師は言った。
「幼子は素晴らしい。無垢にして純粋、原石にして宝石。人が神の寵愛を受けている最初で最後の期間なのだ。ゆえに、この世界は幼子で構成されるべきなのだよ」
なにを言いたいのかはわからなかった。生物としての機能も不十分で、守られることでなんとか生存する。人間においてはそれが十年も続くのだから、非効率的なのではないか。
そんな問いに師は微笑んで、いつかわかる日が来るとだけ言った。
彼が死した今でもその意味は理解していない。我々が幼子の姿をしているのは、そのようにあれと造られたためなんだということだけを理解した。それだけだ。
年月を経た今ならば、その真意は少しだけわかった気がする。
彼にとって、こどもとは本当に神の痕跡だった。侵しがたいという意味で神秘の領域であったのだ。
それなら、人類種を神が去ったはずの世界にある一種の聖遺物へと作り替えようと考えるのは、そう屈折したものではないはず。
こどもしかいない世界。それはつまり神代なのだ。
神に成長はなく、真のこどもにもまた成長はない。星そのものを揺りかごとして、永遠に続く
成長による絶望も、老化による破滅もない世界は、きっと神秘に満ち溢れているに違いない。
そんな途方もない願いを抱いてしまったのが、我々の創造主にして師である魔術師だった。
叶えるためには奇跡にも匹敵する力が必要だ。生前の師と我々はその方法の捜索に時間を費やし、辿り着いたのはとある儀式だった。
──聖杯戦争。
七人の何かを欲する魔術師どもが、七騎の英霊をこの世に映し、殺し合う。
そうして最後に残った一人が万能の願望器を手に入れる。
そんな夢のような儀式が極東の島国で過去に何度も行われたという。
聖杯、そして七騎もの英霊の魂を糧にした奇跡ならば、きっと全人類をこどもに固定することも不可能ではないに違いない。
だがそううまくはいかないことに、我々が聖杯戦争に参加することは叶わないまま、日本の聖杯は解体された。万能を望むのならば、聖杯の再現から始めなければならなかったのだ。
我々は協力者の一族に土地を用意させ、あらゆる理論を実践し、師が死してなおさらに数多くの方法を試した。
数え切れないほどの生贄を消費し、そこそこの年月をかけた。
そして最も幸運なことに、十数年ほどで、我々は聖杯に匹敵する可能性のある器を用意することに成功したのである。
「師よ。我々は貴方の願いを叶えましょう」
我々のうち、代表の一人が右腕を掲げる。その手の甲には赤い痣が浮かび上がり、願望の成就への道を示しているようだった。
すでに七人のマスターの目星はついている。あとは七騎を揃え、そのすべてを滅ぼし、我々が師の悲願を叶えるだけだ。
始めよう。幼き日へと還る戦いを。