるらしい。その戦争で、今まで見下されてきた天ツ上人は自分たちが『猿』ではなく『サムライ』であるとレヴァームに知らしめたのだ」

「サムライ……?」

「天ツ上における騎士のようなものだそうだ。ともかく、彼らはその戦争を経てお互いを認め合い、差別をやめて歩み寄っているのだよ……」

 

 語られる壮絶な真実。あれほどの強大な力を持つ国同士がぶつかり合う様子など、秘書にはとても想像できなかった。

 

「まあ、それより……」

 

 カナタは秘書に振り返る。

 

「帝政天ツ上の密偵からの報告は確かなのかね? ロウリア王国が近いうちに攻める準備を整えていると……」

「ええ、直接王城に潜入している密偵の情報が、大使館伝いで伝わってきました。間違いありません」

「侵攻までどれくらいの期間がありそうだ?」

「準備期間からして、3週間ほどかと」

「ううむ……中々に近いな……」

 

 帝政天ツ上の密偵は、ロウリア王国内に侵入してジン・ハーク城の内部の様子を探っていた。その情報はクワ・トイネやクイラにも共有され、伝わっている。

 

「一応、ギムの周辺の住民全員に『避難勧告』を……いや、『避難命令』を出しておけ」

「はい、わかりました」

 

 そこまで言うと、カナタは東の方角を窓から見渡す。美しい夕日が、穀倉地帯の広がる地平線に落ちて行く。その向こうにはロウリア王国があった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

ロウリア王国 王都ジン・ハーク

ハーク城 御前会議

 

「今宵は我が人生最良の日だ!!クワ・トイネ公国、並びにクイラ王国に対する戦争を許可する!!!決行は一週間後、各人の検討を祈る!!!!」

 

 ロウリア王国にとっては世界最大の都市ジン・ハーク。これからも、この先もロデニウス大陸最大の都市として栄えるであろうその都市で、この国の行く末を決める会議が行われていた。

 その会議は、王の労いの言葉ロウリアを称える言葉と共に終了した。しかし、それを不快な表情で見つめる人間が一人いる。

 

「何が亜人殲滅だ……下らない……まさに蛮族だな」

 

 彼の名はヴィルハル、パーパルディア皇国からの使者である。ロウリア王国はこの戦争に際して六年もの歳月の間、隣国のパーパルディア皇国から支援を受けていた。それを元に、今回の亜人殲滅戦争を仕掛ける手筈となっていた。

 しかし、パーパルディア人の彼からしたらこんな戦争は野蛮でしかない。まさに蛮族、亜人たちが気の毒だ。そう思っていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

日本国 首相官邸

 

「帝政天ツ上のスパイから、ロウリア王国で近いうちに軍事行動があると言う情報は本当だな?」

「はい、大使館からの連絡では、間違いないようです」

 

 帝政天ツ上のスパイは優秀で、ロウリア王国の情報を逐一報告してきた。それによると、近いうちにロウリア王国によるクワ・トイネへの侵攻があると言う。

 

「クワ・トイネ公国からは、我が国の食料の50パーセント以上を彼らから輸入しています。残りはレヴァームと天ツ上からですが、クワ・トイネが侵略されれば、我が国やレヴァームと天ツ上が建設した施設や要人がロウリア王国の手に渡ります。ここは、自衛隊の派遣を検討すべきです」

 

 環境大臣がそう言って、自衛隊の派遣を打診した。しかし、それに対して防衛大臣がため息をついて難色を示す。

 

「とは言っても、クワ・トイネへは海上で派遣することになります。しかし、現在海上自衛隊では護衛艦の飛空艦への改造がローテーションで行われていて、さらに各艦の増産をしているので、はっきり言って戦争が起こった場合に派遣できるのは、防衛との兼ね合いで一個護衛隊のみでしょう」

「それで足りるのですか?」

「難しいでしょう……本土防衛に二個護衛隊、予備に一個護衛隊群を残しますが、派遣できるのが一個護衛隊群となれば作戦能力に支障が出ます。正直、レヴァームと天ツ上に任せた方がいいでしょうね」

 

 政府関係者でいちばんの懸念とされていたのが、戦力の少なさである。現在は増強期間であるため、しばらくは使えない部隊もいる。そのため、ここは本音を言うとレヴァームと天ツ上に頼みたいところだった。

 

「しかし仮に、レヴァームと天ツ上に頼んだとして、我が国だけが派遣をしなかったら国内外から非難されるますよ? それこそ、レヴァームと天ツ上からの信頼にも傷がつきます」

 

 外務大臣も、自衛隊頼りであった。そんなことはお前たちの仕事でやってくれ、と防衛大臣は言いたかったが、グッと堪える。

 

「まあまあ、我が国としても異世界での橋頭保を失うのは我が国にとっても痛手だ。ロウリア王国とでは、我が国やレヴァーム天ツ上とは対話出来ないからな。レヴァームと天ツ上の動向によって……どうするかを決めよう」

 

 と、その時「失礼します」の一言を持ってして一人の外交官が入ってきた。

 

「神聖レヴァーム皇国から外務省宛に連絡です」

「なんだね?」

「はい、連絡によりますとレヴァームは、クワ・トイネ公国とロウリア王国との亀裂に際して軍を派遣する用意をしているとのことです」

 

 その言葉に、日本の官僚たちは一気にどよめく。もちろん、『ロウリア王国に対する牽制』と言う言葉に対してだ。その後も詳しく説明される。

 

「……つまり、レヴァームはクワ・トイネ公国とロウリアが戦争になった場合、すぐさま駆けつけるつもりなのか?」

「はい、そうです。この件には天ツ上も賛同しているようで、我が国が加われば三国がクワ・トイネに介入する事になります」

 

そこまで言われて、武田総理は悩む。

 

「総理、ここは日本も有事の際は自衛隊を派遣する準備を整えた方が良いかと」

「クワ・トイネは我が国の食料供給の半分を担っております。彼らを失うのは手痛いかと」

「待ってください、私は反対です。今の自衛隊に十分な規模の派兵をする余裕はありません。輸送艦があっても、護衛艦が足りないのです」

「総理、ここはご決断を」

 

そこまで言われ、綾部総理は項垂れる。そして、下した決断は……

 

「分かった、やろう。我が国も自衛隊の派遣を行おう」

 

 ここに、日本初の海外戦闘派遣任務が決断された。


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