小説の中の僕たちは戦場のあとの楽園に沈む   作:ソウブ

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1話 閉鎖的な日常 1/2

 

「え!? 選んでくれたんだ。ありがとうー! 嬉しいな! じゃあ、わたしはあなたを愛するね」

 

 

 

 意識が虚無から、有へと変遷(へんせん)していく。

 

 ん……あ……?

 

 僕……は…………。

 

 目の前が、白光に溢れた。

 

 (はじ)ける感覚と共に、色鮮やかな視界が開ける。

 

 目の前には、女の子がいた。

 僕の顔を覗き込んで、丸い宝玉の様な深緑の瞳を瞬きさせている。

 

「あ、起きた?」

 

「え……あ……?」

 

「寝ぼけてる? おーい起きて―!」

 

 僕の眼前に白くて小さな手を振ってくる。

 

 少女は、白に近い黄緑の髪をしていた。少女が手を振って体を揺らす度に長い髪がさらさらと妖精の踊りの如く揺れる。

 身に纏う服は若草色のパーカー、白いスカートに白いニーソックスと、薄く清らかな色の連鎖は王族のようでもあり、パーカーのフードとミニスカートにより少女性が前面に表れている。

 

 部屋も、少女と同じような目に優しい薄い緑色で統一された外観だった。

 薄い緑色の壁紙。木製の机、本棚。深い緑色のテレビ。テレビの前にゲーム機。ゲームが大量に積まれたゲーム棚もある。そして観葉植物が机の上や部屋の隅に設置されている様子は、部屋の色と相まって清涼感を感じさせる。

 

「おーい!」

 少女の声量と手を振る速度が増す。

「はっ」

 ぼーっと目に見えるものを観察してしまっていた。

 

「とりあえず自己紹介っ。わたしはリーネ、よろしくねー!」

「……僕は橘素名(たちばなそな)

「素名くんだねっ。よろしくー!」

 ぐいぐい来るが、不快感はない。少女の笑顔と明るさは、人に安心と好感を抱かせるタイプのものだ。

 

 …………。

 

 それで、僕はなんでこんな所にいるんだろう。

 

 意識が目覚めるまでの記憶を辿ってみる。

 ……なんということだ。驚いた。

 

「何も、思い出せない……」

 自分の名前は分かったのに。それ以外がぽっかりと何もない穴だ。

 でも記憶喪失とかそういうのじゃなくて、都合よく記憶がロックされているような不可思議な感覚。

 現に、全ての知識を忘れて小さな子供に戻っているような状態ではなく、現代高校生の感覚のままだ。

 

「思い出さなくてもいいんだよ! あなたは頑張った! 楽しく遊ぼー!」

 

 頑張った?

 僕は何を頑張ったんだろう。

 

「リーネは、何か知ってるの?」

「あ、あー、知ってるというか知らないというかー……どっちにしろ知らない方がいいと思うよ!」

 リーネは両手の人差し指をツンツンと突き合わせながら、何も答えたくない意思を見せている。

 

「そこをなんとかならないかな?」

「んー、無理!」

 

 こういう場合は、追求してもただの徒労に終わる場合が多い、かな。

 そんな気がする。

 別のことで情報収集すればいい。

 

「わたしは何があっても素名くんの味方だから。それだけは絶対だから。信じてほしいな」

「…………」

 その言葉を言う声音と表情は、真剣で。信じてほしいという思いは伝わった。

「……とりあえず、わかった」

 暫定的に、リーネが味方だということは信じることにしよう。

 信じるということを前提にしていくことに、決めた。

 自然と、そう思えた。

 リーネかわいいし。

 かわいいは正義だ。

 

「それじゃあ、まずは何をしよう」

 この部屋から出て、まずこの建物がどうなっているのか調べようか。

 それともこの部屋を調べようか。でもリーネの自室っぽい雰囲気なんだよね。あまり調べるのも気に触らせてしまうかも。

 それかリーネと話して、直接の質問以外で情報を集めるか。

 

「とりあえずカードゲームしない?」

「とりあえずでカードゲームとは?」

「好きだったでしょ?」

「好きだった……? ……うん」

 

 名前以外思い出せなかったけど、トレーディングカードゲームが趣味だったことは、言われて思い出した。

 TCG関連の記憶だけ次々と浮かんでくる。

 

「じゃあ、遊ぼー!」

「でも僕カード持ってないよ」

「わたしの貸すから大丈夫! ほとんど揃ってるからどんなデッキも作り放題だよ!」

「ほんと!?」

「ワクテカしてきたねー!」

 

 どんなデッキも作り放題なんて言われたら、TCG好きとしてはテンションが上がってしまう。

 

「それじゃあ、ここから好きにピック(デッキ構築)してね」

 リーネが指を鳴らすと、壁の一部が開き別の部屋がその先にあった。

 覗き込めば、その部屋にはカードが並び、箱に保管されていて、さしずめカード専用部屋といった様相だ。

 

「緑のカードはどこ?」

「この棚一帯がそうだね。って、素名くんも緑使いなんだ?」

「緑単しか使わない」

「生粋の緑使いだね! わたしも緑単ばっかり使うからお揃いだねっ!」

「あー……。そうすると、リーネとデュエルするときは緑単ミラーになるのかー」

「どしたの?」

「緑単ミラーはあんまり好きじゃないんだよね」

「なんでー?」

「勝てないことが多いから」

「正直!」

「リーネはなんで緑単使うの?」

「わたしの髪緑色だからね! キャラに合ったデッキにするのは大事!」

「そっかー。確かに」

「素名くんが緑単使う理由は? 髪黒色だけど」

「戦い方が好きなんだ。デカいファッティ(高いパワーを持つカード)をバーンと出してドーンと殴るのが気持ちいい」

「脳筋だね!」

「あと、緑のファッティは強い化け物感がかっこいい」

「わかる」

 

