小説の中の僕たちは戦場のあとの楽園に沈む   作:ソウブ

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2話 リーフカリバーン 1/3

 

 

 ――ふざけるなふざけるなふざけるな。

 なんでこんなことになった。なんでこんな状況にいる。なんで悠里(ゆうり)が。

 

 絶望の中に、僕はいた。

 

「お兄、ちゃん…………」

 

 妹が、【ウーズ】に組み伏せられている。

 

 スライムのような形状の、石灰色(いしばいいろ)の化け物。人類を絶滅の危機に追いやっている宇宙人。それが【ウーズ】

 

 妹を助けたいのに、僕は地べたに這い(つくば)っている。 

 

 奴らを倒せる最強の剣は、既に折られた。遠くに転がっている。

 

【ウーズ】が軟泥(なんでい)の体を一部、固体化させて針状にした。

 その針を、妹の腕に突き刺す。

 

「いっっ!? 痛い! 痛いです……っ! お兄ちゃん……!」

 

「あ、あああああああ」

 僕の口からは怒りと慟哭(どうこく)(うめ)き声が漏れるだけで、体は動いてくれない。

 

【ウーズ】が、次は軟泥の体を剣に変えて、妹の右腕を切り飛ばした。

 

「ああああああああああああああああああああ」

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 右腕から噴き出した血が、妹の薄いピンク髪を深紅に染めていく。

「うえぇ……ああぁ……」

 涙や鼻水が妹の顔中を濡らしている。

 

 妹の左腕が【ウーズ】の(のこぎり)状に変えられた体でじっくり時間を掛けて切り落とされた。

 

「いぎぃぃいいいいいいいいいいい!!! はぁ……はぁ……はぁ……っっ」

 

 妹は虫の息だ。

 

 僕はなにもできない。

 なぜなにもできない。

 なんでなんでなんで。

 助けたい助けたい助けたい。

 

 妹の右足が斬り飛ばされた。

 妹の左足がハンマー状の体に潰された。 

 

 そうして、

 

「あ」

「お兄……ちゃ……」

 

 妹の頭がハンマーで潰された。

 

 妹が、死に落ちる。ピンクが、深紅に染まり切る。

 

 僕は、何もできなかった。

 大切な妹を、守ることができなかった。

 

 絶望で、幕は下りる。

 

 

 

「お兄ちゃん!」

 ドアが勢いよく音を立てて開かれる。

 リーネの部屋で一緒にテレビゲームをしていたら、突然妹の(たちばな)悠里が入ってきた。

 

 記憶のロックが解除されて浸透した感覚。

 

 そうだ。

 僕には、妹がいたんだ。

 大切な、大切な、妹が。

 

 いや意味わかんないよ。

 でもそうとしか思えなかった。

 僕には妹がいるんだ。

 

「逢いたかったです! お兄ちゃん!」

 

 悠里が飛びついてくる。ピンク色のお下げの髪がふわりと揺れて僕の頬をくすぐった。

 

「え、なに……聞いてない。妹なんて聞いてないよ!」

 悠里の頭を撫でていると。リーネが立ち上がり地団太を踏んだ。

「ここはわたしと素名くんがイチャイチャするための世界なんだから出てってよー!」

 

「ゆーりはお兄ちゃんの妹なので、一緒にいるのは当然なんです」

「ぐぬぬぬぬ!」

 

「どういう経緯で僕の所に来たの? 正直さっきまで悠里が僕の妹だって覚えていなかったし、最後に過ごしたのがいつだったかも思い出せないんだけど」

「ゆーりは、よく覚えてませんけど死んでしまったんです。だから、また逢えて嬉しいんです」

「死んだって……ならなんで今息をして僕の目の前に? 嫌だとかじゃなくて、僕も逢えて嬉しいけど、死んだら息なんてできない」

 

 死んだというキーワード。

 

「それとも」

 

 悠里は死んで、ここに来た。僕もここに来た。

 つまり僕も死んだ?

 ということなら。

 

「ここは、あの世とかいうやつなの? リーネ」

 

 あり得ないという思考を一切排除して、今までの情報から推測を立ててみた。

 

「……流石に隠せないよね」

 リーネは観念したように両手を上げて言った。

「うん。素名くんが想像してる通り。ここは死んだ人が来る場所だよ」

「それにしては人が少な過ぎませんか?」

 悠里が疑問を零す。確かに、僕たち三人だけしかいない。

「全ての人がここに来るわけじゃないからね。ここは素名くん専用の場所なの。だから妹ちゃんは想定外!」

「ゆーりがここに来れたのはお兄ちゃんに対する想いが強かったからですね。愛の力です」

「はあ~? 素名くんに対する想いはわたしの方が強いんだけど~?」

 

 とりあえず、この二人には仲良くしてほしい。妹の悠里は大切だし、リーネは悪い奴じゃないと思う。こんなところで三人きりなんだから、仲が良い方がいい。

 

「まあまあ、一緒にゲームでもしようか」

 さっきまでやっていたスマブラを三人ですることにした。

 悠里は、この中では一番ゲームが下手だった。

 

「やーいわたしの勝ちー! おべべんべおべべんべおべべんべべべ!!」

「この煽りカスぶち殺がしてもいいですか!? もう一回です!」

「仲良くしてね」

 

 リーネ(煽りカス)と悠里の戦いは続く。

 リーネは勝ち続けた。

 

「わたしの方が強いということが証明されたね」

「ゲームで勝ったくらいでなに言ってるんですか。今に目にもの見せてやりますよ」

 

「もう夜になってきたし、一緒にお風呂入ろうよ」

「いいですけど」

 いいのか。

「素名くんも一緒に!」

「やめとくよ」

 

 一人でカード片手に頭を捻ってデッキ調整をしていたら、二人が部屋に戻ってきた。

 リーネと悠里の湯気を上げる柔肌が色気を醸す。緑とピンクのパジャマ姿がかわいいな。

 

「背中の流し合いっこしたよ! あーあ、素名くんも一緒に入ってれば背中流してあげてたのに!」

「気持ちよかったです」

 

 こいつら本当は仲がいいんじゃないのかな。

 

「悠里ちゃん一緒に寝よう」

「いいですけど」

 いいのか。

「素名くんも」

「寝ない」

「寝ないと体に悪いよ」

「一緒には寝ないという意味! それに既に死んでいるのに体に悪いとかあるのか」

「死にはしないと思うけど、眠気はあると思うからすごく眠くなるんじゃないかな」

「だったら寝ないといけないね。まあ元々寝るつもりではあったけど」

 

 

 次の日。リーネの部屋にて。

 

「それじゃあ今日は悠里ちゃんにも【タワー】を案内するねー!」

「くるしゅうないです。案内されてあげます」

「お~ん? 案内しなくてもいいんだけど~?」

「君ら仲いいの? 悪いの?」

 

 リーネの部屋から廊下に出る。

 リーネを先頭にして、長い廊下を歩いて行く。

 

 歩いていた時だった。

 

 爆砕。破砕音。

 

 突如、廊下の壁が破壊された。外側から凄まじい力で崩されたように。

 

 

 

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