 話しながら、カードを手に取り、デッキに入れるカードを選んでいく。

 

 そうして、60枚のデッキが完成した。

 

「じゃあさっそくデュエルしよー!」

 

 元の緑色部屋に戻り、対面で座る。リーネはトンビ座り、もとい女の子座りで。僕はあぐらだ。

 お互いデッキをシャッフルする。よく見る切り方、下から取って上に乗せるヒンドゥーシャッフルだ。

 でもこれだけでは混ざり切らないので、僕はいつもリフルシャッフルもどきも織り交ぜる。

「ショット・ガン・シャッフルはカードを痛めるZE!」

「このやり方なら大丈夫。折り曲げてないからね。軽く両手に半分ずつ掴んで、中央に落としてるだけなんだ。あと正確にはリフルシャッフルだね」

「そっかー。わたしは堅実にディールシャッフルするね」

 ディールシャッフルは一枚一枚場に置いていって重ねていく、時間がかかるが確実に混ぜられるシャッフル法だ。ちなみに本当にショットガンシャッフルと呼ばれるのはこちらの方。まああの王様が言ったのはショット・ガン・シャッフルだから、明確に間違いではない。紛らわしくはあるけど。

 ディールシャッフルのみだとイカサマができてしまう場合もあるシャッフルだけど、ヒンドゥーシャッフルなどと組み合わせれば問題ない。リーネはちゃんとディールシャッフルの後、ヒンドゥーシャッフルをしていた。

 あと何気にリーネのシャッフルは流麗で、見ていて気持ちがいい。

 最後に相手のデッキを軽くシャッフルした後、カードを七枚引いてゲームスタートだ。

「デュエル開始ー!」

 

「「先攻後攻じゃーんけんっ!」」

 

 僕がチョキで、リーネがパー。僕の勝ちで、先行だ。なんで負けたか、明日までに考えといてください。

 

 僕は序盤、ファッティを出す為にコストを作り出せるカードを並べていった。

 

 けれどリーネは、アグロデッキ(速攻デッキ)だった。

 リーネは小型のクリーチャーを並べていく。しかも緑の小型はパワーを上げる効果を持ったりして小型でなくなるのが多い。

 

「ドラララララララララララァッ!」

「ぐへえ!」

 

 僕がファッティを出せた頃には手遅れ。殴り殺された。

 

「これマッチ戦だから」

「ふふふ、いいよ。次もわたしが勝つからね」

 一回負けても三回戦中二回勝てばいいんだ。僕はまだ負けてない。

 

 ………………。

 

「とどめー!」

「ぐへあ!」

 

 負けた。また準備している内に殴られまくって殺し切られた。

 くそう……。

 

「わたしの勝ちー!」

「待って、まだだ」

「マッチ戦ならもう終わったよ」

「マッチ戦は僕の負けでいい。ただデュエルをしよう」

「うん! しよう!」

 リーネは楽しそうに、笑顔で応えてくれた。

 

 だが僕は負け続けた。

 

 リーネは緑単アグロを使うが、僕はどデカいファッティを出すのが好きなので緑単ランプを使う。相性最悪だ。だからなかなか勝てない。

 

 でも、カードゲームは運の面もある。リーネが手札事故を起こし、僕の手札と引き運が神がかっていた一戦もあった。

 

 今やっている一戦がそれだ。

 

「ぎゃー! 全然土地引けない!」 

「今の僕、手が光ってるわ」

「でもこのドローであのカードを引ければ、まだわかんないよ。ドロー! いや最初の方に来てよこのカード! 今じゃない!」

「このデカいので、アタック、アタック、アタック! 24点ダメージ!」

「負けたー!」

 

「僕はこのままでいいんだろうか」

 なにも思い出せないまま、ただカードゲームをする。

 まあ今はいいか。楽しいし。

 腹の虫が鳴った。

 

「そろそろご飯食べようか」

「そうしたいけど、今は昼なのか夜なのか」

「お昼だよ。あの時計に書いてあるでしょ?」

 

 リーネが指差した壁掛け時計に、昼という字が書いてあった。針が指し示すのは、13時30分。

 

「ご飯作ってくるねーっ!」

 

 リーネが部屋を出て行き扉が閉まると、途端にこの緑の部屋は静かになった。静寂が耳に痛いくらいだ。

 デッキを見直したりしながらリーネを待つ。

「もっとマナ加速入れた方がいいかな……いや、序盤を耐えられるように……」

 

「できたよー! 召し上がれ!」

 しばらくすると、リーネが戻ってきた。その手にはお盆、その上にはハンバーグセットが乗っている。テーブルの上に二人分置かれた。

 

「うまそう」

「でしょでしょ」

 でもリーネみたいな雰囲気の子は料理が下手だってお約束がある気がする。

 

「いただきます」

「いただきまーす!」

 ハンバーグを切り分けて、一口。 

「美味い!」

 口の中にジューシーななんやかんやが広がって幸福感だ。

「ふっふーんっ。わたしのキャラ的に料理下手だと思ったでしょ? 実は得意なんだよねー」

 ドヤ顔。リーネは滅茶苦茶ドヤ顔を近づけて来る。

「近い」

「あははー」

 

 ここは閉鎖的な日常。悪いとは思わないけど。

 

 

 

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